ハゲタカではない?!実に泥臭く実行する企業価値向上集団PEファンドの実情 ​
2016/03/29
#ファンドとは何か

はじめに

​投資銀行・コンサルティングファームといったプロフェッショナルファームを卒業した猛者が集うと言われるプライベート・エクイティ・ファンド(以下PEファンドまたはPE)。

企業・事業体を買収し、せっせと価値向上に取り組んで、最後に別の企業・ファンドに売却するといったのが主たる事業プロセスですが、「会社を売買する」といったところから、ハゲタカを想起してしまう人もいるかもしれません。

また再生ファンドでは事業救済という意味合いもあり、会社の救世主とも捉えられることのある投資ファンド。実態はどちらなのでしょう。 ​ そもそもPEファンドは3つの顔を持つと呼ばれているのはご存知でしょうか?

企業価値向上者といった側面のみならず、事業投資家であり、またアセットマネジャーでもあります。謎に包まれているPEファンドですが、本コラムで明らかにしていきましょう。

どうぞお楽しみに。 ​ description ​​

ハゲタカでない?!銀行に代わる産業再編の核

以前、NHKで「ハゲタカ」というドラマが流行ったのですが、覚えている方いらっしゃいますでしょうか。映画化もされ、とても人気を博した真山仁の小説をモチーフにした作品です。

外資系投資ファンドであるホライズンインベストメントパートナーズ代表の鷲津政彦が、バブル崩壊後の日本で事業・アセットをひたすら買い叩く痛快なドラマで、役者・演出も素晴らしく、とても面白かったです。流行ったのが、私が転職したときで、とてもタイムリーだなと思った記憶があります。 ​ そこで鷲津は業績低迷し、融資が返済できなくなった旅館の主人から「ハゲタカ」と呼ばれます。旅館の債権を大手旅館チェーンに売却したのが、そう言われてしまったきっかけでした。その後主人は自殺し、復讐に燃える息子がIT企業を作って鷲津に逆襲する…というストーリーが展開します。 ​ ハゲタカ、新聞紙面でもよく賑わす言葉ですね。従業員を大リストラして、企業をバラバラに解体するような悪魔な存在。その代表格が投資ファンドだと勘違いされておりまして、日本ではなかなか悪名高い存在となってしまいました。

といいますのも、2004−2005年当時にアクティビスト(=モノ言う株主)と呼ばれる村上ファンドやスティールパートナーズが有名になり、彼らがリストラや事業売却を声高に言っていたので、そういったイメージが刷り込まれてしまったのではないか…と思っています。 ​ 一方アメリカでは、企業価値を向上させてくれるプレイヤーとして投資ファンドは一般的な存在です。「うちに買われるとハッピーになるよ」といったテレビコマーシャルを展開しているところまであります。 ​ PEファンドは、強圧的に企業にアプローチするわけではありません。実際は経営者との友好的対話を重視し、泥臭く投資先の企業価値向上に注力する、なかなかヘビーな職業です。 ​ そもそもコンサルティング自体もさほど一般的でなかった時代、こういった企業価値向上は銀行の役割でした。高度経済成長期は、例えば日本興業銀行といったところがリスクマネーを企業に注入し、産業を育ててきた側面があります。

お金だけではなく、経営人材を送り込んだり、合従連衡をリードしたり、文字通り新産業を作ってきたのです。 ​ しかし、バブル崩壊後銀行の地位は大きく低下しました。株式持分も5%以内に抑えられているというところもあり、こういった産業界の合従連衡は投資ファンドが担うようになってきております。

例えば昨今ニュースで聞くことの多いシャープ再生、台湾のメーカーである鴻海精密工業と、政府系投資ファンドである産業革新機構の一騎打ちになっていますが、後者はジャパンディスプレイを含むパネルメーカーとの再編を狙っており、まさにファンドの役割を果たそうとしています。 ​​

経営の総合格闘技!論理だけでは人は動かない

ちょっとPEの役割を理解するために、架空の投資案件でケースを考えてみましょう。国内4位のリテールチェーンA社、オーナーが持分を売却したいとのことで、投資ファンドB社が引き受けることになりました。 ​ 企業の状況にもよりますが成長投資であれば、トップライン(売上)を積極的に伸ばしにいきます。地方都市中心に展開していたA社については、事前のデューデリジェンス(調査:以下DD)から、都心への展開及び海外展開に十分成長余地がありました。

特に後者のほうに大きな可能性を感じ、投資をすることにしたのです。 ​ 投資をするとファンドから役員を派遣、積極的に海外展開を進めていきます。現地パートナーをファンドのネットワークを探しだし、現地法人を設立。現法を経営できるマネジメントメンバーを招聘し、組織化を促進。 ​ また店舗オペレーションを見える化を実施。どの店舗にどういった課題があるか、経営管理ツールを導入し、労働時間や生産性を定量化を行います。膨大な数字データから店舗を序列化して、知見の共有化を積極的に推し進めました。

こういった経営管理の徹底化とモニタリング強化にはメンバーが必要ということで、戦略コンサルからマネジメントメンバーを採用しました。 ​ さらに人事制度を改革します。上が決めたことを忠実にこなすといったトップダウンカルチャーを、ボトムアップに変革しようと、メンバーを育成していくことに。

研修を始め、モチベーションを高める評価制度の導入など、さまざまな人事施策を積極的に導入します。結果、離職率が大いに減少することになりました。 ​ このように文字で書いてしまうとさらって感じですが、投資した後はとても大変です。PEファンドは基本的にハンズオンといって、がっつり経営に入り込む型の投資スタイルですので、最初の半年・1年は毎日のように投資先に行くことになります。

