「私が外資系メーカーのマーケターを辞めた理由は、CMの効果が分からなかったから」元・中の人が語る外資系マーケターの転職・昇進事情(前編)
2019/12/15
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#新卒内定者必須コラム

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事業の売上を左右するといっても過言ではないマーケティング職。Liiga読者でもマーケティング職に興味がある方は多いことでしょう。しかし、その仕事の実態やキャリア像について理解してから応募したい方も、少なくないと思います。

そこで今回Liigaでは、外資系メーカーのマーケティング職に新卒で入社された後、IT系メガベンチャーの営業企画に転職された新島さん(仮)にインタビューしました。

前編では「外資系マーケターのやりがいと限界」「外資系マーケターの昇進事情・転職事情」についてお聞きしました。後編では「外資系メーカーの組織構造」「中途採用事情」について語っていただきます。



【目次】
・マーケティング職の魅力は「世の中をハッピーにできること」
・辞めた理由は、マーケティング施策の効果が分からなかったから
・他の外資系メーカーに移る理由は「年収」
・不人気ブランドの部署に行った方が、昇進しやすい?!
・昇進する人は、「人間力」があり「ずる賢い」人

マーケティング職の魅力は「世の中をハッピーにできること」

ーー新島さんのご経歴について教えていだだけますか。

新島:新卒で外資系メーカーにマーケティング職として入社し、4年間働いた後、国内IT系メガベンチャーの営業企画に転職しました。

外資系メーカーでは、4年間で、複数のブランド(商品)に携わりました。主な仕事内容はブランドのコンセプトを作ったり、プロジェクトを円滑に進めるための全体のマネジメントをすることでした。いわゆる、プロダクト・マーケティングと言われる役割ですね。

現在勤めているIT系メガベンチャーでは、営業チームと共に顧客のマーケティングプランを考える、広告プランナーの業務を担当しています。

ーー新卒でマーケティング職を選んだ理由は何ですか。

新島:就職活動の結果、自分のやりたいことは、「人の生活をもっとハッピーにする」ことだと分かりました。そして、この思いを最も叶えることができるのは、マーケティング職だと思ったのです。

就職活動の時に、多くの営業職の社会人にお話を聞いてみたところ、営業職は、一人ひとりの顧客に最前線で相対して「商品の価値を伝える」仕事をしていると思いました。個人的なイメージで恐縮なのですが、営業は「ハッピーを作る」仕事ではないと思ったのです。

一方でマーケティングは、製品を作る段階から「誰に対して」「どのような価値を伝えたら」みんながハッピーになるのかを考える仕事だと思いました。加えて、マーケティング職の場合、営業職のように一人ひとりの顧客だけではなく、不特定多数の多くの人々にハッピーを広く伝えられる点も魅力的だと感じました。

ーーマーケターとして、最も成果を出したエピソードについて教えていただけますか。

新島:ここ数年売上が減り続けていた、あるブランドに携わっていたときの話です。このブランド最大の主力製品のリニューアルを担当し、目標売上を15%上回ることができました。

ーーこの成果を生んだ要因は、どこにありましたか。

新島:売れなくなった要因を分析してそこに正しくアプローチできたことだと思っています。売れなくなった要因は二点ありました。

一点目は「商品としての面白みが全然なくなってしまったこと」、二点目は「ブランド力が下がってしまっていたこと」でした。

ーー一点目の要因について、どのように解決されましたか。

新島:一般的に商品は、何もしなければ似た商品や優れた商品が増えてくるため、優位性がなくなってしまいます。それにもかかわらず私が担当していた商品は、ここ数年殿様商売で商品の改善を怠っていたため、競合商品に人気を奪われてしまいました。

そこで、再び商品自体に優位性を持たせるべく、業界で生まれていた「新しいクレーム」を独自に解決する、他にはないユニークなコンセプトを訴求することにしました。これが当たり、商品としての面白さに繋がったのだと思います。

ーーもう一点の要因については、どのように解決されましたか。

新島:ブランド力の向上を目標とし、売上が下がっているボトルネックを突き止めるところから始まりました。

まず購買顧客について分析をしたところ、新規顧客が全然増えないから、売上が減少していたのだと分かりました。なぜ新規顧客が増えなかったか。イケている人たちに使われなくなってしまったからです。その結果、他の人たちからも「イケてない商品」だと見なされ、誰も使いたがらなくなっていました。

そこで私は、影響力を持つ人たちに私たちの商品をモニターとして使ってもらいました。そして上司と他の部署と協力し、彼らをゲストに招いた豪華なパーティを催し、彼らに「この商品はイケているブランド」だと認識してもらえるようにしたのです。

