キャリアパターンはコンサル以上!?Liigaコラムに見る、金融人材の「生きる道」【キャリア転換の“深層” Vol.2 金融編】
2020/11/20
#連載「キャリア転換の“深層”」
#投資銀行から広がるキャリア
#ベンチャーに飛び込みました
#新卒内定者必須コラム

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Liigaコラムに登場した若手プロフェッショナルや有識者らの発言から、転職の“勘所”を探る連載「キャリア転換の“深層”」。初回のコンサル編に続く第2回は、同じくLiigaユーザーに多い金融系人材が「なぜ転職するのか」を考察する。

コンサル系人材との共通点は、事業会社や投資家などをサポートする「アドバイザー」の立場の仕事が多いこと。他方、投資銀行、証券会社、メガバンクといった業態や、職種によって仕事内容が大きく異なり、コンサル以上に多様な転職パターンがあるともいえる。

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大手に居続けると将来経験不足に?金融業界を「ぐるぐる」回る転職者たち

「働き方改革が進み始めたこともあり、一人当たりにアサインされる案件数を制限する動きも現れ始め、将来的に経験不足になってしまうのではないかという懸念が出始めました。その懸念を払拭すべく次のアクションプランを検討していたところ、エージェントからの紹介もあり、次は前職とは異なる少数精鋭のハウスで挑戦したいという思いが芽生えました」。

こう転職のきっかけを明かすのは、大手証券会社から外資系のブティック型投資銀行に移ったある若手のM&Aバンカー。前職に大きな不満があったわけではないものの、一通りの経験を経て他社でも通用する自信を得たタイミングで、次の一歩を踏み出した。

続いて以下は、別の若手M&Aバンカーの経験談である。

「メガバンクの法人営業の仕事の4〜5割は、資料作成を中心とした社内向けの業務で占められています。海外支店の時はその割合はさらに大きく、8〜9割は社内向けの業務でした」。

この方は新卒でメガバンクに入り、若手でロンドン勤務という「出世コース」に乗ったものの、その道を捨て証券会社の投資銀行部門(IBD)に転職。「どこでも生きていけるプロフェッショナリティー」の習得を目指す中、社内向けの業務が大半を占めるメガバンクでの仕事は、先々に向け不安を抱かせるものだったという。

上の2例のように、大手証券会社やメガバンクの場合、若手から見て裁量の小ささや業務範囲の狭さが目立つことがある。ゆえに閉塞感や危機感を覚え、20-30代で転職に活路を見いだす人は少なくない。

「4年半、証券会社に勤務していましたが、次第に自社資金による投融資や、ファンド運営、金融商品の開発といった金融の醍醐味(だいごみ)を感じる業務に携わりたいと思うようになり、転職を決意しました」。

こちらは、証券会社から政府系の投資銀行に移り、現在ファンド関連業務に携わる方の談。ひと口に金融といっても業態はさまざまで、それら多様なプレーヤーが密に関わり合いながら金融システムが回るため、“隣の芝生” をのぞくのはたやすい。「金融の醍醐味」をどこに見いだすかは人それぞれだが、この方のような他業態への興味が起点となった金融to金融転職は、しばしば起こる。

セルサイドアナリストからベンチャー企業役員に転じたある方の以下のコメントからも、そうした実情がうかがえる。

「前職のアナリスト仲間では、次はバイサイドを経験すべく資産運用会社に転職するなど、金融業界内で『ぐるぐる』回る人が多かったですね。私のような転職をする人は少なかったと思います」。

ファンド、経営企画、そしてベンチャーCxO-。“脱アドバイザー”のため「金融を出る」という選択

もちろん若手のうちに「金融を出る」決断を下す人も一定数おり、昨今は以前に比べその数が増えているようである。

「前職ではファイナンシャルアドバイザリー業務を担当し、株式や社債を発行したい企業のサポートや、M&Aのアドバイスを行っていました。M&Aの領域ではファンドの方にアドバイスする機会もあったのですが、彼らは自分たちでリスクを負い、様々迷い悩みながら企業買収を決定していく。あくまでアドバイザーでありアドバイス後は直接的には関与がなくなる自分と比較し、検討の深さや自分事として捉える覚悟の違いに純粋に驚きました」。

こう語るのは、投資銀行時代にPEファンドの仕事ぶりに感銘を受け、その道に飛び込んだ30代の元M&Aバンカー。いわゆる“脱アドバイザー”転職である。

「今後もあくまでアドバイスする立場で続けるのか、それとも主体者となってリスクをとってやっていくのかと考えた時に、やはり私は自分事として最大限の情熱を傾けてやっていきたいと感じました」と、この方は続ける。

こうした転職は前回触れた、コンサルタントがファンドや事業会社の経営企画に移るのと似たパターンである。クライアントを側面支援する役割に物足りなさを覚え、自ら「意思決定者」になるべく異業種に飛び込む―。能力への自信、チャレンジ精神を備えた若手がこの道を選ぶ傾向にある。 description

「『このままアナリストを続けたら、40-50代になっても同じことをやり続けることになる。これで良いのか…』と思っていました」。

こちらはシティグループのアナリストからじげんのCFOへとキャリアチェンジし、その後2020年7月にミダスキャピタルのパートナーとなった寺田修輔氏の回想。近年はこのように、“脱アドバイザー” 転職の新天地としてベンチャー企業の役員ポジションを選ぶ金融系人材も増えている。

寺田氏も意思決定の担い手となるべくキャリアを転換、じげんでは経営のNo.2として、資金調達をはじめとした財務・投資戦略のほか、人事、労務、経理なども含む管理部門全体を統括するなど重責を担った。

