ファンド専門エージェントに聞いた“PEファンド転職の歩き方”【RGFエグゼクティブサーチ蓮子哲也氏インタビュー】
2021/08/10
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Liigaユーザーにも、憧れのキャリアとして見据えている人が多いPEファンドへの転職。キャリアとしての知名度が上がるにつれ、書籍やネットなどでも少しずつ情報が得られるようになりました。

しかしそれでも、どんな手順で転職を進めていけばいいのかが体系的に語られることは稀です。

そこで今回は、ファンド、投資銀行の専門の専門エージェントであり、Liigaの口コミでも高い評価を受け続けているRGFエグゼクティブサーチの蓮子哲也さんにご協力いただき、“PEファンド転職の歩き方”についてお聞きしました。

〈Profile〉
蓮子 哲也(はつし・てつや)
RGFエグゼクティブサーチ アソシエイトディレクター
2005年にヘッドハンターのキャリアをスタートさせ、ファンド転職の専門エージェントとしてキャリアを積んできた。Liigaでは2021年7月現在平均口コミ星4.0(29件)と非常に高い評価を受けている。

※内容や肩書は2021年8月の記事公開当時のものです

RGFエグゼクティブ サーチ ジャパン
1998年、東京を拠点とするバイリンガル層・外資系企業を対象としたサーチファームとして創業。
今日では、業界トップクラスの実績を有するまでに成長しているエージェント。
多岐多様な業種・職種に渡り、各業界に専任したプロフェッショナルなコンサルタントが対応。
RGFとして、日本だけでなく香港、シンガポール、中国をはじめとしたアジア17都市でビジネスを展開。


【目次】
・ステップ1:PEファンド転職の“今”を知る「裾野は毎年広がり続けています」
・ステップ2:求められるキャリア・スキルを身につける「数年一緒に伴走できるような熱量が求められます」
・ステップ3:質の良い情報を収集する「PEファンドの採用情報は、エージェント以外からも手に入ります」
・ステップ4:面接に向けて対策を練る「モデル試験対策は重要ですが、最重要ではありません」
・ステップ5:自分に合ったプランで面接を受ける「PEファンドに“転職しやすい時期”はないと思っています」

ステップ1:PEファンド転職の“今”を知る「裾野は毎年広がり続けています」

――PEファンドに転職を希望する人は、最初にどんなことから始めればいいでしょうか?

蓮子まずはPEファンド転職の状況を知ることだと思います。

――詳しく教えてください。

蓮子:今、PEファンドの転職市場は完全に人手不足になっております。これはファンドの数が増えてきており、かつ1社ごとの運用金額も拡大しているからです。そのため、多くのファンドでアソシエイトクラス、20代の若手を中心とした求人が増えてきております。また、35歳以上の中堅~シニアクラスの募集も以前より増加傾向です。

また、アジア一帯を投資エリアに持つ外資系ファンドが日本のチームメンバーを募集するなど、グローバル化の兆しも見られます。

――PEファンドというと、PEファンド経験者か、外資系投資銀行や金融系のコンサルファームなどでのM&A業務経験者、もしくは戦略系コンサルファーム出身者しか採用されないというイメージがありますが、その点は変わりないのでしょうか?

蓮子:売り手市場の現況に伴って変わってきております。例えば総合商社で投資関連や投資先管理関連経験ある方や、MBAホルダーであればファンドへの転職に成功する方は一定数います。私は今後、事業会社出身の方の採用も、少しずつ増えてくるのではないかとも考えております。

――どうしてですか?

蓮子:PEファンドの増加に応じて「働いていた会社がファンドの投資先になった」という経験を持つ人が増えてくるはずです。

そういう会社でファンドから任命を受けて経営企画に従事されていた方や、社長室長のポジションにいた方というのは、企業価値を高めるバリューアップ施策に直接関わることになります。PEファンドに転職する際、その経験が評価される可能性は十分あります。

――他に何か転職市場の変化はありますか?

蓮子:最近かなり増えてきているのが、PEファンドからPEファンドへの転職です。

――以前はなかったのですか?

