デジタル案件、異業界の侵攻…変化の渦中にあるコンサル業界の現在のトレンドとは
2021/11/10

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日本の中でも数少ない成長産業とされているコンサルティング業界。新型コロナウイルスの影響を受け、そのトレンドに歯止めがかかるかと思われましたが、成長の勢いは止まることを知りません。Liiga会員の方々の中にも、コンサルティング業界に転職を考えている方もいらっしゃるかと思います。

そんなコンサルティング業界ですが、激変する事業環境を受けて、業界内にも変化が巻き起こっていることをご存知でしょうか。今回は、コンサル業界に起きている3つのトレンドについてご紹介します。

トレンド1 デジタル案件の増加で激しく“領空侵犯”するコンサル業界 岐路に立たされる戦略系

第4次産業革命の到来とコンサルに求められるものの変化

1つ目のトレンドはデジタル案件の増加に伴う、コンサル業界内での“領空侵犯”の活発化です。第4次産業革命が起こりつつある現代、デジタル技術の活用なくして事業を行っていくことは困難になりつつあります。AI、ブロックチェーン、IoT、クラウドなどが発達し、企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を求められています。 また、GAFAMをはじめ、デジタル技術を活用した商品やサービスを提供するITプラットフォーマーが支配力を強め、既存業界を破壊するディスラプターとなっています。 更に、昨今の新型コロナウイルスの影響を受けて、リモート化をはじめ旧態依然としたやり方を大きく変革させることを余儀なくされた企業も多いことでしょう。 このように日本企業を取り巻く事業環境は目まぐるしく変化している現代は、VUCA(*)の時代と呼ばれています。

この状況下で、コンサルティングファームに求められることも大きく変化してきています。従来のコンサルティングファームは、全社前者戦略の立案や事業戦略、マーケティング戦略の立案など、企業経営の上流〜中流にあたる領域で顧客が抱える課題を解決し得るアウトプットを提示し、収益を上げてきました。

しかし、企業活動とデジタル技術が不可分になってしまった現在では、従来のような経営アジェンダに関するプロジェクトよりも、DXへの対応、業務プロセスの改善といったテーマのプロジェクトが増えているのが現実です。 DXへの対応のためには、デジタル人材が必要不可欠ですが、日本企業がデジタル人材を内製化することはそう簡単なことではありません。そこで、デジタル人材に代表される「人材不足」を補うために、高付加価値人材を多数抱えているコンサルティングファームに丸ごと外注しよう、という流れが出てきているのです

(*)VUCA: Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のことを意味する

規模拡大or少数精鋭で二極化 従来の区分けは曖昧に

時代の流れに沿って変化するクライアントからのニーズに合わせ、各ファームは自社の戦略を柔軟に変更してきました。この戦略には各社の独自性が現れていますがが、大別すると2つの方針に分けられます。それは、規模拡大or少数精鋭です。

まず、規模拡大とは、『人員の拡充を図り、均質なコンサルティングサービスを多くのクライアントに提供する』という方針を意味します。上述の通り、DXの波に対する対応は急務になっており、需要が供給をoverしてしまっているような状況です。 こういった状況に対応すべく、コンサル各社は人員を拡充し、コンサルタントの俗人性を極力廃した均質かつ高品質なサービスを提供しようと試みているのです。

こういった方針を取るファームとして代表的なのは、アクセンチュアやデロイト トーマツ コンサルティングをはじめとする総合コンサルティングファーム各社です。そして近年はマッキンゼー アンド カンパニーやボストン コンサルティング グループも規模拡大に舵を切り始めています。

この方針をいち早く進め、大きな成功を成し遂げたのはアクセンチュアです。従業員数は2014年度からの6年で約3倍の約16,000人まで増やしており、日本のコンサル業界において圧倒的な地位を確立しました。 また、戦略コンサルの雄であるマッキンゼー アンド カンパニーはMcKinsey Digital、ボストン コンサルティング グループはDigital BCGをそれぞれ設立した上、近年は人員の拡充に踏み切っており、新卒・中途問わず門戸が広がっているのが現状です。

次に、少数精鋭とは『無理に人員を増やさず、オーダーメイドの提案を提供する』という方針を意味します。ここまで紹介してきた規模拡大路線をとるファーム群に対するアンチテーゼとも取れるような方針を貫いているファームが、一定数存在するのです。 こういったファームは、従来のCEOアジェンダと呼ばれる企業活動の上流と呼ばれるようなプロジェクトにも、引き続き取り組んでいます。ただ、デジタル化の波にあらがうことはせず、デジタル関連のプロジェクトにも取り組んでいるのは確かです。クライアントにとって最適なソリューションを、オーダーメイドで丁寧に作り上げることを目指しています。

