「解雇はキャリアを“棚卸し”するチャンスだった」。内部告発への報復解雇を乗り越えたエース社員のマインドセットとは?【解雇からのV字回復 Vol.2】
2020/06/14
#解雇からのV字回復

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会社の業績悪化に伴うリストラや、上司との衝突による報復解雇―。「解雇」のリスクは、ここ日本においても当然のように存在します。

桜木正人さん(仮名)は、新卒入社した大手IT系企業からたった半年で解雇宣告を受けたり、転職先のIT系企業でも内部告発したことに対する報復で退職に追い込まれたりと、これまで2度も解雇の危機に直面しました。

しかし桜木さんは解雇された後、外資系大手の新規事業開発職にキャリアアップし、現在は別の大手企業の経営企画部のエースとして、充実した毎日を送っています。

今回は桜木さんが見舞われた2度の解雇宣告や、いかにそれらの危機を乗り越えたのかについてお聞きしました。

〈Profile〉
桜木正人(仮名) 大手企業 経営企画部
新卒でエンジニアとして大手IT系企業に入社。入社して半年経った頃、業績悪化に伴い、人員削減の対象となり解雇宣告を受ける。その後営業職としてIT系企業に転職するも、とあることをきっかけに上司による報復解雇に遭う。以降、外資系大手企業の新規事業開発を経て、現職に至る。


【目次】
・リーマンショックで部署解散。人とのつながりで残留できた1度目の解雇宣告
・横行する法人営業のカラ受注……内部告発したことが原因で報復解雇に
・「解雇なんて『ただのきっかけ』と思った方がいい」。危機を乗り越えるためのマインドセット

リーマンショックで部署解散。人とのつながりで切り抜けた1度目の解雇宣告

ーー新卒で入社した企業に、たった半年で解雇宣告を受けたとお聞きしました。

桜木:その通りです。私が社会人になった頃は、新卒の売り手市場で、比較的色々な会社から内定が出やすい時期でした。

私もいくつかの大手企業から内定をもらったのですが、その中で、「なぜ内定を出したのか」「入社までにどんなことを勉強しておいてほしいか」といった内定時のフィードバックが一番丁寧だったのが、最初に入った会社でした。

「この会社なら、自分の頑張り次第で成長できそうだ」と考えて働くことに決めたのですが、入社後すぐにリーマンショックが起きて業績が悪化。入社半年で部署が解散になり、私を含む若手を中心に、多くの社員が解雇宣告を受けたのです。

150人ほどの同期のうち、30人がその時点で退職していきました。しかし、実は私はその後6年間、同じ会社で働き続けました。

ーーどのような方法で解雇を免れることができたのでしょうか?

桜木:ずいぶんと知恵をしぼりました。

解雇宣告を受けた頃、私を含めた新卒はまだ座学研修の途中でした。リーマンショックで世の中が混乱している中、そんな状態で転職活動がうまくいくとは思えませんでした。だからなんとかして残りたいと考えたのです。

まずは解雇宣告をした当時の上司に「部署異動で対応してもらえる方法はないか」と聞きにいったり、解雇にならずに済んだメンターの先輩や、別の部署の同期、同期のメンターの先輩などに相談したりしました。

すると「今回の解雇騒動で困っている新卒がいるらしい」という話が人つなぎに伝わっていき、最終的に営業担当に同行して技術的な説明などのサポートをするプリセールス部門に異動することができたのです。

社会人になりたてで右も左もわからない状況でしたが、本当に色々な人に助けてもらいました。

横行する法人営業のカラ受注……内部告発したことが原因で報復解雇に

ーーその後、別のIT系企業に転職されたのはなぜですか?

桜木:営業職の仕事に異動したかったのですが、それが無理だと分かったからです。

6年間の勤務で日本だけでなくシンガポールでもPreSales-Consultant(プリセールス)と製造業向けのBusiness Development(事業開発)の仕事を経験していたのですが、シンガポールから日本に戻ってきたときに「次は顧客と直接折衝するセールスの仕事がしたい」と考えるようになりました。

しかし、当時会社はちょうど人員削減をしている時期で、営業職を含め採用や異動を一切ストップしている状況だったのです。だから他社に転職することに決めたのです。

ーー転職先のIT系企業のセールス職では、目的の経験を積むことはできましたか?

桜木:はい。入社して半年はなかなか結果が出ず苦しい思いをしましたが、翌年から営業成績は一気に改善しました。

辞める直前では、3四半期連続で、アジア太平洋エリアの製造業部門で1位の営業成績を出していましたね。

ーーそこまで高いパフォーマンスを発揮していながら、なぜ解雇されることになったのですか?

