投資することよりも事業を創造すること。Venture Capital が語る、スタートアップの選び方 #02
2019/06/27
#ファンドとは何か
#投資ファンド業界事情

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はじめに

先日、リクルートキャリア主催で、ジャフコ、Recruit Strategic Partnersの両社による「VCが語るスタートアップの選び方」セミナーを開催いただきました。

セミナーでは、スタートアップの選び方についてのパネルディスカッションに加えて、ベンチャーキャピタル(以下VC)としての両社の特徴と実際の投資事例についてお話しいただきました。

第2回となる本コラムでは、ジャフコ西中氏、Recruit Strategic Partners松田氏にお話しいただいた両社の特徴、VCの実態や投資事例についてお伝えします。

「新事業の創造にコミットし共に未来を切り開く」ための投資

西中:さっそくですが、皆さんはジャフコがどれくらい前に設立された会社か、ご存知でしょうか。

ジャフコは1973年に設立された、国内で現存する民間最古のVCです。日本で一番古いということもあり、古くて堅苦しい、といったイメージをお持ちの方も多いとは思いますが、実際のジャフコの社風は古さや堅苦しさとはかけ離れています。

ジャフコは元々、日本生命、野村證券、三和銀行の三社の合弁で設立したVCでした。現在は独立系のVCとして日本、アメリカ、アジアを3拠点にベンチャー企業への投資を行っています。

ジャフコが2017年から新たに掲げたミッションは「新事業の創造にコミットし、共に未来を切り開く」です。このミッションの驚くべき特徴は、ジャフコは投資会社であるにも関わらず、「投資」という言葉がミッションに一切入っていないことです。

このミッションには、「投資をすること」よりも「起業家と目線をそろえて事業を創造していくこと」に重きを置くジャフコの姿勢が示されています。

それでは、実際にジャフコがどのような投資をしているのか、を紹介することで、ジャフコのミッションが具体的にはどのように達成されているのか、をご説明します。

VCの投資はスタートアップを対象としますが、一概にスタートアップへの投資と言っても、シードステージ*1への投資とミドルステージやレイターステージへの投資には違いがあるのです。

ミドルステージやレイターステージは事業がある程度軌道に乗り、キャッシュフローが安定しているため、比較的安定したリターンを前提に投資を行うことができます。

一方で、シードステージのスタートアップに対する投資というのは、経営者や起業家が構想・提示した事業計画に対して、その事業が上手くいくか判断しがたい段階で投資するか否かを決定します。このため、シードステージへの投資はリスクのある投資とも言えるのです。

では皆さんは、ジャフコの投資全体の中でシードステージのスタートアップを対象に行っている投資の割合がどのくらいだとお考えでしょうか。

現在のジャフコの投資は、シードステージのスタートアップへの投資が全体の8割から9割を占めています。シードステージのスタートアップに対する投資が5割程度、残りの5割をミドルステージやレイターステージに投資していた10年前と比較すると、シードステージへの投資が大幅に増えたことが分かります。

このようにリスクを負いながらもシードステージのスタートアップに主眼を置くジャフコの投資は、ジャフコのミッションである「新事業の創造にコミットし、共に未来を切り開く」という姿勢を示しているのです。

*1 シードステージ...起業の準備段階。ビジネスで扱う商品の検討、市場の需要測定等を行う時期。関連して、立ち上げた事業が軌道に乗るまでの発展・成長途上の段階をアーリーステージ、事業が軌道に乗った段階をミドルステージ、株式上場を検討する段階をレイターステージと呼ぶ。

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スタートアップへの投資が新たなマーケットを創り出す

西中:次に実際の投資事例についてお話しします。

はじめに、UUUMへの投資について紹介します。UUUMとは、ジャフコが2014年の4月に投資を行ったYouTuberのプロダクション会社です。

ただ、UUUMに投資するという話を聞いた当初の私は正直事業として成立するのかと思っていました。当時はまだYouTuber自体の知名度が低かったし、私自身がYouTubeを空き時間に見ることも少なく、「YouTuberのプロダクションがビジネスになるのだろうか」と思っていました。

