【ケース問題を徹底解説】公共政策系ケース問題における現状分析と優先順位付けの特徴
2017/08/06
#戦略コンサルのケース面接対策

はじめに

今回も、現役コンサルタントの方に、ケース問題の解答方法について解説していただきました。ぜひご覧ください。

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導入: 本コラムの趣旨

本来のケース面接では、現状整理や課題の特定など、様々な考えるべきプロセスや論点があり、複数の重要なポイントがあります。しかし、これらの重要なポイントを、いきなりフルセットで学習するのは、難易度が高いと思われます。そのため、本コラムでは、それらのプロセスや論点から、1部分を切り出した問題を出題し、それに対する解説に絞ることで、学習内容や解説内容を明確にしたいと思います。

Liigaコロッセオにて出題された問題を利用しますので、ぜひコロッセオを解いたうえで、本コラムを読んでみてください。今回解説するのは、以下の問題です。

東京都内の交通渋滞を緩和する施策を考えてください。

※さて、施策を考え始める前に、少し立ち止まってみましょう。
①まず、そもそも交通渋滞にはどのような「渋滞のパターン(発生理由)」があるのでしょうか。全体感をもって洗い出してください。
②次に、施策を考えるためには、上記で洗い出した一覧から、重点的にアプローチする対象を決める必要があります。アプローチ対象を決定するうえで、重要となる視点や考え方を複数リストアップしてください。

よくある解答の傾向

さて、今回の「交通渋滞」に関する問題は、いわゆる公共政策系のケース問題として度々出題されています。その場合、問題文は今回のような、①や②のような小問はなく、シンプルに「東京都内の交通渋滞を緩和する施策を考えてください」という形で出題されます。

さて、もし今回のような2つの小問がない場合、どのような解答がなされ、どのような問題が頻発するのでしょうか。解説を始める前に、簡単に整理しておきます

小問①がない場合

今回のような小問①がない場合、半数くらいの方は、「交通事故」などを原因とした「突発的な渋滞」について見落とす傾向にあります。交通渋滞を、「交通量の多さ(需要)」や「道の狭さ、信号や踏切(供給)」など「定常的に発生する渋滞」のみとしてしまうパターンです。

(※注:交通渋滞の分類方法については、他にも様々な方法が考えられます。重要な要素さえつかめていれば、分類方法は何でもいいです。)

小問②がない場合

小問②がない場合、解答として、主に2段階で問題が発生します。これらは、いずれも優先順位付けに関するものです。

まず、第1の段階は、すべてのタイプの渋滞に対して、対策を考えようとすることです。考えた問題点や課題に対して、特に理由もなく順番に打ち手を考えようとするのですが、これは全く「仮設思考」ができておらず、非効率な方法です。

次に、第2の段階は、“重要”なものから考えようとはしているのですが、それが不十分であるパターンです。一般論としては、「インパクト × フィージビリティ」で優先順位をつけるのですが、今回のテーマの場合、このインパクトを「渋滞発生の頻度や程度」といった、若干甘い内容を置いてしまうパターンです。公共政策において「インパクト」をどう考えるかは、ビジネス(売上、利益)と異なり、単純ではありません。

面接を受ける側の最初の解答としては、単純に「インパクト」としても問題ないかもしれません。しかし、面接官からすると質問しやすく、かつ考える力を見るうえで良いポイントなので、しっかりと深く考えるときの論点を整理したいところです。

さて、それぞれの詳細を解説していきます。

現状分析に抜けが発生する

今回の小問①で問われている「渋滞のパターン(発生理由)」の洗い出しをする意図は、現状分析をしっかりと行うということです。

そもそも、打ち手を考案するうえで、「現状分析」⇒「問題点の洗い出し」⇒「課題の特定」⇒「打ち手の考案」といったプロセスを経る必要があります。

しかし、小問①のような確認ポイントがないと、問題文で求められているのが打ち手であるため、ついつい「打ち手の考案」の部分にばかり意識が行ってしまい、現状分析がおろそかになりやすいです(これについては、これまでの別の解説コラムでも何度か言及しており、非常に「一般的」にみられる傾向です)。

