「桁外れに優秀な人しかいなかった」アドバンテッジパートナーズOGが語る挫折と成長
2020/03/18
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日本のプライベート・エクイティ(PE)投資の黎明期から市場を創出してきたアドバンテッジパートナーズ。本コラムでは、同社のOB・OGの方にインタビューを実施して、アドバンテッジパートナーズで得られた知見や、それが現在の仕事にどう生かされているのかを掘り下げていく。公認会計士、MBAを取得した後にアドバンテッジパートナーズに入社し、その後は大学研究者・上場企業の社外取締役・M&A第三者委員などを歴任する芦澤美智子氏に話を聞いた。

〈Profile〉
芦澤 美智子(あしざわ・みちこ)横浜市立大学国際商学部准教授
慶應義塾大学卒業(経済学学士、経営学修士、経営学博士)。1996年よりKPMGグループで公認会計士として会計監査、M&A財務監査等に従事。その後2001年に慶應ビジネススクールに入学。2003年にMBA取得後、産業再生機構とアドバンテッジパートナーズで企業再生に携わる。
2013年横浜市立大学に着任、現在に至る。前職までの経験を生かし、戦略論をベースとした企業再生、企業変革の研究を進めている。さらに2018年からはスタートアップ・エコシステム研究に力を注ぎ、研究成果を生かして、起業家教育やスタートアップ拠点形成の政策提案に力を注いでいる。
2014年M&Aフォーラム賞受賞。ネットイヤーグループ、NECネッツエスアイの社外取締役やM&A第三者委員、横浜市の各種委員等も務めている。また、2020年6月25日より日本発条株式会社社外監査役就任予定。

公認会計士の知識だけでは、経営を理解することはできない

――非常に特殊なご経歴だと思うのですが、芦澤さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか。

芦澤:実を言うと、将来を見据えてしっかりとキャリアを考えてきたわけではありません。その時々のご縁や、様々な状況の中で進路を決めてきています。アドバンテッジパートナーズに入社したことも、今アカデミアの世界にいることも、学生時代にはまったく想像していませんでした。ただ不思議なことに、振り返ってみるとすべて繋がっているんです。まさにスティーブ・ジョブズの言うConnecting The Dotsですね。

1995年に大学を卒業しているのですが、女性活躍が今ほど進んでいない上に就職氷河期でしたから、就職の門は狭い時代でした。さらに、たとえ素晴らしい企業に入社できたとしても、女性が生涯働き続けるのは現実的ではないと誰もがおっしゃるわけです。私のキャリアはいったいどうなるのかと悩んでいるときに、資格を取るのがいいだろうとアドバイスをくださった方がいて。なるほどそれなら結婚・出産した後も求められる場所があるかもしれない。そう考えて、公認会計士の資格取得を志しました。

2年かけて資格を取得した後、KPMGの監査法人に就職。やはりプロフェッショナルの世界に身を置けたことは良かったですね。日本と海外の会計基準がまだかなり異なっていた時期でもあり、外資系のKPMGで最先端の海外基準を学べたことも幸運でした。

――ようやく見つけた会計士という道を、離れることにしたのはなぜだったのですか?

芦澤:何年か実務に携わっているうちに、会計の数字をちゃんと分析するには経営のことを理解できていなければ無理だと気づきました。優秀な先輩会計士は、財務諸表を見た瞬間に「これはおかしい」と指摘できる。つまり、頭の中にビジネスの流れやその結果としての数字の仮説が積みあがっているわけです。この業界はこういう状況でこの会社はこうなっているから、売り上げや在庫はこれぐらいだろうとか、資本と負債のバランスまで、高精度の仮説ができあがっているんですね。

私も会計士としての知識は頑張って勉強していましたが、経営全般のことや業界特有の動向などについては知見がないので、ビジネスの会話が成立しない。もどかしさを感じるとともに、この奥深い「経営」というものを理解できればきっとさらに面白くなるだろうと、胸が高鳴ったことも覚えています。会計士の技法と合わせて経営のことを深く学びたいと思い、MBAを取得するために慶應義塾大学のビジネススクールに行くことを決めました。28歳の時のことです。

――ビジネススクールでは思い描いていた学びを得ることはできましたか?

