今回は、世界の3大戦略コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、ベイン・アンド・カンパニー(以下、MBB)(※)で、かつてマネージャーまで登り詰めた経験のあるおふたり、城田孝宏さん(仮名)と木山優輔さん(仮名)をお招きして、対談していただきました。
前編となる今回は、「MBBに入った当初の働き方や教育環境」「MBBそれぞれのカルチャーの違い」「MBBの面接官が見ているポイント」など、外資系戦略コンサルに入る前に知っておきたいことについてお話しいただきました。
(※)MBB:マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストンコンサルティンググループ、ベイン・アンド・カンパニーの世界3大戦略ファームの総称。
・戦略コンサル転職組が生き抜くコツはアンラーニングとキャッチアップ。「これで月数千万取るのか!」という顧客の罵声も乗り越えた
・マッキンゼーは「プロダクトファースト」、BCGは「クライアントファースト」、ベインは「リザルトファースト」
・マッキンゼー・BCG・ベインの面接官が見ているのは「CPU」「チームワークスキル」「クライアントワークスキル」
戦略コンサル転職組が生き抜くコツはアンラーニングとキャッチアップ。「これで月数千万取るのか!」という顧客の罵声も乗り越えた
――まずはおふたりの経歴について簡単に教えてください。
城田:大学時代に取得していた会計士資格を利用して、新卒で監査法人に入りました。その後エージェントを通じてMBBのひとつに転職し、7年ほど働きました。現在はPEファンドで働いています。
木山:私は新卒で日系大手企業に入社して、そこで5年ほど働いてからMBBのひとつに転職しました。5年ほど働いた後、今いるスタートアップに経営企画部長として入社し、現在に至ります。
――MBBではどんなプロジェクトに携わっていましたか。
城田:最初1年ほどは1つの案件にかかりきりになっていましたが、そのあとは半年以内のプロジェクトに10個ほど携わってきました。業界や内容は色々ですね。
マネージャーになってからは、面接官として週に2人くらいのペースで面接をして、採用にも関わっていました。
木山:私は5年間で約20のプロジェクトに関わりました。業界や内容は城田さんと同じで色々です。ITも製造も不動産も金融もやりましたし、全社戦略からM&A周り、コスト削減やデューデリジェンス、トランスフォーメーションもやりました。
あと私も、面接官として採用に携わることもありましたね。
――入社1年目はどのような働き方をしていましたか。
木山:最初の半年間は大変でしたね。なぜなら、転職組はそれまでコンサルをやったことのない人間が、ずっとやってきた人たちといきなり働くことになるからです。
ですから、前職までの知識や価値観を取捨選択しながら修正していく「アンラーニング(unlearning)」と、新しい知識と価値観の「キャッチアップ」ができないと、優れたパフォーマンスを発揮できません。
転職組の中には1年を過ぎてもなかなかうまくいかずに苦戦している人もいましたが、私の場合は半年ほどでそこから抜け出すことができました。そのあとからは特に苦労することなく、楽しくやれたかなと思っています。
――城田さんはいかがでしょうか。
城田:私のコンサル1年目は特殊なケースだと思いますが、入ってすぐに、4人だったチームがクライアントの指示で「おまえとおまえは要らない」と言われて私ともう一人の新人2人だけになりまして。そのまま新人2人プロジェクトの状態が1年半続きました。
私のいたファームは基本的にチームでプロジェクトを動かします。新人ならなおさら他のチームメンバーが必要なのですが……。
しかも私たち2人だけ残したといっても私たちにも厳しかった。「お前ら2人でこのアウトプット1つで月数千万円取るのか!」と罵声を浴びせられたこともありました。新人2人にしたのはあなただろと思ったりしたんですけどね(苦笑)。
――なるほど、それは大変ですね。
城田:大変でした。ですが、そのぶんコンサルの仕事を学ぶには良い経験にもなったと思います。
