「有事の感覚」は生きたが、「ファイナンススキル」に不足アリ?  - 戦略コンサル⇒経営企画の転職実態に迫る
2019/08/16
#ポスト戦略コンサルの研究
#経営企画は何をするのか

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はじめに

コンサルタントを数年勤めた後に、ポストコンサルのキャリアとして、「事業会社の経営企画」のポジションを検討している方は多いと思います。

しかし、事業会社に実際に転職して入社してみても、期待していた業務と違うと感じられた方も少なくありません。

そこで、今回は戦略コンサルタントから小売業の事業会社の経営企画ポジションに転職して活躍されているBさんに、「コンサルタントと経営企画の違い」「事業会社の経営企画ポジションに転職する上で必要な選択基準」について語っていただきました。 ぜひ、ご覧下さい。

M&Aでは「法務・税務」が重要! 事業DDでは決して見えなかった世界

ーー本日は宜しくお願いします。現在Bさんは事業会社でご活躍されているとのことですが、新卒(前職)はどちらの業界に入られたのでしょうか。

新卒では外資系のブティック系の戦略ファームに入社しました。

新卒当時からグローバルで働きたいという思いが強かったのですが、当時は海外の現地で働くより、ビザの問題と自分の言語力を考慮すると、現状では日本で働くほうが相対的に面白い仕事ができると判断しました。

前職を選んだ理由は、外国人がほとんどで英語をビジネスで常に使う環境があり、加えて、クロスボーダー案件が多く、日本にいながらグローバルに通ずる仕事に携われると思ったからです。

入社後は、アサインされたプロジェクトの属性柄、欧州や北米の本社に駐在をする機会等もあり、英語力やコンサルスキルが徹底的に磨かれました。

ーーその後、現在の小売業の事業会社に移られたとのことですが、いつ頃から転職を意識し始めましたか。

入社して3年ほどが経った頃に、「やりたいことはほとんどやらせて頂いたな」、と思い転職しようと決意しました。

新卒時点でいつかは事業会社に行こうと考えていました。

元々コンサルタントという仕事はアドバイザーという立場という事を理解していましたし、ぼんやりとはしていましたが自分は事業を手を動かして働く側の方が向いていると思っていました。

そこで、コンサルを選んだのは、ビジネスについて勉強をしたいという思いと、海外で通用する働き方を身に付けたいという思いが強かったんです。そこで、まずはファーストキャリアをコンサルファームにと考えました。

ぼんやりとですが、「働き始めてから3~5年を目処に事業会社に移るかもな」と考えていましたね。

ーー現職での仕事内容を教えていただけますか。

現在は海外の企業の事業投資およびPMIですね。

事業投資に関してはもともと戦略コンサル時代にデューデリジェンスを経験したことがあったので、ある程度M&Aについてはわかると思っていたのですが、実際にエグゼキュートしようと思ったらデューデリジェンスは本当にディールの中の一部でしかないことを突きつけられて最初はかなりしんどかったです。

実際、M&Aを行う際に法務や税務の論点がこんなにも占めるとは知りませんでした。クロスボーダー案件ですと海外と日本のTAXのルールも踏まえなくてはいけずタックスヘイブンが関わってきたりと、色々なところに気を張らなければいけないことを知りました。

PMIの業務内容をもう少し詳細に説明すると、買収したものをいかに伸ばしていくかを考える、経営体制強化も含めた戦略部分を、現地の経営陣と議論を重ねながら、ときには必要機能の人員を送って現地の店舗を改善することも含め、様々な仕事をしていますね。

事業会社で大きく生きた、仕事を進める上での「有事感」。コンサルがそれを持ててる所以とは

ーー戦略コンサルから経営企画として採用されましたが、会社はBさんに何を期待していたと思いますか。

「大小さまざまな論点を扱ってそれを整理し、実際の行動まで移していける」ことですかね。

コンサルタントは、「そもそもその店舗が存続する価値はあるのか」、「そもそも事業自体GOすべきなのか」とか経営全体を見渡した高い視点を持つことが多いです。コンサル出身という点で実際にそういった視点は求められています。