蓮子:あまりなかったです。ファンドに一度入ったら、そこで長く働くというのが通例でした。ファンドの数、運用金額が増えており、他の業界と同じように業界経験ある即戦力採用が起こり始めております。

他にも独立したり、投資先の会社に呼ばれて転職したり、他の事業会社のCXOになったりと、PEファンド後のキャリアの幅も広がってきております。

――選択肢が増えてきているのですね。

蓮子:そうですね。また、最近のトレンドとして、PEファンドが一つの企業に投資する平均期間は4〜5年が標準でしたが、最近は3年未満という事例も増えてきています。

そういった事例では、投資が決まったタイミングで、すでに数年後の売却先や、投資後の外部からの新マネジメント招聘まで決まっているというケースも少なくありません。

――業界の慣習が少しずつ変わってきている?

蓮子:はい。ですので「PEファンドに転職する」と一口に言っても、どんなスタンスで投資をするファンドなのかによって、転職後の働き方は変わってきます

――どういうことでしょうか?

蓮子:投資期間が4〜5年のトラディショナルなスタンスのファンドであれば、投資先の会社の人たちと膝を突き合わせてコツコツとバリューアップさせていく場面も増えます。ファンド後のキャリアとして事業会社のCXOなどを思い描いていらっしゃる方は、こういう仕事に惹かれるはずです。

これに対して、投資期間が3年未満になると、バリューアップもスピーディです。投資期間が短いファンドの場合は、投資後は時間と人員を効率的にかけることで、その分新規投資検討件数が多くなる傾向があり、投資業務を主体に経験を積まれたい方には最適な環境かもしれません。

――自分の将来像に合ったファンドを選ぶ必要がある、ということでしょうか?

蓮子:そうです。ファンドの数だけでなく、種類も少しずつ増えてきている今なら、それが可能なのです。加えて、ファンドは投資先の議決権を取得するバイアウトファンドのみではありません。上場株式のみに特化して株価向上のサポートをするマイノリティ投資会社、成長銘柄に投資をするグロースファンドも注目を浴びておりますし、更には物言う株主のアクティビストファンドや上場をサポートするベンチャーキャピタルなども拡大を続けております。従いまして、今回のテーマであるPEファンドを受ける場合は、「なぜ数あるファンドからPEファンドを目指すのか?」という視点は非常に重要です。

ステップ2:求められるキャリア・スキルを身につける「数年一緒に伴走できるような熱量が求められます」

――PEファンド転職の状況を知ったら、次は何をするべきですか?

蓮子求められるキャリア・スキルを身につけることです。現時点ではまだ、先ほど申し上げたようなプロフェッショナルとしてのキャリアを積むことが、PEファンド転職への早道です。

ですのでまずは、投資銀行やコンサルなどへの転職をしてからPEファンドを目指す、というのも一つの選択肢です。

――スキル面ではどんなものが求められますか?

蓮子:M&Aに必要なモデリングやコンサルティングのスキルは大前提ですが、高いコミュニケーション能力も求められます。

というのも、PEファンドのメンバーは若くして経営のトップ層とやりとりをすることになります。そのため、若手であるほど可愛がられるようなコミュニケーション能力が求められるのです。

加えて、仕事への情熱も必要です。

――PEファンドで働いている人というと、クールな印象がありますが、実際は違うのでしょうか?

蓮子:もちろん冷静に数字を見ることも必須ですが、少なくとも数年間を、一つの会社に伴走して企業価値を高めていくわけですので、相応の熱量が求められるのです。

また投資銀行出身の方はコンサルティングの経験値を、コンサル出身の方はファイナンスの経験値を、ものすごいスピードで積み上げることを求められますので、貪欲に学んでいく姿勢も必要です。

PEファンドを目指すなら、これらは基本中の基本だと思っていただいて間違いありません

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ステップ3:質の良い情報を収集する「PEファンドの採用情報は、エージェント以外からも手に入ります」

――求められるキャリア・スキルが身についたら、次は何をすればいいでしょうか?

蓮子情報収集をすることです。

――PEファンドの採用情報というと、蓮子さんのようなエージェントから手に入れるしかないのでしょうか?

蓮子:そんなことはありません。エージェント以外からも手に入ります。Liigaの他の記事のように、インターネットでアクセスできる情報も多いと思いますし、周りにファンドに転職している方がいれば、そういう方から得られる情報もあります。

――ではエージェントを利用するメリットはどこにあるのですか?

