常識を壊される、途上国ビジネスの醍醐味―商社マンが語る、アフリカビジネス最前線 #02
2018/09/12
#総合商社で身につくスキル
#海外で働きたい

はじめに

総合商社のモロッコ駐在員へのインタビュー、続編です。

日本から遠く、環境も全く異なる途上国で働くリアルさ、面白さについて伺っています。

ぜひご覧ください。

第1回はこちら 第3回はこちら

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アフリカでは1人事務所が多い

―入社してからモロッコの駐在に至るまでの経緯を伺いたいと思います。

2006年に総合商社に入社して、最初の3年間は、船積みの手配や現地代理店との売買契約を通して、トレードの基礎を学んでいました。この時任されていたのはセネガルやガーナ、コンゴといった小さな市場でした。

その後、フランス・パリ支店に駐在となり、フランス語学習の傍らでマグレブ諸国(北アフリカ)の商売を担当しました。マグレブ諸国での自動車販売事業を担うパートナー企業の親会社がフランスにあったためです。

当時、1ヶ月の内3分の1程は、現場のアルジェリアなどに出張する日々でした。現場では、事業拡大や日々の拡販に向けた各施策実行支援まで、マグレブ各国の販売会社やフランスの親会社と協力しつつ、事業拡大を目指しました。現地拡販会社をパートナー企業と一緒に経営していくイメージです。

日本に帰国後は、3年半程北アフリカチームとして、同事業を部下と一緒に統括します。そうして現場感覚を培いつつ、事業の全体像にも精通した後、2013年からモロッコのカサブランカ事務所に駐在となりました。

―アフリカに駐在というのは珍しいのでしょうか。

アフリカ人材戦略は会社にもよります。プロジェクトがある国に局所的に人材を投下している商社もあります。それでもやはり、全世界的に見たらアフリカ駐在員の数は少ないです。

―モロッコ事務所は世界的に小規模な部類なのですね。

はい。1人事務所は全世界的にはマイノリティですが、アフリカでは多いですね。先進国は機械、食料、化学品、金属等の複数の事業グループから構成されている事業体が多いです。

―何度も聞かれていると思いますが、寂しさを感じることはありませんか。

いい質問ですね(笑)。人にもよりますが、私は海外大学に行ったり、一人旅をしたりと、1人でも過ごせる方なので基本的に大丈夫ですが、それでもふと感じることはあります。その時は本社に報告を兼ねて電話したりしますね。要件がなくても電話する駐在員もいます(笑)。今は3拠点からスカイプで会議したりと、通信手段には恵まれているのでありがたいです。

上司の承認をとるのに待たされる

―モロッコのビジネスと、日本でのビジネスとで、どのような違いがあるのでしょうか。

違いは多岐に渡ります。一般的なもので言えば、ビジネススタイルの多様性でしょうか。例えば、時間感覚、仕事に対する考え方や価値観が、日本人と比べると非常に多様です。

故に、主張した者勝ちという要素が大きくなります。日本は、良くも悪くも「暗黙の了解」、「阿吽の呼吸」という文化ですが、ここでは言葉に出して、時には強く主張しないと伝わりません。その辺りは当たり前のように求められる資質でしょう。

―逆に、日本と意外と同じなのか、という驚きはありますか。

あります。モロッコは、実は大企業になればなるほど、ヒエラルキーがしっかりしています。欧米企業はフラットな組織が多いですが、一般的にアフリカだと上司や年上を尊重する文化がまだ残っていますね。

また、旧植民地だった関係で、モロッコにはフランス企業が結構進出しています。フランス企業は植民地時代と同様に社長副社長の経営幹部を送り、語弊があるかもしれませんが、現地人を部下で使います。ただ、モロッコ人にとっても部下として使われることが通常で、彼らは違和感を持っていません。そういう意味で上下関係が日本より明確です。

―驚きました。それは盲点ですね。

実際に働いてみないとわからないですよね。ビジネスをしていると、モロッコのそういう側面には非常に気を使います。上司の承認、更にその上の承認をとるために待たされることも多いです。