この案がうまくはまったため、新規顧客が3倍になり、ターゲットに対して目標の+15%の売上達成を実現しました。とてもやりがいがありましたね。

辞めた理由は、マーケティング施策の効果が分からなかったから

ーーしかし新島さんはIT系メガベンチャーへ転職されました。なぜですか。

新島:理由は二つあります。

まず、「デジタルの波」が来ているからです。

マーケティングの仕事をしていて、オフラインマーケティングとオンラインマーケティングの両方を見ていますが、肌観でデジタルが「絶対伸びる」と感じる機会が多々ありました。現在、実はほとんどの外資系メーカーが、マーケティング本部の中にデジタルマーケティング部門を設置するようになりました。そのことからも明らかです。だから、私自身この波にもっと乗りたいと考えたことが理由の一つです。

もう一つの理由は、外資系メーカーでは「各施策の効果分析が明確にできない」からです。しかし、IT系メガベンチャーに行けば、効果分析が詳細にできます。だから転職しました。

ーー二つ目の理由について、詳しく教えてもらえますか。

新島:私は外資系メーカー時代に、テレビCMをはじめ、ユーザの認知を獲得するために様々な施策を行いました。しかし、それぞれの施策が本当に売上に繋がっているのか、結局分かりませんでした。

例えば、CMを打った1週間後に売上が上がったとしても、基本的にCMに合わせて複数の施策が走っているため、増えた売上のどれだけがCMによる効果なのかは分かりません。そのため、マーケティング施策のPDCAを回すときに仮説の検証ができず、次の打ち手が常に不確実で曖昧なものになっていました。そこに強い違和感があったのです。

ーーマーケティングの効果分析をより高精度で行うことができる転職先として、IT系メガベンチャーが最も良かった理由は何ですか。

新島:よりクオリティが高いPDCAを回すためには、「データに基づき意思決定できる環境」がベストです。その環境が最も整備されていたのが、私が入社したIT系メガベンチャーでした。

例えば、詳細な顧客の購買データと行動ログを保有していれば、自社の商品を「買った人」と「買っていない人」にデータを分けて、それぞれの情報接触ログをトレースすれば、どの施策が購買に強く影響したのかが分かります。そして、このデータと各キャンペーン施策にかけた費用を照らし合わせれば、次はどのマーケティング施策にどれぐらいお金をかけるべきか、詳細に分析できるのです。

このような分析は、昔は技術的にできませんでした。しかし今は、そのような技術力とデータを持った会社が現れてきたのです。だから、私は転職を決意しました。

ーー外資系メーカーのマーケターから、IT系企業に転職する方は多いのですか。

新島最も多いのは、他の外資系メーカーのマーケティング部門への「移籍」ですね。このパターンは昔も今も最も多いです。次に多いのは、日系メーカーのマーケティング部門への転職です。とはいえ、外資系メーカーと比べると少数派でしょうか。

そして日系メーカーと同じぐらい、最近増えてきてたのが、IT系、正確にはデジタルマーケティング系企業への転職です。転職理由は、私と同じように、マーケティングのPDCAを詳細に追求できることにやりがいを感じている方が多いようです。また、デジタル系企業への転職の場合は、職種はマーケティング職ではない場合も少なくありません。私のようなプランナーのほか、営業職として転職する方も少なくないようです。

外資系マーケターの転職先としては、現在、主にこの3パターンだと思います。

ーー営業職への転職も、少なくないのですね。

新島:実はデジタルマーケティング系企業の営業職の仕事内容は、マーケティングの仕事と共通する部分が多く、これまでに培った経験を活かすことができるのです。

なぜなら、デジタルマーケティング系営業職の仕事内容は、クライアントである事業会社のマーケターに対し、「XXXというユーザーにターゲティングをして、YYYという広告を打てば儲かります」というマーケティングプランを企画し、提案する仕事だからです。

他の外資系メーカーに移る理由は「年収」

ーーそもそも外資系メーカーの新卒社員は、転職を前提に考えている人の方が多いですか。

新島:新卒入社した外資系メーカーに一生勤めようと考えている社員は、非常にレアです。「いつかは外に出るだろう」とみんな考えていると思います。

例えば、部署の仲間と飲みに行って今後のキャリアの話をするときに、「このプロジェクトが終わったら転職しようかな」といった話をみんなざっくばらんにしていました。

ーー他の外資系メーカーへ転職する方は、なぜ転職するのですか。

新島:彼らの一番の転職理由は「年収を上げるため」だと思います。なぜなら、外資系メーカーは新卒より中途入社の方が、高い年収オファーを出す傾向にあるからです。だから一般に、転職をすると年収が上がるのです。

