ゆうです。
2013年に日本のIT系メガベンチャーの駐在員としてサンフランシスコに赴任し、その後紆余曲折あって、現在はAmazonのシアトル本社でプロダクトマネージャーをしています。
海外での就職に関する情報発信をしていると、
「自分も将来はアメリカで働きたいと思っているんですが、どうしたらいいでしょうか」
とか
「今度海外赴任することになったんですが、やっていけるかどうか不安です」
というような相談を受けることがあります。
こういう悩みを持っている人は、きっとたくさんいると思うので、今回の記事では
• どんな人が海外での就職に向いているのか
について、過去の連載記事も参照しつつ、僕の経験をもとに説明したいと思います。
•アメリカで就職する時の最大の難関は、就労ビザ
•英語ができることは、強みでも何でもない
•自分の常識は、世界の常識ではない
•まとめ
アメリカで就職する時の最大の難関は、就労ビザ
これはおそらく、アメリカで働く日本人の100人中100人が同意し、逆にアメリカ就職を希望する日本人の100人中50人くらいは知らない(あまり意識していない)ことだと思うのですが、アメリカ就職における最大の壁は語学でも仕事のスキルでもなく、就労ビザです。
就労ビザさえなんとかなれば、仕事は(選ばなければ)たぶんなんとかなるし、逆にいくら英語がペラペラで高度なスキルを持っていても、就労ビザが下りなければアメリカで働くことは不可能です。
そして、アメリカの就労ビザを得ることは、普通の日本人が想像するよりも100倍くらい難しいです。
もし「アメリカで就職したい」と思ったら、まずは就労ビザをどうするかについて真剣に考えましょう。
その方針によって、その後の数年間の動き方が全く異なってきます。
まず、普通の日本人がアメリカの就労ビザを取ろうと思ったら、おそらく以下の2つしか方法は(ほぼ)ないと思います。
- アメリカの大学(院)を卒業して、そのままアメリカで就職する
- アメリカにオフィスがある日本の会社に就職し、アメリカのオフィスに赴任する
アメリカの大学(院)に行く時間的・経済的余裕がある人は、そちらの方が確実性は高いと思います。
アメリカの学校を卒業すると、OPT(Optional Practical Training)という制度を利用して1〜3年間、アメリカで就労することができます(この期間中はあくまで学生ビザ)。
その期間内に頑張って就労ビザを取ることができれば、OPT終了後もアメリカで働き続けられます。
そんな時間的・経済的余裕はないよという人(アメリカの大学に留学するには、卒業するまでに生活費も合わせて3千万円程度はかかります)は、アメリカにオフィスを持つ会社に一旦日本国内で就職し、その後アメリカのオフィスに駐在員として赴任するという方法が現実的です。
「だったら外資系に転職だ!」と思うかもしれませんが、個人的には外資系よりも日系企業の方が良いんじゃないかなと思っています。
基本的に外資系企業の日本オフィスというのは日本の市場を担当するために設立されるので、そこからわざわざアメリカオフィスに人を異動させるというモチベーションは(研修などを除いて)あまりないことが一般的です。
また、外資系企業には英語が非常に堪能な帰国子女がゴロゴロいるので、海外赴任に求められる英語のハードルも高くなりがちです。
一方、日系企業であれば求められる英語力はそれほど高くないばかりか、アメリカのオフィスには「本社からの駐在員」という、少し上の立場で行くことになるので、初めの頃に英語が完璧でなくても、ある程度許容してもらえる可能性が高いです。
ビザについては連載第5回と第6回でかなり詳しく解説しているので、興味があればそちらも併せて読んでみてください。
英語ができることは、強みでも何でもない
海外就職のためには、英語だけできればそれでいいかというと、そんなことはもちろんないです。
海外で働くということは、「本来そのポジションに就くはずだった現地住民を押しのけて、その雇用を奪う」ということです。
ですから、それに見合うだけの付加価値が当然求められますし、その付加価値を他人から見ても客観的に理解できるように証明する必要があります。
言うまでもないですが、「英語ができる」なんて強みでも何でもないですよ。ほとんどのアメリカ人は、英語できますからね。
価値を客観的に評価しやすく、また需要も大きいという意味では、やはり技術系のスキルや経験を身に付けるのが良いと思います。
僕自身はエンジニア職ではないのですが、大学で情報工学を学んでいたために、エンジニアとプロダクトのアーキテクチャについて会話できる程度の知識はあります(社内用の便利ツールぐらいなら、自分でコードを書いて制作できます)。
また、プログラミングだけでなく、データ分析スキルもオススメです。
アメリカ人は、デキる人はすごくデキるのですが、一般的には数字に弱い人が多く、日本人なら誰でもできるような暗算をさらっとやるとかなり驚かれます。
アメリカ人の弱みを補うという意味では、データ分析の力を身に付けておくと、アメリカではかなり重宝されると思います。
具体的には、以下の領域を一通りおさえておくといいかと思います。
統計
大学の教養課程で習う程度の知識はあった方がいいです。僕自身は大学の講義で一度は学んだものの結局身に付いておらず、社会人になってから大学時代の教科書を引っ張り出してきて勉強し直しました。統計に全く触れたことがなければ、『統計学が最強の学問である』(西内啓著、ダイヤモンド社)などの簡単な読み物形式の本から入ると、統計の意義などが分かって良いと思います。
会計
簿記2級程度の知識があると、財務データの分析をするときに役立ちます。もしあまり時間がなければ「財務諸表の読み方」みたいな本で済ませても良いですが、時間が許すのであれば、簿記の勉強をして実際に財務諸表を作ってみると理解が深まります。僕自身は大学時代に何となく興味があって簿記の勉強をして、2級まで取得しました。
