はじめに
今回も、現役のコンサルタントの方にケース問題の解答方法について徹底解説していただきました。ぜひご覧ください。
第1回:【ケース問題を徹底解説】正確な現状分析を踏まえた、矛盾のない解答とは?
第2回:【ケース問題を徹底解説】差の決定的要因がどこにあるのか、具体的に考えてみる
導入: 本コラムの趣旨
本来のケース面接では、現状整理や課題の特定など、様々な考えるべきプロセスや論点があり、複数の重要なポイントがあります。しかし、これらの重要なポイントを、いきなりフルセットで学習するのは、難易度が高いと思われます。
そのため、本コラムでは、それらのプロセスや論点から、一部分を切り出した問題を出題し、それに対する解説に絞ることで、学習内容や解説内容を明確にしたいと思います。
Liigaコロッセオにて出題された問題を利用しますので、ぜひコロッセオを解いたうえで、本コラムを読んでみてください。今回解説するのは、以下の問題です。
問題を解きたい方はこちら
自社(友達)の状況を整理してみよう
さて、今回の問題文の後半は、友達についてよく考えるように指示されています。
今回のVRで起業したい友達は、どのような特徴を持っているのでしょうか。このような場合は、問題文を「因数分解」してみるのが一番です。問題文を読んでいくと、以下のような特徴を抽出できます(今回の解説は、いったん以下の3つのみ言及します)。
- 大学の研究者である
- VRの研究をしている
- VRの普及が目的である
さて、それぞれの特徴が、方針や戦略を考えるにあたって、どのような影響を与えるのか考えていきましょう。
「一般的な概念」と「比較」しながら整理してみよう
さて、物事の特徴を整理するうえで、「比較」を活用すると、考えが深まりやすくなります。今回の例では、「あまり特徴的でない、一般的なもの」を想定しつつ、比較を実施してみましょう。
一般的な概念との比較: 大学の研究者である
さて、新しいビジネスを始める場合、「起業家」か「社内の新規事業を担当するサラリーマン」が一般的であると思われますので、これらを比較対象としてみましょう。
まず、研究を行っている以上、起業家やサラリーマンのように、フルタイムでベンチャーに時間や労力をかけられません。つまり、ベンチャーに投下できる「時間・労力に制限がある」ことになります。
次に、サラリーマンや起業家は、今まで何かしらのビジネスを行ってきた経験がある可能性が高いですが、大学の研究者はビジネス経験が少ない・ゼロの可能性が高いです。つまり、「一般的なビジネススキルに乏しい」と想定されます。
さらに、資金面にも違いがあります。サラリーマンであれば、会社が予算を用意していますし、起業家であればこれまで貯めたお金やベンチャーキャピタルからの出資金などもあると想定されます。
しかし、研究者がこのようなバックアップをすでに持っている可能性は低く、またバックアップを得るためのノウハウも乏しいと考えられます。つまり、「資金力に乏しい」ことになります。
一般的な概念との比較: VRの研究をしている
次に、友達が「VRの研究をしている」という部分ですが、一般的に起業する場合、何かしらの「ビジネス経験がある」といったパターン(明確な技術シーズを所有しているわけではない場合)も多いと思いますので、それと比較してみましょう。
これは、簡単な話なのですが、研究テーマの成果に、「VRに関する何かしらの良いシーズを持っている可能性」が想定されます。そもそも、研究と並行してまで起業するということは、「他の主体が持たない何かしらの研究成果」やそれを生み出すアイデアなどがある可能性を想定できます。
一般的な概念との比較: VRの普及が目的である
今回の目的が、VRの普及となっていますが、そもそもビジネスを行う動機は、「大きな所得を得る」とか「大きな売上・利益を生む会社をつくる」などが一般的だと思いますので、これらと比較します。
まず、もしこの友達が「お金儲け」をしたいのであれば、大学の研究を続ける意味は小さいと想定され、大学の研究と「並行」するのではなく、ビジネスに専念するのが自然でしょう。
そのため、何かしらの技術やノウハウを社会に還元させたいと考えていると想定されます。よって、文面を真に受けて、「必ずしも大きな売上を上げる必要はない」と考えても差し支えないでしょう。
