創業者の力には限界がある。ベンチャー企業の飛躍には、成功を呼び込める“強い”経営チームが不可欠だ。ただ、チームづくりは難しい。起業家は、いつ、どんな人材に参画してもらうべきか、逆にCxO転職を目指す人材は、どう新天地を選ぶべきか-。幾多の創業・成長プロセスに関わってきたベンチャーキャピタル(VC)関係者らに、経営チームづくりとCxO人材のキャリアを問う。初回はANRI代表パートナーの佐俣アンリ氏。
強さ際立つラクスルの経営チーム。創業期CxOの“つまらなさ”を越えて
――数々のベンチャー企業を支援してきた立場から見て、優れた経営チームの条件とは。
佐俣:経営陣全員が、自社の成長ストーリーを何も読まないで語れることですね。COOなら社員や顧客に対して、CFOなら金融機関や投資家などに対して、どんな時でも雄弁と自社の未来を語れるべきです。逆にこれができない人だと、それまでいかに華やかなキャリアを積んでいても、ベンチャーCxOとして全く活躍できなかったりします。
例えば、ラクスルは非常に良いチームだと思います。5人の主要な経営メンバー全員が、自社がどんな夢を描いているかなどをメディア、イベント、SNSなどを通じ発信し続けています。ベンチャー企業にCxOとして入社する場合、その企業の世界観を最低2000字くらいで即座に記事などに書けるようでないと、新天地で輝けないと思った方が良いでしょう。
実は投資銀行出身CFOで「金融周りはプロだけど、会社の成長戦略は自分にはあまり関係ない」といったスタンスの人も結構います。ですが、CFOが成長ストーリーを語れないので投資家相手にいつもCEOが前に出ているというのは、あまり良い状態とは言えません。
――ステージによって経営陣の役割も変わりますね。
佐俣:創業期のCxOは、ある意味ですごくつまらない仕事をやらなければならないことが多々あります。CFOだったら、たいてい最初にやるのは領収書の整理です。もしくは勘定科目を考えることでしょうか。投資銀行での経験や公認会計士のスキルなどは、全く求められません。
ラクスルでCFOを務める永見世央さんが入社して初めてやった仕事の1つは、女性従業員向けにお菓子を発注することだったようです。みずほ証券のIBD(投資銀行部門)、カーライル、DeNAと渡り歩いた永見さんでさえ、こんな感じです。永見さんの素晴らしいところは、そういうことを嫌がらず淡々とこなしたことでしょうね。本当の意味でのプロフェッショナリズムと言えます。
――永見さんのように金融、コンサル、ファンドなどいわゆるプロフェッショナルファーム出身の人がベンチャーCxOになる例が増えています。
佐俣:創業期のベンチャーの場合、プロフェッショナルファームで培ったスキルは当面全く生きないと覚悟した方がいいでしょう。3年くらいはスキルをほとんど生かせず、あとは“仕事をやり切る力”でなんとかする覚悟です。それが無理ならば、創業期ではなく成長期のベンチャーを選ぶべきです。その企業のフェーズを見て、「これなら参画できる」と冷静に判断する力が問われます。
金融出身のCFOだったら、数十億円の調達をするようになる辺りからは経験が生きてきます。機関投資家と話す機会が一気に増えますから。従来はIPO(新規上場)が変わり目になることが多かったのですが、最近はラストラウンド(IPO前の最後の資金調達)で機関投資家を相手にするケースが増えているので、転換点は早まっている印象です。
また、気を付けた方がいいのは、創業者がプロフェッショナルファーム出身でない限り、ベンチャー側も金融やコンサルの人の採用に慣れていないということです。例えばゴールドマン・サックスから人が来た場合、「経理も財務も労務も全て分かる人」と勘違いされがちです。