ただ、現場からの視点ももちろん大切なんです。例えば雑貨屋なら、店内の雑貨の配置や動線はどうすべきなのか、ポップはどういった場所に配置した方が効果がありそうなのか、とか。提案だけならコンサルでよいのです。経営視点で考えたことも、スピーディに実行に移し検証することも求められます。

ーーコンサルタントからの転職者は、高い視点で考える思考力に加え、実行までできそうなパーソナリティが求められているのですね。

そうだと思いますね。小売業というものは、視点を変えるだけで立場も意見も変わりますし、景気や天気等外的な要因にも大きく左右されます。だからこそ経営と現場の両方の視点を持って事業に取り組むことができることを期待されて採用されたのだと思っています。

ーー戦略コンサルの経験で活きたスキルはありますか?

そもそもコンサルタントの「手助けをする」という仕事は、「情報を整理して伝える」という方法なので、その部分では強みを発揮できたと思います。

また、過去の経験から活きた能力としてはテクニカルスキルは大きいとは思いますね。

コンサル時代に学んだスライドの作成能力、フォーマットを揃えるといったものやエクセルでの一歩踏み込んだ分析力は歓迎されました。エクセルなんかはあまりルールがなくぐちゃぐちゃなことが多いので、わりと分かりやすい形でバリューが出ます。

あとは、コンサルタントって今日これをやらないと死んでしまう、仕事が爆発してしまう、という日々の連続なんですよ。そこで育まれた「危機感」や「思考法」は活きたと思います。

ーーなるほど。詳しく教えていただけますでしょうか。

私の会社は「非連続な成長」を描こうとしています。そういう局面では有事対応できる人の方がフィットするのです。

小売業だと、現業の方はもちろん接客とか品出しとかをやらないといけないのは当然なんですけど、本社にいると、今その戦略に取り組まなくても足元では何も起こらないんですよ。響くのは1年後や3年後なので、そんなに緊迫感が出なかったりするんです。

一方で、コンサルティングファームの仕事は4~6週間で終わらせないといけないのです。終わるか終わらないかという問いはなく、「どう終わらせるか」しかない。そういった有事の仕事にずっと取り組んでいたので、緊迫感が違います。そういった有事の感覚を持っている人は意外と少なかったりするなと感じます。

不足感! 財務3表を深く読み解くファイナンススキル

ーー逆に入社してからキャッチアップしなければならなかった能力はどのようなものがありますか?

まずはファイナンスのスキルに尽きると思います。

先ほどもお話したのですが、M&Aの業務はデューデリジェンスしか経験していなくて、実際に実行するときに知識の壁とぶつかりました。ベースの知識はあったのですが、一から勉強しなおしました。

キャッチアップ方法は、外部のFAと協働しつつ彼らから知識をキャッチアップしたり、社内でファイナンスに強い人間から聞いたりして行いましたね。上司はPEファンド出身でファイナンスの権化のような方でしたので、わからない部分があったらその場その場で彼からキャッチアップをして、足りない部分を徹底的に補いました。まだまだたくさん学ばないといけないことはあるのですが、おかげで1年でその上司からPEファンド行けるよと言っていただけるレベルまで高めることができたように思います。

他の学びとしては、コンサルタントの立場だとPLや財務三表に目を通したことはあっても、実感を持って理解する機会は少なかったのだなと感じさせられました。

ーーPLや財務三表の詳細な理解が不足していた、という意味でしょうか。

はい。というのも、コンサルティングファームの立場ですとどの事業がこの数字に影響しているのかを実感することはあまりないのです。例えば、この売上数字によるキャッシュがあるからこの請求書を払うことが可能になる、というようなキャッシュフローのリアリティですね。

PLだけを見てもリアリティがないのです。ましてやコンサルはBSには全くタッチしていません。財務三表のどこが実質的なビジネスのどこに密接に紐づいているのか、これは事業会社だからこそ初めて見えてきました。

事業に寄り添える人でないと、いくら行動してもうまくいかない

ーー経営企画に向く人、向かない人はどういう人だと思いますか?

