「コンサルも事業会社も両方経験したい」。そんなキャリアプランを思い描くLiigaユーザーの方は少なくないのではないでしょうか。
藤本直也さん(仮名)は、20代で大手外資系メーカーの日本支社Chief Strategy Officer(最高戦略責任者、以下、CSO)にヘッドハントされ、現在同社で勤めています。藤本さんの前職は外資系のトップ戦略コンサルティングファームのコンサルタントでした。
今回は藤本さんに、「コンサルティングファームと外資系事業会社の違い」「若くして大企業の経営幹部になるためのポイント」についてお話しいただきました。
・戦略コンサルから大手外資系メーカーのCSOにヘッドハント! 決意した理由は「事業会社の意思決定スピードに引かれたから」
・先輩コンサル達をごぼう抜きし、20代でCSOに抜擢された理由は、「現場と強固に連携した戦略を立案できるから」
・事業会社で働くデメリットは、「扱うイシューが広く浅いため、成長速度が遅いこと」
・偉くなるのに綿密なキャリアプランは要らない。目の前の『好き』に飛びついていい
戦略コンサルから大手外資系メーカーのCSOにヘッドハント! 決意した理由は「事業会社の意思決定スピードに引かれたから」
ーーこれまでのご経歴について教えてください。
藤本:大学卒業後、新卒として外資系トップ戦略コンサルティングファームに入社しました。最初の3年間は毎日12時間程度働きながら、がむしゃらになってアナリストとしての経験を積みました。
3年程経って、そろそろある程度仕事にも慣れてきたなと思ったころ、社内である大手外資系メーカーへのプロジェクトの募集があったのです。興味のある商材だったことから、そのプロジェクトに手をあげました。
一年ほどそのプロジェクトで過ごしていた後、働きぶりを評価され、その事業会社の社長から「うちの会社の経営幹部として働いてほしい」と声をかけられたのです。その後、一度昇進をした後にヘッドハントしていただいた会社に転職しました。
現在は同社では最年少の経営幹部として働きつつ、週末は副業で友人の会社を支援しています。
ーーなぜコンサルファームから事業会社に転職しようと思われたのですか?
藤本:事業会社ならではの「意思決定のスピード感」に強く引かれたからです。
ーー意思決定のスピード感ですか。コンサルタント時代とどう違いましたか。
藤本:コンサルタントとしてお客様と仕事をする時は、まずお客様に現状の課題や解決策について綿密に説明し、ご納得いただいたうえで、ようやく実行フェーズに入ります。対クライアントなので当然なのですが、どうしても時間がかかってしまいます。
これに対して事業会社内部の意思決定者として動く場合、多少ロジックが通ってなくとも「とりあえずやってみようよ」で話を進められます。これが良かったんですね。
プロジェクトの中で一緒に働いた現職のCEOとCOO(最高執行責任者)の仕事ぶりに驚きました。KPIのセッティングやトラッキング、予算計画のサポートのほか、業績不振の事業部の立て直しサポートをスピーディーに行っていて、このスピード感で働けると面白そうだと感じました。
スピード感に加えて、世界的にも大きな企業であるにもかかわらず、いまだにベンチャー的なボトムアップカルチャーが残っている点も良かったです。
ーーどんなところがベンチャー的でしたか。
藤本:制度があまりガチガチに固められていなかったり、自分の意見を主張し続けていると「じゃあやってみろ」とゼロから何かを作るチャンスをもらえたりするです。
こうしたスタイルの仕事の進め方が魅力で、転職を決意しました。
先輩コンサル達をごぼう抜きし、20代でCSOに抜擢された理由は、「現場と強固に連携した戦略を立案できるから」
ーー20代の若さでそこまで高く評価された理由は何ですか?
藤本:コンサル時代にプロジェクトとして働いた際に評価されたことが、2つあると思います。1つは、私は社内の色々な部門の人たちとネットワークを築いて、そこから集めた情報を戦略立案などに役立てることができることです。
今の会社にも、コンサル出身者が多くいます。しかし、その人たちの多くは自分の専門領域・強み・バリューを明確に意識して、そこで仕事をするのです。もちろん各々の専門領域に関しては、私よりも優秀なのですが。
一方で、私は「それ面白いね」「これもいいね」という感じで、あちこちに顔を出したり話を聞きに行ったりして、自分の見聞を広げるのが得意だと思っています。その過程でネットワークを構築していました。
その結果、私は他のコンサル出身者よりも、幅広い現場と強固に連携した戦略を立てることができるのです。戦略部門は得てして現場との壁が生じがちなんですけどね。
ーーなるほど。もう一つの評価理由は?
