理系大学院を修了し、新卒で大手日系メーカーにサプライチェーンマネジメントのポジションで就職、その後大手広告代理店のビジネス開発部門に転職された茂木さん(仮名・29歳)。一風変わった転職を遂げた茂木さんに、「メーカーと広告代理店のカルチャーの違い」「広告代理店社員の実態」などについてお聞きしました。
・日系メーカーのサプライチェーンマネジメントは、正直簡単だった
・「コンサルは事業会社の請け負いだから、選ばなかった」。新しい仕事を先導できる大手広告代理店へ
・メーカーは真面目な「現場主義」、 広告代理店は「打ち合わせ文化」
・メーカーは同業他社転職が多い。広告代理店は高退職率でGAFA転職の事例も
日系メーカーのサプライチェーンマネジメントは、正直簡単だった
ーーこれまでの経歴をお聞かせください。
茂木:大学院を修了後、大手日系メーカーに入社し、サプライチェーンの業務を担当していました。その後転職して、現在は大手広告代理店に勤務しています。
現職ではビジネス開発部門に所属しており、広告そのものの仕組みを考えたり代理店の新しいビジネスを推進するような業務に取り組んでいます。例えば、インスタグラムなどSNSにおける、ターゲティング広告の仕組みなどです。
ーーメーカーから転職を考えたきっかけは何でしょうか。
茂木:元々、サービスや商品の広告宣伝だったり、商品を企画したりするマーケティング系の仕事がやりたかったんです。メーカーに入社するときからそう思っていました。しかしながら、その希望とは全く異なる部署に配属されたため、もやもやした気持ちがずっと残っていました。
また、やっていた仕事が正直簡単で、そこでは物足りなくなってしまったのです。
ーーどんな仕事をしていたのですか。
茂木:メーカーで私がやっていた仕事は、サプライチェーンマネジメント。いかに効率よく物を運んで、コストを抑えながら売り上げをのばしていくかを追求する仕事なんですが、これが慣れてみると、けっこう簡単だなって(笑)。1年半くらいやったら物足りなくなってしまいました。
その頃から、「この会社で10年も20年もかけて昇進の道を歩んでいくより、やりたい仕事ができる会社に移りたい」と思うようになりましたね。
「コンサルは事業会社の請け負いだから、選ばなかった」。新しい仕事を先導できる大手広告代理店へ
ーー転職先はどのように考えられたのでしょうか。
茂木:エージェントと相談しました。私の強みは、理系大学院時代にコンピュータ言語のpythonやRを触っていたことです。また、メーカーでは、データを使った分析をプログラミングに落としこむ業務もやっていました。
ただ、プログラミングに重点を置いた仕事をメインにすることは、考えていませんでした。プログラミングやデータ解析は、やりたいことを実現するための手段として生かすつもりでした。
ーーエージェントからはどのような提案がありましたか。
茂木:コンサルを勧められましたね。私ぐらいの年齢だと多くの方がそうだと思います。今はコンサルの採用数は増加傾向ですし、給料も高い。実際私もコンサルを受けました。
ーーなぜ転職先としてコンサルを選ばれなかったのですか。
茂木:コンサルの仕事は、事業会社がやりたいシステムや業務の請け負いのようなものだと感じました。私がいたメーカーも外資系コンサルによく外注していましたが、あくまで主導権は事業会社にあり、コンサルの裁量はあまりなかったのです。
それよりは、自分が新しい仕事を作って先導していく方が良いと感じたので、コンサルは選びませんでした。
ーー大手広告代理店やコンサル以外にはどのような会社を受けましたか。
茂木:事業会社だと、自動車メーカーや家電メーカーで、データを分析して新規事業をやるような部署を受けていました。しかし、書類選考で結構落とされました。経験がないと判断されたのでしょう。ほかには、ベンチャー企業も受けました。
ーー今いる大手広告代理店はどういう部署を受けたのですか。
茂木:今いるビジネス開発の部署です。募集要項に各部署について色々と具体的に書かれていたので、エージェントと相談しつつ「ここなら」と思って応募しました。
ーーその広告代理店だと、選考はどのように進むのですか。
茂木:まず書類審査です。履歴書に人事担当者が1回目を通してから、現場の・マネジメント層たちにまわして意見を聞きます。良いと思う応募者がいたら面接が実施されます。面接は、各部門のマネジメント層が行います。採用された場合はその面接官の部門に入ることになるのが一般的です。
ーー面接ではどういうことを聞かれましたか。