さて、現状分析を意識的に行うとき、まず「交通渋滞とは何か」について考え始めると思います。その時、“なんとなく”考えていると、「道が混んでいる」といった“ふわっと”した内容しか考えられず、「車が多いのに、道が狭いから渋滞」といった流れで終わってしまいます。

しかし、そもそも一言で交通渋滞といっても、様々なパターンがあります。見逃しがちな内容の中で、特に大きなものとして、「事故による一時的な渋滞」があげられます(これは、特に高速道路・首都高で非常に大きな問題になります)。

現状分析にて、見落としを防ぐ方法

さて、現状分析において、見落としを防ぐ方法にはどのようなものがあるでしょうか。

まず“大原則”として、「現状分析」というプロセスを意識的に行うこと、その時、他の項目・選択肢はないかと考えることが非常に必要です。

しかし、現状分析について強く意識していたとしても、なかなか思考が広がらない場合も多いです。そのような場合において、他の項目・選択肢を思いつく方法として、今回の場合、主に2種類存在します。

方法①: とにかく具体的にイメージしながら考える

具体的に考えることは、項目や選択肢の幅を広げるのに有効です。例えば、

  • これまでの人生で「自動車に乗っていた」時のことを、順番に様々思い出してみる(例えば、「家族で週末に買い物」「集団で旅行」のときなど)

  • 試しに、自動車のユーザーになりきってみる(例えば、1年間を想定すると、「通勤」「仕事にて営業中や配送中」「週末の買い物」「大型連休中の旅行」など様々な利用機会がある)

上記のように、とにかく具体的に考えていくことで、「そういえば旅行中に事故で高速道路の上で待たされた」「事故による高速道路の渋滞ニュースが、ラジオで流れているのをよく聞く」といった経験をもとに、事故による渋滞を思いつく可能性が高まります。

また、そもそも「道路には、一般道だけでなく、高速道路もあるな」と思い付けば、見落としを減らすうえで、一歩前進と言えます。一般的に、道路といわれて思いつくのは、一般道の方が多いと思われますが、一般道と高速道路では、発生しやすい渋滞の種類が異なるため、「高速道路の渋滞」を考えることで「事故による渋滞」を思いつく可能性が高まります。

方法②: 考えていることを抽象化してみる

自分が考えていることを、1段階抽象化するのは、非常に有効です。なぜならば抽象化することで、「反対」や「並列」にある概念を思いつきやすくなるからです。例えば、

  • 車が多いのに、道が狭いから、渋滞が発生

という“ふわっと”した文章は、抽象的な単語を利用すると

  • 車の通行という需要が多いのに、道の広さという供給が小さいため、渋滞が発生 という内容に書き換えられます。さらに、考えている内容を正確に記載・補正すると、

  • 「道」という内容は「一般道」を想定している

  • 「渋滞が発生」という部分は、「定常的に渋滞が発生」と記述するのが正確である となります。また文章そのものを、一言レベルまで抽象化すると

  • 需要と供給のバランスが悪い

と言い換えられます。

今回の抽象化において出てきた内容をから、「反対」や「並列」の概念を考えると、下記のように、新たな視点や考え方が出てきます。

  • 「定常的」⇒ 「期間限定」のものや、「突発的」なものは?
  • 「一般道」 ⇒ 「高速道路」は?
  • 「需要と供給のバランスが悪い」 ⇒ 「バランス」がとれていても渋滞が起こることはないのか?

考えの幅や視点を広げることは、かなり難易度が高いです。そもそも、「人生経験を増やす」×「普段から“アンテナ”をはって、物事を見聞き(経験)する」という掛け算が一番重要ですが、実現には物理的な限界も存在します(また、「具体的にイメージしながら考える」ことによる効果は、これらに依存・相関してしまいます)。

そのため、仮によく知らないテーマに遭遇した時は、このように、「抽象化」という考え方が武器として有効です。最初は「思考体力」も使いますし、時間もかかりますが、慣れればそれなりのスピードで可能になりますので、日常的に意識して訓練することで、面接で自然に活用できるようになりたい技術です。

