ハーバードMBA留学記(4):「完璧なキャリアなどない」。2020年卒業生が現地で得た4つの学び(後編)

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2020年5月に幕を閉じた、私のハーバード・ビジネス・スクール(HBS)への留学生活。前回は約1年9カ月のMBA課程で経験した苦労や失敗から、「自分のポテンシャルを信じて努力をすることが大切」「『行動』が評価される」といったことについて述べました。今回は「行動」の大切さをもう少し掘り下げるとともに、残る2つの学びを紹介したいと思います。

〈Profile〉
才木貞治(さいき・さだはる)
京都大学卒。大手広告会社の東京本社に入社後、6年間営業を担当。その後、3年間インド・バンガロールに赴任を経験。2018年8月から2020年5月までHBSに在籍。ソーシャルインパクトとアフリカビジネスに想いを馳せる、おっさん思春期真っ只中の30代。

「空気を読む」ではなく「空気を作るべく行動する」。マイノリティが世界で活躍するために

前回、イスラエルでのグループワークで「空気を読む」というアプローチをとった私の失敗体験を紹介しました。その後、別のいくつかの授業においても、テストの代わりにチームで課題を提出することがありました。仲の良い友人たちとのプロジェクトもありましたが、ほとんどは、たまたまその授業で同じになりそこで初めてチームを組んだアメリカ人や他の留学生たちとの共同プロジェクトでした。

イスラエルのプロジェクトでの反省を受けて、私は「空気を読む」のではなく、なるべく「空気を作る」側になろうと考えたのです。

喋りの力だけでメンバーを引き付けるようなリードができればよいですが、私にはそれは難しかったため、別の方法でいかに「マウントをとる」かを考えました。具体的には、たとえば打ち合わせのスケジュール調整をしたり、毎回のアジェンダを設定してミーティングをリードしたり、ディスカッションを円滑に進めるためのテンプレートを用意していったり、締め切りがあればメンバーにリマインドしたり、といったごくごく基本的なことです。

しかし、それだけでチームメンバーは私の発言に耳を傾けてくれましたし、チームリーダー的な役割を率先してやろうとするカタコトの日本人を、バカにすることなく、むしろ敬意を払ってくれたように思います。ふたを開けてみれば、このように、チーム課題において意識的に「行動」した授業はすべて、カテゴリー1という上位成績を頂くことができました。 description

Peer Evaluationが評価の一部にあったものもなかったものもありましたが、おそらく、今回はイスラエルの反省を生かし「行動」をしたことで良いPeer Evaluationをもらえただけでなく、マイノリティである私が積極的に行動しリードすることで、それがメンバーを刺激してチームとしてのアウトプットにも良い影響を与えたのだと思っています。

チームの「空気を読む」のではなく、チームの「空気を作る」ために「行動」する、そしてその「行動」は常に評価を得る―。この2つ目の学びは、自分がマジョリティ側の日本を飛び出してマイノリティとなりながら世界を舞台に活躍するための、大切な要素だと感じています。

心揺さぶられ、時に涙が流れる場面も。率直な議論がリーダーに必要なVulnerabilityとEmpathyを育む

3つ目の学びは、「リーダーに必要なのはVulnerability(弱さや脆さ)とEmpathy(共感、感情移入)である」ということです。

HBSの授業の特徴の一つは、ビジネスに関わるあらゆるテーマを幅広く扱うところです。ビジネスは人によって成り立っているものなので、そこには人の価値観や人生観に関わるテーマも含まれます。代表例が1年次の必修科目であるLEAD(Leadership and Organizational Behavior)やLCA(Leadership and Corporate Accountability)ですが、2年次の選択科目も含めると多くの科目で、いわゆる「知識やスキル」ではなく、「リーダーとしての在り方」「人としての生き方」に関わるような授業がありました。

