駐在員が見据える、ビジネスの「今後」―商社マンが語る、アフリカビジネス最前線 #03
2018/09/12
#総合商社で身につくスキル
#海外で働きたい

はじめに

総合商社のモロッコ駐在員へのインタビュー、第3回です。

アフリカビジネスの将来性、商社ビジネスの今後の展開、個人的なキャリアビジョンなど、「これから」についてあますところなく語って頂きました。

ぜひご覧ください。

第1回はこちら 第2回はこちら

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僻地で商社マンが果たす役割とは

―具体的な業務内容を教えていただいてもよろしいでしょうか。

弊社は日系自動車メーカーのモロッコへの自動車輸出を担当し、現地の販売会社に商品を引き渡しています。その一環として、現地会社の大局的な経営課題解決、現場の顧客対応の支援、メーカーへの3C(※)情報の共有といった末端業務など、現地会社の支援が業務の中心です。

※3C…顧客、自社、競合相手のこと。

全体の方向性としては、メーカーのブランド認知度向上や現地企業内での方針浸透、現地販売会社の企業価値向上、モロッコでの弊社のプレゼンス向上を通して、メーカー・現地会社・自社の3社の利益最大化を図っています。

―基本的には、日系メーカーの自動車がモロッコでより売れるよう支援する、というイメージですね。日系メーカーとはどのように役割分担しているのでしょうか。

メーカーはあくまで製造業が軸のため、海外営業の人員はいますが、現地一般情勢(政経・法規・業界知識)や業界動向に精通した人間があまりいません。

特に、日本に馴染みの薄いアフリカやアラブ諸国はその傾向が顕著で、この情報ギャップに商社の存在意義があると言えます。メーカーの海外人材の場合、言葉ができても、現地事情に精通して、現地勘がある方はまだ限定的です。

またメーカーの場合、商売領域が限られています。例えば、機械メーカーであればその業界内の人脈しかないため、得られる情報が時に限定されています。関連業界以外からの情報収集スキル・ノウハウを商社が補完しているのです。

但し、近年はメーカーにも海外経験豊富な方が増えてきました。そのため商社は常に存在意義を問われており、双方向(日系メーカー、現地取引先)から評価される新たな機能や価値を創造し続けなければ、商社はいらなくなってしまうでしょう。

―第2回では、従来プラントや食料など他業界の商談がカサブランカ事務所に舞い込むことがあると伺いました。K氏のご専門は自動車ですが、対応できるのでしょうか。

できません(笑)。そこは駐在員の手腕が非常に問われるところです。理想は、相手が食料メーカーでも機械メーカでも対応できる、あらゆる業界に詳しいスーパーマンです。しかし現実には、スーパーマンはいません。

僕の場合、自動車以外の商談では表面的なお付き合いなら可能です。一緒に食事をして、一般的な話して、一緒に政府の高官に表敬訪問はすることはできます。

しかし専門的な話になると、本社に投げるしかありません。事業化するには、本社の人間にいかに興味をもってもらい、現地に来て調査してもらうかが鍵です。

もちろん本社から事業案が来ることもありますが、自分から提案できるようにするには、アンテナを貼って多方面から情報が入るようにして、多分野に興味を持つ必要があります。他社のモロッコ駐在員との関係はもちろん、事務所の現地スタッフ経由で現地企業とのコネクション作りも重要になります。

そうしていくと、「ドイツからチョコレートを輸入するのはどうだろう」、「国の発電能力拡大計画に絡めてプラントの発注を獲得したい」など、したいことがたくさん出てきます。

モロッコで日系企業は戦えるのか

―モロッコと言えば、最後のフロンティアと言われるアフリカの一部です。日系企業にとってビジネスの将来性はどれほどあるのでしょうか。

モロッコは北アフリカのアラブ圏ということもあり、あまりアフリカらしさを感じません。北アフリカの中でもモロッコは、資源国のアルジェリア、人口1千万強のチュニジアの隣国とは似て非なるものです。

一方で「アフリカのリーダー」を名乗るだけあって、政治レベルでサハラ以南への経済進出を後押ししたり、欧州企業のアフリカ向け商品の生産・物流ハブになっていたりします。

モロッコ政府から、日系企業も同様にアフリカビジネスの拠点にしてほしい、という要請がありますが、地理的に遠く、市場も小さいので日系企業にとっては他のアフリカ諸国と大差ありません。むしろ「リーダー」としてのプライドが高い分、日系企業にはやりにくい側面もあります。

―日系企業は欧州企業ほどモロッコでビジネスをする理由はないと。

もちろんモロッコは発展余地があり、加えて人材競争力が非常に高い、魅力的な場所です。実際、日系企業の進出はここ3、4年で3倍以上に激増しています。

description モロッコは辺境でもインフラが比較的整っている。

しかし、モロッコも含めてアフリカで日系企業がビジネスを発展させていくには、アフリカに精通した人材が圧倒的に不足していると感じます。旧宗主国の欧州諸国と比べると当然、地理・人材面でハンデがあり、ハードルは高いです。

アフリカに希望は確実に存在しますが、その可能性を我々が広げられるかどうかは、別問題ですね。

経営参画に見出す商社の将来

―なかなかハードルは高そうです。ご自身は自動車業界でどのような将来を目指しているのでしょうか。

最終ゴールは、パートナーの現地会社をシェアNo.1の会社に成長させることです。そう簡単にはできませんが、40年以上シェアNo.1を守り続けているライバル社の牙城を崩せるよう、体制づくりをしているところです。

