【激務対談】「激務をするなら“質の良い激務”を」元外資系投資銀行員×元大手広告勤務2人がハードワークから学んだものとは?
2021/02/07

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人気業界であると同時に、目が回るような激務でも知られる投資銀行業界と広告業界。中でも新卒の4月から連日残業を経験される方もいるそうです。しかしその激務は決してただ厳しいものではなく、ビジネスパーソンとしての成長も図れると聞きます。今回Liigaでは、激務の実態とそこから得られるスキルを知るべく、元外資系投資銀行員の高島尚さん(仮名)と元大手広告代理店勤務の池上慎さん(仮名)のおふたりに「激務」をテーマに対談していただきました。

おふたりがご経験された激務エピソードを垣間見るとともに、おふたりがハードワークから得たスキルや職業観についてお伺いしました。

〈Profile〉
高島 尚(仮名)
元外資系投資銀行員
新卒で外資系投資銀行に入行。2年勤めたあと他社の外資系運用会社に転職する。
池上 慎(仮名)
元大手広告代理店勤務
新卒で大手広告代理店に入社し、営業担当として従事。4~5年間の勤務ののち、現在の外資系コンサルティングファームに入社する。


【目次】
・「新卒の4月から連日残業」「社内飲み会も全力でフルコミット」ハードな激務業界のワークスタイル
・「対クライアントの対応力が磨かれた」「1〜2年で社会人としての基礎が身についた」激務を通じて手に入れたスキルとは?
・「働いた時間の長さ=自分の価値ではない」激務の中で得た仕事観
・投資銀行、広告業界で働くうえでの心得「この業界に転職するなら“激務の質”を意識すべき」

「新卒の4月から連日残業」「社内飲み会もフルコミット」ハードな激務業界のワークスタイル

ーー今日は激務対談にお越しいただきありがとうございます。おふたりが経験した、激務エピソードについて教えてください。

高島:新卒で入社してすぐの2週間が特につらかったですね。土日も関係なく社内に入り浸って働きました。朝9時に出勤してもその日中には帰れず、一番キツいときは朝に退勤しました。

ーーほとんど丸一日ですね......。

高島:そうなんです。まあ、当時リーマンショック直後で人手不足というのも影響していたと思いますが。

しかもその2週間が終わって「なんとか生き延びた」と思っていたら、ゴールデンウィーク中である5月3日の祝日に上司から「案件が来たからやるぞ」と言われて、そこから過酷な2週間と同じ土日返上・深夜残業スタイルのハードワークが始まりました。

ただ会社にいて普通に仕事するだけならまだしも、上司や先輩にひたすら詰められながら働くので、1カ月前まで学生だった人間にはかなりキツかったです。

池上:私がいた広告代理店は、そこまで労働時間が長かったわけではありません。しかし、仕事に直結しないと思われる作業に延々と追われ続けるつらさがありましたね。

――どういった作業でしょうか。

池上:たくさんありますが、例えば飲み会のセッティングですね。毎回緻密な台本を作らなければなりませんでした。1日のスケジュールはもちろん、「誰がいつ何をしゃべって、出し物はどのタイミングでやって、席次はこう......」みたいなものを冊子にまとめなくてはいけないんです。このセッティングのために深夜残業をしたこともあります。

お店の予約にしても、事前に上長に店の候補一覧をワードで提出する必要がありました。

――それは取引先との飲み会の場合でしょうか。

池上:社内でも社外でも、関係ありません。しかもネットで調べただけではNGが出ます。なので、事前に自分で現地に行って写真を撮り、そのうえでお店の特徴をテキストにまとめ、候補に入れた理由を説明してやっとOKが出ます。

当然平日だけでは時間が足りないので、土日も使って下調べをしていましたね。

description ※深夜残業の様子(イメージ)

ーーそれは相当な力の入れようですね。

池上:はい。あるとき私が幹事を務めた部長の送別会でミスをしてしまいまして。

――どんなミスだったのでしょうか。

池上:思ったより席の配置が悪かったり、余興がグダグダになってしまったり...。

先輩や上司は仕事以上に飲み会に情熱を注いでいる人たちばかりだったので、そうしたちょっとしたことの積み重ねが許せなかった。結果、私は飲み会中に先輩に「本気でやってるのか!」と凄まれたんです。

高島:そういうことありますよね。笑 私も似たような経験あります。

ーーお伺いしてもよろしいでしょうか?

