知られざるPEファンドの転職事情。人材エージェントが語るその実態とは #01
2017/10/04
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#ファンドにつながるキャリア
#ファンドで必要なスキルとは
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はじめに

今回は金融機関のクライアントへの人材紹介を専門とするExecutive Search会社の株式会社スタート・プランニング・ジャパン代表取締役・山崎正氏にインタビューを行い、外資系投資銀行や日系証券会社、プライベート・エクイティ・ファンド(以下PEファンド)への転職の実態を、転職市場に最も精通している人材エージェントの立場から語っていただきました。

山崎氏自身は約15年間、日系証券/外資系銀行で外国為替ディーリングの経験を経た後、12年半、外資系投資銀行や日系大手証券会社、国内外PEファンドなどをクライアントとして、現在は年間数十名の優秀な方々の転職のサポートを行っています。

Liigaリリース当初からご活用頂き、Liiga経由で繋がった多くの優秀な方々をクライアントにご紹介し、複数の入社実績を残している方でもあります。

前編である今回は、主にPEファンドや投資銀行はどのような業界からの転職者が多いのかということや現在の金融業界における転職市場の動向を語っていただきました。

どうぞご覧ください。

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本記事に登場いただいた山崎正氏にご相談したい方はこちらのボタンからご連絡ください。

PEファンドへはどの業界から転職すべき?

- 本日はどうぞよろしくお願いいたします。現在、PEファンドや外資系投資銀行、日系の大手証券会社へ転職を目指す方のキャリアをサポートされているということですが、実態としてどのような業界からの転職者が多いのでしょうか。

まず、PEファンドに関してお話をいたしますと、外資系投資銀行、または日系証券会社の投資銀行部門とコンサルティングファーム出身の方がほとんどですね。

- 特定の業界からの転職者が多いのですね。

そうですね。PEファンドというのは名前の通りファンドなので基本的にはリミテッドパートナー(LP)から預かったお金を運用してリターンを出さなければなりません。

この際、企業を安く買って高く売らなければいけないのですが、この会社の価値をいくらにしたらどれだけ儲かるか、実際にレバレッジをかけたらどのくらいのリターンが出るかなどをよく精査する必要があるのです。

そのため、投資前の段階で企業の分析をして、その財務状況から将来の事業規模の拡大や会社や事業の成長性、守っていく技術などを含めて目利きをするわけです。

その一番最初の分析がしっかりできる人となるとやはりこれまでM&Aなどの投資銀行業務に従事され、何件も案件を見てきた方が強く求められますね。

一方でコンサルティングファーム出身の方は事業戦略や経営戦略、PMIの経験があったり、各ファームでPEファンドから依頼された案件を手掛けている方々がいるので、PEファンドで求められるある程度の知識や経験がある方が多いのです。

そのため、企業のバリューアップに関してもアドバイスすることに長けており、その能力が買われてPEファンドへ転職されるケースが非常に多いですね。

- ではコンサルティングファーム出身の方もスキルを活かす機会は多いということですね。

そうですね。しかし投資ファンドは投資してなんぼの世界なのでコンサルティングファーム出身者も財務モデリングだったり、バリュエーションなどを覚えておかなければなりません。

そのため、採用する側から見ると、戦力として一番手っ取り早いのは投資銀行部門の出身者です。そしてその次にコンサルティングファーム出身者という位置づけです。

PEファンドは種類がたくさんあり、最近はコンサルティングファーム出身者が転職するケースは増えてきてはいますが、統計的に見るとやはり投資銀行から入社するケースが多いですね。

- そうすると投資銀行とコンサルティングファーム以外の業界から転職されるケースは極めて少ないのでしょうか。

非常に稀なパターンですが、総合商社のMBA留学を利用してMBAを取得された後、MBA採用でPEファンドへ入社された方もいますね。

- 総合商社では財務系の部門だったのでしょうか。

いえ、全く関係のない部署です。輸出入の事業を行いつつ、事業投資の業務も経験されていた方です。M&Aに近い仕事をされていましたが、PEファンドへ転職されるのは非常に珍しいですね。

そのため、PEファンドへ転職する方々は基本的に投資銀行かコンサルティングファームの出身者で構成されると思います。

日系・外資系で傾向が異なる。投資銀行業務に就くためには

- ではその投資銀行はどのような業界からの転職者が多いのでしょうか。

外資系投資銀行は同業や投資銀行業務の経験者を好む傾向がありますね。また、現在、外資系投資銀行はあまり積極的に採用活動を行っていない印象です。

- あまり積極的ではないのはなぜでしょうか。

日本だとエクイティファイナンスがあまり多くないので外資系投資銀行が持つ案件もM&Aに頼りざるを得ない状況です。しかしM&Aはフィーが高くないので、そのフィーが上がらない限り人員もあまり増やせないのです。

そのため結局、新卒採用である程度採用し、中途採用は人が辞めてしまった時に即戦力として採用するという程度ですね。そうするとポテンシャル採用の方が入りこむ余地はあまりないのです。

