監査業務だけじゃない公認会計士の仕事とは?キャリアパスも紹介
2016/10/20
#公認会計士の本当のところ

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はじめに

現役公認会計士の方に、普段触れることがない業務の実態について解説いただくこのコラム。

今回は、公認会計士の待遇や昇進、転職と赤裸々に語っていただきます。公認会計士の年収や職場の雰囲気から、不正会計やゆとり公認会計士のエピソードまで、なかなか聞くことのできない公認会計士の実情を、ぜひご覧ください。

公認会計士になるとビジネスモデルを読み解けるようになる

公認会計士の最大の醍醐味は、数多くの会社を生の数字を通して見ることができる点だと思っております。

多様な業界の異なるステージの会社を監査業やコンサル業を通じて多く見る事ができると、この業界の場合は会社内部で重要なポイントはココだとか、このステージの会社の場合はどの程度会社内部が整理されているものだとか分かるようになります。この経験やスキルは、どの会社のどのポジションに就いても役立つ機会はあるはずです。

また決算数値の専門家であるから、決算数字から会社の問題点やビジネスモデルを読み解けるようになる点も、大きなアドバンテージになるでしょう。

年収、待遇、業務環境は?

筆者が4大監査法人にいた時期は、試験制度変更による大量合格者が入所する前のため、現在の待遇がどのようになっているのか詳しくはありません。そこで大量合格者が入所する以前の待遇の紹介になりますのでご参考までに。

昇進

監査法人は入所した年度による年功序列制度となり、入所前に社会人経験があろうと新卒であろうと、待遇面では全く違いはありません。このため高齢で新たに入所した人の場合ポジションが一番下にもかかわらず、クライアントは一番偉い人と勘違いし真っ先に挨拶をしに行ったなんてことも起こっていました。

入所してからスタッフ(3~4年)⇒シニアスタッフ(3~4年)⇒マネージャー⇒シニアマネージャー⇒パートナー⇒シニアパートナーとの段階で出世します。

パートナー以降は、株式会社の取締役に相当すると考えてください。各段階をアップできる年次に、パートナーの評価会議により昇進の有無を決定されます。

ただこの評価会議の正当性については、疑問が付くことが多いです。これは評価する人間が監査法人で監査経験しかない会計オタクが大多数のため、人事評価や組織構築などはかかわったことのない世間一般からズレ人が多いためです。

日常業務

往査先のクライアント毎に監査チームが編成されるシステムのため、チームごとにメンバーは変わることになります。ただ、監査責任者が監査チームの希望者を提出し、アサイン会議で配員メンバーが決定されるため、監査責任者の好き嫌いが反映された似通ったメンバーになることが頻繁に生じます。監査責任者へごますりすることで監査法人ライフが有利になる点は、事業会社の社内政治と同様です。

原則として監査チームごとに年次の異なるメンバーを集めることなるため、チーム内の会話は表面的な話題が多くなる傾向にあり、結果として噂話が話題の多くを占めることになる点は事業会社より顕著です。この噂話が好きか嫌いかというのは、監査法人ライフでは結構なポイントになり、「○○のジョブの○○さんが○○した」、「○○さんが○○なミスをしてさー」という会話が大好きな人には天国となる場所です。嫌いな人にとっては苦痛になり早期退職の原因になり得ます。

日常業務を進めるうえでもう一つ特徴的なものは、事務所に自分の席が無い点です。監査業務は恒常的に監査先に行く業務形態であるため、事務所にいる頻度は低く、一人に一つの席を用意することはスペースの無駄になります。そこで事務所に戻った場合は、図書館のようにその都度座席を予約し、場所を確保して使用することになっていました。

給与

入社1年目は当時の基本給は550万円ほどであるが、残業代がかなりチャージできるため、700~800万円ほどにはなりました。4年程度でシニアスタッフになることには残業代を含めると1,000万円に届く水準でした。マネージャーになると残業代がなくなるため一度手取り額は減り、パートナーに上がった段階で2,000万円程度と言われていました。

監査法人からの転職

監査業務で得るスキルと給与のバランスの観点から、監査法人から事業会社やコンサルに移るタイミングは4年目~7年目あたりがベストです。

監査業務は4年間経験すると一通り経験したことになり、あとは同じことを繰り返すためスキルアップという観点では成長は見込めなくなります。

このため長く監査法人に在籍しても、監査業務しか経験ないものが転職直後に出来る業務は、経理業の決算整理の部分のみもしくは財務デューディリジェンス程度しかない実態は変わりません。これに対して上記の給与水準を見て分かる通り一般的な事業会社と比較すると給与水準は高く、その給与水準と持っているスキルを比較すると転職先が無くなっていきます。

10年以上監査法人に勤務している筆者の同期は、飲み会の都度、「監査法人なんていつでも辞めてやる」と豪語しているが、筆者は心の中で「おまえはもう手遅れだ、給与を相当下げないと行く場所なんて無いよ。市場価値を勉強しろ!!」と腹黒く嘲笑っているのです。

なぜ会計不正起きるのか

会計不正が起きる理由は、決算書を会社自身が作成することが関係しています。つまり、決算書は会社にとっての通信簿みたいのものであり、自分の通信簿をよく見せたいという欲求は誰でも持っている本能的なものですから。

