ビッグデータやAIが取り沙汰されるようになり、現在注目の職種となっている「データサイエンティスト」の仕事。しかし、憧れはあるものの、実際にどんな仕事をしているのかは知らないという人も多いはず。
そこで今回は、4大会計監査法人FASにて現役のデータサイエンティストとして働く石原裕太さん(仮名)に、具体的な仕事内容や所属するチームの空気感、この仕事に求められる素質のほか、データサイエンティストという職種の未来についてお話しいただきました。
〈Profile〉
石原 裕太(仮名)
会計監査法人FAS データサイエンティスト
国立大学大学院を修了後、新卒でEC商社のSEとして就職。5年間勤めたのち現在に至るまで、4大会計監査法人FASにてデータサイエンティストとしてM&A補助のための分析業務に従事している。
※記事の内容は全て個人の見解であり、所属する組織・部門等を代表するものではありません。
「主な仕事は“定量的な”マーケティング」データサイエンティストの役割
――データサイエンティストは、普段どんなお仕事をしているのですか?
石原 : 主な仕事は、BIツールなどを使った定量的なマーケティングです。
例えば「コンビニAがなぜ売り上げが悪く、その原因がどこにあって、どんな施策を打てば状況が改善されるのか」をデータを使って分析、未来予測をしたうえで、わかりやすくビジュアル化するのが私の仕事です。
――クライアントへのプレゼンなどもデータサイエンティストの仕事なのですか?
石原:いえ、私はプレゼンが下手なので、基本的には“分析屋”です。プレゼンは話すのが上手な他のコンサルタントにお任せしています。
――所属するチームには、研究畑の出身者や、SE出身者が多いのですか?
石原:私も含め研究畑出身の人間は全体の半分くらいです。残り半分はファイナンスを専門にやってきた人や、事業再生をずっとやってきた人たちです。定量的な仕事が得意な人と、定性的な仕事が得意な人が半分ずついるようなイメージですね。
――仕事の役割もきっちりと分かれているのですか?
石原:先ほど話した分析とプレゼンといった区分はありますが、データ分析をするチームの中では役割分担はありません。同じクライアントの同じデータを、違うデータサイエンティストが分析することもあります。
――非効率にはならないのですか?
石原:なりません。データ分析と一口に言っても、どういう切り口で分析するかによって見えてくる答えは大きく変わりますし、色々な角度から分析をすることでチーム内でのディスカッションが深まります。
結果、クライアントに本当に価値のある分析結果だけを伝えることができる。だからむしろ役割分担は必要ないんです。
「ゲーム感覚で分析をするマニア集団」データサイエンティストの働き方と日常
――転職して、年収は上がりましたか?
石原:はい、百万円単位で上がりました。おかげさまで、毎年税金の額を見てため息をついています(笑)。
――労働時間に変化はありましたか?
石原:転職してからの方が長くなりましたね。始業は午前なのですが、仕事が終わるのは夜中の2時か3時くらいです。チャットツールの上司のアイコンが「退席中」に変わった途端にベッドに飛び込みます(笑)。
――1年中それくらい働くのですか?
石原:波はありますよ。だいたい2カ月頑張ると、2カ月楽な期間が続くというイメージです。ただ上司はたいてい私が寝た後もパソコンの前に戻ってきて仕事をしていますし、同僚も土日関係なくログインしています。上司は子供がいるはずなのですが、いつ“父親業”をやっているのか疑問ですね。
――それは大変ですね。
石原:いえ、私も含め誰も「大変だ」「忙しい」とは感じていないと思います。というのも私たちデータサイエンティストはゲーム感覚で分析をして遊んでいるマニア集団なんですよ(笑)。
ゲームにのめり込むように、データ分析にのめり込んでいるんです。仕事をやらされているという感覚より、分析結果が気になるからついやってしまうという感覚の方が近いですね。
――では石原さんにとって、今回の転職は大満足だったということでしょうか?
石原:そうですね、本当に転職して良かったです。ただ、チームのメンバーには迷惑をかけているな、という思いは強いですね。
――なぜですか?
石原:分析スピードが遅いからです。ビジネスへの理解力については自信があるのですが、コーディングで「あれ、これどうやってやるんだっけ?」と悩む場面が多く、結果周りと比べてアウトプットのスピードが落ちてしまっていて。
――その差を埋めるために、何か努力はしていますか?
石原:もちろんです。週末の時間を利用してアプリを作ったり、世の中に散らばっているデータを使って分析にかけてみたり、自治体が公募しているデータを活用したビジネスモデルのコンペに参加してみたり……スキルアップのためにできることは色々やっていますね。
「データサイエンティストに必要なのは“好奇心”と“折れない心”」
――やはりデータサイエンティストには、レベルの高いプログラミングスキルが不可欠なんですね。
石原:矛盾するようですが、実は私はそう思っていません。
――どういうことですか?
石原:より高度なITをやっている人間からすれば、データアナリストやデータサイエンティストに求められるITスキルというのは大したものではないんです。
――では、データサイエンティストに必要な素養とは何だと思いますか?
石原:「好奇心」と「折れない心」この2つです。好奇心というのは、ファイナンスとデータに関する興味です。先ほど話したように、ゲームにのめり込むように、データ分析にのめり込めるかどうか、というところですね。
――折れない心というのは?
石原:データ分析をするためには、データベースなどの重複や誤記、表記の揺れなどを全てきれいに整える作業が不可欠です。データクレンジングと言いますが、この作業がとにかく肉体的にも精神的にもタフなんです。
――それは確かに根性が必要そうですね。
石原:加えて常に新しいツールの勉強をしておかないと、あっという間にスキルが陳腐化します。例えば休日などを使ってTableau(タブロー)やAlteryx(アルタリクス)といった代表的なツールだけでなく、今後台頭してくるであろうツールをいち早く勉強しておく。
変化の激しい業界ですが、その激しさを楽しめる人がデータサイエンティストには向いていると思います。
「今から目指すつもりなら絶対に反対」現役が見据えるデータサイエンティストの未来とは?
――データサイエンティストを目指す人に、現役の石原さんからアドバイスをお願いします。
石原:まずお伝えしたいのは、今からこの仕事を目指すのは反対だということです。
例えば今文系の大学4年生で、一からプログラミングを勉強してデータサイエンティストになろうとか、もしくは別領域の仕事をしていて、それを辞めてまで目指そうというのは、絶対にやめた方がいい。
――それはなぜですか?
石原:5年後、10年後、データサイエンティストの希少価値は確実に下がっているからです。ITツールの進化はめざましく、今データサイエンティストしかできない分析も近い将来にはずっと簡単にできるようになっているでしょう。
もちろんデータサイエンティストの仕事がすっかりなくなるわけではありませんが、今のように引く手あまたの状況は近いうちに落ち着くはずです。
――具体的にどのような場面でそのように感じますか?
石原:実際私自身が、他の部署の人たちがデータを流し込むだけでいろんなビジネス分析ができるプログラムを作っていますからね。それにPythonが登場してIT業界が激変したのもつい最近の出来事です。今の状況が長く続くと考える方が不自然ですよ。
――データ分析の世界で生き残るために何が必要だと思いますか?
石原:スキルの掛け合わせです。例えば製造業や物流といった特定のセクターの専門家になればかなり重宝されます。私は前職で機械系のセクターにいたので、いまだにその分野では差別化ができています。
データ分析だけで市場価値が高められる時代はすぐに終わります。データサイエンティストになるなら、自分の希少性を高めるための工夫が必要だということを知っておいた方がいいと思います。