高島:はい。私がいた部署には、「旅のしおり作り」という仕事がありました。いろいろな事業会社の方を海外の投資家のところに連れて回るための旅程を決めるための仕事です。

あるとき私はこの仕事を任されていました。作成したしおりを直属の先輩に卒なく提出し、そのあとは別の仕事に取り組んでいました。すると突然夜中の1時半くらいにその先輩に呼び出されたんです。

――呼び出しの時間が深夜1時半なんですね(笑)。

高島:その時点でちょっとおかしいですよね(笑)。そこで先輩のところにいくと「なんで初日の集合時間が朝8時になってるわけ? 常識的に朝は9時だろ」と言われたんです。

私としては最終日の解散後に各社がそれぞれ飲み会を開けるように、初日のスタートを早めにしていたんですが、先輩には理解してもらえなかったみたいで。

――そこから口論になったんですか?

高島:はい(笑)。「朝9時が常識って誰が決めたんですか? クライアントのことを考えたらこっちの方がいいでしょ」と言う私に、先輩が「誰が決めたも何も、常識は常識なんだよ!」と激高したりしながら、夜中の3時半まで……。もはや好みの領域です。

――おふたりの業界ですと、単純な業務量だけでも膨大かと思います。一方で部下や後輩を育てる文化はあったのでしょうか?

高島:聞けば教えてくれる人たちはたくさんいましたよ。ただ体系だった研修はほとんどなくて、基本的には全部OJTです。聞いても教えてくれないとか、「俺の背中を見て育て」みたいな人はいなかったので、そういう点での不満はありませんでした。

しかし「新卒1年目だからできなくてもいい」という空気はなかったので、必死になって勉強する必要はありましたが。

池上:私は日系でしたので外資系の高島さんの会社とは雰囲気が違うと思います。教えてくれるような文化もありました。むしろ情に厚い人が多い会社でした。失敗しても見捨てられるようなことはなく、何度も経験を積ませて育てていこうという風土はありましたね。

それが高じて、飲み会業務など職務とは直接関係のない業務が生まれるのではないでしょうか。

「対クライアントの対応力が磨かれた」「1〜2年で社会人としての基礎が身についた」激務を通じて手に入れたスキルとは?

――おふたりが「これは激務の中で身についたスキルだな」と思うものはございますか?

高島:エクセルやパワーポイントを使った資料の作り方は、1カ月や2カ月で十分なスキルが身につきました。普通の人の3倍くらい働いていたからこその結果だと思います。

他にも、旅のしおり作りやホテルの予約などの、当時は仕事と無関係に思えた対クライアントの仕事もときどき役に立っていますね。

――どんな場面で役立つと感じられるのでしょうか。

高島:今の会社に来てからも、クライアントのスケジュールを組んだり、ホテルを予約したりといった仕事はちょくちょくあるんです。

一見簡単そうに思える仕事なんですが、どこに落とし穴があるとか、押さえておくべき勘所はどこか、みたいなところは実践経験がないとなかなか把握できません。

会食の店選びに関しても、そういった知見から「使えるお店リスト」を作っておけるので、連れて行ったクライアントからも「良い店だね」と言ってもらえるんですよ。

池上:私もいろいろな相手と接待・折衝をする場面があったので、対クライアントのコミュニケーション力は磨かれました。

また広告業界で社会人としての基礎を叩き込まれたので、コンサルに転職したときに働きやすかったです。コンサルには1年目でもものすごく優秀な人がいるのですが、そういった人に限って自信がありすぎて、かわいげがないことがあります。

