「新卒から年収格差10倍」「降格人事は日常茶飯事」元TikTok中国本社社員が語る、中国IT業界の“超・結果主義”なキャリア事情
2020/09/20
#ベンチャー・IT業界研究
#BATH・中国IT企業での働き方
#新卒内定者必須コラム

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TikTokの運営会社であり、CBinsightが2019年1月に発表した「メガユニコーン」リストで堂々の世界1位に輝いたByteDance。今回はそのByteDanceの中国本社に新卒で入社し、現在は日本でAIエンジニアとして活躍している川内光さん(仮名)に取材いたしました。

Liiga読者の中には、米国・中国のBigTechやユニコーン企業で働いてみたいと考えている人も、少なくないのではないでしょうか。

しかし川内さんは「そもそもBigTechやユニコーンというだけで、そこに転職したいと考える発想がアウト」と言い切ります。

川内さんに「中国ユニコーン企業のキャリア事情」「日本のIT企業と中国BigTechの違い」「海外のBigTech・ユニコーン企業転職志望者へのアドバイス」についてお話を伺いました。

〈Profile〉
川内 光(仮名)
国内IT企業 AIエンジニア
日本の大学を卒業後、中国の大学院に進学。卒業後、新卒でエンジニアとしてByteDanceに入社する。2年弱の勤務ののち、日本に帰国。現在は国内でAIエンジニアとして活躍中。
※記事の内容は全て個人の見解であり、所属する組織・部門等を代表するものではありません。


【目次】
・「新卒から年収格差10倍」「降格人事は日常茶飯事」中国の人事制度は“超・結果主義”
・「社内の隣のチームに負けるな!」「競合転職もニックネームで切り抜ける」中国の激しい昇進・転職事情
・ByteDanceが超ハードでも楽しかった理由は、「結果を出すために100%の時間を使える」環境だから
・ユニコーン企業に向いていない人は、「ユニコーン企業というだけで転職したいと考えている人」

「新卒から年収格差10倍」「降格人事は日常茶飯事」中国の人事制度は“超・結果主義”

――まず、川内さんはByteDanceにはどのような経緯で入社されましたか?

川内:まず日本の大学を卒業後、大学院は中国に留学していました。ByteDanceには中国の大学院時代にインターン生として入社して、そのまま正社員として採用されました。当時のByteDanceの従業員数は1,500人程度。今は5万人を超えていますから、同社がちょうど伸び盛りの時期に入社したことになりますね。

――ByteDanceではどのような仕事をされていましたか?

川内:ByteDanceが最初のグローバルプロダクトとしてリリースしたニュースアプリ「TopBuzz」の動画版「BuzzVideo」のレコメンドエンジンのアルゴリズムエンジニアをしていました。

――中国のユニコーン企業の人たちは、どのような働き方をしているのでしょうか?

川内:一言だと、中国のユニコーン企業はどこも「徹底した結果主義」が浸透していますね。

例えば中国のIT業界の就職活動は、まず3ヶ月の長期インターンをしないと正社員になれません。そしてインターンといっても、仕事内容は正社員と変わりません。私もインターンの時から本番環境のデプロイメントを担当していました。

――日本の就職活動やインターンとは大きな違いですね。

川内:そうですよね。ただこの採用方法は「非常に合理的」です。

中国のインターンの場合、まず採用を決めるのも、正社員への登用を決めるのも、入社後の上司になるのも全て「現場の同一人物」です。実力は分からないけど1度人事がポテンシャルで採用して、配属先もどこに決まるか分からない、日本とは大きな違いがありますね。

そして新卒でも完全に実力連動で評価されます。同じ新卒エンジニアでも、新卒入社時点で年収は最高10倍の格差がありましたね。みんなバラバラでした。

――中国のユニコーン企業の場合、入社後の昇進はどのように決まりますか。

川内「完全成果主義」ですね。

実力に応じどんどん昇進し、給料も上がります。年齢も関係ありません。そもそも会社の平均年齢は26歳で、僕の上司は私と同い年でしたね。その人は学部卒でそのまま百度(バイドゥ)に5年いてByteDanceに移ってきた方でした。

しかしその分責任も大きくなり、昇進するほど失敗したら厳しい評価を下されます。

例えば日本では一旦昇進すれば降格しにくいじゃないですか。しかし「中国では降格人事は日常茶飯事」なのです。例えば僕がいた部署はトップが2年間で4人変わりました。短期間で結果が出せなければ中国では仕方ありません。

あと、単純に権限を奪われることもよくありますね。

「今まで君の責任範囲はこのプロダクトの全部だったけど、今後はこの部分だけね」とか、「今後は、君が彼に報告する立場になってね」とか。かなり露骨です。会議で上司から名指しで批判されることもあります。

しかし、降格させられたら転職する人も多いですね。自分の能力と環境がマッチしていないと分かれば、すぐに環境を変える決定をするのです。

――その点も含め、合理的なキャリア観ですね。

「社内の隣のチームに負けるな!」「競合転職もニックネームで切り抜ける」中国の激しい昇進・転職事情

――ByteDanceの人事評価では、特にどのような点が重視されますか。

川内これも全て成果次第です。完全に結果主義です。

例えばエンジニアなら「リリース回数」が評価で重視されます。とはいえ、やみくもにリリースすることはできません。なぜならリリースが許可されるためには、事前のABテストなどの検証を通じて「リリースする数的価値がある」と認められる必要があるからです。

しかもチーム間で競争があるんです。成果を出したチームにしか評価と権限が回ってこないので、日々社員同士で成果を出そうと争っているんですね。上司によくこう言われました。

