はじめに
「Up or Out」という厳しい環境で有名なコンサルティング業界。近年は各ファームが大規模化しており、「Out」という場面は目立たなくなりつつありますが、それでも昇進が難しいことに変わりはありません。
それでは、昇進(プロモーション)できる人とできない人の差は何なのか。新卒からコンサルティング業界で働き、パートナークラスにまでなったX氏に、活躍するコンサルタントの条件を伺いました。
本コラムは3作シリーズでお送りします。
ぜひご覧ください。
# 01
・プロジェクトでの立ち振る舞いから、マネージャーへの適性を判断する
・突然降ってきたマネージャー業務
・マネージャーとシニアマネージャーの違い
# 02
・シニアマネージャーへ
・昇進の決め手は、いかに会社の方向性をくみ取るか
・面白さで選んだ外資系戦略ファーム
・プロフェッショナルファームではクロスボーダー案件が増加。高まる英語の必要性
# 03
・お酒の場で転職を決断。現在はマネージングディレクターに
・コンサルタントの成功パターン
・偶発性を大事にするキャリア
プロジェクトでの立ち振る舞いから、マネージャーへの適性を判断する
―本日は宜しくお願い致します。Xさんは、新卒時に総合コンサルティングファームに入られていますね。
はい。当時は実力主義の環境で働きたいという観点から、外資系企業を中心に選考に進んでいました。コンサルティングファーム入社後は、「日本のために働きたい」という思いから公共機関向けコンサルティングに携わり、転職するまでこの領域にいました。
公共機関向けのコンサルティングは非常に特殊な領域です。公共機関は利益を求めるわけでもありませんし、職員を解雇することもありません。自分が担当した顧客は基本的に中央省庁で、IT系プロジェクトが特に多かったですね。
その領域で、私はアナリストを2年、コンサルタントを3年、マネージャーを3年、シニアマネージャーを3年勤めていました。
―入社5年目でマネージャーになるというのは、当時としては一般的だったのでしょうか。
マネージャーやシニアマネージャーに昇進することは珍しくありません。しかし、何年目で昇進できるかはその人次第である部分が大きいですね。特に、マネージャーからシニアマネージャーに昇進する際は、3年より長く要する方も多かったです。
マネージャーには、およそ半分の方は入社5年目の時期に昇進していました。アナリストは与えられたタスクを、コンサルタントはチームマネジメントを、一定の水準できちんとこなせば、順調に昇進できます。
―なるほど。マネージャーとコンサルタントでは、役回りはどう異なってくるのでしょうか。
コンサルタントは何より、与えられた業務をきちんとデリバリーする(一定以上の品質で納期を守る)ことが求められます。
マネージャーはそれに加えて、顧客の期待値を管理し、プロジェクトの採算性をとることが求められます。どう案件を作り出すのか、それをどういう内容で提案するのか、考えなくてはなりません。
―マネージャーはクライアントへの提案力が問われているという意味で、コンサルタントとは業務内容がかなり異なりますね。そうすると、コンサルタントの仕事ぶりだけを見て、マネージャーへの適性を判断するのは、難しいように思えます。
確かに、コンサルタントとしての仕事振りから判断しなければならず、マネージャーとしての素養を確認するのは、難しい面もあります。
それでも、「部下の人材育成が適切にできている」、「顧客への提案に貢献している」といった要素があれば、「マネージャーになっても活躍してくれそうだ」と評価することができます。
実際、マネージャー候補者の評価会議では、マネージャーからパートナーまで揃って1日がかりで議論していたのですが、そういった「プロジェクトでの立ち振る舞い」が引き合いに出されていました。
突然降ってきたマネージャー業務
―Xさんがコンサルタントからマネージャーに昇進された際も、プロジェクトでの立ち振る舞いが評価されていたのでしょうか。
私の場合は少し特殊で、コンサルタントの時にマネージャー業務を行う機会がありました。直属のマネージャーがどうしてもプロジェクトから離れなくてはいけない事態になり、その時にプロジェクトマネジメントを頼まれたのです。
その際の振る舞いが「マネージャーとして活躍できる」というわかりやすい指標になったのではないでしょうか。
―突然、上司の業務が降ってきたわけですね。当時はどういう心境だったのでしょうか。
チャンスだと思いましたね。
新しい成長の機会ですし、昇進も考えると絶対に経験しておくべき業務でした。もちろん、大変でしたけどね(笑)。トラブルが重なり、プロジェクトのパートナーから直々に怒られることもありました。