※追伸:あと、もう1つ、アナロジーを利用するという方法があります。自身が比較的よく知っている他のテーマ・業界から、似ていると思われるものを選定し、それと現在のテーマと比較しながら考える方法です。機会があれば、別の記事にて解説したいと思います。

優先順位付けが不十分であり、打ち手の考案が総花的

小問②では、「渋滞のパターン(発生理由)」の中から、解決策を考えるべきものの優先順位付けを求められています。その時、主に2段階で問題が発生します。

段階①:優先順位付けがない

まず、特に公共政策系のケース問題に顕著なのですが、すべての問題点や課題に対して、順番に打ち手を考えていく方が、少なからず見受けられます。

これは、ビジネスの話題と異なり、「売上」「利益」といったわかりやすい比較指標がないことが原因と想定されます。しかし、たとえ公共政策であったとしても、すべての問題点や課題の“重要度”が等しいとは考えにくいです。

もちろん、長期的・最終的には、すべてのタイプの渋滞を改善すべきかもしれませんが、まず、“重要”な箇所から順番に手を付けていくのが普通です。特に、ケース面接は30分程度と時間も短く、すべてのタイプの渋滞に対して打ち手を考えることが時間的に難しいため、“重要そうにみえる箇所”に集中するためにも優先順位をつけたいところです。

段階②:優先順位付けが不十分

さて、仮に優先順位付けを行っていたとしても、不十分な方も見受けられます。

まず、ここからの解説の前提として、優先順位付けのよくある流れを示したいと思います。まず、基本・原則的には、「インパクト × フィージビリティ」の考えに沿って優先順位付けを行うことになります。これをプロセス順に記載すると、下記のようになります

  • 潜在的な「インパクト」を軸に問題点や課題の解決すべき優先順位を決定

  • 優先順位に沿って、それぞれの問題点や課題に対する打ち手を考えつつ、考えた各打ち手の「フィージビリティ」や想定される「インパクト」や効果を概算

  • 「インパクト × フィージビリティ」の2軸で打ち手の優先順位を決定

公共政策系のケース問題は、インパクトの基準が単純・明白ではない

まず、インパクトをもとに優先順位をつけていくこと自体は正しいといえるでしょう。しかし、このときの「インパクト」となる指標の選定に気を付ける必要があります。一般のビジネスケースでは「売上」「市場規模」といったわかりやすい指標や単位がありますが、公共政策系では注意が必要です。

さて、最もよく見られるのが「渋滞発生の頻度や程度」を「インパクト」と置くものです。しかしこれは、とある前提が想定されていることにお気づきでしょうか。これは、「単位当たりの渋滞におけるコストが、どのような場合でも同じ」という前提が入っています(ここでいう単位とは、単位時間、単位人数・台数をイメージしてください)。   まず、このような交通系の政策を行うのは、国や都道府県であると想定されます。このときの判断材料として、「渋滞による待ち時間」を減らすことは、重要な指標ですが、その背景には何があるでしょうか。例えば、下記のように分けられます。

  • 経済的な損失を回避する(仕事中、Private時間の両方の余計な時間を含む)(時給換算などの方法で、経済的指標に変換可能)

  • 精神的な不満を解消する(政治に対する不満の解消、支持率UPなど)

渋滞による損失時間は、その性質によって負担の程度が異なる

さて、上記の2つの視点を踏まえつつ、具体例で考えてみます。「高速道路の上で、事故により2時間待たされた」ことと「日常的混雑している道路にて、車に乗る時間が1日当たり6分増加し、1か月で合計2時間またされた」ことは、同じ意味を持つのでしょうか。

例えば、精神的な不満だといかがでしょうか。例えば通勤で利用している人を例に考えると、以下のような想定が可能です。

  • 事故は(よほど交通整理や道路の作りがイマイチな場合を除いて)事前対策が難しく、政府の責とは言いづらい。しかし、日常的に混雑している道は、事前に予測可能であり、混雑緩和の対策ができるはずであるため、政府の政策の不備である。

  • 日常的な混雑は、あらかじめ知っているため、少し早く出発することによって対策しているので問題ない。しかし、事故による渋滞は予測ができず、発生時に周りに迷惑をかけてしまうが、自身では事前の対策が難しく困っている。