―なるほど。今協業されているモロッコの販売会社も同じなのでしょうか。

その会社は少し特殊です。現場は全てモロッコ人で、和気あいあいとした雰囲気です。ここにフランス人が入れば一変するでしょうが、当然、組織形態は一長一短あり、どちらが良いとは一概には言えないですね。

人の幅が広がる、常識を壊される面白さ

―グローバルな環境でビジネスをする良さは何でしょうか。

いくつかありますが、まずは日本でのビジネスの特性や、その良さに気付けることでしょうか。

例えば『慎重且つ緻密な仕事の進め方』、『信頼のおける言動(約束したら必ず守る商習慣)』ですね。「嘘をつかない」、「時間を守る」という日本人には常識的な言動であっても、海外に出れば時には信頼を得るきっかけになります。

あとは、各国の国民性や仕事の進め方などを知ることで視野を広げられることです。国内で日本人のみを相手に仕事をするよりも、大局的な価値観を養う機会が多々得られると感じています。

―大局的な価値観、ですか。

道を知らなくても教えてしまうモロッコ人のメンタリティを始め、後進国では新たな発見の連続です。地方都市のアラビア語しか話せない自動車販売員と、現地スタッフのフランス語通訳を介して話すことも頻繁にあります。そういう日本では話せない人たちの話は、彼らにとっては常識でも、我々日本人の常識からすると、型破りなことが多いです。

description モロッコの内陸地方は、沿岸の都市部とは異なり、自然環境が厳しい。

海外大学時代の「日本はチャイナのどこにあるの?」という質問もその意味では同じです。そんなことを聞かれるとは普通思わないじゃないですか。ここではそういう体験が結構あります。日本の外にはこういう世界もあるのだと、視野が広がります。

―日本の常識の外にある世界を知ることができる、ということでしょうか。そういった経験が、例えば日本に戻ったときに活きてくるのでしょうか。

仕事に活きるかというと、特定業務に限定されると思います。例えば日本で引き続きアフリカや後進国のビジネスを担当する場合、現場から報告を受けた際に、「一言えば十わかる」というような状態ですね。しかしビジネスに具体的で大きなインパクトを残せるかというと、違うでしょう。

一方、「人の幅」が広がるという意味では、後進国で得るような体験はなかなか経験できません。そういう常識を壊される後進国ビジネスの面白さは、体験するとなかなか忘れられません。

—「人の幅が広がる」。簡潔な表現ですが、実際に経験した方でなければ、その凄さはなかなか理解されないと思います。

この手の話は、伝わる人には伝わりますが、ピンとこない人もいると思います。

例えば日系メーカーの海外営業の方ですね。プラントや食料といった、重厚長大からコモディティまで様々な領域の方とお付き合いさせて頂いています。その方々にモロッコでビジネスをする難しさを伝えるとき、相手が海外に慣れている場合、非常に理解が早いです。

一方、ずっと国内で開発をしていた技術者が来た際は、現地の話になると思考停止してしまい、なかなか理解してくれません。もっとも、英語のわからない技術者が現地スタッフと協力して設備を修理するとき、メカニックな共通言語、身振り手振りでコミュニケーションをとれてしまうのは逆にすごいと感じますし、面白いですが。

商社の中でも、海外に出たことがない融資担当や経理財務の方は、現地事情の理解が難しいときがあります。ネットバンキングの反映が10日かかるとか、日本からすると信じがたいほどの粗悪な管理システムの銀行があったりします。

―商社内でも理解に大きな差があるのですね。

商社は結構ドメスティックですよ。十何年も海外経験がある人はどちらかというと、マイノリティです。原始的な銀行システムなど些細なことも含めて、海外に通じていない人に現地事情を説明するのは、とても骨が折れますね。

―現地の人とのコミュニケーションだけでなく、日本側とのやりとりにも苦労されている、と。

コミュニケーションの苦労が一番大きい苦労ですね。

海外を知らない人の付き添いとして補足なしで通訳をしていても、現地のバックグランドを知らないと意図した内容がうまく伝わりません。後進国は特にそうです。この苦労は日々感じていますし、これからも苦労すると思います。そこに、駐在員としての腕の見せ所と価値があるのかもしれませんね。

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コラム作成者
Liiga編集部
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