はじめに
今回は人事コンサルタントから、データサイエンスのコンサルタントへ転職した方に、お話を伺いました。
人事コンサルティングを行う中で触れたピープル・アナリティクス(※)に興味を持ち、その分野で専門性を培うことにしたそうです。
※ピープル・アナリティクス…社員の行動データを統計解析し、人事・経営に役立てる技術のこと。
近年著しい発達を遂げているデータサイエンスの面白さや、どのようにデータサイエンスの領域へキャリアチェンジを行ったのか、話して頂いています。
ピープル・アナリティクスの面白さにはまり、専門的にできる環境を求めた
―本日はよろしくお願いします。まずはご経歴をお聞かせください。
まもなく社会人3年目になります。新卒時に人事コンサルティング専門の日系企業(以降、A社)に入り、1年間は人事制度のコンサルティングに従事、その後10ヶ月間HR(人材)テクノロジーのコンサルティングに携わりました。
そしてHRテクノロジーに関わる中でデータサイエンスに興味を持ったため、転職活動を行い、BIG4の内の1社(以降B社)に、ピープル・アナリティクス領域のコンサルタントとして転職しました。
―新卒時は人事コンサルティングの企業に入社されたのですね。
もともとは戦略コンサルティングファームや、投資銀行を軸に就職活動をしていました。その活動の中で、人事という軸から経営戦略を考えることに興味を持ちます。そこへ転職サイト経由でエージェントからA社のオファーがあり、新卒1号として入社しました。
―転職サイトからオファーが来たということは、そもそも新卒採用を行っていなかった会社ということでしょうか。
はい。社員が15名程しかいないベンチャーでした。先輩方の下で人事領域を様々な切り口から学び、10年かけて人事コンサルティングのジェネラリストとして1人前になる、という趣旨の採用だったのです。そのため、ヒアリングやレポートなど人事領域のあらゆる仕事をこなしていました。
―そのような中、どのような経緯でデータサイエンスに触れたのでしょうか。
1つは会社の方針です。人事データを活用するコンサルティングに大きな需要があると気付いたA社が、他社と共同してデータサイエンスのプロジェクトを行い、HRテクノロジー領域への進出の足掛かりにしようとしていました。
自分もそのプロジェクトに参加していたのですが、協力企業が使っていたピープル・アナリティクスがとても興味深かったので、お願いして教えてもらうことにしました。
人事制度コンサルティングを行っていた際もExcelを使用して人事データの分析をしたことはありましたが、ピープル・アナリティクスはそれより遥かに本格的なものでした。
そうして一通り自分でできるようになるにつれ、ピープル・アナリティクスの面白さにはまります。そこで、ジェネラリストを目指す以上、データサイエンスには専念できないA社から、ピープル・アナリティクスを先進的に行える環境への転職を決意しました。
―ピープル・アナリティクスという軸で専門性を深めるため、転職を決めたのですね。戦略コンサルティングを考えていた当初とは、検討しているキャリ大きく変わっている印象を受けます。
確かに、当初はデータ解析に進むことは考えていませんでした。しかし、制度改革時に人事データ管理方法をどう変えるか、どのような人材が欲しいか等の人事の側面から経営戦略を考えているという点で、自分のやりたかったことは変わっていません。
データサイエンスは、アカデミックでファクトベースだから面白い
―ピープル・アナリティクスは、人事制度改革とどう繋がっているのでしょうか。
どちらも人事コンサルティングの一環として行われるものです。ピープル・アナリティクスでは、顧客企業がどのような人事データを、どう分析しているかを整理して、それに基づく評価がどれだけ正確なのか、考えます。
その結果を機械学習を経て磨き上げ、人事制度改革に用いることになります。人事制度はデリケートなものですから、このようなきちんとした根拠がないとなかなか変えられません。
―その領域で先進的な環境を求めて、BIG4のB社に転職されたと伺いました。B社以外にはどのような競合企業が考えられるのでしょうか。
ピープル・アナリティクスは全く未開拓で「ブルー・オーシャン」な領域のため、競合を考えられる程の状況にありません。
ピープル・アナリティクスの取り組み度合いで考えると、BIG4の中ではB社が抜きん出ています。あとは、アクセンチュアやボストン・コンサルティング・グループのテクノロジーチームが専門家を集めて体制を整えており、非常に進んでいると聞いています。
他には評価システム・採用システムをもつITベンダーが、候補者分析の機能を提供することもありますが、それをコンサルティングサービスとして提供している企業はありません。
―まだまだ市場がこれから拡大していく領域なのですね。ピープル・アナリティクス、ひいてはデータサイエンスのどういったところに惹かれたのでしょうか。
アカデミックで研究に似ている部分でしょうか。自分が知らないものを知ることができる、知的な刺激があります。
コンサルタントは調整作業が多く、意外とクリエイティブではないと感じた上、若さのために意見しづらいこともありました。