そのプロジェクトは新事業の立ち上げに関するもので、企画から売り上げを作るところまで、30〜40人のクライアントの事業部をドライブしながらやり切ったとことは、その後の仕事にも大いに役立ちました。相手が役員でもなんでもなんとかなるんだという自信がつきましたね(笑)。
特に私は監査法人からコンサルに来たので、事業会社での経験がありません。そのため、1社にかかりきりになって事業運営に携われたのは大きかったです。
――中途でシニアアソシエイトとして入った場合、新卒と何か期待値は変わりますか。
木山:変わりませんね。新卒2年目と同じ期待値です。ただ一旦パフォームして昇進すると、そこから個人ごとに期待値が変わってくるという感じです。
――おふたりはどうしてMBBに転職しようと思ったのですか。
城田:立派な理由でなくて恐縮なのですが、MBBに転職したのは将来外資系PEファンドに入社するための最短ルートだったからです。
昔ある小説を読んで、外資系PEファンドで自分なりの信念を持って働く主人公に強く憧れました。本音を言えばすぐにPEファンドに入りたかったのですが、当時監査法人で働いていた私ではキャリア的にハードルが高かった。
だから一度MBBでキャリアを積んでから、目的のPEファンドに入ろうと考えました。
木山:私は日系大手で経営企画などのコーポレート系の仕事に携わるなかで、GAFAMの台頭で私がいた企業が最先端から最後尾にどんどん凋落していったのがきっかけでした。
経営企画の目から見ていると、競争力を失った原因は外部環境の変化を捉え対応することのできない経営にありました。「日本企業がグローバルで競争力を取り戻すには、経営を変える必要がある」と痛感したのです。
しかし日本の大企業で経営を変えるとなると、下手をすれば数十年かかります。それなら外部から経営に携われて、会社のトランスフォーメーションの経験も積める戦略コンサルにいこうと考えたのです。
マッキンゼーは「プロダクトファースト」、BCGは「クライアントファースト」、ベインは「リザルトファースト」
――実際に働いてみて、入社前後で感じたギャップや特有のカルチャーはありましたか。
城田:驚いたのは「想像以上に人を育てる環境が整っている」ことでした。外資系戦略コンサルは厳しいイメージがあるじゃないですか? 予想外にみんな面倒見がいい。人によっては「うざい」と感じるかもしれませんね(笑)。
自分からチャンスをつかみにいこうとか、インプットを取りにいこうという人に対しては、先輩も上司もたっぷり時間を使ってアドバイスをしてくれます。よく自分のプロジェクト以外の人から、ご飯をおごられながらアドバイスをもらいましたよ。みんな忙しいと思うんですけどね。
ファームも社員に対して成長することを求めますし、意欲のある人間には全員が立場に関係なく貢献していこうというカルチャーがありました。
木山:私も充実した教育環境には驚きました。個人の成長へのサポートが本当に手厚いのです。
一般的に戦略コンサルというと「自分ではい上がってこれない人間はふるいにかけられる」という厳しいイメージがあります。
確かにはい上がる姿勢を見せない人間には何もしてくれない場所なのは事実です。しかしやる気を見せる人間には、誰もが積極的に手を差し伸べてくれます。
城田:あとは評価が極めてフェアであるという点も、良い意味で驚きました。会社に貢献をした人が公平に評価され、どんどん機会を得ていく仕組みがあります。
最初はすぐにPEファンドに転職するつもりでしたが、結局7年も勤めてしまったのは、そういうところに居心地の良さを感じていたせいですね(笑)。
――「教育環境」は共通点が多いようですが、逆にMBB各社の「カルチャー」はどうでしょう。
城田:マッキンゼーは強いリーダーシップでコンサルティングをしていくイメージがありますね。クライアントファーストというより自分たちが正しいと思ったことを貫くイメージです。
ベインは自分たちのやり方にこだわるというよりは、クライアントの利益にならないと判断したことはやらないという印象がありますね。たとえばスコープが違うと思ったら、そうはっきり伝える感じです。
