元バンカーエージェントが語る“IBD転職で大切なもの”とは?【エーテン・アソシエイツ・ジャパン河田格氏インタビュー】
2021/08/27

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金融機関に勤める人にはもちろん、そうでない人にも憧れのキャリアとして挙げられることが多いIBD転職。しかし同時に、非常にハードルが高い業界としても知られています。

いったいどんなスキルを磨き、キャリアを築けばそのハードルをクリアできるのか。

今回はその答えを教えていただくべく、金融関連の様々な分野・職種での人材紹介を専門とするエーテン・アソシエイツ・ジャパンでパートナーを務める、河田格さんにインタビューを実施。

Liigaの口コミでも高い評価を受け続けている河田さんが考える、“IBD転職で大切なもの”についてお話しいただきました。

〈Profile〉
河田 格(かわだ・かく)
エーテン・アソシエイツ・ジャパン パートナー 日本政策投資銀行 審査部次長、DBJ証券 取締役、を歴任した後、㈱エーテン・アソシエイツ・ジャパンにパートナーとして参画。投資銀行部門における25年以上に及ぶ経験を活かし、IBD、アセットマネジメント、PEファンド、FAS、大手銀行に強みを持つ。早稲田大学大学院修士課程修了。


【目次】
・“覚悟・英語力・会計知見” IBD転職で求められる3つのポイント
・「スキル・キャリアは2〜3割、残りの7〜8割は“人間力”で決まる」IBD転職のつまずきどころは?
・「アレとコレをやったからうまくいく、なんて単純なものじゃないから」エージェントとして一番大切にしていること
・IBDで成果が出せる人・出せない人の特徴と、IBD出身者のネクストキャリア

“覚悟・英語力・会計知見” IBD転職で求められる3つのポイント

――IBDと一口に言っても、M&Aアドバイザリー部門、デット・キャピタル・マーケッツ部門(DCM)、エクイティ・キャピタル・マーケット部門(ECM)、公開引受部門(IPO)などに分かれています。IBD転職において、どの部門を目指すかによって求められる経験値やスキルは異なるのでしょうか?

河田:あまり経験のないポテンシャル採用であれば、大きくは変わりません。当然業務内容が違うので細かく見れば変わってきますが、私はポイントは3つだと考えています。すなわち、

1.IBDで働く覚悟 2.語学力(英語力) 3.会計の知見

の3つです。

――1つ目に精神的な話が来るのですね。

河田:はい。私が若い頃に、当時の上司がこんなことをぼそっと呟いたのを今でも覚えています。「1日って24時間あって、1年で365日あるんだよねえ」って。今こんなことを言えばパワハラで怒られてしまいますが、要は24時間365日、仕事へのコミットを求める世界なんです。

――しかしIBD業界も働き方改革で、労働環境が改善したと聞きます。

河田:とはいえ、そうした文化はまだまだ色濃く残っていますし、外資系IBDになると今でも完全に“24時間365日”の世界です。だからIBD転職を考える人にはまず、精神的にも肉体的にもタフに働き続ける覚悟が必要なのです。

――2つ目の語学力はどれくらいのレベルが必要なのでしょうか?

河田アドバイザリーやカバレッジであれば相当に高いレベルが求められます。一方でDCMやECMになると部署によって変わってきます。外国債の営業をしたり、外国の投資家を当たったりする部署なら必要ですし、国内メインなら英語があまりできなくても困りません。ただ、やっぱりあるに越したことはないですね。

――どうしてですか?

河田やはり語学力があった方が、採用サイドからの評価は高くなるからです。なので、英語の点数なんて3ヶ月もあれば上げられるはずですから、やっておいて損はないと思いますね。むしろそこで努力できないくらいのモチベーションなら、転職できても耐えられないんじゃないかな(笑)。

――そういう意味でも、やはり覚悟が重要なんですね。3つ目の会計の知見というのは?

河田:面接の段階で、面接官から突っ込んだ質問をされても答えられるくらいの知見は必要です。バリュエーションやモデリングの経験があれば何の問題もありませんが、経験がない場合は勉強してもらうことになります。

――どちらにせよ、入社してから必要になる知識ですから、これも勉強しておいて損はなさそうです。

河田:まさにその通りです。日本の会計士が取れるならベスト、それが難しければUSCPA(米国公認会計士)くらいは取っておくと転職活動を有利に進められますね。

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「スキル・キャリアは2〜3割、残りの7〜8割は“人間力”で決まる」IBD転職のつまずきどころは?

――IBD転職で多くの人がつまずきやすいポイントについて教えてください。

河田:転職活動をマニュアル的に進めようとすると、たいていうまくいきません。

――どういうことでしょうか?

河田:「公認会計士を取ったからIBDに行ける」「FASでバリュエーションの経験を積めばIBDに行ける」といった考え方をすることです。

もちろん採用の確率を上げる要因にはなりますが、スキルやキャリアといった外形的な要因が採否に及ぼす影響はせいぜい全体の2〜3割程度に過ぎないんです。

――残りの7〜8割を占めるのは?