これは先に述べた有事という話に関連するのですが、経営企画に向く人は「非連続な成長を描いて形にできる人」ですかね。

経営企画という役職は先ほども話した通りインハウスのコンサルの色があります。だからこそ、企業を変えるという思いは「目標に向けての時間軸を整理して、ときには有事も想定しながら物事を動かしていくという気概」がないと実現できないんです。

企業のビジョンに何かしら共感した上で、そういった意志の強さがある人が向いていると思いますね。

あと、戦略コンサルタント出身者でも向いている・向いていない人もいると思っています。向いている人は「いい人」ですね。

ーー「いい人」、ですか。

そうです。これは先ほど話した「大小さまざまな論点を扱ってそれを整理し、実際行動まで移していける」という部分に近いものがありますね。

コンサルタントのキャリアパスは、ポストコンサルみたいな形で上がっていく所謂「賢い仕事」をしていく人と、コンサル的立場の賢さとは別に人間としての幅があり「事業を回す人」の2種類があると思っています。それぞれ必要な能力や志向性が違うんです。

前者の人間は事業会社には向きません。なぜなら、事業会社は全社員のIQの平均値をとったらファームの人間よりも低いでしょう。それに対し「足手まといだ」「だから自分がやってあげなきゃ」というスタンスや思いだと、絵は描けても実行することはできません。

むしろ事業会社に向いているのは、後者のような「事業に寄り添える人」です。

コンサルやファンドの人間は合理性を求めがちだったり、自分がやったほうが効率的という考えを持って取り組む方が多いと思います。しかし、そういった数人のプロフェッショナルで仕事をする環境が好きな方は、絵は描けても行動するときにどうしてもうまくいかなくなるんですよね。

だから、大人数をまとめるマネジメント能力であったり、人を信頼し任せることが出来る人であることが必要だと思っています。

前述の2種類というのは、どちらが良い悪いということはなく、適性と、もっと言うと好みだと思います。

選社基準を明確化し、エージェントを複数から厳選

ーーここからは転職する上で「どの事業会社の経営企画」を選ぶべきかについてご意見をお聞きさせてください。事業会社といっても千差万別あるかと思います。どのように受ける企業を決めたのでしょうか。

転職市場という情報の海に入る上で「選社基準」をまず決めることを大切にしていましたね。

私の場合に限ったことですが、はじめに行なったこととしてはひたすら案件を見て絞ることです。具体的に言うと、求人内容を100件ほど見て、企業が取り組んでいる内容で直感的に「興味があるもの」と「興味がないもの」を分けてみました。 そして、興味があるものの中から共通項を見つけ出す。これを基に「選社基準」を作ります。

これをすると、圧倒的に時間の効率が違います。

私の場合は「クロスボーダー」というキーワードは決まっていたので、これに加えて別の「選社基準」を明確にすることを目的としていました。

実際のところ、私が全ての転職先をMECEに見ることができているかと言われたら”No”ですが、今の労働環境に満足しているので、時間がない中ではこの戦い方は1つの戦略としてお勧めします。

ーー「選社基準」を絞った後はどうされましたか。

エージェント選定に入りました。

私は転職では主にエージェントを用いました。ベンチャー企業の求人サイトにざっと目を通すこともしましたが、自分の「選社基準」とマッチするような取り組みをしているベンチャーは見つからないと悟りました。そこで、一番自分が伝えたい内容を理解してくれるエージェントを探すことに専念しました。

エージェント複数人と連絡を取り、先ほどの取り組みで理解した「選社基準」を伝えてみることで、どの程度自分の希望条件を理解してくれるかを回答から探りました。最終的には、信頼できる1人のエージェントのみに絞りました。

ーー内定はどのような企業から得ましたか?