また、経済的な負担である場合、例えば仕事中のトラックで考えると、以下のような想定が可能です。

  • (長距離トラックの運転手の立場から):日常的な混雑は、あらかじめそれを織り込んだ配送スケジュールを立てているので問題ない。しかし、事故による配送の遅れはあらかじめ予測できず、高速道路利用時は、一度渋滞に巻き込まれると、回り道による緩和も困難であり、しかも1回当たりの遅延時間が長いため、関係者に多大な迷惑をかけてしまうため、避けたい。

  • (小売店の都内店舗への配送トラックから):日常的な混雑により、トラック1台当たりの配送可能店舗数が制限されており、定常的に経済損失が発生している。一方、事故であれば、そもそもの事故の発生頻度の少なさと、一般道であることから回り道をすれば総合的な遅延時間は小さいことから、問題は小さい。

上記では、あえて2つの視点から、別の結論に達する想定をしました。なぜならば、ここで重要なのは、「どちらがより問題か」ではなく、「どのような視点で見るかによって、同じ渋滞による待ち時間でも重要度が異なる」という視点を認識いただきたいからです。

※補足: どちらの想定が重要かは、定量的な議論が必要ですが、ケース面接中にこれを行うのは厳しいでしょう。仮にたっぷり時間と労力をかけて計算したとしても、あいまいなテーマであることから、計算方法が様々考えられるため、そもそもの前提・想定の設定とその計算が困難ですし、また計算した主体によって答えが異なると思われます。短いケース面接において、求められているとは思い難いです。

そのような背景から、世の中一般的に通用する判断基準はないと思われるため、面接官によって期待されている結論が大きく異なることも想定されます。このような場合だからこそ、「どちらが重要か」ではなく、重要性を判断する視点(抽象的な見方)を多く持っておき、それらを面接官に提示すると、面接官が持っている“答え”に近づきやすくなるでしょう。

優先順位の基準は、様々な視点によって変化する

今回のケース問題の場合、特に「定常的に発生するもの」「突発的に発生するもの(渋滞)」は、「事前予測」「損失の事前折込み」の可否から、同じ量の時間損失であったとしても、対策の必要性や重要性に大きく違いが出てくると想定されます。

この話は、若干発展的なものであるため、面接官から具体的に深く質問されない限りは、解答に入れ込む必要はないかもしれません。

しかし、ここは思考力を見るうえで有効なポイントであり、質問するのに有効なポイントでしょう。特に、公共政策の話題は、様々な価値観・プライオリティがあるため、この解説で言及した以外にも、様々な視点・判断軸が存在しています。

そのため、そもそもインパクトを考える上で、

  • どの指標・数値を改善すべきか(今回の場合、単純な「渋滞による損失時間」ではない)

  • そもそも、何のために問題解決が必要とされているのか(今回の場合、「経済的損失」か「精神的不満」か。また経済的損失の場合、「定常的なもの」と「突発的なもの」のどちらがより問題か)

といった内容を、いろいろなケース問題(特に公共政策系)で整理する練習をしてみてください。

まとめ

今回は、2つの小問を通じて、2つの重点ポイントを解説しました。

まず、小問①では、「渋滞発生のパターン」を明示的に解答いただくことで、現状分析の重要性を解説しました。また、「現状分析が重要だとわかっていても、思考を広げるのが難しい」といった方のために、「具体的にイメージしながら考える」「いったん考えた内容を抽象化し、その抽象化した内容について並列や反対の項目を考える」という2つの考え方を提示しました。

次に、小問②では、優先順位付けの重要性を提示しました。まず、面接時間は限られていることから、思考の途中であっても、ある程度“重要そうにみえる”箇所から考えていく必要があります。

そのうえで、特に公共政策系のケース問題に顕著ですが、「インパクト」を図る指標の選定の難しさについて、言及しました。若干発展的な内容ですが、面接官サイドからすると、質問を通して考える力を見るのに良いポイントですので、一度、様々な公共政策にて、「どの指標・数値を改善すべきか」「何のために問題解決が必要とされているのか」などの視点で、考える練習をしてみてください。

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。