【ケース問題を徹底解説】正確な現状分析を踏まえた、矛盾のない解答とは?
2017/07/03
#戦略コンサルのケース面接対策

はじめに

今回は、Liigaコロッセオにケース問題を提供してくださっている現役の戦略コンサルタントの方に、ケース問題を解く際のポイントを、コロッセオのケース問題を用いて解説していただきました。

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導入: 本コラムの趣旨

本来のケース面接では、現状整理や課題の特定など、様々な考えるべきプロセスや論点があり、複数の重要なポイントがあります。

しかし、これらの重要なポイントをいきなりフルセットで学習するのは、難易度が高いと思われます。そのため本コラムでは、それらのプロセスや論点から、一部分を切り出した問題を出題し、それに対する解説に絞ることで、学習内容や解説内容を明確にしたいと思います。

Liigaコロッセオにて出題された問題を利用しますので、ぜひコロッセオを解いたうえで、本コラムを読んでみてください。今回解説するのは、以下の問題です。

今回の問題文

とある、東京近郊の住宅地でパン屋を経営している親戚がいます。
この親戚から、とある日に相談を受けました。

「ここ数年、少しずつ売上もお客さんの数も下がってきている。その理由を特定してほしい」 ちなみに、上記の相談にあたって、以下の情報が得られています。

・値段は特に変えていない。また、近隣の飲食店やスーパーなども含め、特に物価が高くなったり安くなっているようには見受けられない。

・商品の質は落としていない(味見もして確かめている)。

・特段、強力な飲食店やスーパーが出店してきたり、また既存の飲食店やスーパーが質を大きく改善したことによって、客を取られていることもないと思う。

さて、あなたは、売上や客数が低下した原因をどのように分析するでしょうか?
理由の一覧、および、どの理由が正解の可能性が高いかも含めて、考えてください。


問題を解きたい方はこちら

考え方流れ(大枠のみ)

本コラムは、模範解答を示すことを意図していません。解答そのものよりも、「なぜそのように考えたのか」という、プロセス・背景・ロジックのようなものを理解して身につけないと、実際のケース問題に対応できないからです。

しかしながら、解説をスムーズに進めるために、最低限の大まかな考え方の流れを示しておきます。

まず、売上の減少は、「客数」の減少、「客単価」の減少に分けられます。しかし、問題文の前提から、「客数」側に原因があると考えるのが自然です(この部分は、あまりにも自明なので、解答に明示する必要もないでしょう)。

次に、「客数」の減少の原因は、商圏内の「全パン購買者数の減少」か「競合にパン購買の顧客(シェア)を奪われている」に分けられます。しかし、問題文の最後の3つの補足情報を総合すると、競合の影響はほとんどないと考えられるため、「競合に顧客を奪われている」可能性は”低い”です。 ※コンビニエンスストア(以下、CVS)とECサイトについては、後ほど補足します。

最後に、パン購買者の減少は、「パン以外の“食事”に客を奪われている」か、そうでなければ「そもそもの食事規模の減少」が考えられます。 ※これ以降は、今回の解説に不要なため、省略します。

今回の問題の特徴・解答の傾向まとめ

それでは、解説に入ります。まず初めに本解説の結論として、今回の「問題」と「解答」の特徴や傾向について述べておきます。

問題の特徴

まず、「問題」の特徴ですが、「”一般的”な、とあるパン屋の売上」に関する議論を求められているわけではないというのがポイントです。特に重要なのは、以下の2つの条件・前提です。

  • 「東京近郊」の「住宅街」に立地している
  • 売上や客数は「少しずつ」減少している

解答の傾向

また、「解答」の傾向として、大きく以下の2つの視点があります。

  • 3C(市場、競合、自社)の視点のうち、いずれかが抜けてしまうことが多い: 今回の場合、市場の視点

  • 市場の視点の中でも、マクロ環境など、問題の対象に関係ない内容が抜けてしまうことが多い: 今回の場合、「問題の対象」は「パン」であり、抜けてしまう内容とは、「人口動態」に関する視点

さて、上記の詳細を、以下の解説で見ていきましょう。

ポイント①:まず、問題内容を理解したうえで解答する

基本的に、ケース問題の出題者は、「確認したい視点」や「想定解答」のようなものを持ったうえで出題していることが多いです(そうでなければ、仮説思考がない)。問題文内の補足情報は、その方向性やヒントのようなものを示していると考えるのが自然です。

今回の問題は、「とあるパン屋の客数減少理由は」といった”一般論”ではありません。そのため、このパン屋さんの状況・前提条件を理解したうえで、客数減少の要因を洗い出すほうが、少ないケース面接時間で効率的に答えを導きだせます。以下の2つの前提について考えてみましょう。