茂木:1次面接では、入社した場合に上司になる人と人事担当者が面接官で、志望動機や、これまでやってきた仕事について聞かれました。「うちは忙しいが大丈夫か」みたいな質問もありましたね。大丈夫と答えますよね、普通に(笑)。
ーー広告について何か聞かれましたか。
茂木:新卒だとどういう広告が好きかなども聞かれるようですが、私の場合は、ひたすら前職でやっていた業務に関する質問でした。応募した職種がデータを使う仕事だったので、類する経験があるかどうかを詳しく確認されました。
ーー2次面接はどうでしたか。
茂木:2次は役員面接で、雑談のような面接でした。「会社でどんなことをしていたの」や「趣味は何なの」とか代理店なので「前職に関わるCM」など。内容はほとんど意思確認のようなもので、その後で人事の人と条件確認をしました。
メーカーは真面目な「現場主義」、 広告代理店は「打ち合わせ文化」
ーー入社してから大変だったことはありますか。
茂木:広告について何も知らなかったので、そこはキャッチアップしなければいけなかったですね。本を読んだり実務をこなしながら、最初の3カ月くらいはひたすら勉強しました。学んだのはCMなどに関する知識ではなく、Web特有のアドテクノロジーについてです。「こういう仕組みになっているのか」と日々驚きながら勉強しました。
ーー広告代理店の仕事は激務でしょうか。
茂木:職種や部門によりますね。営業だと結構ハードなようですが、スタッフ部門はそれほど激務ではありません。勤務時間の合計は月200時間ほどで、残業はなくなりましたね。前職では残業がきっちり管理されていて、月○○時間までと決まっていました。ホワイトではありましたが、やりたいことがあってもそれ以上は働けなかったので、もっと働きたいのにと思うこともありました。
ーー広告代理店の社員像や企業風土について教えてください。
茂木:社員は、頭が良くてスマートな人が多いです。自分にはない考えを持っている人が多くいます。それが広告代理店特有のクリエイティビティーを生み出す原動力になっているのでしょう。プライベートはよく遊んでいる人が多い印象です。
ーー企業風土について、前職と現職の違いを教えてください。
茂木:前職はメーカーなので、非常に現場主義でした。何かあったら工場やお店の現場に行って、自分の目で確かめろという人が多かったです。真面目な人が多いのでしょう。
一方で広告代理店は、クライアントのあいまいな課題を明確に定義するのが仕事。「こういうCMにしたい」という要望を、いかに形にするか。ざっくりしたやり取りを通して進めていく、「打ち合わせの文化」のようなものが、広告代理店にはあります。
メーカーは同業他社転職が多い。広告代理店は高退職率でGAFA転職の事例も
ーー前職の日系メーカーではどれくらいの割合で転職する人がいましたか。
茂木:新卒の退職率は20~30%ぐらいですね。同期は100人くらいいたのですが、20人くらいが既に転職しています。ただ新卒入社して3~5年経つと、それ以降はほぼ辞めなくなります。
辞めた同期の転職先はバラバラです。コンサルに行く人もいれば、転職エージェントのような会社に行く人もいます。他業種のメーカーや、香港で働いている動機もいますし、大学の事務員になった人など様々です。
ーーメーカーには中途で入社してくる人もいましたか。
茂木:中途採用で入社してくる人もたくさんいました。自分のいた部門でしか分かりませんが、多いのは同業他社から転職してくる人です。他にも、商社出身の人も多くいました。
ーー今の広告代理店の転職事情についてはどうでしょうか。
茂木:中堅の人がよくいなくなっていくますね。やはり忙しいのが転職理由のひとつかもしれません。
現職からの転職先で多いのは、GoogleやAmazonといったグローバルプラットフォーマーですね。もしくは所謂ベンチャー企業の上位ポジションに行く人も多いです。
ーー広告代理店の働きやすいポイントはどこですか。
茂木:広告代理店では、自分の役割ではない仕事でもチャレンジできます。アサインされなくても勝手にやっていい空気があるのです。打ち合わせでも、年次に関係なく発言できるところがいいですね。
ーーどういう人が広告代理店に向いていますか。
茂木:「こだわりが強くて、斬新な発想を持っている人。情報感度が高い人」ですね。メーカーや今の職場で自分のやりたいことができないとモヤモヤしている人には、広告代理店はおすすめです。
一方で「やることが明確になっている方が働きやすい」と感じる人は、メーカーの方がむいていると思います。前職では私は、上から明確にこれだけやってくれという役割を与えられていました。ただ、私は組織を動かすための1人ではいたくないと思って転職しました。