実は、私はマネージャーの業務内容を知らなかったわけではありません。私が所属していたコンサルティングファームでは、「自分の2つ上の職位の視点を常に意識しながら仕事をしろ」ということを常に上司から言われていました。
そのため、コンサルタント時代は、シニアマネージャーなら何をするか、どういう考え方をするか、といった点をマネージャーの業務を横で見て、常に考えながら仕事をしており、何をするべきかは知っていたつもりでした。
ただ、業務を知ってはいても、その通りに進まないのが現実です。特に痛感したのが、プロジェクトマネジメント力不足、クライアントとの交渉力不足でした。
苦労しましたが、最終的にはプロジェクトをマネージしただけではなく、更に次のプロジェクト獲得にまでつなげることができました。自分は評価会議にいなかったので断言はできませんが、このエピソードが評価されたのではないか、と感じています。
―「次のプロジェクトの獲得」ですか。
元々は、初期的な調査を行うプロジェクトだったのですが、調査を進めていくと必然的に「この調査結果からすると、次は~をする必要があります」と次のアクションを起こしていくことになります。
こうして、「次のアクションの青写真を設計するプロジェクト」、「その青写真を実現するためのプロジェクト」と、プロジェクトの結果に基づいて、次のプロジェクトを提案することができます。そして実行までうまくいけば、更に「他の省庁でも実行しないと」「地方自治体でも実行しないと」と他の場所への横展開が可能になります。
このアクションを繰り返していくことによって、プロジェクトをつなげていくことができたのだと思います。
特に「次のプロジェクトへつなげる」考え方は、公共機関のみでなく、民間企業相手のコンサルティングでも同様です。
単発でプロジェクトを終えてしまうと、その案件のフィーしかファームの利益になりません。なるべくプロジェクト内で次の課題、次のアクションプランを示して、新しいプロジェクトの発注につなげることがとても重要なのです。
この考えを持っていたおかげで、コンサルタント時代にマネジメントした数百万円規模の案件も、転職するまでの7年間、展開し続けることができ、最終的には億単位のプロジェクトまでに拡大することができました。
マネージャーとシニアマネージャーの違い
―次に、シニアマネージャーに昇進された経緯を伺いたいと思います。まず、マネージャーとシニアマネージャーの役割はどう異なるのでしょうか。
両者とも、顧客へのプロジェクトの提案、プロジェクトマネジメントという業務内容は共通しています。しかし、シニアマネージャーは複数のプロジェクト、難易度が高いプロジェクトを管理するので、より高度なマネジメントが求められます。
―担当するプロジェクトの数や難易度で役割が変わる、と。
変わると思いますね。私がシニアマネージャーの時、下にマネージャーが4人いたのですが、マネージャーがカバーする範囲とシニアマネージャーがカバーする範囲は自ずと異なっていました。
―複数の案件をマネジメントすると、やはり難易度が上がるということですね。
そうなります。やはり、複数のプロジェクトを見るのは大変で、同時多発的に各所で問題が発生します。それをどのような優先順位で、どう顧客と調整するのか考えなくてはならないため、考えるべき要素が、マネージャーに比べて格段に増えるのです。
一方、マネージャーの仕事はシンプルです。1、2件のプロジェクトについて、クオリティ(品質)、コスト(費用)、デリバリー(納期)を満たせば合格です。
―同一のプロジェクトについて、マネージャーとシニアマネージャーのプロジェクトの関わり方はどう異なってくるのでしょうか。
管理する組織の大きさが違うのが、マネージャーとシニアマネージャーの仕事内容の大きな違いだと思います。
そこまで大きくない規模プロジェクトの場合、シニアマネージャーは入らず、マネージャーのみで案件を管理します。
しかし、プロジェクトが大きくなって、プロジェクトに携わる人が増え、チームが複数必要になってくると、複数のマネージャーを置いてその上にシニアマネージャーを置くことになります。
―組織の大小で、シニアマネージャーの出番があったり、なかったりするということですね。
はい。しかし、プロジェクトが小さくても、難易度が高いものであれば、マネージャーではなく、経験のあるシニアマネージャーを置くこともあります。
どの場面においてもマネジメントの難易度が異なるのが、マネージャーとシニアマネージャーの大きな違いだと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
本作では、X氏がコンサルタントからマネージャーへ昇進されるまでの経緯や、その際に評価されたであろうポイントを中心にX氏のキャリアを語っていただきました。
続編は下記の構成になっております。是非ご覧ください。