河田:人間力です。IBDの採用というのは、少なくても10人、多い時は15人と会わせるようなところが大半です。

――他業界と比べると、異様な人数ですね。

河田あらゆる角度から、候補者の方の人間力を見極めるためです。結果として15人中13人目の面接で不採用になるケースもあります。私たちエージェントの役割は、そういった事態を避けるために、本人の持っている人間力を最大限引き出すことだと考えています。

――どういったサポートをしているのですか?

河田IBDの採用サイドとして働いていた経験を生かして、IBD側が求めている答えを返せるようしっかりと話し込みます。もっと具体的に言えば、膝を突き合わせて想定問答づくりをしています。

話の内容にきちんと筋が通っているのか、矛盾はないのか―――候補者の皆さんは非常に優秀な方が多いので、一つ一つの質問には適確に答えられるのですが、全ての回答に一貫性があるかというと、意外と抜け落ちがあるもの。この部分は能力の有無というより、人生の経験値だと思うので、そこを補うのが私の仕事です。

「アレとコレをやったからうまくいく、なんて単純なものじゃないから」エージェントとして一番大切にしていること

――これまでに記憶に残っている候補者の方のエピソードがあれば教えてください。

河田:うーん……難しいですね。「こういうことがありました」と物語仕立てて話せないわけではないのですが、そうやって単純化することには抵抗があります。

――どうしてですか?

河田:アレとコレをやったからうまくいく、なんて単純なものじゃないからです。もっと入り組んでいて、複雑で、3歩進んで2歩下がる、みたいなことが当たり前にあるものなんです。

だからこそ候補者の方と膝を突き合わせて、時には奥様との関係や子供の将来といった話にまで踏み込みながら、深く、濃く関わっていくようにしています。

――なぜそこまで時間と労力をかけるのでしょうか?

河田:転職活動というのは、孤独なものです。同僚はもちろん、友人や先輩にもなかなか相談相手は見つからないものです。私自身転職活動をしていた時に、頼りにできる人が見つからずに途方に暮れました。だからこそ専門家としてだけでなく、人生の先輩として相談相手になることを大切にしているんです。

――候補者の気持ちに寄り添うことを第一に考えているのですね。

河田:エーテン・アソシエイツ・ジャパンが各エージェントに独立性を認めていることもあると思いますが、私は自分の都合で紹介をするようなことは絶対にしないと決めています。今転職するべきじゃないと思えば「残った方がいい」と言いますし、受ける企業も2〜3社に絞り込んで、むやみに心身をすり減らすようなこともさせません。

――「心身をすり減らす」というのはどういうことですか?

河田:IBDに限らず、転職活動は一社一社しっかりと対策を立てていく必要があります。そのため5社も6社も受ければ、どうしても対策が中途半端になります。必然的に不採用になる確率も高くなりますが、そうなると人は落ち込むものなんです。仮に「ここは無理だろうな」とアプライした先であっても、落ちると結構へこむんですよね。

――しかし2〜3社に絞り込むのも、ある意味ではリスクが高くなるのでは?

河田25年以上も業界にいましたから、だいたいどれくらいの確率で採用になるかはわかるんです。書類にしても、「7〜8割は通る」「五分五分で通る」「通る確率は2〜3割」くらいの解像度で見極められます。だから無駄に受けてもらう必要はない。そのぶん、各社の面接対策に時間を使って欲しいんです。

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IBDで成果が出せる人・出せない人の特徴と、IBD出身者のネクストキャリア

――IBDに転職してできたものの、なかなか成果を出せない人もいるのでしょうか?

河田: 3年なら3年、最大でも5年、丁稚奉公をするつもりで耐えられれば成果が出せるようになりますし、みんな覚悟を持って入ってきているので、成果が出せない人というのはほとんどいませんでした。

そもそも成果が出せるかどうかは自分で判断することではありません。採用サイドが「この人なら大丈夫」と判断したわけですから、オファーをもらったら自信を持てばいいんです。

――しかし、それまでのキャリア次第では「先にこういうスキルを身につけてからの方が……」と思う人もいるのではないでしょうか?

河田:採用されたということは、大丈夫ということなので、そんなことを考えなくても大丈夫です。堂々と行きましょう。

――IBD転職をする方は、どういった業界出身が多いのでしょうか?

河田:IBD未経験の場合なら、多いのは大手銀行や生命保険会社といった金融機関。あとはFASや戦略コンサルティングファームの方ですね。

――それ以外の業界からはやはり難しい?

河田:門戸は相当狭くなります。ただし、その中でも多いのは総合商社の3〜4年目くらいの若手の方。英語はもちろん、事業投資などの経験があるケースも多いので、比較的マッチしやすいんです。

あとIBDや証券会社は―――商社もそうですが―――いわゆる新卒偏差値の高い企業からの転職希望者を好む傾向はありますね。

――IBD転職を考えている人は、そのあとのキャリアについてもプランを持っているかと思いますが、実際IBDのネクストキャリアにはどのようなものがありますか?

河田:部門によりますね。DCMやECMは職人の世界なので、DCMからDCM、ECMからECMへの転職が一番バリューを発揮できます。一方でアドバイザリーなどになると相当幅広くなります。一番アップサイドで言えばPEファンド。あとは事業会社に移ってIPOに絡む人もいます。

――本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。

コラム作成者
Liiga編集部
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