ケース問題ではどう「思考」すべきか。プロによるケース面接対策 #03
2016/06/22
#戦略コンサルのケース面接対策

前パートの振り返り

前回のパートでは、「ラーメン屋の売上を推定し、その売上を上げる方法を考えてください」というテーマに対し、「ありがちな良くない例」の様になってしまうのは、「情報・視点を収集する」プロセスがないことが大きな原因であることと、この「情報・視点を収集する」プロセスは、「必要だ」と意識していてもなぜうまくいかない人が多いのかを示しました。

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前回のコラム:仮説思考の間違った実践とは|プロによるケース面接対策(2)

前パートのまとめ

・ケース面接では、情報の収集や考えの整理がないまま「仮説」という名の「思いつき」を元に話を進め、本来あるべき「仮説」の正しさを検証するプロセスを抜かしたまま議論を進めてしまう人が多い

・本来考える上で、まず思考を「発散」させ広く物事を把握する必要があるが、その時に「ツリー形状」という思考を「収束」させるツールを利用してしまうと、うまく思考を発散できない

・与えられた方眼紙には、面接官に「伝える」内容と、自身が考えるための「伝えない」内容の両方を書くべきなのに、書いた内容を全て話す前提で利用するため、思考の発散がうまくいかないことが多い

本記事の内容

今回の記事では、「どのようにケースを進めていくか」というテクニカルな話について、具体的な段取りの1例を示します。

前回の記事を読んでいることが前提なので、まだ読んでいない方はそちらを閲覧してください。

今回の例示を利用する上での注意点

この記事を読む中で気を付けていただきたいのは、「提示されるのはあくまで1例」であり、「具体的すぎるアドバイスであるため、コンサルタントによって大きく考え方が異なる」ことです。

そのため、具体例そのものだけでなく、「なぜその具体例が良いのか」という「抽象的」な意味合いを取得していただけると、汎用性が高くなります。

最初の3~5分で意識することは?

前回の記事の内容を踏まえて、実際の面接ではどうすべきでしょうか。

最初の3~5分で意識すること

・「最初の3~5分」の考える時間については、「情報・視点を収集する」プロセスのみ行えば十分 (今回の様に、「特定の企業名でない」ケースは、「情報」そのものよりも、「業界を見る視点・考え方」を中心に整理することになるでしょう。)