こういった方針を取るファームとして代表的なのは、A.T. カーニー、アーサー・D・リトルやコーポレートディレクションズ、及び外資系ブティックファームなどが挙げられます。

中でもコーポレートディレクションズは同社Twitterで自社を“一部の世界で生き残っているシーラカンスのようなもの”であると自称しており、経営コンサルティングの『産業』化に一石を投じるようなスタンスを貫いています。

コーポレイトディレクションズ(CDI)のツイートはこちら

トレンド2 サービスラインを拡大し異業種へ侵攻 事業会社化するコンサル

2つ目のトレンドはクライアントのニーズの多様化に伴う、サービスラインの拡大です。 元来コンサルティングファームは、経営アジェンダを解決する、マネジメントコンサルティングのみを行うサービス業として成長してきました。しかしながら前述の通り、VUCAの時代と言われる現代ではクライアントが抱えるニーズは多様化しており、従来のマネジメントコンサルティングのみでは、クライアントの課題を完全に解決できないケースが出てきました。そこで、コンサルティングファーム各社は自社にないサービスラインを拡充するためのM&Aを行ったり、自社で新たにチームを立ち上げ、事業の多角化に取り出しています。 以下では、サービスライン毎に近年のトレンドをご紹介いたします。

広告

近年、アクセンチュアをはじめとする一部のコンサルティングファームが、デジタルマーケティングの支援に留まらず、実際にクライアント向けの広告作成にまで乗り出してきているのをご存知でしょうか。広告は企業の戦略、及びその商品に込めたメッセージを体現するものであるため、経営に近いところに携わっているコンサルティングファームにそのまま手掛けてもらうのが合理的である、と考えるクライアントが増えてきているためでしょう。

実際、アメリカのアドバタイジング・エイジが毎年公表している全世界のデジタル広告収益ランキングの上位をアクセンチュア・デロイト・IBMなどのコンサルティングファームが独占しており、従来の広告代理店にとっては脅威となっているのです。

そして、広告業界内にも衝撃が走ったのは、2019年にアクセンチュアがアメリカの大手クリエイティブ会社のDroga5を買収したことです。この買収は、広告代理店とコンサルティングファームが今後競合しうることを世に知らしめることとなりました。

デザイン

コンサルティングファームとデザインエージェンシーが関係性を強めていることも、特筆すべきトレンドです。デザインエージェンシーとは、デジタルマーケティングの戦略策定やコンテンツの制作、効果測定などを行う企業を指します。そして近年、こういった企業をM&Aで取り込むコンサルが出てきているのです。

その背景にあるのは、コンサルがクライアントの多様化するニーズに応えるために、デジタルマーケティング領域での実行力、深い専門性を持った人材が必要になってきていることがあると考えられます。 プロジェクトのアウトプットとして、製品のプロトタイピングやテストマーケティングなどを手がけるプロジェクトも出てきています。こういったプロジェクトの際に、毎回外部のデザインエージェンシーに外注するのではなく、人材を内製化することでより素早く、質の高い価値を提供できるように、買収に踏み切るのです。

マッキンゼーは2015年5月にデザイン・コンサルティング会社LUNARを買収していますし、アクセンチュアは、デジタルマーケティング支援を手がけるアイ・エム・ジェイ(IMJ)を2021年10月1日に吸収合併しました。

自前ソリューション

コンサルティング会社が自前のソリューションを開発し、クライアントに提供し始めているのも、大きなトレンドと言えるでしょう。従来、コンサルティングファームの商品は”人”でした。メーカーのように自社を代表する商品を持たないことが大きな特徴でしたが、一部のファームでは自前のソリューションを開発、販売しているのが実態です。 急速に事業環境が変化する中で、数多くの顧客が抱えるデジタル関連の課題を解決するには、パッケージ化して提供する事に価値を見出しソリューション開発に乗り出した、と言えるでしょう。

代表的な例としては、PwCコンサルティングが手がけている「Quality Digital Transformation」やアクセンチュアの「AI HUBプラットフォーム」が挙げられます。