  • 「東京近郊」の「住宅街」に立地している
  • 売上や客数は「少しずつ」減少している

「住宅街」という前提の意味

さて、まず「東京近郊の住宅街」というワードについて考えてみましょう。まず結論を述べれば、住宅街というのは、人口規模や世代が、時の流れによって変遷していくというのがポイントです。

わかりやすい例として、東京の豊洲を考えてみましょう。豊洲は開発が進んでおり、マンションの供給が増えているため、人口が増加しています。そして、豊洲に新たに住み始める方は若い方が多いため、世代は若者に偏っています。さらに、住み始めた後も、しばらくの間は、子どもができることによって、人口は増加し、より若い世代に偏っていきます。

では20~30年後はどうでしょうか。子どもたちは、成人していき、家を離れていくでしょう。また、マンションを賃貸ではなく購入している人は、簡単に引っ越さないと想定されます。つまり、比較的年配の世代が多く残ることになります。まとめると、長い目で見れば、人口は減っていき、さらに人口構成も高齢者に偏るタイミングが訪れる可能性が高いでしょう。

客数の減少が、「少しずつ」である場合の特徴

次に、客数が「少しずつ」減少しているという条件について考えてみましょう。これは、客数減少が「断続的・急激な変化ではない」と読み替えたほうがわかりやすいかもしれません。

例えば、近くに「駅が新設された(撤退した)」「大企業のオフィスが移転してきた(撤退した)」などの理由であれば、売上はとあるタイミングで急激に変化している可能性が高いです。また、「風評被害」や、「流行・ブーム」なども、比較的急激な変化を及ぼすでしょう。よって今回の客数減少の理由である可能性は“低い”と想定されます。

このような、とあるタイミングのイベントではなく、「構造的な」変化であることを問題文から読み取る必要があります。例えば、「少しずつ米の消費が減っており、その分パンの消費が増えている」などは、「構造的」な要因になります(※注:これは、あくまで客数を増加させる要因です)。

ポイント①のまとめ

さて、第1のポイントをまとめておきます。ケース問題に何かしらの前提や補足情報がつけられている場合、それは出題者の意図が含まれていると考えるのが自然です(今回の場合、「東京近郊の住宅街」「客数の減少は少しずつ(急激でない)」)。

その意味を考え、解答に反映させましょう(今回の場合、「理由の一覧」への影響は小さいですが、「どの理由が正解の可能性が高いか」の部分を大きく制限すると想定されます)

ポイント②: 問題によって、思考のバイアスがかかることを認識する

さて、皆さん3C(市場、競合、自社)というフレームワークについて、聞いたことがあるのではないでしょうか。

私は、よくコンサルティング業界志望者のケース面接の練習に付き合っていますが、その中で、様々な「間違いの傾向」が見えてきます。例えば、「3Cの中の、いずれかの項目の検証が抜ける」というのは、頻繁に見受けられる解答です。

3Cのうち、どの検証がなくなるかは、ケース問題の種類によって異なります。具体的に、今回のパン屋のお題を考えると、「市場」の検証が弱くなる傾向が見られます。

まず、競争環境(競合vs自社)については、ほぼ全員の方が考えます(そのため、今回の問題では、あえて“競合ではない”旨の補足情報を最後に3つ加えました)。また、パン(+食事全体)の市場Needs把握とNeedsへのマッチング(市場 & 自社)についても、かなりの方が考えることができます。

一方、”純粋”な市場動向については、検討を忘れる方が多い印象です。その理由は、今回の問題の対象である「パン」との直接が薄いからだと思われます。

特に、「単純に人口が減っている」という視点は、パンという商品とは何の関係もありません。また、「商圏の世代構成の変化(例: 高齢化)」なども、「パンを食べる世代が減れば、パンの市場が減るはずという」という意味で、まったく無関係ではありませんが、パンを軸に考えていると、思いつくのが難しいと思われます。

ポイント②のまとめ

第2のポイントをまとめておきましょう。

まず、フレームワーク(3Cなど)は、それを起点に議論を展開することは、かえって思考の幅を狭めるため危険な場合が多いです。しかし、「見落としがないか、念のためチェックする」といった使い方であれば、思考の幅を広げることができ、有用な場合が多いです。今回の場合、3C的視点で、漏れがないかチェックすれば、市場の部分を深く考えられる可能性が高まります。