・「情報・視点を収集する」上で「最初の3~5分間」くらいは、仮説思考より総花的な思考が不足していないことを意識して行う

・「考える内容の幅を狭めない・思考を発散させる」ため、いきなり「ツリー形状」による整理から始めるのは避ける

私であれば、面接官に話さない内容を書くスペースを方眼紙上に用意し、最初の3~5分間で下記のようなことを書きます。

最初の3~5分間で書く内容のイメージ

【視点/軸の整理】

・費用   「固定費」   「変動費」   ※八重洲は地価が高い

・メニュー   「ラーメン」   「トッピング」   「ビール」   「餃子」   etc…

・回転時間   11時~22時

・時間帯   「昼休み時間(11-13時)」   「遅めのランチ(13-15時)」   「夕食時間(17-20時)」   「夜食や2次会時間(20時以降)」

・ピーク(ランチ)の客数増加    「客の回転を上げる    (準備&食事時間を減らす)」   「一部の方には、    ピーク外の時間に移ってもらう」

・累積利用有無   「トライアル」   「リピート」   etc…

・利用回数0の理由   「店の存在を知らない」   「店の存在は知っているが、    入らない」

・客層   「サラリーマン」   「移動/旅行客」   「買い物客」   「近所の住人」   etc…   ※サラリーマン率が高いエリア

・サラリーマンランチ特徴   「12-13時が大半」   「自由なタイミングで、    ランチ時間取れる方もいる」

・ラーメンを食べる機会   「昼食」   「夕食」   「2次会や飲み会後の〆」   「ラーメンマニアの食べ歩き」

・顧客属性   「男性 or 女性」   「若者 or 中年 or 年配者」   ※若者や男性が多い

・ラーメンが嫌われる理由   「高カロリー」   「スープが飛び跳ねて服が汚れる」   etc…

・競合飲食店   「居酒屋」   「牛丼などファストフード」   etc…   ※居酒屋率が高いエリア

・販促方法   「店の近くでチラシを配る」   「会社にチラシを持っていく」   「利用者に、    次回使えるクーポンを渡す」

・席の形態   「カウンター席」   「テーブル席」

【面接官との議論の方針】 ・売上 = 客数×客単価

・客数 = 席数 × 回転

・回転 ⇒ 時間帯別に席の占有率を算出

※「視点/軸の整理」については、あらゆる視点を網羅することは時間的に不可能なので、できるところまでで問題ありません。

3~5分で最終結果まで算出すべきか

まず、後半の【面接官との議論の方針】について言及します。

よく最初の3~5分で最終結果の「売上の数値」まで算出する方もいますが、たかだか3~5分で書いた回答は、考慮すべき重要な問題解決のプロセスや多様な視点が抜けており、論理的でないだけでなく面接官から質問しにくい回答になります。

前回の「タクシーの台数」推定の記事でも述べましたが、ケース面接の全時間30分に対し、考える時間は3~5分程度しかなくきわめて短いです。

それを考えれば、簡単な考え方の方針程度でも十分なはずです。今回はフェルミ推定が前半にあることから、このような「大まかな分け方」程度が考え出せていれば十分でしょう。

あえて、ラフに視点の整理をしよう

前半の「視点の整理」の部分を見てください。何を感じたでしょうか。


・個別の各視点を構成する要素を見ると、「etc…」と書いてごまかしてあるが、抜け漏れがかなりある ・非常に似た視点/軸も存在しており、整理されていない。


上記の様に、「かなり雑/粗い考え方をしている」「ぜんぜん論理的でない」回答だと感じたのではないでしょうか。

しかし思い出していただきたいのは、これは「思考を発散/広げる」ために行われており、また「相手に伝えることを意図していない」ということです。

もちろん、面接官に「伝える」内容は論理的である必要がありますが、その伝える内容を考える時点では特に論理的である必要はありません。

つまり、この段階では、必ずしも他人から見て論理的(全体感、MECE)であると思われる必要がないことになります。

3分間でした思考をどう活かすか

ラフな思考は、「残りの25-27分」を進めていくうえで非常に助けになります。

例えば、今回のお題で面接官とフェルミ推定をするうえで、すぐに「客単価」を計算する必要が出てくるでしょう。

客単価の場合、おそらく細かい計算をせず、いったん1000円などの一定の値を置くことになるでしょう。しかしこの時、

「私が知る限り、ラーメン1杯だいたい1000円程度なので、客単価は1000円とします」

と定義すると、回答者に全体感があるかどうか疑わしくなります。

この場合は、

「サイドメニューなどいろいろありますが、いったん計算をしやすくするため、客単価を1000円と置きたいと思います」

と回答する。もしくは面接官とのやり取りで、


回答者 「いったん客単価を1000円と置きます」

面接官 「それ本当?」

回答者 「ラーメン以外にサイドメニューを頼む方もいますが、いったん簡略的にすべて合計で1000円とします」


といった議論をすれば、全体感を示せるでしょう。

この時、様々な視点で考える時間を持たず客単価を考えると、サイドメニューのことを思いつくのが困難ですが、ラフに視点を書き出し思考を発散させておけば、思いつきやすくなります。

別の例を述べると、閉店時間の仮定を22時とするのは、居酒屋需要が多い八重洲という土地を考えると若干不自然な仮定です。しかし、ラフな思考の発散により、競合店の中で「居酒屋」という項目が出ていれば、そのことが頭の片隅にあるため、22時閉店が不自然だと気付きやすくなります。

その意味で、思考を発散させて考えた視点は、随時更新していくものです。

例えば、最初は閉店時間を22時としましたが、競合に居酒屋が多いことを思いついた時点で、この閉店時間をもっと遅く修正すべきことに気付くことができるでしょう。

また各時間帯の回転率を考える時、需要のパターンを考えることになるため、売上向上策につながる新たな「視点」を思いつく可能性が高いです。その時思いついたものはメモを取っていきましょう。