方針や戦略に影響を与える自社の特徴のまとめ
以上のように、3つの特徴を考慮するだけでも、以下のように様々な要素が抽出できます。
- 投下できる時間や労力に制限がある
- ビジネススキルや経験に乏しい
- 資金力に限界がある
- VRに関する何かしらの良いシーズを持っている可能性がある
- 高い売上を上げることに、大きな興味はない
さて、上記のようなことを考慮すると、方針や戦略はどのような影響を受けるのでしょうか。
方針・戦略への影響: 今回の依頼主は、事業展開の制限が大きく、方針や戦略が制限される
3Cの自社以外の視点: 競合の視点を考える
さて、上記の友達の特徴の整理は、3Cでいえば「自社」に当たる内容です。そのため、競合や市場にあたる視点も考えてみましょう VRの競合として、どのような主体が考えられるでしょうか。ここでも、「比較」をもとに考えてみましょう。
最も思いきやすいのがSonyであると思われますので、Sonyについて考えてみます。まず、Sonyは大企業であり、VRに限らず、様々な事業を展開しているため、ノウハウ・技術・資金力など多くのものを持っています。
大企業と友人(ベンチャー企業)の違いを比較する
さて、友達の会社はどのような事業を展開すべきでしょうか。まず、今回の場合、“王道”を行くような、“全事業の展開”を提案するのはあまり良い提案ではないでしょう。なぜならば、
- 友達の会社は起業したばかりである。(Sonyなどの“大企業”と比較すると、資金やノウハウが劣っている)
という、ベンチャー特有のハンデだけでなく、
- 「VR研究」と「VR事業」が並行して行われる(友達は、VR事業に対して100%の時間と労力をかけない)
という特殊事情もあるからです。
Sonyのような大企業であれば、資金もたくさんありますし、いろいろな方面の技術やノウハウ(ヘッドマウントディスプレイという機械の製造、VRで遊ぶコンテンツの作成、VRプラットフォームを形成・維持 など)も持っているため、やろうと思えば、VRに関連するあらゆる事業を実施することが可能でしょう。
しかし、今回の友達の会社は、上記のように、ベンチャーであり企業体力などに劣ることに加え、「VR研究と並行」しておりVR事業に100%の労力をつぎ込めないという「特殊事情」までありますので、同じ戦法で行くと、非常に不利な戦いになるでしょう(もちろん、この理由だけを持って“不可能”と結論づけることはできません。あくまで、あまり筋のよい方向性とは言えないという程度です)。
大企業とは違った戦い方:事業領域の絞り込みは、事業目的に反しない
そもそも、友達の会社向けの提案をするのに、その内容が大企業のSonyでも通用するような一般的な提案が望ましいとは思い難いです。
例えば、一般論でいえば、何かしらの「事業領域の絞り込み」が有効と想定されます。例をあげると、
- 「ニッチな需要に適応したサービス・商品」を展開することで、大企業とは違う領域で勝負する
- 特定の領域や技術(映像再現技術など)のみに特化し、その領域でシェアを伸ばす(今回の場合、大学の研究内容と紐づけることになるでしょう)。
などであり、さらにもっと踏み込めば、
- 「持っている技術を他企業にライセンス」or「他企業とアライアンスを組む」
などによる、ある意味かなり消極的ともとれるVR市場への参入・関与の方向性も、選択肢の1つとしてあり得るでしょう。
ここで、一つ思い出していただきたいのは、友達の起業目的が「VRを広く普及させ、多くの人にVRを楽しんでもらいたい」というものであり、「たくさんお金を稼ぎたい or 大企業を作りたい」といったものではないことです。
そのため、「事業領域の絞り込み」を行うこと事態は、事業の目的に反しない可能性が高いというのも、一つ重要なポイントです。
競合比較のまとめ
以上のように、自社(友達)の特徴をしっかりと把握しつつ、その特徴を競合と比較することで、多くのことがわかってきます。自社について深い分析できる場合、それにつられて競合比較も深い分析が可能になります。
特に、今回の問題の場合、自社の事業展開に様々な制限がある以上、それを踏まえるか否かで、競合比較の結果や、提言する打ち手の方向性が大きく変化することに注意が必要です。