また、思考には、問題特性に応じてバイアスがかかり、多くの方が同じような見落としをする傾向にあります。今回の場合、特に商材(パン)と直接関係のない部分(市場の人口動態)の検討を忘れる方が多いです。一歩引いた、客観的な視点を持つよう心がけてください。

解答内容へのレビュー

この総評は、「模範解答を示す」ことではなく、あくまで「考え方を身に着ける」ことを目的としているため、簡単なコメントを述べておきます。

「どの理由が正解の可能性が高いか」へのレビュー

先に、「どの理由が正解の可能性が高いか」について述べておきます。

競合要因の理由の妥当性

まず、競合要因については、問題文最後の3つの補足情報より、ほぼ除外されています。

今回の解答では、しっかり除外できている方が多かったため、特に問題ないと思います(EC、CVSについては、後ほど、別途解説します)。

自社要因の理由の妥当性

自社の価格や質が下がっていないことから、自社要因”のみ”を基軸とした解答は、問題文最後の3つの補足情報と矛盾します。

(もし自社要因を述べるのであれば、市場部分とセットで述べることになるでしょう。例えば、市場Needsと自社商品のアンマッチなどが考えられますが、その詳細は後ろの市場のパートで説明します。)

市場要因の理由の妥当性: 人口動態の変化

まず、「人口動態」系を正解とするのは、何も問題ない(矛盾はない)と思います。

市場要因の理由の妥当性: パン市場全体の減少

また、「パン市場規模自体が減少」という解答ですが、現実は「コメからパンへ」食事が変わっているため、「現実と反する」解答ではあります。

しかし、ケース面接上は「間違った解答とは言えない」でしょう。少なくとも、問題文や解答の流れの中で矛盾が生じているわけではないからです。

また、「自炊や弁当などが増えている」といった解答も、背景に「パン市場規模自体が減少」という前提を置いていることが明らかなので、同じく「間違いとは言えない」でしょう(※注:米が減ってパンが増えていることくらいは、常識として知っておきたいところではあります)。

市場要因の理由の妥当性: 自社商品がNeedsにマッチしていない

最後に、「自社が、パン市場のNeeds変化に合わせられていない」といった解答について述べておきたいと思います(「リピートが減っている」といった系統の解答もここに入ります)。

この部分の解説は、かなり細かい(深く考える)話になりますので、文面では表現しづらく、少々読みづらいですが、ご容赦ください。

結論から言うと、この解答を理由とするのは、少し厳しいと思われます。もしこの解答を理由とするのであれば、「パン市場規模が減少」という、現実とは異なる「前提」を置いていることを、しっかりと「明示」している(面接官に伝わっている)必要があるでしょう。

まず、パンの市場全体が伸びている中で、自社の売上が下がっており、それがNeedsとのアンマッチだとすれば、例えば「パンの中にも様々な種類・カテゴリがあり、自社は需要がない商品ばかりを販売している」といった状況になります。

さらに、「競合の質の改善による、自社からの顧客流出がない」といった趣旨の補足情報が問題文に書かれているため、同じ商圏のパンを販売している主体すべてが、自社と同様に、そろって需要のない商品ばかりを販売していることになります。

市場全体(商圏の外側)が伸びている、つまり市場(商圏の外側)の各主体が需要のある商品を販売している中で、同じ商圏の主体がそろって需要へのマッチングができていないことになりますが、これがかなりおかしな状況(厳しい仮定)であり、「正解の可能性が高い」と判断することは難しいことが想像できると思います。

別の考え方をあげると、もし「今回の商圏は、一般的な市場とはパンの需要動向が大きく異なる」といった状況であれば別ですが、この「状況」自体がそもそも東京近郊の住宅地として特殊であり、問題文にそれを示唆する内容がなければ、やはり厳しい仮定だといえます(「商圏内のすべての主体が、その商圏の特殊さに対応できていない」という不自然さがなくなるわけではありません)。

再度繰り返しますが、「パン市場規模の減少」という事実と異なる前提を明示しなければ、面接官は「パン市場が伸長している」という前提で、解答を解釈することになります。そうなると、上記の解説の通り、厳しい仮定を置いた解答に聞こえてしまうでしょう。

「理由の一覧」へのレビュー

次に、「理由の一覧」を洗い出す部分についてです。まず、上記の「正解の可能性が高い」理由を中心に、全体を洗い出せていればGoodです。

特に「人口そのものの減少」「世代構成の変化(パン消費が多い世代が減った)」について言及できていた方は、思考を広く持てており、自信をもってよいと思います(特に、「人口そのものの減少」を述べられる方が、意外に少ないです)。