これらは、知識やスキルの習得以上に大切な、今後のキャリアや人生において投げかけられるであろう「答えのない問い」を、数多く我々学生に提示してくれました。

例えば、LEADのとある授業では、HBSで学んで10-20年が経ったアルムナイ(卒業生)から匿名で寄せられた近況を題材に学ぶ、というものがありました。ワークライフバランスの問題、結婚や出産によるキャリアチェンジや、子供の病気、配偶者との離婚や死別など、誰にでも起こりうる「人生の変化や壁」を、どうアルムナイ達が乗り越え、あるいは折り合いをつけながら前に進んでいるかを知りました。

プライベートライフでの変化がどうキャリアに関わるのか、その時、自分はどうあるべきなのかを考えさせられました。

また、LCAでは、汚職や不正、人種や性差別、LGBTQと宗教の問題など、センシティブなテーマが多々ありました。そしてその都度、クラスの中にいるそのイシューと関わりが深い学生からの勇気を振り絞った経験談や、それに応えるような魂のこもった意見が飛び交う、熱いディスカッションを目の当たりにしてきました。 description

「クラスルームで話したことはクラスルームに残していく」というルールがあるため、詳しくはここで書きませんが、そのリアルさや熱気・緊迫感はすさまじく、時には涙を流すセクションメイトすらいました。私自身、心を揺さぶられることが多くあり、終わった後もクラスの友人と議論を続けたり、家に帰ってからも妻と議論したりしました。

いま思えば、我々「いい大人」たちが、出会ってまだ1年にも満たないバックグラウンドも国籍も宗教も異なる90人のセクションメイトの前で、どうしてわざわざ高い学費を払ってまで、そこまで内面をえぐるようなディスカッションができたのか、不思議です。しかし、この世の中に、そしてそれぞれの人生の中に、厳然として存在するそういった問題や壁に対して「流さずに、向き合う」授業こそが、HBSの一番の魅力だったと思います。

それを実現したのは、教授と学生の双方のコミットメントの高さ、そして90人のセクションメイトの間で短期間の中でも作り上げたPsychological Safety(心理的安全性)があったからだと思っています。

これらの授業を通じて私が感じた2つのキーワードが、「Vulnerability」と「Empathy」です。私は、この2つこそが、HBSのミッションである「Educate leaders who make a difference in the world」でいうところの「リーダー」に必要な要素だと思っています。

一見すると、Vulnerabilityというのは、リーダーとは真逆な要素のように見えます。しかし、私が教わったのは、「Vulnerabilityを見せられるリーダーは、人を惹きつけ、組織を前向きにさせる」ということです。HBSで、そういった自分をさらけ出すような勇気を振り絞ったコメントをした人が、大きな拍手、時にはスタンディングオベーションで迎えられるのを見てきました。

それはそのコメントが優れた賢いものだからではなく、自分の精神的安定を犠牲にしてまで他のセクションメイトの学びに貢献しようとする真摯(しんし)な姿勢そのものへの称賛です。Vulnerableになれる人間は、“本物”であるという評価、そして信頼と尊敬を得る、というわけです。

さらに大切な要素がEmpathyです。

センシティブなテーマにおいて反対の意見を持った学生同士が、真剣にきわどいディスカッションを行った後、休み時間にどちらからともなく互いに歩み寄り、笑顔で握手をする―。そんな光景を何度も目にしました。また、クラスのディスカッションを聞いたことで、授業の前に持っていた自分の意見とは反対側の気持ちが分かるようになったことも多くありました。

ポジションを取り、それに合わせて理論武装し、意見を押し通す技術も、ビジネスでは大切かもしれませんし、そういった技術もHBSで学ぶことで前よりも身に付いたと思います。しかし、HBSに「それ以上に大切だよ」と教えられた気がするのはEmpathy、すなわちどれだけ相手(お客さんや上司、同僚、部下)の気持ちをくめるのか、そしてどれだけ弱者やマイノリティの立場に立つことができるか、です。