桜木:端的に言えば、内部告発したことが原因で報復解雇に遭ったのです。

ーー詳しく教えてください。

桜木:当時私がいた会社では、営業部隊の「カラ受注」が常態化していたのです。

詳しく言うと、クライアントが代理店に発注する前だったにもかかわらず、代理店に私たちの会社へ先に発注を出させていました。このカラ発注により、営業部隊は本来数字が不足していたのに、常に営業目標を達成しているように見せていたのです。

カラ発注は金額にして10億円規模にもなっていました。

そしてあろうことか、その不正を主導していたのは当時の営業本部長でした。彼はパワハラの権化みたいな人で、部下に対して「カラ受注をします」という誓約書をわざわざ書かせるような人でした。

私は個人の目標を達成できていたので、わざわざカラ発注をする必要がなく、それまで見て見ぬ振りをしていました。

ーーなぜ桜木さんは告発しようと思ったのですか。

桜木:ある四半期末に営業本部長から「チームが苦しい状況なんだから、お前もカラ受注をしろ」と言われたのです。

しかしそんなことをすれば、せっかく築き上げた代理店との信頼関係が崩れてしまいます。だから私はその命令を断りました。すると、営業本部長は怒り狂い、なおもカラ受注を強要してきたのです。

純粋に「許せない」と思いました。そして「このような数字の稼ぎ方が常態化しては、自分の成長の邪魔になる」と思いました。

なので私は、普段から録音していた営業本部長とのやり取りなどを全て書き起こし、海外本社の内部監査部門に送信したのです。

ーーどうして上司とのやりとりを録音していたのですか。

桜木:営業本部長とその派閥の人たちは、単にカラ発注をしているだけでなく、不正をせずに真っ当に仕事をしている私や他の同僚に、パワハラや嫌がらせをしているような人たちだったからです。

そんな状況だったので「難癖をつけられて解雇される可能性は十分ある」と考えていました。だから録音の他にも日記もつけていましたし、勤務時間がわかるように会社のパソコンのログイン記録もとっていましたよ。

ーー本社に記録を送った結果はどうでしたか。

桜木:効果はてきめんでした。本社から内部監査団が来て、200人いた日本法人の社員のうち100人が内部監査の対象としてリストアップされ、一人一人の面談が始まりました。私がいた計40人の法人営業部門のうち、28人が自宅待機、5人が即日解雇になりました。

そしてその1カ月後に、私は営業本部長に報復解雇に追い込まれました。

ーー営業本部長はどんな手段を使ったのですか。

桜木:内部監査団が来てから数日後、営業本部長から呼び出しがあり、PIP (Performance Improvement Plans = 成果改善計画)を渡されたのです。

本来PIPは成績不振の社員に渡されるもの。営業目標を達成し続けていた私に与えられるようなものではないのですが、内容を見て「これはPIPの仕組みを使った報復解雇狙いだ」と気づきました。

そのPIPは「今まで付き合いのない会社30社から、1カ月以内に総額3億円のオーダーを取ってこい」というものだったからです。当時の私の年間目標が3億円ですから、到底無理な目標です。

ーーひどい仕打ちですね。

桜木:私はなんとか30社の新規取引先と1.5億円のオーダーは取れたのですが、目標未達には変わりありません。

PIPで決められていた1カ月が終わる頃には、営業本部長は自宅待機命令を受けて会社にいませんでしたが、私はPIPをクリアできなかったという理由で後に解雇されました。

「解雇なんて『ただのきっかけ』と思った方がいい」。危機を乗り越えるためのマインドセット

ーーどうやって解雇を乗り越えましたか。

桜木:乗り越えるというよりは、「むしろいいきっかけだ」と思いました。入社前にその会社で経験したいと思っていた仕事はできていましたし、ちょうど転職を考えていたタイミングだったからです。

現に、解雇が私のキャリアに影を落とすことはありませんでした。解雇後には前職の経験が評価され、外資系大手企業に難なく転職することができました。そしてそこでは希望していた新規事業開発職を経験できましたし、今の会社でも望んでいた経営企画職についています。

特に今は私が理想とする「Employee Owned, Manager Supported」、つまりメンバーが意志を持ってキャリア形成について自ら考え仕事をして、自律的にスキル開発に取り組む責任を持ち、マネージャーは社員に、キャリアを築いていくための環境を提供するという形で仕事ができていますし、当たり前ですが不正会計などをしないクリーンな環境で働けているので、充実した毎日を送ることができています。

ーー「解雇されるかもしれない」という危機感を抱えている人に、アドバイスはありますか。

桜木:解雇なんて「ただのきっかけ」と思った方が、精神衛生的に健康だと思いますし、建設的です。

なぜなら、なんとなく考えていただけの自分のキャリアについて、真剣に考える契機になりうるからです。解雇のリスクが生じると、人は危機感を抱きます。裏を返せば、「次のキャリアを選択するチャンス」といえます。だから解雇なんて「ただのきっかけ」なのです。

このコラムを読んだ方が仮に解雇に遭ったとしても、ぜひそのチャンスをフル活用して、自分のキャリアに役立ててほしいですね。

コラム作成者
Liiga編集部
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