インキュベーション・事業投資

コンサルが第三者的な提言にとどまらず、リスクを取って事業にマネーを投じるような動きが出てきていることも、大きなトレンドとして挙げられます。従来、コンサルティングファームがプロジェクト後もクライアントのビジネスに伴走し続けることは、一般的ではありませんでした。結果的に、『コンサルはあくまで第三者』というイメージを拭えずに業界を去っていった方が数多くいらっしゃるのも事実です。 しかし、近年ではクライアントのビジネスに出資し、JVを作り上げて事業を継続するケースや、新興のベンチャーに投資、インキュベーションをするコンサルティングファームが出てきています。 代表的な例で言うと、ドリームインキュベータは社名にもある通り、比較的古くからインキュベーション事業を手がけてしましたし、新興ファームであるシグマクシスはクライアントとJVを立ち上げて共に事業を育てていく新しいコンサルティングの形を提供しています。

トレンド3 異業界による侵攻 新興勢力の台頭

3つ目のトレンドは、従来のファームを脅かす、新たなプレイヤーの参入です。 日本のコンサルティング業界の広がりは、外資系ファームが日本市場に進出してスタートしました。その後、日本初のファームが続々と出現し、コンサル業界には多くのプレイヤーがそれぞれの得意領域を活かして活躍の場を広げてきました。 そしてコンサルティングという言葉が人口に膾炙する様になった昨今、異業界のプレイヤーがコンサル業界に進出してきたり、これまでの常識を覆すような新興のファームが登場してきています。これによって、ますますコンサル業界内の競争は活発化しているのです。

異業界からのプレイヤー

ここでは異業界からコンサル業界にどのようなプレイヤーが進出してきているか、その傾向を見てみましょう。

まず、広告業界からのプレイヤーが挙げられます。 コンサルティングファームが広告業界に進出していることは上に述べた通りですが、逆に広告代理店もコンサル業界に足を踏み入れ初めており、両者の境界線は曖昧になりつつあります。広告代理店は、クライアントが抱える課題に広告という形で解決策を提示し、顧客のビジネス拡大に貢献してきました。これを広告という枠組みに囚われず、顧客のビジネス全体に広げてみると、コンサルティングファームと競合することになるのは、ご理解いただけるのではないでしょうか。 実際に、広告代理店のリーディングカンパニーである電通は、2010年に株式会社電通コンサルティングを設立している上、2017年には電通の未来創造グループが電通ビジネスデザインスクエアを立ち上げています。 また、広告代理店の雄である博報堂の社内にも『DXストラテジーコンサルタント』と呼ばれる、企業のDXを支援する社内コンサルタントが在籍しています。

広告業界以外にも、一部の総合商社もコンサル業界に進出してきています。 総合商社は数多くの関連会社を抱えており、各関連会社ではさまざまな経営課題に日々直面しています。総合商社にとって、関連会社のバリューアップは至上命題になります。しかし、外部のコンサルを逐一雇うのは非効率的であると考え、自社内にコンサルティング部隊を設立するようになったのです。これには、総合商社内にコンサルティングファームを卒業した人材が増加している、という昨今の情勢も後押しとなっていると考えられます。つまり、戦略コンサル出身のネクストキャリアの受け皿としても機能しているのです。 実際に、総合商社のリーティングカンパニーである三井物産の社内には『ビジネスコンサルティング室』と呼ばれる社内コンサル部門が設立されています。

新興コンサルの脅威

次に、業界の常識を覆すような新興コンサルについて解説します。従来のコンサルでは当たり前とされていたような常識を疑い、打破するような新しい形のコンサルが登場しています。そして、これらの新興ファームは業界内で大きな地殻変動を引き起こしています。

新興コンサルが有している特徴は大きく分けて3つあります。 ①“高級派遣”モデルの採用、②全社的なワンプール制の採用、③営業とコンサルの完全分業制の採用です。 1点目の“高級派遣”モデルについては、顧客企業には雇えない人材やナレッジを蓄積する必要のない業務を迅速に推敲できる人材を顧客企業に常駐させて、あたかも貸し出すことでコンサルティングフィーをもらう、という形のコンサルティングサービスを提供することを指します。 2点目の全社的なワンプール制の採用については、全社的にアナリストからパートナーまで全てのコンサルタントが同じ部門に所属する形を取っていることを指します。 3点目の営業とコンサルの完全分業制の採用については、社内に営業部隊がコンサルティング部門とは別に設けられていることを指します。

おわりに

今回は、コンサル業界における3つのトレンドをご紹介しました。VUCAの時代において、ビジネスのあり方に変化が求められているのは、コンサルティング業界も例外ではないことをご理解いただけたのではないでしょうか。 コンサルティング業界はトップ層から絶大の人気を誇っており、Liigaユーザーの方の中にも転職を希望される方が多くいらっしゃることでしょう。ぜひ、現在のコンサルティング業界のトレンドを踏まえた上で、希望のファームの内定を勝ち取っていただければと思います。

コラム作成者
Liiga編集部
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