藤本:2つ目は、1つ目とも関連するのですが、「何でも屋(ジェネラリスト)」としてのスキル・マインドセットが強いことです。
あちこちで見聞を広めていますし、社内ネットワークもあるので、何か新しいことをしたり組織や事業を次のステップに進めたりする時にも、経験がないことであってもとりあえずやってみて、前に進めるために音頭をとることができるわけです。
これが上層部から重宝されているのではないか、と考えています。
事業会社で働くデメリットは、「扱うイシューが広く浅いため、成長速度が遅いこと」
ーー逆に転職してみて感じた事業会社のデメリットはありますか?
藤本:まずは「成長速度」ですね。戦略コンサル時代は、どんなスキルを身につけて、どんな実績を出せば、どんなポジションが与えられるのかが明確でした。一直線に進んでいけるので、成長速度は速かったです。
これに対して今の会社では、自分がどこを目指して何をするのか、そのためには何が必要なのか……全て自分で考えていかなければなりません。脇道にそれることもあれば、間違えることもあります。だから明確なゴール設定がある成長と比べ、速度はどうしても落ちてしまいます。
もう一つのデメリットは、「取り扱うイシューの範囲や深度が広く浅いこと」、つまり「深く考える時間が少ないこと」ですね。
ーー詳しく教えていただけますか。
藤本:戦略コンサルなら、お客様から依頼された「特定の重要なイシュー」について徹底的に考え検証する時間があります。
しかし事業会社で同じことをやろうとすると、時間が圧倒的に足りません。なぜなら日々の業務の中で些細なイシューが突発的に絶えず発生し、都度解決に当たらなければならないからです。そのため、取り扱うイシューは広く浅くなりがちです。
現場では、予想もしていなかったようなアクシデントが日々頻発します(苦笑)。この点はコンサル業界から事業会社に移る人が注意するべきところだと思います。
ーー例えばどんなアクシデントが発生しているのですか。
藤本:例えばメーカーの場合、決められた数の製品を生産するためにはパーツを正確に発注する必要があります。
ところがあるとき、工場から「決められた数の製品を出荷できない」という連絡が入りました。理由を聞くと「いつも通りの数だと思ってパーツを発注したが、注文の数がいつもより多く、パーツが足りなくなった」という返答でした。
こうしたレベルのアクシデントが頻発するのです。オペレーションはある程度キレイに回っている前提でどう成長していくか、を考えていた私にとってこの状況は極めてショッキングでした。
コンサル業界から事業会社に移る人は「事業会社にはコンサル業界では想像もしないような事態が待ち受けている」ということを、あらかじめ認識しておいた方がいいと思います。
ーー年収面についてはどう変化されましたか。
藤本:年収推移でいうとこんな感じです。
20代中盤:700万円 / 外資系戦略コンサル / 新卒就職 20代後半:1,300万円 / 外資系戦略コンサル / 外資系メーカープロジェクトに配属 20代後半:1,500万円 / 外資系メーカー / 転職しCSOに 30代前半:1,800万円 / 外資系メーカー / 事業部門長も兼任 30代中盤:2,600万円 / 外資系メーカー / 副業として友人の会社を支援
順調にキャリアアップしてきたので、外資系戦略ファームと年収水準は遜色ないですね。ただ年収は上がっていますが、私はあまりモノに執着が少なく、出費は多くありません。身に着けるものもほとんどがファストファッションで、仕事着も同じく。車も持っていないですね。
昇進に綿密なキャリアプランは要らない。目の前の『好き』に飛びついていい
ーー若くして大手外資系メーカーの経営幹部になるためのアドバイスはありますか。
藤本:年収やキャリアといったアクセサリー、それらを手に入れるための長期的なキャリアプランや、「どの上司に気に入ってもらえれば得か」といった政治的なアクション。これらは無視していいと思います。
はるかに重要なのは、自分が今の時点で興味のある仕事にアプローチすることです。私自身、今の会社に移ろうと思ったのは取り扱っている商材に興味があったからですし、事業会社の仕事を学ぶことが楽しかったからです。綿密なキャリアプランも特にありませんでした。
ーー現在も特にキャリアプランはないのですか。
藤本:今もこれといった目標はありませんね。「今、自分が興味のあること」に飛びつくというスタイルをとっているので。
確かに綿密なキャリアプランを立てたり、政治的なアクションを積極的に起こしたりした方が、同じような結果を出している人を比較しても昇給も昇格も早いとは思います。戦略ファームでも今の会社でも、そういうことが上手い人はどんどん出世しています。
でも、自分の将来をかっちり考えることや、政治的に立ち回ることが苦手なら、無理してやらなくても私程度のキャリアを築くことは十分可能だと思います。だから若手社会人には「目の前の『好き』に飛びついていいよ」と言いたいですね。