蓮子:やはり採用情報の質の高さだと思います。実際、当社に相談に来られる方が求めていらっしゃるのは、どこのファンドが人を探していて、自分に合っているファンドはどこで、そこに採用されるには具体的にどういう対策をしたらいいのか、といった情報です。

ですので当社としても、そういう情報をできるだけ多く集めるようにしております。

――具体的にはどういった工夫をされているのですか?

蓮子:私個人で70社以上のクライアント様を定期的に回り、直接会って話をして、情報を集めております。これはPEファンド様だけの数なので、他のヘッジファンド様やVCファンド様などを含めると、もっと多くの会社の方々と話をしております。ファンドの違いや特徴などを出来る限り把握するように努めております。

当然ただ話をしているだけでは意味がありませんから、各ファンドがどういうところに投資していて、どういう人たちが働いていて、どのように選考をしていて、どんな人が採用されているのかなど、―――情報の機密性を大前提に―――ヒアリングしております。

――でも、それだけ多くの会社を回っていれば、どうしても聞き出しきれないケースも増えるのではないですか?

蓮子:仰る通りではありますが、当社もチームで動いておりますし、チーム内の情報共有を徹底しておりますので、常に新鮮な情報を保有できている自信はあります。本来、候補者の方々が当社に求めていらっしゃるのは、できるだけ多くの選択肢の中から、自分に合っているものはどれかを提案してもらうことのはずです。

ですので、できるだけ全てのファンドに対して、先ほど申し上げたような質の高い情報を持っていられるように、情報収集に最大限の時間と努力をかけております。

――具体的にはどういった工夫をされているのですか?

蓮子:地道にやるしかないと思っております。とにかく人との接点を増やして、そこから情報をコツコツ集めていくしかないと思います。

また、当社は現在リクルートグループ傘下ですが、起源は外資系専門エージェントのCDSというヘッドハンティング会社でした。その時からお取引させていただいている外資系企業様との強固なリレーション、現在のリクルート傘下に入ったことからの日系クライアント様の広がり、加えてRGFの海外拠点もあることから、現在当社には日系・外資系問わず、多くのファンドの質の高い情報が蓄積されています。海外での就労・転職情報も保有していることも特徴です。

――そういったエージェントを頼るのが、情報収集の早道になりそうですね。

蓮子:エージェントの使い方は皆様それぞれだと思いますが、うまく活用していただければと思います。エージェントが紹介したい求人だけを薦めるのではなく、数ある選択しの中から候補者様主体で選択いただけるような、最初から最後まで寄り添えるエージェントを常に目指しております。

ステップ4:面接に向けて対策を練る「モデル試験対策は重要ですが、最重要ではありません」

――情報が集まったら、次はいよいよ面接に向けての対策を練ることになるのでしょうか?

蓮子:そうです。

――PEファンド転職では、モデル試験対策が重要だと言われますが、やはり実際に比重は高いのでしょうか?

蓮子評価のベースになる重要なものではありますが、最重要ではありません。RGFでは英語版と日本語版でモデル対策資料を用意しておりますが、そちらで数か月あれば十分対策は終わります。

もともと投資銀行などでM&Aの経験を積んでこられた方々であれば、更に短期間で準備は完了すると思います。

――やはり投資銀行など、M&Aに絡む経験がなかった方は対策が難しくなるのですか?

蓮子:より丁寧に対策をする必要がありますが、それでも大半の方は数か月以内に終わります。モデル試験対策にばかり時間をかけていても採用は勝ち取れないので、そのあとは別の対策に時間を使うことをおすすめします

――別の対策というのは?

蓮子PEファンドの全体像の把握、理解をするための努力です。例えば面接で良くある質問として、ファンドのリターンの源泉に関する質問に「自身の意見」を交えてきちんと答えられるようにしたり、自分なりの投資アイデアなどを伝えられるようにしたり、と色々です。

――そういった対策は、どのように進めていくのですか?

蓮子:その方のBackgroundに合った、想定問答集を使います。投資銀行の方、戦略ファームの方、その他のご経歴の方で一般的な質問集など、これは今まで当社でサポートをした候補者の方やクライアントからヒアリングした内容を集約したものになります。常に最新の情報を更新するように努めております。

――しかし、想定問答集で答えを作ることができても、答えの“深さ”が足りない場合もあるのではないですか?

蓮子:そういう場合は、自分の土俵に持ち込むようアドバイスをしております。

――具体的にはどういったアドバイスでしょうか?

