「総合商社転職に戦略・投資経験はなくていい。評価されたのは専門性とタフネス」。選考倍率150倍を勝ち抜いた男が語る、総合商社転職成功のポイントとは?
2020/07/01
#転職で総合商社に入るには?
#総合商社の選考を突破する

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総合商社の魅力は「経営に早く携われること」や「グローバルな仕事」。総合商社への転職を考えている方も少なくないかと思います。

しかし、総合商社への転職は狭き門。特に財務や法務、M&Aといった専門的な経験がない方の場合、最初から「自分に総合商社は無理」と諦めている方も多いのではないでしょうか。

しかし今回インタビューした森川誠司さん(仮名)は大手広告代理店の出身者。大手とはいえ、広告代理店の仕事と総合商社の仕事は全く異なるものですが、森川さんは倍率150倍を超えて総合商社の内定を得ました。なぜ森川さんは転職に成功したのでしょうか。

今回は森川さんに、「総合商社への転職成功理由」「総合商社の選考プロセス」「総合商社が選考で本当は見ているポイント」についてお聞きしました。

〈Profile〉
森川誠司(仮名)
財閥系総合商社 経営企画・経営戦略
新卒として大手広告代理店に就職。海外拠点へのサポートを行う部署に1年半所属したのち、自身の希望で営業担当へ異動。大手通信キャリアや外資系ラグジュアリーブランドを担当。働く中でより経営の本質に関わるスキルを磨きたいと考え総合商社へ転職し、現在は出資先の経営管理や資本政策に携わっている。


【目次】
・大学院+広告マンの超ハードワークをこなしきった広告代理店時代
・総合総社へ転職したのは、「経営の本質に携わりたかった」から
・「戦略コンサル・投資銀行のスキルは必須ではない」。総合商社が選考で本当に見ているポイント


大学院+広告マンの超ハードワークをこなしきった広告代理店時代

――森川さんの経歴について、簡単に教えてください。

森川:ファーストキャリアの大手広告代理店には新卒として入社しました。東南アジアの拠点への業務サポートを行う部署に1年半所属したのち、当時「一番きつい」と言われていた大手通信キャリアの営業担当に、自身の希望で異動しました。そこでの実績が買われ、外資系ラグジュアリーブランドの専属営業を担当し、今に至ります。

広告代理店では主にデジタル分野のマーケティングに専門的に携わっていましたが、もっと経営の本質に関わるスキルを磨きたいと考え、総合商社へ転職しました。現在は出資先の経営管理や資本政策に携わっています。

――新卒では大学院に通いながら、大手広告代理店に入社されたとお聞きしました。

森川:はい、私は当時、国連や世界銀行グループ等の国際機関で働く国際公務員になりたいと考えていました。修士号が必要なので、国際公務員を目指すための特別な専門大学院に進学しました。

しかしそこでの勉強が、想像以上に自分の成長につながらず、2年間このまま通い続けることに焦りを感じたのです。そこで修士2年目に突入する前に、一度ビジネスを学ぼうと、大学院を休学し、内定を頂いていた大手広告代理店に入社することにしました。仕事に余裕が出てきたら、復学して働きながら修士論文を書こうと思ったのです。

大手広告代理店をファーストキャリアとして選んだ理由は、広告に興味があった訳ではなく、その代理店が国際的なスポーツイベントや、日本だけではなく世界のあらゆる企業とマーケティングビジネスを展開していたことから、この会社なら世界的に有名なビッグプロジェクトや企業とのプロマネの経験を積めるのではないか、と考えたからです。

予想していた通り、大変忙しかったのですが、入社3年目に入ったくらいから仕事の要領がつかめてきたので、その年の4月に大学院に復学しました。

――広告代理店というとハードワークのイメージがありますが、両立は可能だったのでしょうか。

森川:正直、相当しんどかったですね。毎日のタイムスケジュールは大変なことになっていました。

――毎日どんなスケジュールでしたか。

森川:復学から修了までの1年間は24時まで働いて、深夜3時まで論文を書いて寝る。そして3時間後の朝6時に起きて9時までまた論文を書き、10時に出社するという生活を送っていました(笑)。

勿論、広告代理店の仕事自体もものすごくハードでした。同期は130人いたのですが、その全員が何かしら精神的なストレスは抱えていたと思います。

私自身も、ストレスが原因で発症する心因性ぜん息にかかり、1時間に1回は吸入器を使わないと呼吸ができないという状態でした。今は見違えるぐらい状況が変わって、働き方も以前よりずっと改善されたようですけどね。

総合総社へ転職したのは、「経営の本質に携わりたかった」から

――なぜ、総合商社への転職を考えたのですか。

森川:広告代理店の仕事は、どこまで行っても「広告マーケティング」という小さな領域の中の仕事でしかないということに気づいたからです。

私は当初より国際公務員を志していたこともあり、世界で通用する人間になるには、①グローバルプロジェクトで実績を残すこと、②経営管理や資本政策といった経営の本質に近いスキルを磨き、資本家や投資家と同じ「経営の専門家」になる必要があると考えていました。

