リーグテーブルから分かる投資銀行各社の強みと弱み
2019/01/24
#投資銀行の仕事内容
#投資銀行の業界事情

はじめに

高給で有名な「外資系投資銀行」(以下、外銀)。ファンドや経営者へのキャリアを考えるにあたり、真っ先に候補にあがる業界で、ハイキャリア層の方々でも羨望の対象となっています。そこで本コラムでは、「リーグテーブル」を切り口に、投資銀行各社の特徴についてお伝えします。

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リーグテーブルとは何か?

国内証券会社の中でも有数の実績を誇る野村證券の定義を引用すると、リーグテーブルとは、「International Financial Review(IFR)誌などに掲載されている、引受業者の引受実績のランキング表」です。

リーグテーブル、すなわち引受実績ランキングには様々な種類が存在します。例えば、その年の総合取扱額、通貨別、産業別など、様々なランキングがあるのです。各分類別にランキングを見るだけで、その投資銀行の強み・弱みを把握することができます。

リーグテーブルは、外銀各社も非常に気にしています。なぜなら、「リーグテーブルで上位にランキングされると業者にとって引受能力をアピールする効果があり、リーグテーブルが近未来の自社の仕事の取りやすさに直結するから」です。

就活時に外銀のインターンや説明会に参加したことがある方ならば想像がつくと思いますが、外銀各社は、毎年自社がリーグテーブルのどこに位置しているのか、前年と比べてどうなったか、をかなり気にしていたと思います。中には「リーグテーブルがその国での投資銀行の序列だ」と話す社員の方もいるほどです。それほどリーグテーブルは外銀のバンカーのプライドを保つ重要な位置を占めています。

外銀の方と会話する際は、リーグテーブルについて触れておくと、彼らの自尊心をくすぐることができるかもしれません。

日本市場のM&A・ECM・DCMのマクロトレンド

リーグテーブルの紹介に入る前に、基礎知識として、日本におけるM&A市場・ECM市場・DCM市場のマクロトレンドを解説しておきましょう。

まずはM&A市場です。2018年1-9月期の日本関連M&A公表案件は、前年同期比147%増加の30.6兆円と、通年ベースで比較しても過去最高額を記録し、初の30兆円を突破しました。

1000億円超の大型案件は35件、総額24.5兆円が公表され、前年同期から249.2%増加しています。

最も活発だったのはIN-OUT案件(日本企業が海外企業を買収する案件)で、前年同期比164%増となる16兆円と、1980年以降の最高額を更新しています。日本は実は海外企業の買収国として世界2位なのです。この事実に皆さん驚かれるのではないでしょうか?

次にECM(株式)市場です。2018年第3四半期の日本株式・株式関連市場における資金調達額は、前年同期比28.7%減少の3兆円でした。既公開案件の取引金額は2兆円と前年同期比では37.1%減少の一方です。一方で新規公開取引金額は前年同期比で34.6%増となる5239.3億円を記録しました。

最後にDCM(債券)市場です。2018年第3四半期の円債総合市場は取引金額ベースで17兆円、前年同期と比較し2.5%の減少となりました。案件数ベースでも、8件の減少で917件となっています。取引金額では日本社債において減少がみられたものの、サムライ債および証券化案件においては前年同期比増加となっています。

すなわち、日本においてM&A市場は前年に比べ増加している一方で、ECM市場・DCM市場は減少しています

この基礎知識を基に、各市場においてどのハウスが活躍しているのかリーグテーブルを詳しく見ていきましょう。

2018年度M&A市場

まずはM&A市場の2018年度のリーグテーブルです。

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上段がグローバル市場のリーグテーブル、下段が日本市場のリーグテーブルです。

まずはグローバル市場を見てみましょう。ゴールドマンサックス・モルガンスタンレー・J.P.モルガンは昨年同様今年も上位にランクインしており、トップティアとしての存在感を示しています

一方で、第7位と9位に位置するラザードやエバコアにあまり馴染みの無い方もいらっしゃるのでは無いでしょうか?

ラザードは、27カ国に43拠点を持つ、世界有数のファイナンシャル・アドバイザリーファームです。主にファイナンシャル・アドバイザリー業務とアセットマネジメント業務をビジネスの主軸としており、融資や株式・債券発行による資金提供機能を持たないコンフリクトフリーの立場からアドバイスを提供する「独立系」という特徴を持っています。

エバコアは、海外ではブティック系投資銀行として有名です。ただ、日本に進出したのは最近のため、業界外の方はあまり耳にしたことがないのではないでしょうか。

エバコアは海外では既にプレゼンスがあり、かつ近年日本国内で勢力を伸ばしています。日本市場だと、武田製薬によるシャイアー買収の案件に絡んだこともあり、1件あたり40億ドルと巨額になっており、存在感を示しつつあります。

ラザードとエバコアは日本にもオフィスを持っています。「M&Aに携わりたい」と思われる方々は、是非一度「独立系」のハウスも検討してみることを推奨します

続けて日本市場を見てみましょう。ゴールドマンサックス・J.P.モルガンを抑え、堂々の第2位に野村證券がランクインしています(ちなみに2017年度は野村證券が第1位です)。日系投資銀行の中でも、野村證券の抜きん出た強さがよくわかります。