ラフな思考は施策立案にも活かせる

この「思考の発散」による、「考え方の視点・軸」の整理は、売上向上策を考える上でも有効です。

まず前提として、売上向上策は「問題解決プロセス」を経たものである必要があります。

例えば、今回のケースは、「八重洲」に店があることから、

「家賃(固定費)が高い」 ⇒「普通の立地の飲食店より、多くの売上を上げる必要がある」

という現状分析が可能になります。

売上を上げるには客数か客単価を上げる必要がありますが、単純に客数を上げても、ピークのランチ時間は満席であるため、

「ピーク時間外の利用客がある程度必要」

といった、重要ポイントを導出できます(紙面の都合上、若干内容/全体感を省略させていただいております)。

この考えには、「費用(固定費)」のような、フェルミ推定の流れでは考え付きづらい視点が使われています。このような視点は、一度思考を発散させないと導き出すのは困難です。

また、現実問題として「改善策」を考える段階で、需要やニーズといったマーケティング的考えを入れ込むことになりますが、上記の例における「累積利用有無」から後ろは、すべてマーケティング的観点を深めるのに役に立つものであり、多様な選択肢から最適な改善策を考え出せます。   このように、いったん「論理的な考え方」を無視した「大雑把な考え方」を行うと、頭の中にいろいろな考え方の視点が出ることで全体感が頭の中にできてくるため、各ステップで面接官からの質問があるたびに、その全体感を元に正しい視点を考え出せる確率が高まります。

一方、この様な考えを広げる機会を持たず、各ステップや面接官からの質問があるたびに、正しい視点をしっかり考え出すことは、そもそも「頭にまったく全体感がない」段階では難易度が高く、また面接中は「焦り」もあるため現実的ではないでしょう。

「『伝える』プロセスは論理的手順を踏んでいる必要」があるが、「考えるプロセスでは、まず初めは論理性を無視し、大雑把に考えることが思考の発散の妨げを防ぎ、最終的に全体感のある『論理的な回答』を導くことができる」ということを覚えておいてください。

この実践方法は、今回の例以外に様々あると思いますので、自分に合ったやり方を探してみてください。

なるべく、「2軸」のマトリックスで「考える」「伝える」ようにしよう

少しテクニカルな話ですが、ここで「2軸」のマトリックス(2つの視点の組み合わせ)で考えることの重要性を、「時間帯別の回転の算出」を例に提示したいと思います。

これまでに、いろいろな意味で「多くの軸や視点」を持って考えることの重要性を記載してきました。皆さんご存知の通り、一般的に言って世の中の事象は様々な軸に影響されており、非常に複雑です。

しかし、それを完全に表そうとすると「30次元のマトリクスを書く」といったことになりますが、3次元を超えているため相手に伝えることは困難ですし、そもそも自身の頭の中もどの軸が重要なのか整理しづらくなります。一方、1軸(今回の場合、時間軸)だけでは、あまりに事象を単純化しすぎていると思われます。

では、「2軸」であればどうでしょう。

これは紙に書ける内容であり、相手に伝えやすくなります。また、2軸に絞っている時点で自身が考える「重要な軸」を選んでいるはずであり、また、1軸に比べて表現力が大きく高まっています

例えば、今回の題であればおそらく「時間軸」に加え、「需要を整理した何らかの軸」が重要かつ適切でしょう。そうすれば、需要側を各時間帯に応じてその都度言及するのに比べ、需要軸の整理をする段階で需要の漏れを防ぎ、面接官にも考えていることの全体像が示しやすくなります。 (これは、前回の「タクシー台数の推定」にも当てはまります。性「年代の軸」と「需要の軸」の2軸のマトリックスを利用すれば、面接官に伝わりやすくなるでしょう。)

まとめ

今回は、テクニカルな手法を大きく2つ示しました。しかし、最初に述べたように手法の具体例そのものだけでなく、「なぜその具体例が良いのか」という抽象的な意味合いを取得していただけると、理解が深まります。

特に、「あえて、ラフ(論理性を無視)に考え方の視点・軸の整理をしよう」の部分は、「思考の発散を、可能な限り妨げない」ということが重要であるため、方眼紙への書き方などの細かい話は、自分に合った違うやり方があると思われます。手法という「結果」だけでなく、なぜその手法が良いかという「理由」を理解していただければと思います。

おわりに

いかがでしたでしょうか。ケース面接の最初の3分をどのように使えばいいか、イメージが湧いたのではないでしょうか。3回にわたるコラムで、内容的にもかなり濃いものだったと思います。今後ケース面接を受ける際に参考にしていただけると幸いです。

コラム作成者
Liiga編集部
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