補足: CVSとECという競合をどう考えるべきか

まず、実際のケース面接において、CVSやECについて思いついたのであれば、意見として述べておくべきかと思いますが、おそらく面接官が求めている・想定している解答ではない可能性が高いと思われます。

まず、問題文最後の3つの補足事項は、基本的に「競争環境に要因はない」という趣旨で書かれています。出題者の立場になって考えてみてほしいのですが、「他のパン屋にも、スーパーにも、CVSにも、飲食店にも、百官店にも、ECにも、客を取られて…」などとは、”くどい”のでわざわざ言わないでしょう。

問題出題者は、何かしらの意図や想定解答を持ったうえで問題を出題していることが多いので、特に補足事項がついている場合は、「問題文全体のニュアンス」を感じ取ったうえで、重要な部分を深く考えながら解答を作成しないと、30分程度の短いケース面接を突破することは難しいです。

最後に念押しになりますが、思いついたのであれば、CVSとECについて、一応指摘(理由の一つとして記載)しておきましょう。もしかしたら、注意力を見るために、わざとCVSやECを抜いて出題している可能性もないわけではありません。

本来のケース問題では、現状分析をどう考えるべきか

ここからが、本コラムのメインテーマになります。

さて、今回の問題は、ケース問題を構成する様々な要素から、1パートを抽出して問題をしました。具体的には「現状分析」部分を抽出し、その中でも特に「客数減少」に集中しています。

そのため、完全なケース問題であった場合について考えてみます。まず、完全なケース問題の場合の問題文を下記に記載します。

とある、東京近郊の住宅地でパン屋を経営している親戚がいます。
この親戚から相談を受けました。

「ここ数年、少しずつ売上もお客さんの数も下がってきている。売上を増加させるためにどうすればよいか考えてほしい。」

さて、売上を増加させるために、どのようなアドバイスが有効か、提案してください。

問題文が変化したことによる解答の変化

さて、Liigaに出題した問題文との変化点は2つです

  • 「売上減少の理由の特定」から、「売上増加のための施策提案」へ変更
  • 「競合要因ではない」といった趣旨の3つの補足情報の削除

まず、「売上増加」の施策を提案する内容に変化しましたが、「売上や客数が下がっている原因」を特定する必要がなくなったわけではないことは、ご理解いただけると思います。

売上増加の施策を考える前段階(1パート)として、「客数減少の原因特定」を行うことになりますが、このとき、ついつい打ち手を考えることに意識が行くためか、原因特定が弱くなりがちです。

すでにお話した通り、今回のパン屋の問題の場合、「パン屋の競合」や「パンの市場Needsと自店舗の提供商品」といった軸は、皆さん考えることができますが、パン直接関係のない、純粋な市場動向(人口動態)の視点が抜けやすくなります(一方、Liigaで出題した問題は、原因特定事態を問題にしたことに加え、「競合要因ではない」といった趣旨の3つの補足情報から、複雑な競合の話を排除したこともあり、比較的、人口動態(市場)の話が思いつきやすい問題でした)。

現状分析の内容に応じて、打ち手の内容に変化・制限が加わる

もし「人口動態」のうち「パンをよく消費する世代が減っている」という前提に立つのであれば、「市場の需要の満たし方」も「競合に対する対応・施策の打ち方」も変化してきます。

例えば、自社の商圏で増加している世代である、「パンをあまり食べない世代」に対して、「どのようなNeeds」を持っているか整理し、その中から「どのNeedsを満たすべきか」を特定し、それにあたって「どの競合を意識してポジションを取るべきか」などを考えるでしょう(もともとパンの消費が多く、人数が減っている世代をターゲットに、施策を考える可能性は低いです)。

このように、現状の分析・把握の深さや広さは、その後の打ち手の方向性を定義してしまいます。今回の場合、「少しずつ客数が下がっている」という前提(構造的変化による売上減少)が提示されていることは、現状把握の内容に対して大きな制限をかけますので、当然その現状を打破するものである打ち手も、方向性が制限されるでしょう(また、制限がかかることによって、打ち手がよりターゲットを絞った、具体的・洗練されたものになります)。

ケース面接に何かしらの前提や補足情報が加わっている場合、その前提に合わせた(最低でも矛盾しない)解答を述べることが必須です。今回のように、特に何かしらの前提や補足情報が加えられている場合は、たとえ「売上増加」のケース問題であったとしても、「現状分析」をおろそかにしないよう、気を付けましょう。

次回:【ケース問題を徹底解説】差の決定的要因がどこにあるのか、具体的に考えてみる

コラム作成者
Liiga編集部
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