南場智子(なんば・ともこ)
株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長。
1986年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。
1990年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得し、1996年、マッキンゼーでパートナー(役員)に就任。1999年に同社を退社して株式会社ディー・エヌ・エーを設立。
「あるべき」から「自然」への進化
「こんな時に仕事のモチベーションが上がって、逆にこの出来事でモチベーションが下がって・・・」
こんなことを若手社員が言ったら、一刀両断していたのが、ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の代表取締役会長・南場智子さんです。プロフェッショナルたる者、責任を持って仕事に取り組む以上、モチベーションの浮き沈みを口に出すなと。
しかし、それは過去の話。今年に入ってから、南場さんは「進化」しました。
これまでプロフェッショナルとして「こうあるべき」という姿を最優先し、周囲にもそれを求めてきた南場さん。その彼女が今は、「人間として自然」な姿を受容することが、仕事の上でも重要だと言います。2回の連載で、その「進化」の深層と未来のDeNAの姿に迫ります。
【進化版・南場智子氏に迫る(下)】「南場さん、DeNAを一体『何の会社』にしたいんですか?」はこちら。
マッキンゼーのあの日から、ずーっと言わなかったこと
――「今年に入ってから南場さんが変わった」と、各所で噂を耳にします。一体、どうしたのでしょうか?
南場:特に変わってないですよ。ただ、少し進化した部分はあるかな。
例えばプロフェッショナリズムについて、でしょうか? マッキンゼー時代に徹底的に叩き込まれ、自分にも他人にも高いスタンダードを求めていました。
マッキンゼー時代、自分にはモチベーションのアップダウンがあるがどうしたら良いかと先輩に相談したら、怪訝な顔で私を見て、「その問題は自分で解決してね」って冷たくスルーされたことがあります。
そこでハッとした私は、その日からずーっと、自分の体調について、ひいてはモチベーションが上がるだの下がるだのってことは、絶対言わないようにしてきました。
――社員など周囲にもそれを求めていましたよね?
南場:はい。若手が「モチベーション」などと口にしたときには、「給料返せ」って言ってました(笑)。
――でも、それが変わったと。
南場:そうですね、自分ではやっぱり口にはしないと思うけれど、周囲や自分のモチベーションに配慮するようになりました。だって実際には、モチベーションが高いときも低いときもあるじゃないですか。体調のアップダウンもある。口にするかどうかは別として、認めて対処してもいい。
体調が悪い人がいれば助ける。その人がありがたいと感じたら、自分の調子の良い時に他の人を助ける。やっぱり人間は人間であると認めて、そのダイナミズムの中で助け合ったほうがしなやかで自然なんです。
マッキンゼーに10年以上いた私は、これに限らずプロフェッショナリズムで凝り固まっていたと思います。なんというか、プロフェッショナリズムの「仮面」を絶対剥いではいけない、みたいな感じ、ありましたね(笑)。
でも、実際は、プライベートと仕事が不可分のときが、人間、一番良い仕事をしますよね。調子の良し悪しだけじゃなくて、人の興味や関心も、個性も、もっと自然に仕事にべったり出てきていいかもしれない。
合理性やロジカルさだけでは、未来は切り開けない
――そのお考えに基づくと、人材の多様性も今までより認めていくということになるでしょうか?
南場:そこが重要なポイントです。これまでも多様性が重要だと信じていました。多様な個性が集まっているほうが、組織って強いんですよ。特に変化に強い。粒のそろった均一な人材が集まっていると、決まりきった方向に向かう時は強いが、ショックに弱い。自明なことです。
だからこれまでもDeNAは、意識して様々な個性を集めてきています。けれども、組織の総体としては、かなりロジカル。多分トップがそうだからかな(笑)。なんでも徹底的に、これでもかというくらいロジカルに議論するし、意思決定も、感覚的ではなく、合理的な判断を諦めません。
これは必ずしも悪いことではないです。成功の確率を1%でも上げるためにとことん細部まで詰めるし、高速PDCAのプロセスを回し、ブルドーザーのように実施します。ゲーム、エンタメサービスのユーザーにとっての面白さも、とことん精緻なロジックで組み立てようとする。
この姿勢がなければDeNAはここまで発展してきていません。日本でもトップのレベルだと思います。
ただ、これだけだと時代を切り開く存在であり続けることができるのか?