その逆算として、民間企業ではできるだけ大きなプロジェクトに関わりたいと考え、大手広告代理店を新卒で選びました。しかし、配属先は、デジタルマーケティングの部署。すぐにグローバルプロジェクトには関われそうにはありませんでした。それならば、経営のスキルをと、当時社内で「一番きつい」と言われていた大手通信キャリアの広告マーケティングに携わっても、想像以上に経営に近づけませんでした。

おそらく広告マーケティングを主戦場としている限り、どこまで行っても「マーケティングの専門家」にしかなれません。だから転職しようと考えたのです。

――転職先はどのような基準で選びましたか。

森川:軸は新卒のときと変わっていません。グローバルなプロジェクトがあり、経営の専門家としてのスキルが身につくところです。これを基準に、戦略コンサル、総合商社の2つの業界に絞りました。

――転職活動は具体的にどのように進めましたか。

森川:まず戦略コンサルに関しては、ケーススタディ対策が必要なので、エージェントに協力してもらいました。コンサル専門のエージェント3社を回り、そのうち戦略コンサル経験者のエージェントがいる1社を選びました。

一方、総合商社はエージェントを通さずに直接採用活動をしているため、エントリーから最後まで、全て自分で進めていきました。


「戦略コンサル・投資銀行のスキルは必須ではない」。総合商社が選考で本当に見ているポイント

――総合商社の選考プロセスについて詳しく教えてください。

森川:私が現在勤めている総合商社の選考は、まず1次書類審査、ウェブ試験、2次書類審査を経て、通過者のみが面接に進みます。ウェブ試験はいわゆる「玉手箱」のようなものですね。その後の2次書類審査では、志望動機や実績、自身が提供できる価値などについてそれぞれ800字程度で書くことになります。

基本的にここで8割程度がふるいにかけられ、残った2割の候補者が1次面接に進みます。面接の内容は一般的なインタビュー形式で、戦略コンサルで実施されるようなケース面接はほとんどありませんでした。

――選考倍率はどれぐらいですか。

森川:本部別選考なので、全体の応募者数はわかりませんが、後で聞いた話だと、私が配属された本部は、1次面接が終わった段階で書類通過者150人のうち私ともう1人、合計2人にまで絞られていて、2次面接、3次面接は「本当にこの2人でいいのか?」という確認のための面接だったようです。

――採用枠は2人と決まっていたのでしょうか。

森川:目標採用人数は決まっていると思いますが、採否は絶対評価で決まるようです。ですから私の時も、「絶対に2人」と決まっていたわけではないでしょうね。実際、私が中途で入社する前、今の部署には2年間中途採用者がいなかったようです。

――選考を通じて、どんな能力が求められていると感じましたか。

森川:一番に問われるのは専門性です。次に学歴、最後に語学といった印象です。

私の場合、専門性に関しては広告代理店時代にデジタルマーケティングの目立つ実績をいくつか残していたことでアピールできました。学歴は大学も大学院も国内トップクラスでしたので問題なかったです。

――戦略コンサルや投資銀行のスキルセットを求める訳ではないのですね。

森川:実は総合商社は、財務や法務、M&Aといった、総合商社に関連性の高い経験やスキルを持っているかどうかは必須ではありません。そういったスキルは「入ってから身につけてくれればいい」と考えています。

もちろん論理的思考力などの最低限のビジネススキルは大前提ですが、最も大切なのは「高い専門性と実績」です。それさえあれば、挑戦する価値は十分あると思います。

広告業界をはじめ、総合商社の仕事とあまり関係のない仕事をしている人たちの中には、最初から総合商社への転職を諦めている人も多いと思いますが、それはもったいないですね。

――森川さんの場合も、一番評価されたのは「専門性」ですか。

森川:専門性は評価されたと思いますね。ただ僕の場合は「タフネス」に対する評価も同時に決め手になっていたと思います。

実際採用されたあとに、広告代理店の過酷な労働環境で5年間働き続けたことや、同時並行で修士論文を書き上げて大学院を卒業したことに対して「超人的なストレス耐性と目標完遂力を持っている点を高く評価した」と言われました。

これは私見ですが、一部の天才を除いて、秀才レベルの人間は世の中にあふれるほどいます。では秀才レベルにおいて差を生み出す要因はどこにあるのかといえば「ストレス耐性」や「ストレス下での目標完遂力」だと思います。言ってしまえば、どこまで努力できるか、ということです。

――ちなみに語学力はどの程度問われましたか。

森川:語学に関しては、大学時代の国際協力サークルでの活動や海外留学の経験を通じて身につけていたので、わたしの場合は特に問題ありませんでした。

ちなみに、専門性さえ高ければ語学については問われない場合もあるようです。実際、私の同期で英語に苦手意識を持っている者も何人かいました。

――森川さんの突出したタフネスは、どうして身についたのですか。

森川:私は自分をイジメぬいて、明日の自分が今日よりも成長していることにとてもワクワクする人間です。だから常に困難な道を選ぶ癖があります。妻には「超がつくドM」と言われていますが、その通りだと思います(笑)。その結果として、ストレス耐性が高まっていったのでしょう。

加えて、自分で立てた目標を達成することに対して、ヒステリックなほどの執着があります。目標が達成できないとなると、とてつもないストレスを感じるのです。このストレスを回避しようと努力するうちに、どんな状況でも目標を完遂するタフネスが磨かれていったのかもしれません。

コラム作成者
Liiga編集部
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