VulnerabilityとEmpathyは、相手を打ち負かすのではなく、人を巻き込んだり人から推されたりするようなリーダーになるためにはとても大切な要素だと思っています。

現在の世界情勢を照らしてみても、いったいどれだけこの2つを持ち合わせた「本当の意味で強いリーダー」がいるでしょうか。目指すべきリーダーの在り方を、HBSの濃密な授業を通して、同級生たちから教えてもらったと思っています。簡単なことではありませんが、私にとって、今後の人生を通じて携えていきたいような、とても大切な学びとなりました。

「キャリア」ではなく「人生」を生きよう

ここまで3つの学びを書いてきましたが、これが最後の学びです。「キャリア」ではなく「人生」を生きよう―。やや大ざっぱな言い方かもしれませんし、「キャリアのために行くのがビジネススクールである」という一般的認識からすると意外かもしれません。

どういうことかというと、私はHBSで同級生、教授、ゲストスピーカーとして来校した多くのアルムナイなど、いわゆる「素晴らしいキャリア」を築いてきた世界中の人たちに出会ってきましたが、その中で感じたのは「完璧なキャリアなどない」ということでした。様々な努力と幸運の結果、HBSにたどり着き、あるいは卒業した彼らのことを知るにつけ、余裕しゃくしゃくとしている人間よりも、時に迷いながらも常に努力を続けている人たちこそ、輝いて見えましたし、実際にそういう人の方が素晴らしい功績を残していることを知りました。

すべてが順風満帆な人生など、(仮にはたからはそう見えたとしても実際は)ないということです。

私自身、前職で働きすぎて体と心を壊してしまったことがありました。その時期は、もう二度と会社はおろか、社会生活自体に復帰できないのでは、と不安になることもありました。しかし、いまこうして世界最高峰の大学院を卒業することができています。 description

よく、日本のコアコンピタンスはResilience(レジリエンス=復元力、回復力)だという話があります。戦後大きな復興を遂げ、数々の災害からも立ち直ろうとするその姿は、しなやかな竹のようです。「キャリア」が積み重ねた「レンガ」だとすると、「人生」はしっかりと根を生やした「竹」です。「キャリア」を積み重ねに来たMBAで、多くの尊敬すべき人々の「人生」に触れ、「どう稼ぐか」よりも「どう生きるか」を考えることができた1年9カ月でした。

私は今後、ビジネスというサステナブルな仕組みを使って、どう社会的インパクトを出していくかを自分の人生のテーマとし、キャリアという“手段”を選び取っていきたいと思っています。

4回にわたって、私の実体験に基づいた留学記を書いてきました。読者の方の中には、MBA留学を検討されている方もそうでない方もいらっしゃることでしょう。MBAの費用対効果や行く意味については様々な方が様々な意見をお持ちでしょうし、私自身も、皆がMBAを取得しなければならないとは思いません。むしろMBA学位がなくとも、活躍されている方はゴマンといます。

しかし、もしあなたがMBA留学に興味を持っているならば、お伝えしておきたいのは「自分のポテンシャルを信じ」て「行動」に移してみてほしい、ということです。きっとキャリア以上に「人生」を豊かにしてくれる時間になるはずです。私のHBSでの同級生930人中、日本人はたったの12人、つまり1%強でした。今でもGDP世界3位の日本なのに、です。「Resilient」な国・日本から、「VulnerabilityとEmpathy」を持ち合わせた「本当の意味で強い」国際的リーダーがもっともっと生まれることを祈っています。

私の拙文が「留学したいけど、自分には難しいかもしれない」と悩まれている方の背中を少しでも押すことにつながれば幸いです。

(「ハーバードMBA留学記」おわり)

【「ハーバードMBA留学記」シリーズ】 第1回「世界一ハードな経営幹部養成学校の内幕」
第2回「戦え、『純ジャパ』-。英語とバックグラウンドの高すぎる壁を越えて」
第3回「『空気を読む』は的外れ!? 2020年卒業生が現地で得た4つの学び(前編)」


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