一方でデータサイエンスは数字が全てであり、年齢は関係ありません。経営者が長年の経験で培った勘による判断を、ファクトを提示して裏付けすると、経営者に喜んで頂けるのが醍醐味ですね。
データサイエンス領域への転職活動
―「ファクトを提示できる」のは強みでもり、魅力でもあるのですね。このような最先端の領域ですと、転職先を見つけるのは難しいように思います。どのようにして転職活動を行ったのでしょうか。
基本的にエージェント頼みですね。転職先もエージェントの方がすぐに見つけてくれたので、特に苦労はしませんでした。
具体的には、前職の自分のプロジェクト期間がわかっていたので、プロジェクト終了の数ヶ月前からアクシスコンサルティングというエージェントと話を始め、情報収集していました。データサイエンスの領域に進むため、まずは経験のあるピープル・アナリティクスを軸にした転職活動です。
エージェントの方がファーム内部の状況に精通していたので、丁度B社に数ヶ月後、ピープル・アナリティクスのチームができることがわかりました。B社が当時行っているプロジェクトに付随して、ピープル・アナリティクスのプロジェクトが生まれそうだったためですが、突然できるチームなので分析を実行する機能はほぼありません。
今ならプロジェクトに携われる絶好のタイミングということで、受けることにしました。案件がすぐ見つかっていたという意味で、非常にスムーズな転職活動だったと言えます。
―タイミングが非常に良かったのですね。他にはどういう企業を見ていたのでしょうか。
エージェントから「他も見ておこう」と言われ、B社以外のBIG4は同時並行で、概ね受けていました。しかしいずれの企業もピープル・アナリティクスのプロジェクト受注までに時間がかかりそう、という状況で、確実性を重視してB社にしたのです。
―ピープルアナリティクスの事業体制はB社が抜きん出ていたのですね。
はい。B社はデータサイエンスに関連して比較的組織が整っている上、実際に案件にできそうな企画がいくつかありました。データに理解のある方がトップ層におり、プロジェクトを受注しやすい状況にあるためです。
そうした経緯から、B社は「プロジェクト担当者に話を聞き、そのプロジェクトが面白そうなら転職してみて」は、という具体性のあるオファーでした。
一方、他ファームはピープル・アナリティクスに参入する意欲はあるものの、まだマネージャー、パートナーで「何ができるのだろう」と考えている構想段階でした。
―選考はどのように行われたのでしょうか。
書類選考、パートナー面接、シニアマネジャー面接、ディレクター面接を順に、内定が出るまで1ヶ月半かけて行いました。
―いきなりパートナー面接だったのですね。
パートナー面接はお互いが目指す方向性・ビジョンや、私のスキルを確認する場でした。パートナーの方は会社が何を目指しているのか、そのためにどういうチームがあるのか、そのチームにはどういう人材が必要なのか、すべて紐づけて話していただき、非常にわくわくするものでした。規模がこれから大きくなり、自分もポジションを目指しやすい環境だということがわかりました。
一方、同日に行われたディレクター、シニアマネジャーの面接では主に私のスキルセットが、予定されているプロジェクトに貢献できるかを確認されました。
流れとしては、過去にどのようなプロジェクトを行い、その中でどんな役割を果たしたのか、どのようなデータでどう分析したのか、という話です。
―非常に具体的な話になったのですね。
はい。B社で予定されているプロジェクトでどの分析方法を使うか、という話もありました。「この分析はどうでしょうか」、「それはどうやって行うのか」、「○○を使えばできます」、「うちでやってほしい」という風に、具体的に仕事の話に繋がり、自分が果たす役割を具体的に理解した状態での転職でした。
面接で話したプロジェクトは、HRテクノロジーのプロジェクトや、人事デューデリジェンスのプロジェクトなどですね。人事研修領域など、ピープル・アナリティクスと関係ないプロジェクトの経験の話は、転職後に配属されたくなかったので伏せました。
―非常に理想通りの転職活動を行えたのですね。最後に今後のキャリアをどう考えているか、お聞きできますか。
ピープル・アナリティクスをしばらく続ける中で、部下を持ち、プロジェクトマネジメントの経験を積みたいと考えています。その後はデータサイエンスが必要とされている領域に進みたいですね。
―どのような領域に興味があるのでしょうか。
実は父の工務店をおよそ5年後に継ぐつもりでおりまして、その際に生かせるような、例えば顧客の嗜好に合わせて家づくりの際の設計案を提案できるような、建築領域のデータサイエンスに興味があります。
―人材領域のみならず建築領域でもデータサイエンスが発達してきているとは、全く知りませんでした。本日は貴重なお話ありがとうございました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
「ピープル・アナリティクス」というブルー・オーシャンの領域に自ら飛び込んでいく姿勢は非常に刺激を受けるものだったのではないでしょうか。
情報が少ない中で、転職エージェントと共に進めた転職活動も印象に残りました。
本コラムが皆さまのキャリアを考える上で、参考になれば幸いです。