―その一環として、現地販売会社のJV(合弁企業)設立構想があったと伺っています。

はい。実は2014年までフランス企業の子会社(以降、B社)に自動車販売をさせていたのですが、そのB社が某日系総合商社に買収されたのです。B社は従来の日系自動車メーカー以外にも、その競合だった日系メーカーの自動車を扱うことになりそうで、技術情報の流出など様々な懸念が生まれました。

これを機に、現地販売店を変えましょうと、弊社からメーカーに提案しました。メーカーは商社のパートナーですが、逆にメーカーから不要だと切られることもあります。主導権を握って、事業を拡大させなければ、常にこのリスクがあります。

そこで今回も、弊社からリスクを説明した上で、王族系大企業という信頼できる現地パートナーを連れてきて、弊社と現地パートナーのJVが現地販売を担うという提案をしました。

―なぜ、JV設立という選択だったのでしょうか。

販売会社の経営に深く関与するためです。

JVなら一定額出資するため、出資先のCFOや副社長ポストに日本人社員を出向させることができます。出向先の不良債権など、懸念事項を早期に見つけ、解消することができます。

何より、弊社は自動車販売に関する先進的な取り組み・システムが世界各地で蓄積されています。経営に関与することで、モロッコ企業では思いつかない、こういったシステムを導入し、拡販に貢献することができます。

―逆に、出資しなければそういった取り組みができない、ということでしょうか。

もちろん、出資せずとも横からアドバイスして、ノウハウを伝えることは理論上可能です。しかし、現状では収益が日本からモロッコへの輸出手数料に限定されていて、その労力に見合いません。当の現地会社が弊社の競合企業に買収され、ノウハウが漏れてしまう恐れもあります。

一方、出資をすれば配当はもちろん、出資分に応じて出資先の収益を本社の収益として計上することができます。何より、現地会社を抱え込めば、日系メーカーが取引において弊社との関係を切りにくくなります。現地会社ごと弊社との関係を切ってしまうと、モロッコでの新しい販売会社をメーカー独自で調達する必要があるためです。

―拡販に貢献するとともに、自社の立場を盤石にするという目的があるのですね。

はい。もっとも、当時のJV構想は結局頓挫しています。日系メーカーは提案を承諾したのですが、パートナーの王族系大企業が「やっぱりやらない」と言い出して、JVの条件交渉で折り合えなかったのです。

B社との契約は2014年で切ることにしていたため、JVが2015年に間に合わなければブランク期間ができてしまい、モロッコ市場でのシェアを失います。結局、最悪の事態を避けるため王族系大企業の子会社がそのまま販売を担うことになり、弊社の出資はなくなりました。

―モロッコならではの交渉の苦労が伺えます。

そうですね。モロッコ政府から新しく販売認可を取り付けたり、契約を切ることにしたB社に「契約を切るなら訴えるぞ」と脅されたり、翻弄された日々でした。

それでも、新しい販売会社へのコールオプション(株を買う権利)は得たので、経営参画という目標は射程内に入っています。あとはタイミングの問題でしょう。

『グローバル+経営』という軸で、スタイルが確立された経営者を目指す

―K氏はモロッコに駐在されて既に5年目です。日本に戻りたいと感じたことはないのでしょうか。

実は駐在3年目の時点から「帰してくれ」と人事に言っています。なかなか通らないので、「組織の硬直化だ」と騒いでいます(笑)。

商社は次の異動までが長く、「成長が遅い」と言われます。もちろん、この仕組みならではの良さもあるのですが、僕個人としては短いスパンで様々なことをしたいのです。

商社の中でも考え方は多様で、一つのことを極めると、他分野もできると考える人もいます。自動車の専門家だが、繊維もわかるという具合です。一方で、色々な商材を経験した方が、例えば社長になった時、うまく経営できると考える人もいます。考え方次第ですね。自分は後者で、自分の専門軸のバラエティを増やしたい方です。

例えば別の地域や別の商材に挑戦したいですね。場所が変われば南米、アジア、どこでも構いません。繊維など完全に別の商材になってしまうとキャリアがリセットされてしまうので、例えば別のメーカーの自動車を扱ってみたいですね。

後は出向して実際に経営してみたり、本社の中で経営企画に携わったり、トレードとは異なる切り口にも関心があります。実は、JV構想ではJVに、経営ポストでの出向を画策していました。

先述通り、今回は叶いませんでしたが、モロッコ外でも良いので、海外の事業会社への出向を通して、自身の経営スタイルを確立したいです。

―最終的には、経営者を目指されているということでしょうか。

はい。『グローバル+経営』という軸で、どのような事業形態でも、どこの国でも活躍できるような、自身のスタイルが確立された経営者を目指しています。

―ありがとうございます。最後に、Liigaユーザーの皆様に向けて一言お願いできますか。

後進国は非常に面白いです。最近は、日本人留学生の減少など、若者が海外に出たがらなくなっていると言われています。

外に出ると日本では経験しない苦労をします。しかし、それこそが海外の面白いところであり、ためになることもあります。

ビジネスでなくてもいいので、今まで日本を出ることを考えていなかった人に、海外に挑戦するきっかけを提供できれば幸いです。

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コラム作成者
Liiga編集部
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