一方で、グローバルではトップ10にランクインしていたバークレイズ、クレディスイス、ドイチェが日本市場においてはランクインしておらず苦戦している様子が伺えます。

日本市場においても第6位にエバコアが位置していますね。ちなみに10位に位置するGCAも「独立系」ハウスになります。

2018年度株式資本市場(ECM)

続いて株式資本市場(Equity Capital Market、以下ECM)の2018年度のリーグテーブルです。

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グローバル規模で見ると、やはりM&Aのリーグテーブルでも上位に位置した企業が株式資本市場でも上位を占めています

一方、日本市場のリーグテーブルを見てみるとすぐわかることですが、外銀は資本市場ではどうしても日系の投資銀行には負けてしまいます。

この理由は諸説あるため、唯一絶対の理由はありませんが、例えば株式や債券は1案件当たりの手数料がM&Aと比べて低いため、わざわざ外銀が多くの人を張って日本の市場をとりに来ることは少ないといわれています。また、地方債のように長年の付き合いを大事にする発行体の場合は日系の投資銀行のほうが有利ともいわれます

また、外資系投資銀行は株式資本が相対的に弱いのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。実際はどうなのでしょうか?

ここで案件1件あたりの取扱額を比較してみましょう。外銀各社は1件あたり約1億円を扱っている一方、1位の野村證券の1件あたり取扱額は7000万円ほどである事が分かります。取扱高が高い案件においては外銀各社も一定のプレゼンスを発揮していると言えるでしょう

債券資本市場(DCM)

最後に債券資本市場(Debt Capital Market、以下DCM)についての2018年度のリーグテーブルです。

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グローバル規模のリーグテーブルにおいては、DCMの状況は、M&AとECMとやや異なることが分かります

例えば、M&AとECMで4位だったシティがランキングの1位に位置しています。このように、DCMはM&AとECMとは少し違ったハウスが強みを持っているのです。

リーグテーブルの推移

今までは単年度でのリーグテーブルの分析を行っていきました。

しかし、リーグテーブルは年ごとに変動するため、その年だけ一時的に調子がいいだけで上位に来ることもあります。そのため、どのファームが各プロダクトに本当に強いのかを知るには数年間のランキング推移を見る必要があります。

ここでは2017年度と2018年度でランキングがどのように変化したのかを掲載しておきます。

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2018年と2017年のリーグテーブルを比較すると、やはりトップティアと言われるゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、J.P.モルガンといった企業は2018年と2017年でM&Aに関しては順位を変えていません。

2017年から大きくランキングを上げたのは前述のエバコアくらいです。M&Aの取扱額は全体的に年ごとの変動が小さいようですね。

一方で、M&A以上に年ごとの変動が大きいのがECMとDCMです。

まず、ECMの傾向を見てみると、上位3社は2018年、2017年共に圧倒的な取扱額を誇っています。このことから、上位3社に関してはECMの強さが大きな特徴となるといえます。

また、2017年度は中国最大の投資銀行であるシティック証券がランクインしています。シティック証券は2015年にクレディアグリコルのアジア拠点の一部を買収するなど、急成長を続けています。欧州系や米系の投資銀行ばかりが取りざたされますが、アジアの投資銀行も決して無視できません。

最後に、DCMに関してです。DCMはM&AやECMと比べて年ごとの変化が大きくなります。例えば、2017年は6位だったバークレイズが4位に浮上しています。また、ドイチェが7位から9位に、下降するなど、変動が激しいのがDCMの特徴です。

ただ、シティ、J.P.モルガン、メリルリンチといった3社は盤石で、2017年度も2018年度も安定してトップ3を維持しています。このことから、この3社に関してはDCMが強いと言っても差し支えないでしょう。

次に、日本市場の2017年度と2018年度のランキングについて整理してみます。

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グローバル市場のリーグテーブルと比較して見るとわかることですが、国内のリーグテーブルでは特にM&AとECMの順位の変動が大きくなっています。

理由としては様々なことが考えられますが、案件数が少ないために、一案件でも大きな案件に当たればそれだけ順位も急激に変動することが考えられるのではないでしょうか。

そのため、特に日系の投資銀行で国内案件のことを語る場合には、過去のデータと照らしわせ、単年度だけ好調だったからこのプロダクトに強いと決めつけるのではなく、数年間で分析する必要があります。

ただ、順位変動が大きい中で、ECMでは野村が、DCMではみずほが連続で首位をとっています。特にみずほのDCMは他社と比べても圧倒的な案件数、取扱額を誇っていますので、国内のDCMといえばみずほといえるのではないでしょうか

2016年を閲覧することでより長期の推移を見ることができる

また、さらに長いスパンで外資系投資銀行の動向を知りたい場合は、2016年からの推移を見てみるといいと思います。ただ、特に大きな変化は2016年から2017年にかけては見れず、M&A、ECM、DCM全てで今まで紹介してこなかったような企業がランクインしたというようなことはありませんでした。

詳しく詳細をご覧になりたい方は以下のリンクからWSJの公式データを閲覧することを推奨いたします。

WSJ 投資銀行ランキング2017&18

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。