SQL
自分でデータベースからデータを取ってこられると、いちいち他人に依頼せずに済んで効率的です。一昔前までは書籍を読みながら自分でデータベースを構築してサンプルデータで学習、みたいなことをしていましたが、今なら「Progate」などのサイトでもっとお手軽に学べます。良い時代になりましたね。
Excel
我流ではなく、参考書を1冊見ながら、手を動かして、内容をマスターしておいた方がいいです。業務効率が圧倒的に上がります。ショートカットや関数は当然おさえておくとして、それ以外に「あまり知られていないけれど実は便利な機能」というのがたくさんあるのですが、こういう機能はあまりネット記事では紹介されないので、やはり書籍を1冊マスターするのが良いと思います。
もちろん、機械学習などのより高度なスキルを身に付けておくことができればベターではありますが、実務上の分析はだいたいこの程度の知識があれば十分です。
「アメリカで働きたいけれど、文系出身だし、今からプログラミングを学ぶのはちょっと……」という方は、このデータ分析力を意識的に身に付けるようにしていくといいと思います。
具体的には、上述のような学習をするとともに、仕事でもデータ分析を求められるようなポジションに就きたいと意思表示していくと、将来アメリカ就職で有利に働くと思います。
海外就職で求められるスキルについては、連載第3回と第4回でも触れているので、併せて読んでみてください。
自分の常識は、世界の常識ではない
駐在なり、現地採用なりで無事海外で就職できたとしても、それでめでたしめでたしではありません。
せっかく海外就職の夢を実現したのに、1〜2年で帰国してしまう人というのは少なからずいます。
そういう人たちにはいくつかのパターンがあるのですが、比較的多いなと感じるのが、日本でこれまでやってきたやり方に固執してしまって、現地のやり方になじめず帰国してしまうケースです。
ずっと日本にいると、日本のやり方が世界でも当然通用するかのように思ってしまって、なかなか気づけないんですが、日本での仕事の進め方は世界的にみると標準的ではありません。
例えば、アメリカ人はあまり上下関係は気にせず、上司に対しても非常にフランクに接してきますし、意見に同意できなければ、それが上司のものであってもストレートに「I disagree」と言う人が多いです(もうちょっとオブラートに包んだりはしますが)。
日本で上下関係に厳しい組織でずっとやってきた人だと、その態度にムッとしてしまうこともあるでしょう。
また、アメリカ流の「議論と人格は別物」という考え方ができず、自分の意見に反論されたとき、それを「あいつは俺のことを嫌っている」と人格攻撃として受け止めてしまうかもしれません。
そうなってしまうと、同僚や部下と信頼関係を築くこともできず、当然仕事のパフォーマンスも上げられずに、早々に帰国してしまうことにつながります。
また、日本では(特に部下の経験が浅いときは)、部下に仕事を依頼した後もこまめに進捗(しんちょく)を確認し、レビューを重ねて仕事をブラッシュアップしていくという方法が一般的だと思います。
しかし、アメリカでこれをやると「マイクロマネジメント(上司が部下の業務に強い監督・干渉を行うこと)」と言われて、すごく嫌われます。
アメリカ人は自律性を非常に重んじるため、一旦仕事を受け取ったら、その担当者が最後までボールを持って突っ走るというのが一般的です。
そんな彼らに対して、日本式のマネジメントスタイルを適用しようとすると、彼らのモチベーションがガクンと落ちるばかりか、マネージャー失格のレッテルを貼られ、組織を追い出される羽目になることもあります。
アメリカ人に対しては、仕事の細かい部分にあれこれと口出しするよりも、仕事の大きなゴールとそれを達成するための権限を与えて、あとは自由にやらせてあげた方が、絶対に高いパフォーマンスを発揮します。
もしアメリカで部下を持つことになったら、ここのマインドセットのアップデートを最優先で行うべきです。
今まで自分がやってきた方法が唯一絶対だと思っていると、こんな落とし穴にハマりがちです。
自分がやってきたことを全て捨て去る必要はありませんが、「自分の常識は海外での常識ではない」という前提を常に持ち続けることが大事です。
海外での常識を理解した上で、自分のやり方を柔軟にアレンジできる人が、海外就職に向いていると思います。
日米の考え方や仕事の進め方の違いについては連載第15回、第17回、第18回でも触れているので、併せて読んでみてください。
まとめ
以上、アメリカ就職を考えたときにまず何から始めればいいかと、そもそもどんな人が海外就職に向いているのか(もしくは向いていないのか)について説明してきました。
簡単にまとめると以下のとおりです。
• もし時間的・経済的に余裕があるなら、アメリカの大学(院)に留学して卒業後にアメリカ国内で就職するのがオススメ
• 時間的・経済的に余裕がなければ、アメリカにオフィスを持つ日系企業に就職して駐在を狙うのがオススメ
• 英語以外に客観的に評価可能な強みがないとアメリカ就職は難しい
• これからプログラミングを学ぶのが難しければ、データ分析を身に付けておくと、数学が苦手なアメリカ人の弱みを補えるのでオススメ
• 日本での当たり前は世界的に見ればけっして当たり前ではない
• 現地でのやり方を理解し、自分のやり方を柔軟に変えられる人が海外で成功する
海外就職したいと思っているだけでは、なかなか実現は難しいです。 アメリカの大学(院)のリサーチを始めてみる、アメリカに多くの社員を派遣している日系企業を調べてみるなど、小さなことでもいいのでまずは第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。