現場に机を用意してもらって、営業会議・企画会議などさまざま出席し、本当の課題は何かを見つけていきます。 ​ 例えば会議が多すぎる問題ってよく世間で聞かれると思いますが、日系企業は年功序列ということもあり、役職者が多く、結果会議体も大変多くなってしまっています。

ろくなアウトプットのでない会議は時間のムダとなってしますので、まずはファンドメンバーが目的設計やファシリテーションを代わりにやり、メンバー1人あたりの生産性を上げていきます。

いずれ社内メンバーにまかせていくことで、会社を強くしていくのが重要です。 ​ また経営企画サイドとしても、金融機関とのやりとりや、システムの入れ替え、資金繰りのキャッシュフローマネジメントなど業務は膨大です。さまざまなプロジェクトを社内外メンバーを巻き込んで実施していくのが、重要な仕事です。 ​ 当然、社内メンバーにとってしてみたら、ファンドはアウトサイダーです。たとえ外資じゃなかったり、ハゲタカというイメージがなくとも、そういった見られ方をします。 ​ なので投資先での行動はまったく気が抜けるものではありません。幹部との1on1ミーティングでは、それこそ「ハゲタカなんて信じないぞ!」と罵倒されることもあるし、脅しに近いことを言われることもあります。たとえどんな状況でも落ち着いて、タフかつ謙虚に対応していくのが求められます。 ​ そして論理的に分かっていただいていても、感情で動かないケースは本当に多いです。向こうからしてみれば経営権を渡してしまっているわけですから、どんなに良いことを言っているようでも、乗っ取りやクビになるというのはイメージとしてあるわけです。

また、ファンドの中にはコンサル上がりの若造が描いたプランで、現場が大混乱に陥ったなんてケースもあり、それが噂として幹部の耳に入ったりするわけです。となると、てこでも動かなくなる。 ​ こういった場合、いかに人間的に信用してもらえるかが大事になります。現場メンバーと日々飲んで、「一緒にこの会社良くしていこう!」といったり、個人としていかに好きになってもらえるか。

事業というのはホワイトボードでスラスラ書いて伸長するなんてことはありません。現場とのコミュニケーションを粘り強く行っていく必要があります。 ​ 会社を変えていくといった業務ですので、社内メンバーに嫌われてしまったらおしまいです。昼・夜含めて、人と人との総合的なコミュニケーションが求められるのが、プライベートエクイティの現場といえるのではないでしょうか。 ​

ソーシングも泥臭く。ヒューマンネットワークが全て

PE案件はとにかく足が長いのが特徴です。投資するまでも長いですし、その後もとても長い。投資から5−7年かかるケースも往々にしてあります。ソーシングにつきましては、業界・企業を研究し自ら探しに行くパターンか、紹介してもらうパターンの2つです。

後者では投資銀行・銀行・ファンドや事業会社など多彩ですが、ビッド案件(入札)になってしまうと高値掴みのリスクも伴い、けっこう消耗する案件も多いです。 ​ 前者の場合は、とにかくパイプラインを積み上げることが重要です。「売る気になったら、御社に売ってやる」と思ってもらえるような案件を増やしていくということです。

特にオーナー案件を獲得するためには、企業価値向上プランの提案をピッチするだけではなく、飲みのネットワークや経営者ネットワークに入ったり、ゴルフや飲んだりする中で仲良くなることも重要です。

信頼してもらった結果、「知り合いが会社を売りたいんだよね」と聞かされたりすることがあるからです。 ​ そこで「できます」であればいいのですが、たとえ「できません」であっても即答するのではなく、この会社・人だったらマッチングしそうだなという人を繋げたりするなど、信用を積み重ねていくと、あるとき大きな案件が転がり込んできます。 ​ 大企業からの事業売り出しをエクスクルーシブでやるためには、金融機関との信頼関係が肝だったりします。またオーナー経営者と違って、サラリーマン経営者はマインドや考え、覚悟が大きく異なるので、そのロジックを理解することも重要。

在任中いかにホコリを出さないかが最も高いプライオリティだったとしたら、そのようなスキームやアプローチを考えておく必要があります。 ​ 持ち込まれる案件もさまざまです。リーマンショック時は、銀行系金融機関が一切資金を出さなくなり、最後の望み…としてPEに持ち込まれるなんてことも多々ありました。最終的にはどこからも投資をうけてもらえず、破綻した会社も少なくありません。 ​ また余談ではありますが、反社の案件が持ち込まれるケースもあります。当初はまじめにビジネスをやっていたのに、いつのまにか経営陣が入れ替わり、怪しい投資だけを行うハコ企業というのは珍しくなく、上場・非上場問わず散見されます。

一発アウトなのですが、巧妙に隠していたりするので、どんな企業であってもDDはとても慎重に行っていきます。 ​​

おわりに

いかがだったでしょうか。ビジネスの総合格闘技とはいった面白さはあれど、ソーシングから企業価値向上にいたるまで、とても泥臭く、タフなコミュニケーションが求められる仕事だとご理解いただければと思います。

とはいえ、会社を変えていくプロセスはとても楽しくて、メンバーがやる気になって組織が一変したとき、継続的に製品が生み出せる体制になったとき、などなど経営に関わる醍醐味というのは果てしないです。

コラム作成者
Liiga編集部
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