「官僚時代より投資銀行の方が働きやすい。年収は3倍に。」官僚から外資系投資銀行へ転職して気づいた“官庁と民間の違い”とは?
2020/07/16
#官僚からの転職
#投資銀行に転職しました
#投資銀行につながるキャリア

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『官庁に入れば一生安泰だ』という話も、今は昔。最近では、民間の世界へ転身する官僚の方も少なくありません。
(過去のコラムとしてこちらもご参照ください。 官僚・国家公務員から転職?あまり知られていない民間企業での活躍

今回取材した戸山さん(仮名)は大学卒業後に官庁に就職。5年ほど働いたのち、海外留学制度を利用してアメリカに留学し、MBAを取得します。その中で官僚の外の世界を知り、転職を決意。

今回は戸山さんに「官僚からの転職を決意した理由」「官僚と外資系投資銀行の違い」などについてお聞きしました。

〈Profile〉
戸山かおり(仮名・30歳)
外資系投資銀行 在職。
国立大学を卒業後、官庁に就職。海外留学中にMBAの勉強をする中で、官僚の外の世界に触れ、転職を決意する。投資銀行やコンサルティングファームを数社受けたのち、現在の外資系投資銀行からオファーを勝ち取る。
※記事の内容は全て個人の見解であり、所属する組織・部門等を代表するものではありません。


【目次】
・官僚から転職を考えたきっかけは「NY留学」。転職理由は「裁量の少なさ」と「配属リスク」
・転職活動では数十人にOB・OG訪問!「おかげで投資銀行入社後のギャップはほとんどなかった」
・官僚と投資銀行の違いは「スピード」と「精度」。官僚をファーストキャリアで選んで後悔なし

官僚から転職を考えたきっかけは「NY留学」。転職理由は「裁量の少なさ」と「配属リスク」

――まず戸山さんの経歴について教えてください。

戸山:学生時代から、世の中に貢献できる仕事に就きたいと考えていました。そこで学生なりに一生懸命考えて出した結論が、官庁で働くことでした。

現場で働いたのは5年ほどです。国の機関だけあって、携わる仕事の規模は非常に大きく、動かすお金も数千億円、数兆円規模のものが多かったです。

大きなお金を動かすので、民間企業の30代後半から40代後半の経営層の方々と一緒に仕事をすることも多く、色々なことを学ばせていただきました。

その後、海外留学制度を利用してアメリカに留学し、現地のビジネススクールに通ってMBAを取得しました。このころから転職活動をスタートし、帰国後に活動を本格化。結果として今勤めている外資系投資銀行からオファーをもらい、転職しました。

――転職を決意した理由は何ですか。

戸山:まず「官僚では専門性を身につけにくい」と思ったことが転職を考えた理由です。

官庁にいるとスケールの大きな仕事に関わることはできます。しかしスケールが大きなだけあって、個人が持つ裁量権はむしろ小さいのです。私の場合は若手でしたから、ほぼないといっても過言ではありませんでした。出世すれば裁量権も大きくなりますが、通常中間管理職になるには10年以上かかります。

また「配属リスク」も専門性が身につきにくいと思った一因です。

――官庁にはどんな配属リスクがあるのですか。

戸山:官庁では、2〜3年ごとにジョブローテーションがあります。異動希望を出すこともできますが、私が在籍していたころはほぼ希望は通りませんでした。

例えば私は毎年「他の省庁には現時点では行きたくない」と希望を出していましたが、他省庁出向となった経験がありました。同僚にも「子供ができたから、比較的ゆっくり働ける部署に行きたい」と希望を出したにもかかわらず、通らずにハードな部署に異動になった人がいました。

こうしたことがあったので、民間企業の方が裁量権があり、専門性も身につけやすく、自分の力で社会貢献しやすいのではという思うようになりました。

その思いが確信に至ったのが、ニューヨーク留学でした。

――どうして確信に至ったのですか。

戸山留学先のビジネススクールでの、世界中の優秀なビジネスパーソンとの出会いが大きなきっかけになりました。留学は転職目的ではありませんでした。しかし、海外のMBAで官僚時代には知ることのできなかった様々な仲間のキャリア観や人生観に触れたとき「このまま官僚を続けているよりもビジネスサイドでできることの方が大きい」と思ってしまったのです。

また官僚の働き方についても不安でした。留学前を振り返ると、長時間残業が当たり前、休日出勤や朝まで働き続けるのも日常茶飯事でした。特に自分に子供ができたときに「職場で第一線で活躍し続けるのは厳しい」と感じてしまいました。これも転職理由の一つです。

転職活動では数十人にOB・OG訪問!「おかげで投資銀行入社後のギャップはほとんどなかった」

――転職活動はどのように進めたのですか。

戸山:採用試験を受けたのは投資銀行、コンサルティングファーム、総合商社です。

転職活動としては、ボストンであったキャリアイベントに参加したり、エージェントに相談したり、あとはMBAで友達になったビジネスパーソンから会社を紹介してもらったりしつつ、可能な場合はSkypeで面接を受けるなどしていました。これが2019年の年明けごろです。