また、ここまでの分析は「自社」や「競合」の視点ばかりであり、「市場」の視点からの分析が行われていません(市場におけるVR特有の事項は、「技術力が必要」という明らかな内容を除いて、ほとんど利用していません)。
市場分析がないため、具体的な打ち手こそ出てこないものの、一方で、すでに打ち手の方向性を相当狭くできていることをご理解いただけると思います。このことは、次に実施すべき市場分析の範囲や方向性も相当限定されていることを意味します。
本来のケース問題では、どのような解答がなされるのか
今回の問題を、以下のように「普通」に出題すると、どのような解答が出てくるのでしょうか。
なんとなく考えていると、いきなり市場分析からはじめてしまう
残念ながら、このような出題を行うと、消費者のNeedsやトレンドなど、3Cでいうと市場をベースにした解答が多くなります。
もちろん、新しいサービスを構築するうえで、市場の理解を踏まえた視点が必須なのは間違いありません。もし、「VRの市場規模を上げるには」や「VR市場で高いシェアを上げるには」といったケース問題であれば、市場の分析をベースに実施することになるでしょう。
なぜならば、自社に関して、「事業がVRである」といった程度のわずかな情報しか与えられていないからです。
自社の状況が限定されている場合、市場の分析内容を大きく規定・限定してしまう
しかし、今回のケース問題は、自社について細かい記載がたくさんあります。そうなると、当然自社について分析可能なことが多くなります。また、自社の特徴が明確になることで、競合比較からも有用な示唆を抽出できます。
そうなると、可能な打ち手の方向性が狭まってきます。それによって、対象とする市場も変化する(おそらく、特定の限定された市場になる)でしょう。つまり、市場の分析内容も変化することになります。
極端な例で考えてみます。今回の例だと、「大学の研究成果である技術に特化し、その領域でシェアを伸ばす」とした場合、「市場」の分析はどうなるでしょうか。この場合、「消費者」ではなく、まず「その技術を売り込む先である他の企業」を起点・中心に、市場分析が実施されることになると想定されます。
いきなり市場から考えはじめることにはリスクがある
以上のように、自社の分析というのは、最終的な打ち手の方向性を狭めるのはもちろんですが、実施すべき市場の分析の中身も変化させます。いきなり市場のことばかりを考えだすのではなく、「自社」や「競合」の状況を整理したうえで、市場を考えるようにしましょう。
一般的に、市場分析というのは、自社や競合分析と比較して、対象がとても広いことが多いです。つまり、いきなり市場分析を行ってしまうと際限がなくなってしまい、無駄な分析を多く実施してしまう場合や、誤った(自社や競合の状況と矛盾した)方向へ市場分析を深めてしまうリスクが高くなります。
最低限の浅い・簡単な市場理解は必要ですが、「市場」について深く考える前に、「自社」や「競合」を起点に現状整理したほうが、うまくいく場合が多いです。
本コラムのまとめ
今回のコラムでは、依頼者(自社)の現状把握や分析をメインに行いました。
まず、自社の特徴を抽出するうえで、「比較」の考え方が重要であることを説明しました。特に慣れないうちに顕著ですが、“うんうん”うなっていても、なかなか特徴を抽出するのが難しいです。なかなか特徴が抽出できない場合、「比較」を試みましょう。その時は、何かしらの「一般的」と思われる具体的な比較対象を仮で想定し、それと比較すると良い特徴が出てきやすくなります。
また、自社分析の重要性を示しました。まず、自社分析を行うことで、より深い競合分析が可能になり、さらに市場分析の内容や方向性が変化・限定されます。今回のテーマの場合、自社の制限があまりに大きいため、自社分析が不十分なまま検討を進めた場合、自社の現状と矛盾する解答を導いてしまうリスクが高くなります。
一般的に、ついつい「市場」分析からはじめてしまいがちですが、市場分析は対象となる範囲が、自社や競合分析と比較して、広いことが多いです。無駄な市場分析をしてしまう場合や、誤った(自社や競合の状況と矛盾した)方向へ市場分析を深めてしまうリスクを減らすためにも、市場について深く考える前に、「自社」や「競合」について整理したほうが、うまくいく場合が多いです。多くの方が陥りがちなポイントですので、意識してみてください。