芦澤:会計という専門分野にとどまらず経営を幅広く見られるようになったのは期待通りです。そして想像以上に良かったのが、多くの人との貴重な出会いですね。あらゆる職業のクラスメイトがいますし、半年ほどロンドンに留学していた時期には世界中の人との出会いもあり、ゲスト講師陣の話も非常に興味深い。自分の中の世界が一気に広がりました。

実はその出会いの1人が、アドバンテッジパートナーズの笹沼代表です。激務の中、非常勤講師をされていて、幅広い生きた知識をエネルギッシュに伝授する授業は大人気でした。この人は本当に特別だと憧れていました。

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「経営とは何か」。人生をかけて捉えるテーマに出会う

――ビジネススクール卒業後にそのままアドバンテッジパートナーズに入社されたわけではないのでしょうか?

芦澤:そうなんです。当時から笹沼さんへの憧れもあり、プライベート・エクイティという仕事のダイナミックさにもすごく惹かれてはいたのですが、正直に言うと自信がありませんでした。笹沼さんからも、武器が会計だけでは難しいよと言われていて。会計士はコスト周りには強いのですが売り上げや組織、人をどう動かすかといった領域は弱いんですね。そういった課題に取り組んで、いつか興味があったら来てみなさいと言っていただけたので、さらに自分を成長させられる環境に身を置こうと考えました。

そこで選んだのが、当時の日本で最大の問題だった不良債権の処理と大型企業の再生をミッションとして誕生した、産業再生機構。2003年の4月から4年間限定で存在していた会社です。誰もが知るような大手企業の再生に携わらせてもらったのですが、この仕事はとにかく強烈でした。当時のCOOに言わせると、企業再生の仕事は経営の総合格闘技だと。KPMG時代の知識、ビジネススクールで身につけた知識を総動員するのですが、それだけではまったく足りません。経営って何なのかと考え続ける日々でした。

――経営とは何か、非常に大きな問いですね。

芦澤:たとえば私が外部から入ってきて、教科書通りに数字を分析すると、このままでは中国企業に勝てないという結論になったとします。その結論をロジックで理解してもらえたとしても、それでも変われないのが人であり、組織なのだと気づかされました。当時は私も若かったので、なんで変えられないのですかと真正面から言うのですが、正論だけでは組織は動きません。

皆さんすごく優秀だし一生懸命で、誰一人として不真面目な人はいない。それでも環境変化に適応できずに企業が経営不振に陥ると、とてもつらい目にあっておられて。なぜなのか、どうすればよいのかと強く感じました。これは私にとって、人生をかけて捉えるべきテーマになっています。

――財務や会計の専門知識に加えて、人を動かす経験をなさったわけですね。

芦澤:ええ、そこで一定の自信と手ごたえを感じられたので、改めてアドバンテッジパートナーズの門をたたきました。ただこれはようやく笑って話せるようになったのですが、入社したもののまったく歯が立ちませんでした。

現在のアドバンテッジパートナーズは20代の方もいらっしゃって、キャリアや育成の道筋も、以前よりできていると聞いていますが、当時はまだ20名ぐらいの組織で、私も入社してすぐ即戦力として現場に出ました。チームを組む仲間は桁外れに優秀な人たちで真剣勝負で大きな案件に取り組んでいる。知力、体力、精神力、どれをとっても歯が立ちませんでした。ある程度自信を持って、いけるのではと思い入社したのですが、長くは続きませんでした。ただ入社したことを後悔したことはありません。あらゆる意味で、いて良かったなと思っています。

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究極の課題解決力が鍛えられるプロジェクトと、性善説の組織運営

――アドバンテッジパートナーズにいて良かったと感じるのはどのようなところですか?

芦澤:まずは純粋に課題解決力が鍛えられたこと。この仕事は、意思決定を先延ばしにすると大きな損失につながったり、投資先の皆さんの人生に影響を与えたりしてしまうこともあります。一つ一つの意思決定が真剣勝負であり、絶対に先延ばしはできない。その緊張感の中で本当に優秀な人たちとディスカッションした日々は、何物にも代えがたい経験だったと思います。

それと仕事の性質上、会社全体を見なければならず視座が高くなります。またプロジェクトが大きければ大きいほど日々触れる情報や知識の質量が圧倒的です。さらには多くのステークホルダーと対峙するので、様々な視点から物事を見ることができるようになります。立場が違えば物の見え方が違う、利益が違う、コンフリクトが色々な難しさを生むわけですが、それをどうやって整理して合意形成まで導くかを考えて先延ばしせずに実行に移す。これはものすごく力がつきますよね。