「お前が出遅れてあのチームに先にリリースされたら、もう面白い仕事を取ってこれないぞ!」

「この仕事をお前のために頑張ってとってきたぞ。でもこの仕事で結果出せなくて、隣のチームに結果出されたら、もう面白い仕事は取ってこれないぞ!」

――チームワークを重視する日本のエンジニア文化とは、かなり違いますね。

川内:チームワークはあまりないですね。ただ仲は悪くないです。社員はみな聞いたら教えてくれますし。ただ誰もが「結果を出す」ということに集中しているだけなんです。みんなが結果に集中しているから、同じ方向は向いていますね。

――そんなに競争がすさまじいと、中国では転職も激しそうですね。

川内:その通り、転職も頻繁に起こります。基本的に中国では「転職はキャリアアップ」としてみなされています。基本的に転職の選考に転職回数は関係なく、「何ができるか」だけが純粋に評価されます。

だから降格したら会社自体を変える人が多いですね。そして他社に引っこ抜かれるときはものすごい金額でヘッドハントされます。

これは裏話なんですが、本当は「競合企業には2年以内に移動してはならない」といったルールが一般的にはあるんですけど、競合他社に転職するために本名とは異なる英語風のニックネームで周囲に呼ばせていたビジネスマンもいたと思います。

ByteDanceが超ハードでも楽しかった理由は、「結果を出すために100%の時間を使える」環境だから

――ByteDanceでの2年間の感想は、いかがですか。

川内:基本的には楽しく充実した時間でした。労働時間が長かったり、目標が厳しかったりとつらいこともありましたが。

中国のIT企業には「996」という造語があるのですが、これは「朝9時から夜9時まで、週6日働いている」という意味です。これだけ聞くと単なる“社畜”ですよね(笑)。

目標に関しても、前述のとおり徹底した結果主義なので、与えられたものは非常に厳しかったです。達成しても新しい目標がすぐ与えられるので、終始山を越えたら次の山が現れる、という感覚でした。

――それでも楽しかったと言える理由は何ですか?

川内:まず、ByteDanceで働く最大のメリットは「常に世界最先端の技術に触れ続けられること」でした。そして福利厚生が非常に充実してました。

ByteDance中国本社内には、1日3食しっかり食べられる食堂がある他、フィットネスジムも完備されています。加えて会社の1.5km圏内に住んでいる人には住宅補助金が支給されます。

独身の男が金を使うとなると食費・家賃がメインになりますが、それがほとんど必要ない。遊びに行く時の交通費も、向こうはタクシーが安いのであまりかからない。ほとんどお金を使う機会がないので、経済的なプレッシャーは皆無でした。

あと、「結果を出すために100%の時間を使える」のはとても大きかったですね。

――「結果を出すために100%の時間を使える」というのは?

川内:「上司に気に入られておかなきゃ」とか「根回しをしておかなきゃ」といったような、本来必要のないことに時間を割かなくていいということです。

従業員全員が良い意味で「結果を出すこと」しか見ていないので、そのために必要なことなら誰も何も文句を言いません。やるべきことに集中していればいいので、とても働きやすかったです。

ユニコーン企業に向いていない人は、「ユニコーン企業というだけで転職したいと考えている人」

――ByteDanceを辞め、日本に戻ってきた理由は何ですか?

川内:ゼロイチの経験を積みたかったからです。

常に世界最先端の技術に触れ続けられることはとてもエキサイティングでした。しかし、あんなに成長したByteDanceもかつてはたったの5人で始まった時期があったことを思ったとき、自分もそういったフェーズを経験してみたかったんですよね。

そんなことを考えているタイミングで、今いる会社のCTOから誘いがあったので「一歩踏み出してみるか」と転職を決めました。

――日本で働いてみて感じる、日中の違いはありますか?

川内:良い意味でも悪い意味でも「日本は自分の仕事だけに集中できない」という点ですね。

先ほど申し上げたように、ByteDanceにいた頃は自分の目標に向かって100%の時間を使えていました。しかし日本の企業では仕事に人間関係がダイレクトに影響するので、社内コミュニケーションに大きな労力を割く必要があります。

また自分の仕事だけでなく、周辺の色々な仕事もしなければならないので、その分ロスが生まれます。ByteDanceしか経験のない私にとって、こうした日本の働き方はカルチャーショックでした。ただエンジニアとしてポジティブな面も色々あります。

――ポジティブな面とは?

川内:日本の企業であれば業務などを通じて他の領域の勉強ができます。

中国のエンジニアの中には「特定の分野についてはすさまじく詳しい一方で、すぐ隣なのに違う分野になると全くわからない」という人も少なくありません。与えられた領域での数字を厳しく求められるので、他の領域の勉強をしている暇がないのです。

この点は日本的な働き方のポジティブな側面かもしれません。

――海外のユニコーン企業やBigTechに向いている人、向いてない人の特徴はありますか。

川内ユニコーンやBigTechというだけで「そこに転職したい」と考えている人は向いていません。そもそも、その発想自体を変えたほうがいいと思います。

「最新の技術に触れられるから」とか「キャリアにハクがつくから」といった考え方をしていると、仮に入社できても続かないと思います。

――それはどうしてですか?

川内:「ユニコーンだから」という理由で転職を考えている人は、どこかで「今の会社だから自分はダメなんだ」と考えているように感じるからです。これは環境を言い訳にしているだけですよね。

それだとユニコーンやBigTechに行っても、また何か言い訳を探して辞めることになるでしょう。むしろ自分の勤め先を「いかにユニコーンにするか」という発想の方が健全です。

コラム作成者
Liiga編集部
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