なぜ企業が中途採用だと高い年収のオファーを出すかというと、企業も同じ外資同士なので、現職の会社でもらっている年収相場を把握しているからでしょう。だから、どれぐらいのオファー額を出せば移籍してくれるか理解し、そうしているのだと思います。

みんな中途面接では、志望動機として「プロジェクトの幅を広げたい」などときれいごとを話すと思いますが、本音は絶対お金だと思いますね(笑)。

ーーでは日系メーカーへ転職する方は、なぜ転職するのですか。

新島:サンプル数が少ないですが、聞いた話ですと大きく分けてタイプは二つあると思います。

まずは、「外資では活躍できなかったから」です。外資系特有の風土もあり、与えられた仕事に対して満足できるアウトプットがなかなか出せない状況が続くと、社内の雰囲気からして転職せざるを得なくなるのです。日系に移ると、福利厚生を含めても年収の絶対額は下がるでしょう。しかし、キャリアを活かしつつ落ち着いて働けるメリットがあるので、日系企業に移るのだと思います。

もう一つは、「製品開発の段階から自分で取り組みたかったから」です。

外資系メーカーでは、基本的には海外本国の製品開発部が製品開発のすべての権限を持っているため、ほとんどの商材において、日本支社には製品開発が完了した後に商材が降りてくるのです。だから、日本で「製品をこうしたい!」と思っても、毎回本国のチームを説得しなければなりません。

だから、自分達のチームで製品開発からローンチまで首尾一貫して行いたい方は、日系メーカーに転職を考えるのです。

不人気ブランドの部署に行った方が、昇進しやすい?!

ーー外資系メーカーで昇進するか否かの決め手は何でしょうか。

新島:一言で言うと、「運 × 実力」だと思います。

昇進するためには実績を残さなければなりませんが、私は運良く実績を出しやすい状態にあるブランドと上司に恵まれました。そのため、1~2年ごとに昇進のお話をいただきました。

一方で、実力があったとしても運悪くタイミングや環境に恵まれなかった方は、結果を数字として出すことが難しいので、なかなか昇進できないと思います。

ーーマーケターの人事評価基準は何ですか。

新島:マーケティング部門に関しては、スタッフレベルはプロジェクトの成果であり、マネージャー以上は、担当ブランドのPL(損益計算書:Profit and Loss Statement)が評価指標になっていると思います。

ーー人事評価は「担当商材の売れ行き」に直接左右されるのですね。

新島:そうです。だから、人気ブランドの部署に行かない方が、実は昇進しやすいと思います。

なぜなら、人気ではないブランドを担当すると、部内の競争率が低いからです。プロジェクトも選びやすい状況にあるので、数字として実績を出すことが比較的容易なプロジェクトに挑戦しやすくなります。

一方で、人気ブランドの部署には会社内の優秀な方々が当然殺到する傾向にあります。その部の中でさらに他人よりいい実績を出す、というのは至難の業です。また、部内の希望プロジェクトにもなかなか参画できません。

だから、もし高いポジションへの昇進を目指すのであれば、戦略的に最初は実績が出しやすいブランドを狙い、昇進してから興味のあるブランドへ移るのもアリだと思います。

昇進する人は、「人間力」があり「ずる賢い」人

ーー一番出世の早い方だと、どのようなペースで昇進していましたか。

新島:私のいた会社は人の入れ替わりが激しく、サンプルが少ないのですが、最年少のマネージャーは新卒4年目ぐらいでしょうか。一般的にはマネージャーは新卒8年目ぐらいで昇進します。上位30%が新卒8年目より前に昇進していると思います。

ーー人より早く昇進している方の共通点は、何でしょうか。

新島:「人間力がある人」でしょうか。男女問わず、人よりも早く昇進している方は、人間力が抜群に高いです。あとは、すべからく「ずる賢い人」が多いですね。「人間力」だけでは、昇進はできません。

ーー「ずる賢い人」とは。

新島:私の持論ですが、マーケティング部で一番大事なのは間違いなく「社内営業」だと思っています。

営業部もマーケティング部も数字を追っています。しかし、マーケティング部は担当ブランド(商品)ごとに売上目標を設定しているのに対し、営業部は担当クライアント単位、つまり担当する小売店毎に売上目標が設定されています。従って営業部にとって、どのブランド(商品)が売れようと関係ないのです。この力学を理解した上で、社内で動くことが重要です。

また、人間ですから優先順位を「あの人が好き」という感情で決める場合も少なくありません。だから、営業部門の方に向けて人間的魅力を武器に社内営業をすることで、自分の商品をより多く売ってもらえることもあるのです。

だからこそ、「人間力」があり、かつ「ずる賢い人」は社内政治を理解しているので、上の役職に上り詰めていると思います。

コラム作成者
Liiga編集部
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