またBCGは、クライアントのやりたいことを優先してプロジェクトを進めるように思います。スコープを変えることを強みにしている部分があるのでしょう。「大事なことが変われば、スコープも変わるでしょ」と。
木山:一言でまとめると、マッキンゼーは「プロダクトファースト」、BCGは「クライアントファースト」、ベインは「リザルトファースト」というイメージですね。
ただし、各社創業当時からのDNAを受け継いでいるだけで、良い悪いはないと思います。好き嫌いはあるかもしれませんが(笑)。
――ちなみに他の外資系戦略ファームのイメージはどうでしょう。
城田:A.T.カーニーは代表が若く小さいので勢いがあって、自由だなというイメージがあります。副業をしている人も多いですよね。チーム編成は完全に個人商店で、横のつながりはあまりなく、連携しないイメージですね。MBBとはこのあたりは若干異なりますかね。
木山:ローランド・ベルガーは体育会系というイメージです。しっかりした方でハードワーカーが多いイメージです。
マッキンゼー・BCG・ベインの面接官が見ているのは「CPU」「チームワークスキル」「クライアントワークスキル」
――おふたりとも面接経験が豊富とのことでしたが、MBBの面接官は応募者のどういったところを見ているのでしょうか。
城田:「自分のプロジェクトにアサインした時にパフォーマンスを発揮してくれるイメージができるかどうか」をマネージャーの立場から見ていますね。
別に最初から能力が高い必要はないと思っています。「自分がサポートすることで最終的に結果を出せる人なのか」を見ています。だから面接官である私との議論の中で自分の考えを深化させられる人なのかを重視します。
またその時の面接がダメでも、のびしろを感じたら面接の回数を増やしたり、合格を出したりします。
木山:共通するかと思うのですが、私は「CPU」「チームワークスキル」「クライアントワークスキル」の3つを見るようにしていました。
特に見ているのは「CPU」、すなわち「地頭」です。例えば何かを説明するときに、論理構造を理解したうえで順を追って話せるのか。
あるいはソリューションや仮説について、自分の経験や知識をもとにしつつ、わからない部分を一定の想像をもとにリアリティーをもって話せるのか。ここが一番大切です。
「チームワークスキル」というのは、周囲を巻き込んで何かを成し遂げるスキルです。これには自己成長力も含まれます。だから面接官をするときは、前回の面接のフィードバックをもとに、その時までにどれだけ改善できたのかという点も見ていました。
「クライアントワークスキル」はクライアントの前に出せるような人材か、あるいはクライアントの意見をもとにしながらプロジェクトを進められるかというところです。といっても、一定の社会人経験を積んできた方々で、このスキルで不合格になる人はあまりいませんね。
城田:ちなみに面接官によってケースの難易度は少し違うと思います。
他の人の面接の話を聞くと、「聞いてる本人のお前はそれ答えられるの?」と思ったりする時もありました。
また、面接が初めての時に上司の面接に同席してやり方を学んだんですけど、僕が同席していたからかもしれないんですけど、ものすごく厳しかったんですよね! びっくりしました(苦笑)。 その上司の面接に3回同席したのですが3人とも落ちていましたね。僕は5割以上通しているのでゆるいんだと思います。
――専門性が問われるようなことはないのでしょうか。
城田:採用の枠によります。一般的な採用枠なら、専門性が強く問われることは少ないと思います。
一方で個々のプラクティスやオペレーション、トランスフォーメーションのための採用枠の場合は別です。こちらの面接の場合は、コンサルタントとしてパフォーマンスを発揮できるかどうかよりも、専門家として知見を提供してくれるかどうかがメインです。そのため専門性がなければ採用にはなりません。
木山:結局入社後にパフォームしない人は「CPU」か「オーナーシップ」「自己成長力」が不足しているんですよね。だからCPUのところは戦略コンサルの場合、面接でしっかり見ています。
(後編に続く)