蓮子:例えば投資銀行の方であれば、「自身がセルサイドアドバイザリーとして手掛けた過去の案件のヒントから、自身がバイサイドであったと仮定して投資アイデアを練っている」や、コンサルタントの方であれば、「自身の過去のプロジェクト経験から、PDCAを回す中で、その案件をどうバリューアップすれば更に企業の価値が上がったのかを考察している」など、自分の強みや話したい内容を準備し、自然に面接の中でその話をする場に持ち込むことです。そこを話さなければ、全力を尽くしたことにはならないのです。

ただ質問に答えていくのが面接ではありません。だからこそ入念な準備が必要なのです

――先ほどPEファンド転職の求人がグローバル化してきている、という話がありましたが、グローバルなファンドとローカルなファンドで対策に違いはありますか?

蓮子:わかりやすいところで言うと、グローバルなファンドはどこかで英語チェックが入ります。ただ、グローバルとローカルという軸よりは、投資先の規模による違いの方が大きいです。

――どういった違いがあるのですか?

蓮子:投資先の規模が大きなファンドは、投資先の会社にどんな問題点があり、それをどう改善して、どんな結果が出たのか、といった体系的な話を求めております。

ですので対策を練る時も「地方企業のオーナー社長と泥臭く関係を構築していった」といった話よりは、戦略の立て方やPDCAの回し方についての経験を掘り下げていくことになります。

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ステップ5:自分に合ったプランで面接を受ける「PEファンドに“転職しやすい時期”はないと思っています」

――他の業界では「ボーナス後が転職しやすい」といった話も聞きますが、PEファンドにもそういう時期はあるのですか?

蓮子:私の考えでは、PEファンドに“転職しやすい時期”はないと思っております。というのも、ファンドにはキャリード・インタレストと呼ばれる制度があるのですが、これはファンドの投資成績に応じて数年に一度支払われる報酬です。若しくは、投資担当者が担当した案件の売却益などに応じて支払われるケースもあります。

キャリードインタレストの支給タイミングというのは、各ファンド・各案件で異なります。ですので他の業界のように「この時期がボーナスシーズンだから、そのあとのタイミングで人が辞めやすい」という話にならないのです。

――新しいファンドが立ち上げられたり、新しい案件がスタートしたりするタイミングもバラバラなのでしょうか?

蓮子:そうです。ですのでいつ増員や採用が決定されるかということも、なかなか予測がつきません。

――逆に言えば、色々なファンドが色々なタイミングで募集しているから、入りたいと思って能力があれば、入るチャンスはあると考えてもいいのでしょうか?

蓮子:その通りです。もっと言えば、「希望するポジションが業界内で見つからない」というケースも、PEファンド業界にはあまりありません。

――どういうことでしょうか?

蓮子:例えば事業会社への転職であれば、何かしらの技術を持っていて、その技術を生かして転職をしたいとお考えになる方は多いと思います。その場合、転職志望先の企業に自分の技術を生かせるポジションがない、というケースは十分あり得ますよね。

しかしPEファンドの仕事は、ファンドごとに特徴は様々ですが、実際にやっていることは概ね同じです。ですので、どこかしらに自分が希望するポジションは見つかるのです。無論、上述のような最低限のスキルをお持ちであることが前提です。

――面接は何社くらい受けるのが適切ですか?

蓮子なるべく多くのファンドを見た方が、納得感のある転職活動になるとは思います。しかしPEファンド1社から内定を得るだけでも、モデル試験やケーススタディがあるため、大変です。そして投資銀行や戦略コンサルファームにお勤めの方は基本的に多忙です。ですので私はその方人の状況に合わせたプランを提案するようにしております。

――具体的にはどういったプランでしょうか?

蓮子:例えば戦略コンサルファームに在籍されている方であれば、プロジェクトの隙間を狙ってその期間に5〜6社受けていただくこともあります。逆にまとまった時間は作れないけど、1週間に1〜2社受けられるという方なら、そういうスケジューリングをします。

――そうして面接をクリアして、晴れてPEファンドに入れるということですね。

蓮子:そうですね。早い方は2年前から、通常でも半年くらいの時間をかけて準備をしていきます。その間、全力でサポートをしていくのが私たちエージェントの仕事だと考えています。

――本日はお忙しいなかお時間をいただき、ありがとうございました。

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コラム作成者
Liiga編集部
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