たまにブティック系投資銀行でアナリスト1年目でも優秀な方を育てようと採用することはありますが全体的には少ないですね。

一方で日系の大手証券会社の投資銀行部門などは現在は非常に積極的に中途採用を行っています。

- そうなのですね。外資系投資銀行とは対比して日系大手証券会社が採用を積極化させているのはなぜでしょうか。

安倍政権の働き方改革などで残業規制が厳しくなっていることが主な原因ですね。今まで150時間、200時間残業してきた方が一ヵ月でマックス80時間までしか残業できなくなってしまっています。

しかし、今まで行っていた120時間分の仕事がなくなるわけなので、他の人にやってもらわざるを得ない。そうすると外部から新たに人を採用しないと会社が回らないんですよね。

そういう意味で野村証券やSMBC日興証券、みずほ証券などの大手日系証券会社は積極的に中途採用を行っています。

とはいえ、採用できれば誰でもいいわけではないので、ある程度財務会計の知識や英語力、地頭が良い方が求められますね。

例えば、同じ金融業界であればメガバンクなどで、M&Aは直接やっていなくとも海外でプロジェクトファイナンスなどの業務に就かれた経験がある方などは、ドキュメンテーションもできるし、キャッシュフローをエクセルで作成した経験がある方が多いのでニーズがありますね。

近年ではメガバンクで海外プロジェクトファイナンスをやっていた方が、M&Aアドバイザリーなどの投資銀行業務に就くことを目指して転職し、赤が青に変わったり緑に変わったりというケースはよくあることです。

- 採用を積極化させているということは金融業界の中でも流れとして日系大手証券会社の投資銀行部門へ転職される方は増えているのでしょうか。

正直メガバンクに入社される方はどちらかと言うと大企業で安定したいという志向をお持ちの方が多いので全体の母数を考えると多いかどうかはわかりません。しかしその中でもチャレンジングにプロフェッショナルとして成長をしたいという思いをお持ちの方は一定数います。

例えばSMBCに入社したとしてもSMBC日興証券で必ずしも投資銀行業務に就けるわけではありません。異動の希望を出しても中々通らないなと感じてしまった方は他の金融機関に移って投資銀行業務に就こうと考えるわけです。一方で受け入れる企業側からしてもそのような方はしっかりしている方が多いので、ウェルカムという感じです。

- 日系の大手証券会社へ転職される方も同業の方が多いのですね。

同業の方が転職されるケースはもちろん多いのですが、金融業界以外の方も多く転職されています。

例えば、メーカーで財務会計の経験がある方や、日本電産やリクルートなどの積極的にM&Aを行っている企業の投資チームに在籍されている方、また、商社などの事業投資部門で投資を行っている方々は人気ですね。

- 日系大手証券会社の投資銀行部門への転職を目指す場合、財務系の知識や経験があれば必ずしも金融業界に在籍している必要はないということでしょうか。

そうですね。例えば事業会社の財務部門の方々はその会社の財務状況を常に見ているうえ、会計知識もありますよね。確かに事業投資をやっている人でないと財務モデルを回したりはできないのですが、財務会計の知識があればが財務三表をつなげることができます。

財務モデルはそれをエクセルに落とすだけなので財務三表をつなげることができる方は基本的に財務モデルは作れるようになるわけです。そのあたりの素地がある方は投資銀行部門からはニーズがあります。

- そうすると事業会社の経理や財務部門の方々が日系の証券会社に入社するケースは多いのですね。

非常に多いですね。しかしそれに限らず様々な業界から入社されている印象です。過去に入社した方を見ていても商社やコンサルティングファーム、JBIC、メガバンク出身の方が多く、多種多様です。

中にはどうしても投資銀行業務をやりたくて未経験から外資系投資銀行を目指す方もいらっしゃるのですが、選考を受けても狭き門であるため、合格する確率は中々低いのです。

しかし、本当に外資系投資銀行で投資銀行業務をやりたいのであれば日系の証券会社に入社し、3年程度実務を経験した後、経験者採用の枠で外資系投資銀行の選考に進んだ方が採用につながる確率は上がると思います。

モデリングテストの重要性

- Liigaでも多くの方がPEファンドへの転職を志望していますが、転職活動時の選考方法等は謎に包まれている部分が多いと思います。PEファンドの選考へ進む際は、面接は通常何回程あるのでしょうか。

面接は最低でも4、5回はあり、その過程でモデリングのテストがあります。

また、ファンドによって異なりますが、少なくとも今のPEファンドは選考に進めば、パートナーとは一度は会って面接を行いますね。

通常アソシエイトやVP(ヴァイスプレジデント)の方はあまり面接することは多くないのですが、中には採用チームなどを作っているファンドもあります。そこはアソシエイトやVPとかがチームになって面接を行い、面接を通過すればパートナー面接という形をとっていたり、形態はファンドによって様々です。

- モデリングテストが実施されるのはPEファンドならではだと思います。選考のどの段階で行われるのでしょうか。

これもPEファンドによって異なりますね。最初に採用チームが面接した後にモデリングテストを実施し、問題がなければパートナー面接を行うファンドもあれば、パートナー面接の最中にモデリングテストを実施するファンドもあります。