幸い留学2年目の春ごろには、日系の総合商社から内定をもらい、今勤めているところとは別の外資系投資銀行からのオファーもいただきました。

しかし実はその時期の私はまだアメリカ留学の最中で「ともかく一度は帰国して、官僚に戻ろう」と考えていました。

――本腰を入れて転職活動をし始めたのはいつでしたか。

戸山:アメリカから帰国してすぐでした(笑)。働き方改革などで改善されていた点は少なからずありましたが、やはり今後ずっと働いていける場所ではないと思ってしまったのです。そのため本格的に転職活動をしようと決心しました。

そして、アメリカのビジネススクールの先輩から今の外資系投資銀行の採用担当者につないでもらい、面接を何度か受けた後、オファーをいただいたというわけです。

――転職活動の中で、特に力を入れたことはありますか?

戸山:入社後のギャップをなくすために、民間企業についての情報収集は徹底的にしましたね。数十人にヒアリングしたと思います。

――すごいですね。どうやってそれだけの人数のヒアリングを実現できたのですか。

戸山:私が在籍していた官庁のOBやOG、ビジネススクールで知り合った人やその知り合い、大学時代の友人などに聞きました。直接会ったりSkypeで話したりして、投資銀行やコンサルティングファームの仕事内容、苦労したことなどを、これでもかというほどヒアリングしました。

おかげで投資銀行に入ってからも、入社後のギャップはほとんどありませんでした。

――ヒアリングした方々からは、どんなアドバイスを受けましたか。

戸山:官僚から外資系投資銀行に転職したOBからは「普通に働いていればそれなりに出世できる官僚と違い、外資系投資銀行は評価がシビアだから自分から積極的に動く姿勢が必要」というアドバイスをもらいました。

官僚と投資銀行の違いは「スピード」と「精度」。官僚をファーストキャリアで選んで後悔なし

――実際に投資銀行に入ってみて、官僚とのギャップを感じることは他にもありますか?

戸山:「仕事のスピード」と「仕事の精度」です。今いる会社は個人の裁量権が大きいので、そのぶん求められる仕事のスピードが官僚時代に比べて格段に速くなっています。

一方で、仕事の精度という面では、官僚時代の方が良くも悪くも全てにおいて高い精密さを求められていましたね。もちろん投資銀行は民間企業の中では仕事の精度はかなり高いですが、官僚が作成する資料は、国民や国会向けのものです。世に出た時点で、それが一次資料=事実になります。だからこそ内容や数字はもちろんのこと、一言一句間違いが許されませんし、確認作業に相当の時間をかけ、ハイレベルな方でも公表資料については一字一句確認することがしばしばです

投資銀行の場合、例えば提案資料を見せる相手はあくまでクライアントの方々で、資料はあくまで「提案」資料なので、クライアントの方々の必要としている情報を提供することが目的です。今の会社に入った当初は、目的の違いを認識しておらず「わからないところは仮定を置いてプロジェクトを進めていこう」と言われて、戸惑うことすらありました。

――働き方や生活面での変化はありますか?

戸山:働き方は大きく変わりました。官僚時代のハードさは尋常ではなかったので、今の投資銀行もかなりハードですが、民間企業としての残業規制がある分、忙しくもある程度は守られた中で働けていると感じています。また、現在だと在宅での労働環境がしっかりと構築できるようなシステムもあるので、かなり働きやすくなりました。

特にアナリストレベルだと、残業時間を厳しくチェックされるので、官僚のように「月100時間を超えても誰も気にしない」といった状況はありません。

生活面では、年収自体は3倍程度になったと思いますが、実は変化はあまりないかもしれません。同僚などと飲みに行くところが少し高級になったり、スーツのグレードが上がったり、タクシーを使うことが増えたりしたくらいですね。正確には、大きく変えないように意識しています。

――官僚になって良かったなという点はありますか。

戸山:たくさんあります。官僚の仕事は、官僚でなければ絶対にできないものばかりです。試験もありますから、誰もが経験できることではありません。

また転職する際に「官庁で働いていた」というブランドは、確実に力になってくれました。「官庁」というブランドがあることで、転職期間中、本当に多方面から声をかけてくださりました。

何よりもやはり、今までの経験やそこで得た人脈を振り返ると、私はファーストキャリアで官庁を選んだことについて一切後悔していません。

――官僚の人が転職をする際に注意するべき点はありますか。

戸山:官庁出身者ということで「おいしい話」が舞い込んでくることもあるかもしれませんが、おいしい話はむしろ、飛びついてしまう方が後悔することになると思います。それを防ぐには、最初からキャリアの着地点を自分で決めておいて、そこを軸に転職活動を進める必要があります。

軸が見つからずなんとなく転職したいだけなら、何らかの目的をもって選んだ就職先である官庁で働き続けた方が良いと思います。せっかく他ではできない仕事に携わるチャンスを得たのですから、慎重に判断してほしいです。

コラム作成者
Liiga編集部
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