――1年という期間の中でも、多くのことを学べる環境なのですね。

芦澤:アドバンテッジパートナーズという組織の社風も大きいと思います。新人であっても、シニアメンバーとも忌憚なく徹底して議論できる環境です。そのベースには、一人ひとりに対するリスペクトと信頼があると感じますね。他のファームと比べても極めて強い文化だと思いますが、この会社は性善説なのです。

高い能力を持った人たちが真剣にやっているのだから当然いい仕事ができるという性善説がベースにあるので、変な管理もないし窮屈さを感じることもない。できて当たり前だし、できないところはみんなで知恵を持ち寄ればなんとかなるだろうと誰もが信じています。

だからこそ立場を超えて率直に意見を言い合えるし、できていないことに対してはストレートに指摘してもらえる。言っても無駄だと思っていたら言わないですよね。相手の能力を信じて、この人なら改善できると思っているからこそ言ってくれるのだと、率直な意見は言われている立場としても伝わってくるんです。いろんな組織を経験しましたが、ここまで強烈なプロフェッショナリズムのある風土はアドバンテッジパートナーズだけでした。

単なる評論家には戻れない。身につけたスキルの掛け算で、経営を立体的に捉えていく

――現在はアカデミアの世界に身を置いておられるわけですが、なぜこの道を選択されたのですか?

芦澤:これも学んだことの一つですが、自分自身の限界に気づかされたことによって、これからの生き方を真剣に考え直しました。自分は万能ではないし、世の中には桁外れに優秀で真剣にやっている人がたくさんいる。だとすれば、差別化できる自分の武器は何だろう、どこに人生をかけて取り組んでいくべきだろうと考えて、たどり着いたのが今の仕事です。

企業再生や企業変革が研究のメインテーマですが、これは産業再生機構やアドバンテッジパートナーズでの仕事を通して見つけたテーマです。さらに言うなら、当時の経験があるからこそ、単なる評論家にはもう戻れない。20代の私だったら、「数字的に見るとこうだからこの事業は撤退ですね」というような一言で終わっていたと思います。でも、撤退の難しさも新規事業を起こす時の壁も身を持って実感しているので、人や組織に寄り添った形で次の一手を予測できる。会社や経営というものを立体的に捉えられていると感じますね。

現在は上場企業の社外取締役や、自治体の委員なども務めているのですが、研究者としての知見に加えてアドバンテッジパートナーズで学んだことが大いに生きている。労働市場における価値という話にも近いと思いますが、優秀な人との真剣勝負で身につけてきたスキルを土台として、さらに新しい経験や知識を掛け算することで、自分自身の希少性が高まっていると実感しています。一つ一つの出会いの積み重ねと言ってもいいかもしれません。ここ数年特に、「自分の人生を自分の足で歩んでいる」という感覚が強くなってきています。

――ご自身の経験を踏まえて、PE業界の展望をお聞かせください。

芦澤:結論から言うと、この業界はまだまだ伸びていきますから、ここから先は非常に面白いですよ。PE業界は今まで以上に組織再編や産業再編を主導する役割が期待されると思います。加えて、私が特に注目しているのが、スタートアップに関連した動きです。どう考えても、先進国の中ではイノベーションの促進が成長の鍵を握り、それを主導的に動かすプレイヤーとしてのスタートアップが今まで以上に広がっていくはずです。

お金も人も、あらゆる資源がスタートアップに集まってくる。ただし、成長していくプロセスでは様々な課題が発生しますから、その課題を解決するプレイヤーとして、PEがプレゼンスを発揮するだろうなと思っています。ゼロからイチを作るのは起業家ですが、1を100にするのが得意なのはPEですから。

企業の成長ステージを考えると、生まれてきて成長して成熟して、変革期を迎える。この一連の流れの中で、PEが求められる領域は非常に大きいと思います。経営管理とか、戦略的な意思決定とか、組織の在り方も含めて会社を変えていくための知識をすべて得られる業界です。

経営をしたい人はもちろん、経営に関わらず何かを変えていく、生み出していきたいという人には必ず役に立つ経験が得られるはずです。勉強できる機会も教材も多いですし、プロフェッショナル意識の高い人、リスペクトできる人との真剣勝負の場所もある。本当にエキサイティングな環境ですよね。

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コラム作成者
Liiga編集部
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