今の会社に加え、旬のロボティクス系の企業などからもオファーをいただきました。

創業社長の会社がおすすめ?!「意思決定できる裁量」の多寡をどう見抜いてきたか

ーー経営企画で入社しても期待と違うリスクもあると思います。経営企画職で選考を受ける方は、入社後のギャップをなくすために選考を受けている企業のどんな所を確認すると良いと思いますか?

自分で「意思決定」ができる裁量が期待通りかを確認することが重要だと思います。

経営企画という特徴柄、企業や規模感によってはインハウス向けのコンサルを任せるといった役割を期待されることも多いと思います。例えば大企業ですと、経営企画はあくまでも「意思決定の提案者」という立場の要素が強いと思っています。意思決定者は自分ではないということです。

もちろん、これはガバナンスとしてはあるべき姿だと思っているので、一概に否定するべきことではないことも承知しています。

ただ、提案までですと結局やっていることは前職と変わらなくなってしまいます。私がやりたいのは実行までの意思決定でした。だからこそ、企業の規模感は特に意識しましたね。

もちろん、インハウスのコンサルになることで就業時間が減ることがメリットになりますし、それを希望する方もいるでしょうから、大企業の経営企画がベストの選択である方もいると思います。ここはいわば価値観の違いになるのかな、と思いますね。

ーー選考段階で、本当に裁量権が持てるか、本当に意思決定ができるか分かりきることは限界があるのではないでしょうか。

最終的には6割くらい入ってみないとわからないのが現実だと思いますが、条件を明らかに満たさない会社は面接の質問で明確にスクリーニングすることが可能です。面接官の方や実際に働かれている方に「どういったロールをしているか?」「意思決定ができているか?」を質問することで、判別することができます。

具体的な質問例を挙げると、「懸案事項が出てきたときには、どういったプロセスを踏めば意思決定ができますか?」、「XX様(面接官)はどういった立場の方で、普段XXという意思決定はどこの部署を介してそれが承認されますか?」のような質問です。これを聞いた時の反応を見るだけで、その会社の経営企画の裁量の大きさが見えたりしますよね。

あとは、これは入ってから思ったことなのですが、創業社長と雇われ社長によっても自分の裁量権が大きく違うな、と思いました。今の会社も創業社長の会社なのですが、創業社長の方が個人的には良いと思います。

ーーなるほど。創業社長の方がワンマンなイメージがありますが?

なぜかというと、プロセスはもちろんあれど、創業社長の場合は社長がOKなら実行に移すことができるのです。だから物事の進みが早いと思います。一方で雇われ社長の場合、合議で進んでいくため、中々提案を実行に移すことができません。特にM&Aの場合だと色々な部署が関わってくるのでなおさらです。

経営陣の意思決定が速いと、ひいては自分が意思決定できる範囲やそれを行動に繋げられる場合も多くなると感じています。

余談ですが、トップダウンの良さは、コンサル時代にアメリカの企業を担当した時に実感していました。アメリカの会社は基本トップダウンです。レポートラインでの指示系統はアメリカ人は守るんですよね。アメリカ人は陰で色々文句を言っていても、本人の目の前では必ず守るんです。だから、アメリカの方が戦略実行も早いんです。だから創業社長に違和感が無いのかもしれません。

ーーそういう理由があるのですね。ちなみに、他にも裁量を獲得する良い手段はないでしょうか?

質問する以外にも裁量権を勝ち取れる戦略があります。それは、自分の経験を相手に見せることで、自分が入社したときに自分が裁量を持って活躍できる「ホワイトスペース」があるかどうかを計るという戦略ですね。

自分の例で話しますと、通常、事業会社のプロパーで英語を武器に戦ってきて、かつBizDevができる人はレベルが高いと目されますし、そういう人は少ないですよね。

一方で、コンサルタントという職業は、毎回新しい業界に対し、特有の知識をキャッチアップしてBizDevしなければなりません。加えて、自分の場合は仕事上で海外での経験がありました。

以上のことからまさに弊社にはそういった人が少ないことは自明に感じたので、これはチャンスが回ってくるな、と(笑)

コラム作成者
Liiga編集部
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