ファンドでは「一歩引いてアドバイス」はダメ…金融を出た場合に求められる「想い」と「覚悟」

さて、ここまで金融系人材のさまざまなキャリアチェンジパターンを紹介してきた。続いてコンサル編同様、転職後にどのような経験が待ち受けているかを掘り下げてみたいと思う。

「アナリスト(*)でもMD(マネージングディレクター)から直接指示が飛んでくることがしばしばあります。チームにアソシエイトが不在の場合には、アナリストがアソシエイトのロールまで考えて動く必要がありますし、場合によっては自分のロールがタイトルに縛られず、ストレッチする機会が多いという点で良い組織だと思います」。

こう話すのは、冒頭で紹介した大手証券会社から外資ブティック型投資銀行への転職者。少数精鋭の組織に移ったことで、前職以上の裁量とやりがいを得られているようである。

他方、この方は「日本市場での知名度およびプレゼンスは日系・外資大手には一段劣ると認識しています。それでもマンデートを獲得するには、きちんと提案先の戦略や細かなニーズを理解し、限られたリソースの中でどのように効率的に攻めていくかを考え、提案先にとって意味のある営業活動を重ねることで、最終的には提案先からBC(ビューティーコンテスト=M&Aアドバイザーを選定する場)にも招聘(しょうへい)してもらえるほどに信頼を得ることが重要です」と、外資ブティックならではの難しさも挙げる。

「前職で経験したM&Aアドバイザーも担当領域はかなり幅広いので、PEで求められる仕事の基礎は、投資銀行出身者であればある程度保有していると思います。ただ、最も大きな違いでいえば、投資した会社を良い方向に変えていく、変えられるんだという強い意志を持つことではないでしょうか」。

こちらは、“脱アドバイザー”の最初の例で紹介した投資銀行からPEファンドへの転職者。新天地で結果を出すには、金融時代に染みついたマインドを少なからず変える必要があったという。

「もちろん投資銀行時代も企業の事業計画を分析し、十分な将来価値を織り込んだ上で企業価値評価を行っていたつもりではありますが、どうしても一歩引いたところで『会社ってそんなに簡単に変わるものじゃないよな』という意識があったことも事実です」と、打ち明ける。

アドバイザーではなく意思決定者として成果を出すには、変革を生む強い想いと覚悟が必要ということだろうか。 *ここでは職種ではなく職位の「アナリスト」

ベンチャーCxO転職はフェーズに要注意。経験・スキルが「全く生きない」恐れも…

ところで金融業界の特徴として、「社員のバックグラウンドが似ていて、同質性が高い」(ある外資金融出身者)ことがしばしば指摘される。このことが、他業界に移った際のギャップにつながることもあるという。

「エンジニア、デザイナー、ビジネス職、カスタマーサポートなどが1つのプロダクトを多面的に支え、各ポジションのどれが欠けても成立しない。価値観、会社に求めているもの、モチベーションなどが皆異なるため、互いに尊重し合うことがすごく大事になります」。

ゴールドマン・サックス(GS)からマネーフォワードに移り取締役を務める金坂直哉氏は、こう転職後の学びの1つを挙げる。

「最大の違いがバックグラウンドの多様さ。エンジニアや、さらに当社の場合は管理栄養士、トレーナーなど金融に全くいないタイプの人もいる。そういう多様な人たちに気軽に声を掛けて、よく話を聞き最大公約数を探るようなことは、GSや興銀(日本興業銀行)では求められない。新たに一歩踏み込む感じでした」と似た感想を述べるのは、同じく元GSで、その前は日本興業銀行で活躍したFiNC Technologiesの小泉泰郎CFO。

特にベンチャー企業の場合、幅広い専門性を持つ人材たちが高密度に連携する“異能集団”であることが多い。上の2例のように金融出身者がCxOとして力を発揮するには、ある種“非プロフェッショナルファーム的”な多様性への理解と適応が、欠かせなそうである。 description

金融系人材のベンチャーCxO転職に話が及んだところで、最後に独立系VC(ベンチャーキャピタル)・ANRIを率いる佐俣アンリ氏の興味深い見解も紹介しておきたい。

「金融出身のCFOだったら、数十億円の調達をするようになるあたりからは経験が生きてきます。機関投資家と話す機会が一気に増えますから。従来はIPO(新規上場)が変わり目になることが多かったのですが、最近はラストラウンド(IPO前の最後の資金調達)で機関投資家を相手にするケースが増えているので、転換点は早まっている印象です」。

こう語る同氏は、創業期のベンチャーでは外資金融をはじめとするプロフェッショナルファームの経験はほとんど生きないと説く。ゆえにCxOとして飛び込むには金融周りのスキルではなく“仕事をやりきる力”で切り抜ける気概が求められ、それがなければ「創業期ではなく成長期のベンチャーを選ぶべきです」と指摘する。

転職先として検討する企業のフェーズを見て、「これなら参画できる」と冷静に見極める力が問われるのだという。

転職パターンは豊富。不確実性の中で経験者に学び、キャリアを“創る”。

金融系のLiigaユーザーを象徴するようなキャリアチェンジを、いくつか紹介した。大まかに主因を分けると、「裁量・業務範囲の拡大」「金融業界内における他業態・他職種へのチャレンジ」「ファンドやベンチャー企業への転職を通じた“脱アドバイザー”」といったところだろうか。

初めに述べた通り、コンサル以上に実現し得るキャリアは多様と思われ、ここで全てを網羅しているとは言い難い。とはいえ、デジタル化の流れや新型コロナウイルスの影響で世界の金融システムが転機を迎える中、ここで挙げた転職経験者の意思決定や体験からは、キャリア設計の上で少なからぬヒントを得られるのではないだろうか。

《第3回「海外編」に続く》

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コラム作成者
Liiga編集部
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