ただ、新聞の1面を飾るような会計不正は、ほとんど会社の業績が非常に悪くなる過程で行われるものであるでしょう。業績が悪化して行き銀行等が資金を引き揚げるような状況では、資金繰りが詰まって会社が潰れるシナリオが見えてきます。

会社が潰れるくらいなら会計不正してその難を逃れようとする動機が働き、かつその不正を継続する必要があるので長年の山積した大型の不正に発展しやすいです。当然に会計不正の首謀者は、経営陣の主導のもと行われます。

公認会計士がなぜ不正に加担するのか

会計士が露骨に会計不正に加担する例は、直接的には見た経験はありません。また不正に積極的に加担する公認会計士がいるとも思わないです。

金融ビックバン以降、会社が作成する事業計画予想が監査の現場で大きなウエイトを占めるようになりました。これは事業計画をもとに現状だけでなく将来の業績予想も加味して、減損損失、税効果会計、有価証券の評価損など決算書にインパクトもたらす判断が行われるからです。

このため会社が作成する過度に右肩上がりの事業計画を、いかに適正なものへ修正させるかという戦いが生じます。しかも事業計画は将来の予測であり正解は誰にもわからないし、ビジネスそのものは会社の方が詳しいにもかかわらずです。

ただ一時期、いわゆる「オピニオンセラー」と言われる監査法人があったことは事実です。オピニオンセラーとは、会計不正をしている可能性が高いとわかっていながら、決算書が問題ないとの墨付きを意味する監査意見を金で売ることを意味します。

これは監査法人のヒエラルキーが原因であり、金融業がメガバンク、地方銀行、消費者金融などに分かれるのと同じような関係にあります。つまり優良顧客は4大監査法人が抱えるため、中小の監査法人はそこからあぶれた顧客をつかみます。そうなると業界末端の弱小監査法人は、非常にリスクの高い顧客を選ばないと生き残れないのです。そして営業的に苦しい場合、不正の香りがしても金銭の誘惑に負け監査意見を出すことになるという構造です。

準会員の質が低下した結果…

公認会計士試験といっても合格した年代により、その難易度および能力に大きく差があります。

そのためいわゆる大量合格者世代は質の悪い準会員が多く入ってきたと言いわれ、いくつかの逸話を残すことになりました。

  • 監査法人の本棚には専門書が大量に並んでいるが、勤務し始めの大量合格者の一人が事務所の書籍を勝手にYahooオークションで売りさばき、売上を懐に入れていました。
    一般常識の枠を超えて窃盗罪の領域に踏み入れたようで、当然、クビになりました。
  • 会社先の実地棚卸の現場に、場違いな若い女性が1名いたので不審に思った会社が調べたところ、大量合格者の一人が、自分の彼女を監査先に勝手に連れてきていました。
    働いている姿を彼女に見せたかったからというのが動機だったらしいが、監査先に連れてくるのみでなく、宿泊費や交通費まで会社に請求していたあり様。
    こちらも当然にクビになりました。ちなみに前晩から一緒に泊まっていたため、二人とも非常にスッキリした顔をしていたとか。

会計士側から見た、投資銀行部門、戦略コンサルや事業会社

事業会社のオーナーの場合、専門家のスキルゾーンを理解しておらず、スキルゾーンを超えた過度な要求をしてくる相手がいました。会計士、税理士、弁護士、司法書士…区別が分からないことは理解できるが、さすがにこの領域は出来ないと説明した時は納得してほしいところです。

また、税理士、弁護士、司法書士とは頻繁に仕事をする機会があったため、会話をある程度するとその道のプロとしての大まかなレベルを判断できるようになりました。これは事業会社の立場から専門家を利用するときは、大きな財産になりそうです。

公認会計士の今後

増えつつあるインハウス弁護士のように公認会計士も何か企業内において求められる傾向や、人員過多等の問題はあるのか?

企業内会計士の構想はよく聞かれるが、多くの資格同様、会計士も試験に受かっただけではその世界への入場券を得ただけで、そこから下積み生活を何年も過ごして経験やスキルを獲得しなければ全く役に立たないのが現実です。

会計士の場合は監査法人がその下積みを提供する場であるが、監査法人の受入れキャパシティーが増やせない状況では、合格者を増やしても企業内会計士を輩出するのは非常に難しいでしょう。

監査法人のキャパシティーを増やそうとすると、増える人件費を補うために売上を増やさなければならないです。

監査先の顧客数は全体では限られている以上、監査報酬の値上げが必要となってきます。

しかし監査を受ける会社からすると、受けるサービスが変わらないのに(実際には経験の浅い準会員が増えるためサービスの質は低下する)監査報酬の値上げは応じられるものではないでしょう。このため会社へ提供できる価値がアップさせない限り企業内会計士構想はうまくいかないのではないでしょうか。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

普段ベールにつつまれた公認会計士の業務内容が分かったのではないでしょうか。

目に見えないところまでチェックする公認会計士はただ字面だけを見てジャッジするわけではないので総体的なモノの見方が求められるハードな仕事です。

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コラム作成者
Liiga編集部
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