- モデリングテストはどの程度重要視されるのでしょうか。

重要度は比較的高いと思います。M&Aのアドバイザリーの業務経験がある方でも落ちてしまう方が結構いますね。

もちろんそれが全てではないので、モデリングテストの出来が悪くとも、他の方と比較して上回る人間性や地頭の良さなどのポテンシャルを感じさせることができれば、採用にいたるケースも多々あります。

- 近年、どの企業へ転職するにしても高い英語力を求められる傾向があります。PEファンドへ転職する際は実際にどの程度の英語力が求められるのでしょうか。

それはファンドによりますね。投資委員会を英語でやるファンドであればネイティブレベルの英語力を求められますが、ネイティブレベルである必要はないファンドもあります。

また、英語のドキュメンテーションができる程度でも大丈夫なファンドもありますね。

目まぐるしく変化する金融業界の転職市場動向

- PEファンドは転職市場でも非常に人気が高いゆえ、多くの方が転職を志望しています。PEファンドへ転職するためのキャリアパスはどのようにして歩むべきでしょうか。

やはり先ほども申し上げたように、PEファンドが採用する人材はほとんどが投資銀行業務経験者かコンサルティングファーム出身者なので、現在その両者に在籍していないのであれば、まずはそのどちらかの業界に転職する必要があります。

それ以外の選択肢だとMBA採用を通じて転職する手がありますが、周りはハーバードやスタンフォードなどの超有名大学のMBAコース出身者が多く、さらにハードルが高くなると思います。

また、年齢的にも30歳を超えてくると前職で投資銀行業務に就かれていたり、監査法人系FASなどで働いていないと難しいですね。

やはり若い方で未経験からPEファンドを目指すのであれば、1回投資銀行やコンサルティングファームを挟んでPEファンドへ転職されることが一番の近道ですね。

- 現在採用を積極化させている日系大手証券会社の投資銀行部門に入社することも1つの手かもしれませんね。

そうですね。私はそうすべきだと思います。結局年数が経てば経つほど、転職先の会社の何年目の方と比較されてしまうわけです。経験ないのに「何でわざわざこの年齢の人を採らないといけないの?」と。

昔は外資系企業でアナリスト1年目のポジションを日系企業で3、4年務めていた方のポテンシャル採用を行っていたケースは多々ありましたがここ2、3年は減ってきています。金融業界の転職市場は目まぐるしく変わっていくので少し昔と比較しても状況は全然異なりますね。

- ちなみに日系大手証券会社の投資銀行部門からPEファンドへの転職ケースは多いのでしょうか。

最近は非常に増えている傾向がありますね。一方で外資系投資銀行からPEファンドへ転職する方は減少している傾向があります。

あるPEファンドも去年の後半から今年の前半くらいまで採用活動を行っていたらしいのですが、外資系投資銀行の方のレジュメはほとんど回ってこなかったそうです。

もともと外資系投資銀行からPEファンドへ転職される方が多かったのですが、現在は外資系投資銀行を辞めて自分で起業される方やベンチャー企業にジョインされる方が非常に多いですね。

特にアソシエイトくらいの年齢で若くして辞めていく方が非常に多い印象です。

- なぜスタートアップへの転職を選択する方が増えているのでしょうか。

ITの時代の波を感じてITのビジネスに携わる人が非常に多いのかもしれません。第4次産業革命ではないですが、その波に乗ってIT業界に参画しようとされている方が非常に増えています。

本当に日本で実績があるPEファンドでもなかなか外資系投資銀行の人材を獲得することは難しいそうです。

そこで決して目線を下げているわけではなく、日系の証券会社でM&Aをしっかりやってきて英語も堪能で、プロとしてキャリアを築いていく自覚がある方はPEファンドで採用ニーズは強いですね。

- 外資系投資銀行に入社される方は次のキャリアとしてPEファンドに転職される方が多いと思っていたのですが意外です。

一昔前は外資系投資銀行から外資系PEファンドへ転職することは1つの王道パターンだったと思います。しかし先ほども申し上げたように近年は、日系大手証券会社の投資銀行部門から外資系PEファンドへ転職される方が増えています。

他のパターンだと、外資系投資銀行から日系のPEファンドに転職される方もいますし、現在は金融業界の中でも結構クロスして動かれている印象ですね。

最近の候補者の志向として、必ずしも外資系投資銀行にいるから転職先も外資系のファンドじゃなければ嫌だというわけでもないですね。

おわりに

いかがでしたでしょうか。前編では主にPEファンドや投資銀行はどのような業界からの転職者が多いのかということや現在の金融業界における転職市場の動向を語っていただきました。比較的、情報を入手しづらいPEファンド転職時の選考方法や目まぐるしく変化する転職市場の実情を語っていただいたことが非常に印象に残りました。

後編では、PEファンドから内定がでやすい候補者の内面的な特徴や山崎氏が語る若手とベテランプロフェッショナルの違いを語っていただいています。

ぜひご覧ください。

後編:「PEファンドへ転職する」ことは「リスクを負う」ということ。人材エージェントが語るその実態とは

本記事に登場いただいた山崎正氏にご相談したい方はこちらのボタンからご連絡ください。

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コラム作成者
Liiga編集部
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