その点私は前職ですでにいい意味で鍛えられてので、先輩や上司ともすんなり関係を築くことができました。

「働いた時間の長さ=自分の価値ではない」激務の中で得た職業観

――すさまじい激務をこなすなかで、仕事観に変化はございましたか。

高島:たくさん働くだけでは、自分の価値を発揮したり、高めたりすることはできないんだなということですね。

当時私が働いていた部署では、働いた時間=勲章になっているようなところがありました。「あいつは朝まで頑張っているけど、お前は夜中の2時に帰っているからあまり仕事をしていない」といった空気です。

――仕事の質は見られていないんですね。

高島:その通りです。学生時代は何もわかってなかったので、「3年くらいは毎日20時間働いて、バリバリ仕事をするぞ」と息巻いていたのですが、実際に働いてみるとそれはプロの働き方ではないと思うようになりました。

働いている時間の多寡は本来関係なくて、ちゃんと仕事をして、ちゃんと価値を出すことこそがプロの仕事。今思えば当たり前なんですけどね(笑)。

池上:全くの同意見です。もちろん私がいた会社の人たちも、クライアントに対して自分たちのバリューを出すという点に関しては、多くの人が高いレベルを追求していました。

でもそのアプローチが下手なので、どうしても無駄な仕事が増えて、労働時間が膨らんでいました。

――それは前職の会社にいた頃から気づいていたことなのでしょうか。

池上:実は、今のコンサルファームに来てからようやく気づきました。というのも今の会社では、常に「自分がもらっているお金に見合った仕事をしなさい」と言われるからです。

例えば今の会社の人たちは、移動手段に迷わずタクシーを使います。それは別にお金があるからとか楽をしたいからという理由ではなく、早く目的地に到着してやるべき仕事をやるためなんです。

自分の仕事観は、こういったちょっとしたことから変わっていきましたね。

投資銀行、広告業界で働くうえでの心得「この業界に転職するなら”激務の質”を意識すべき」

――これから投資銀行、広告業界で働こうと考えている人たちから「激務とどう向き合えばいいか」と聞かれたら、どうお答えになられますか。

高島「何が本当に必要な仕事なのかを見極めるように意識するといい」ですかね。私は当時社会人1年目で、右も左も分からない状態でした。

だから先輩や上司の言うことを全部真に受けて実行しようとしました。その結果、長時間残業が連日続く状況に陥ったわけです。

――自分で仕事を精査する、という感じでしょうか。

高島:そうですね。ある程度社会人経験を積まれたうえで、例えばMBA(経営学修士)を取得してから投資銀行にいくというのであれば、与えられた仕事や指示をうのみにせずに「本当に必要か?」と、まず自問自答してみる。

そのうえで、やはり不要だと思うのであれば、しっかり論理武装をして「この作業は必要でしょうか? なぜなら……」という形で上の人たちとコミュニケーションをとってみる。そうすれば、私のようにわけのわからない仕事に忙殺されるようなことは少しは減ると思います。

池上:私は「質の良い激務をせよ」と言わせてください。

――どういうことでしょうか。

池上「激務の質」を意識するべきなんですよ。むしろ、今の人たちはそうしないと成長できない。

昔の人たちは、長時間労働をすることで経験も積めたし、成長もできました。でも今の時代は、どの業界も社員を長時間働かせることはできません。コンサルでも新卒だと「残業は**時まで」といったルールがあるくらいです。

そうなると、無駄な業務に追われて限られた労働時間を費やしてしまうと、経験や成長につながる仕事に割く時間がなくなってしまいます。

だから目の前の仕事が自分のスキルやキャリアにつながるのかどうかを、慎重かつ迅速に判断していき、無駄な仕事はどんどんカットして、意味のある仕事に限られた自分のリソースを使うという意識を持つこと。そうして「質の良い激務」を自ら作っていく必要があると思います。

コラム作成者
Liiga編集部
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