実際、UUUMへの投資後、営業支援のため、ナショナルクライアント*2に対してプロモーションの手段としてYouTuberを売り出すために、アポの取次ぎをしたり、一緒に提案に行ったりしましたが、当初の半年程度はYouTuberの知名度や信用力の低さ故に、一向に成果は得られませんでした。一方で、ナショナルクライアントのマーケティング担当者の方は、世間のテレビ離れの風潮から、広告のターゲットにリーチする施策がないとほぼ皆さん同じような課題を抱えていました。

投資から一年経過した頃から、漫才師のネタにYouTuberが使われたり、交通広告にYouTuberが活用されたりするなど、世間のYouTuberに対する注目度が高まり始めました。すると、この時代の流れに乗じて、YouTuberをプロモーション施策として活用する企業が増え始めたのです。

こうしてYouTuberビジネスが軌道に乗ると、初年度には2億円にも満たなかったUUUMの売上は、2年目には13億円にもなりました。結果として、プロモーションの手段としてのYouTuberビジネスは成功を収めたのです。

このUUUMへの投資事例は、当初否定的な反応を示したとしても、世の中の空気が変わると相手の反応も変わっていく、ということを実感できた事例でもありました。このように、スタートアップへの投資は新たなマーケットを創り出す可能性を秘めているのです。

*2 ナショナルクライアント...全国で自社ブランドの製品を販売する広告主。

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R&D事業の一環としてのVC

松田:それではRecruit Strategic Partners(以下RSP)についてお話しします。

まず、RSPがリクルートのコーポレートベンチャーキャピタル*3(以下CVC)であることはご存知でしょうか。CVCとして、RSPはリクルートの研究機関の1つという位置づけになっています。

研究機関と言っても様々ですが、その内のR&D(研究開発)事業の一環としてRSPは活動しているのです。具体的な業務としては、リクルートにとって新たなビジネス領域になりうる会社へ投資をしています。

RSPとしての活動は2006年に始まりました。アメリカのシリコンバレーやイスラエル、インド、日本、ヨーロッパ等を中心に、約150社(2018年11月現在)の投資を行ってきました。

日本企業の主な投資先は、Sansanやfreeeなどが挙げられます。

それから投資先の領域は、「Automated Actions(テクノロジー×データによって自律的・自動的に遂行されるプロセス及び業務)」と関連の深い3つの領域「業務支援AI」「Robotics/IoT」「Blockchain/Smart contract」を重点テーマに投資活動を行っています。

*3 コーポレートベンチャーキャピタル...事業会社が、社外のベンチャー企業に投資するために設ける組織。本業と関連性のある企業に投資して、本業との相乗効果を得ることを目的に運営される。

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投資後にも手厚い支援を

松田:次にRSPの投資についてお話しします。

"RSPでは、今後より多くのプロダクトにAIが導入され業務プロセスの高度化・自動化が進むと考えております。その基本構造として、データ収集、準備、モデル化、分析改善のプロセスがデータを中心にして繰り返されると言うフレームワークを作り、該当投資案件をこのフレームワークに当てはめながら、優位性判断のうえ投資実行をしています。

それから、RSPの特徴は投資後の支援にあります。

RSPの投資後の支援は、大きく2つに分けられます。まず1つは、海外投資先の日本進出の支援です。RSPは海外企業への投資を数多く手掛けてきました。それらの企業のプロダクトを日本で売って行くための戦略立案やオペレーション方法を開発するため、社内の各事業との協業に伴走したり、イベントへ招聘やメディアインタビューのアレンジをしたりしながら、日本進出の支援を行ってまいりました。

2つ目は、KPIマネジメントです。KPIマネジメントは特にアーリーステージの会社に対して行っています。アーリーステージのスタートアップだと、「いつまでに何をする必要があるのか」は当然のこと、「その事業の成功のキーファクターは何なのか」といったところを見極める必要があります。見極めたことを基盤に、CEOと協力して私たちがKPIの指標を設定することもあります。また、他にも社内の課題特定やオペレーション改善なども実施した事例があります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

今回は、VCのあり方や投資事例を、ジャフコ、Recruit Strategic Partnersの2社を例としてご紹介しました。数多くのスタートアップへの投資を手掛けているVCの実態を垣間見ることができたのではないでしょうか。

本コラムが皆様のキャリアを考える上で参考になれば幸いです。

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。