ゆうです。
2013年に日本のIT系メガベンチャーの駐在員としてサンフランシスコに赴任し、その後紆余曲折あって、現在はAmazonのシアトル本社でプロダクトマネージャーをしています。
海外で暮らすというのは、楽しいこともある反面、自分がそれまで慣れ親しんできた文化や慣習、生活様式が異なる場所で日々を送ることになるので、それなりに苦労も伴います。
今回の記事では、海外で暮らす上で覚えておくと良いのではと思われる心構えについて紹介したいと思います。
また、これは海外で暮らす人だけでなく、外国人と一緒に仕事をする機会のある人も、知っておくと良い話だと思うので、最後までお付き合いいただけると幸いです。
•中国人のイングリッシュネームに学ぶ
•海外では通用しない日本人だけの「こだわり」を押し付けるな
•自分が無意識のうちに持っているこだわりの気づき方
•まとめ:ストレスがたまりがちな海外で楽しく生きていくために
中国人のイングリッシュネームに学ぶ
アメリカでは、人を呼ぶ時には基本的にファーストネームで呼びます。
これは上司や顧客であっても同様で、初対面からファーストネームで呼ぶのが普通です。
英語によるコミュニケーションについて書いている本なんかでは、
「初対面では、とりあえずMr. 〇〇とラストネームで呼ぶのが無難です。その後、ファーストネームで呼んで欲しいと言われたらファーストネームで呼ぶようにしましょう」
と書かれていることもありますが、少なくともアメリカ西海岸では初対面からファーストネームで全く問題ないと思います。
さて、ずっとメールやチャットだけでコミュニケーションしていた人と初めて会うとき、
「Kevinか。どんな人だろ。」
と思っていざ会ってみると、普通に中国人だったりすることがちょいちょいあります。
しかも、英語の訛りから判断するに、中華系アメリカ人というよりは、大人になってからアメリカに来たという感じです。
ラストネームを見るとFangとか確かに中国人っぽい名前なのですが、普段ファーストネームでしか呼ばないので、会うまで中国人だと気づかないこともしばしばあります。
中国人はこのように、中国語の本名の他に、自分でつけた英語の名前(イングリッシュネーム)を持つことが多いです。
韓国人も同様で、イングリッシュネームを名乗っていることが多いですね。
一方、日本人でイングリッシュネームを持っている人はまずいません。
逆に、アジア人がイングリッシュネームを名乗ることに強い抵抗感を覚える日本人は一定数います。
曰く、
「自分の名前に誇りを持つべき」
とか
「アメリカ人に迎合するな。アメリカ人がアジア人の名前を覚えるべきだ」
とかとか。
そういう風に感じる気持ち、よく分かります。
実際、僕もアメリカに来てしばらくの間はそんな風に感じていました。
名前を間違って発音されるたびに毎回訂正していましたし、スターバックスで自分の名前を間違ってカップに書かれるたびに、ちょっとモヤッとしていました。
いま振り返ると、
「自分の名前は親がくれた大切なもの」
「名前をいい加減に扱われるのは、自分自身がいい加減に扱われるのと同じこと」
みたいな思い込みがあったのだと思います。
ちなみに今ではどうなったかと言うと、スターバックスに行ったら常に「I'm Ken」ですね。
これはだいたい一発で通じます。
おそらく今後会うこともそうそう無いであろう店員さんに、正しい名前を読ませるために余計な10秒をかけるのはもったいないですからね。
僕の名前は比較的アメリカ人でも発音しやすいので、イングリッシュネームは使いませんが、もし発音しづらい名前だったら迷わずイングリッシュネームを付けていたと思います。
実際、アジア人の名前というのはアメリカ人にはかなり発音しづらいし、覚えづらいものだそうです。
日本人だって、英語圏の名前はある程度覚えられても、それ以外の国の人の名前は発音するのも覚えるのもかなり辛いのではないでしょうか。
例えば、モンゴル初の宇宙飛行士のJügderdemidiin Gürragchaaさんとか。
(ちなみにジェクテルデミット・グラグチャと読むそうです。本当の発音はもうちょっと違いますが)
アメリカ人に日本人の名前を読ませるのは、幼稚園児に掛け算させるぐらい難しいと考えたほうがいいです。
特に、名前が3音節以上(シンイチロウ、とか)になると絶望的です。
自分の名前にこだわって名前を覚えてもらえないよりは、彼らが発音しやすく覚えやすい名前を提示してあげた方がよほど合理的ではないでしょうか。
海外では通用しない日本人だけの「こだわり」を押し付けるな
名前に限った話ではなく、海外では、あるいは外国人と一緒に仕事をする上では、余計なこだわりは捨てた方がはるかに生きやすくなります。
「俺はそんな余計なこだわりなんてないよ!」
って思ってたりしませんか?
実は、日本で生まれ育ち、日本人と一緒に仕事をする中で、当たり前と思って意識すらしてこなかった価値観の中にも、海外では通用しない日本人だけの「こだわり」というものはたくさん潜んでいます。
例えば、
「スケジュールは守るべきもの」
これ、当たり前ですよね?
守らなくていいなら、スケジュールを作成する意味無いですもんね?
だから、できるだけ精度の高いスケジュールにするために、スケジュール作成にもかなりの工数をかけるし、一度作成したスケジュールを遵守するために徹夜だってしますよね?
ただ、その当たり前、日本国内だけの当たり前だったりします。
アメリカでは、スケジュールはあくまで「目安」に過ぎず、実際の状況に応じてどんどん変更していきます。
スケジュール作成もめちゃくちゃおおざっぱなことが多く、
「え? それで、おしまいなの? それで動き出しちゃうの?」
と、渡米当初は驚き、呆れたものです。
自分が「スケジュールは守るべきもの」という考えにこだわって頑張るだけならまだいいんです。
他人にもそのこだわりを求めてしまうと、事態は急速に悪化します。
「スケジュールは守らなければいけないのに、どうしてあいつはこんな状況でも定時に帰ってしまうんだ!」
「こんな状況で2週間も夏休みを取るなんて、仕事に対する熱意が足りないんじゃないか?」
そんな不満が心を支配し、ストレスばかりがどんどんたまってしまいます。
でも、彼らから見ると
「スケジュールはあくまで目安に過ぎず、実態にそぐわなければ変更すればいいだけなのに、何をあいつは一人であんなに頑張ってるんだ?」
「仕事よりも家族との約束を優先するのは当たり前じゃないか。あいつは家族に対する愛情が足りないんじゃないか?」
なんて思われているかもしれません。
これはどちらが正しいという話ではありません。
日本人には日本人のこだわりがあるし、アメリカ人にはアメリカ人のこだわりがある。
こだわることが違うだけなので、それをすり合わせればいいだけの話なんです。
ただ問題は、それらのこだわりは自分たちが生まれ育ってきた文化圏では空気のように当たり前にあったので、その存在になかなか気づくことができないんです。
ずっと色眼鏡をかけていると、それが当たり前になってしまい、その色眼鏡の存在を忘れてしまうんですね。
自分が無意識のうちに持っているこだわりの気づき方
では、自分が持っているこだわりに、気づく方法はあるのでしょうか?
これは、そんなに簡単ではないです。
自分にとって「当たり前のもの」に気づくのは、人間のかなり不得意とするところです。
1つの手段は、そのこだわりを持っていない人に接してみることですね。
闘病のドキュメンタリー番組を見て初めて健康の大切さに気づくように、こだわりを持っていない人と接することは、自分のこだわりに気づくチャンスです。
初めは不快に感じるかも知れません。
誰かと接する中でモヤモヤを感じたら、それは「自分の譲れない何か=こだわり」に関連している可能性があります。
「何かモヤモヤする」でとどめず、それを深掘りしてみましょう。
頭の中だけでやろうとすると堂々巡りになってしまうことも多いので、文字に書き出してみるといいです。
紙とペンを使うかキーボードを使うかはお好みで。
「なぜなぜ5回」の要領で、自分がなぜ「モヤモヤする」と感じているのか、その理由を掘り下げていきましょう。
その中で「〜すべきだから」とか「〜してはいけないから」というフレーズが出てきたら、それは自分が無意識のうちに持っているこだわりかも知れません。
例えばスタバで名前を呼ばれたとき。
2.なんで?→自分の名前は正確に呼ばれたいから
3.なんで?→名前を間違って呼ばれると、自分が軽視されているように感じるから
4.なんで?→人の名前は本人同様に大事にすべきものだから
そんなフレーズが出てきたら、「それって本当?」とか、「それっていつ誰にでも成り立つことなの?」と自分に問いかけてみましょう。
もしかしたら「いや、必ずしもそんなことはないのかもしれないな」という考えに至るかも知れません。
もしそれが自分にとって本当に大切なこだわりだとしたら、無理に捨てる必要はありません。
ただ、それはあくまで自分にとって大切なことであり、他人に求めたり、押し付けたりしない方がいいです。
それができるようになると、海外で生きていくのが楽になります(もしかしたら日本国内でも同じことが言えるかもしれませんね)。
まとめ:ストレスがたまりがちな海外で楽しく生きていくために
以上、「海外で生きていくには、余計なこだわりは捨てた方が楽だよ」という、いつもより若干ふわっとしたお話をしてきました。
簡単にまとめると以下のようになります。
•自分の本名にこだわって名前を覚えてもらえないよりも、アメリカ人に覚えてもらいやすい名前を提示してあげる方が合理的
•日本で当たり前と思ってきた価値観(こだわり)が海外でも当たり前に通用すると考えていると、それにそぐわない他人の行動でストレスがたまってしまう
•自分が無意識のうちに持っているこだわりに気づくには、他人の行動でモヤモヤしたことを書き出してその理由を深掘りしていく
「〜すべきだから」や「〜してはいけないから」というフレーズが出てきたら、こだわりである可能性が高い
海外で暮らすのは楽しいですが、同時にストレスも多く、それに耐えられず帰国してしまう人も少なからずいます。
海外で楽しく暮らしていくためには余計なこだわりは捨てること、少なくともそれを他人に求めないことがポイントです。