厳しい環境で耐えぬいた経験と専門性が、ネクストキャリアを切り開く 〜現役投資銀行マンが語る業界事情 後編〜
2021/12/19

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実力主義で高い報酬が魅力的である一方で、リストラも激しいことで知られる外資系金融機関。

トップと呼ばれるマネージング・ディレクターまで上り詰めるまでには実力で競争に勝ち抜くだけでなく、景気や運といった要素も重要になるため、ほとんどの方が途中で退職してしまうのが現状です。

とはいえ大変厳しい環境で耐えぬいた経験と専門性は、「たとえ3年間であってもどこの業界でも生きる」とも言われています。実際、彼らはどういったところに転職し、新天地でどのような活躍をしているのでしょうか。「外資系金融機関」と一言で表現しても部門によって傾向が異なるため、今回は特にIBD部門にフォーカスを当てましょう。

「外資就活ドットコム」で2013年に現役I-bankerへの取材を踏まえて公開した記事を、2020年代の最新の事情を踏まえ再構成し、お届けします。 前回記事はこちら↓ 優秀な人材が付加価値の源泉。不確実な市場に左右される雇用環境は受け入れよ~現役投資銀行マンが語る業界事情 前編~


社内で出世を目指すか、外に出ること前提か

新卒で投資銀行部門(以下IBD)を選ぶ人は、大きく分けて2つのタイプに分けられます。1つは、投資銀行部門でキャリアを積んでIBDの中でマネージング・ディレクター(MD)や部門長などを目指す人。

もう1つは、そもそも将来的には事業や社会貢献・バイサイドへ転向するなど何か違うことをしたいという野心を有してはいるが、ファースト・キャリアとしてIBDを選び、厳しい環境で社会人経験を積み財務会計や法律などバンカーとしての初期的ビジネススキルを身につけたいというパターンです。

会社のカルチャーを受け継ぎ、次世代を担う優秀な若手人材を確保することが、新卒採用の趣旨であることを鑑みると、前者の方が王道であることは自明です。

しかし、人の回転が早い業界であり、自分を採用した面接官が入社時には既に退職していることが日常茶飯事の世界です。面接官の視点としては、まず「アナリストとして」最初の3年間充分に働けるかどうか、地頭の良さ・体力・気力などの資質が基準を満たしているかが判断のポイントとなっています。

その意味では、「将来は慈善基金を設立して社会にインパクトを与えるような投資をしたい」と語って採用された方もいるので、充分な資質と当面のやる気が備わっていれば、採用されることもあります。

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体力と精神力が必要不可欠。 ハードワーキングな環境での生き残り方

「IBDは激務」という事は多くの方が聞いたことがあるでしょう。ただ具体的にどのような部分を指しているのでしょうか。また、「激務」と「退職」にはどのような関連性があるのでしょうか。

仕事に必要なモデリングやエクセキューションの能力などは、OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)で毎日やっているうちに嫌でも身につくので(それでも身につかない人はクビになります)、むしろバンカーとしての寿命を左右するのは、体力と精神力とも言われます。

ハードワークな仕事ですので、業界で長生きするバンカーは、非常に心身の健康に気を使っていますし、言い換えれば、ハードワークを続けるためには、バンカーとして続けていくための理由や精神的支柱が必要になります。

それは、世間の人よりは多めの年俸を貰っているという金銭的優越感、アドバイザーとして大企業の重要案件に自分が関わっている!というバンカー特有のアドレナリンが噴出するような興奮感、あるいは新卒からバンカーやってきて他の仕事はできないし興味もないというパターン、など様々です。

こういったバンカーとして続けていくための理由や精神的支柱を失った時に、「こんな生活やってられるか」と感じ、遂には「辞めたい」となるのが最もありふれた離職理由だと思います。

投資銀行各社の業績が低迷する局面では、会社によってはボーナスが貰えない事例(あるい100万円以下)も実際に起きるため、経済的なインセンティブが薄れた結果、「激務に見合わない」、「仕事がなくなりはしないが、今後十年のうちにかつてのような好景気が業界に訪れる気配がない」と考えてIBDを離れる若手が、アナリスト~なりたてバイス・プレジデントくらいまでの「まだ職業選択ができる」世代で増加する傾向が見受けられます。

バイサイドに転職するケースが多いが、起業したり、事業会社にいくケースも

では、上記のような様々な理由でIBDを辞めた方々は、どこにいくのでしょうか。

進路は様々であり、一概にはいえませんが、一番多いのが「バイサイド」(投資会社)です。直接IBDから中途で入るケースと、IBDを辞めた後にMBAを経由してボストン・キャリア・フォーラム等を経て入るケースがあります。

以下進路を5つに分けて説明します。

1. バイサイド

いわゆるPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)のような投資会社では、新卒採用はあまり実施しておらず、IBDや戦略コンサル出身者を採用するのが一般的です。IBDと比較すると給与水準は下がりますが、労働時間はIBDと比較すると短く、IBDで培ったモデリングやパワポのスキルは生かせる職場です。

一例を挙げれば、カーライル、ベイン・キャピタル、CVC、MBKパートナーズ、ブラックストーン、アドバンテッジパートナーズ、ユニゾン・キャピタルなどがあります。

PEファンド以外では、フィデリティ、ピムコ、ブラックロック、JPモルガン・アセット、ウェリントンなどのアセット・マネジメントやPoint 72、Millenniumといったヘッジファンドなど、いわゆるセカンダリーの投資会社に行くケースも見受けられます。

また、投資家などからファンドレイズ(資金調達)を行い、自分で小規模な投資会社を立ち上げる方も最近では珍しくなくなってきました。

2. 事業会社

バイサイドに次いで多いのが、事業会社へ転身するケースです。事業会社においても、元バンカーに対するニーズは存在しています。大別して、(1)経営幹部、(2)M&A・財務・戦略投資、(3)IR系の三つの職種に行くケースが多いようです。

(1)としては、ビジネスに勢いがあり高額報酬を提示できるベンチャー企業に、CEO/CFOなどの経営幹部待遇で入社するケースが最近では増えています。この先駆けとして有名なのは、ドイチェからグリーの執行役員常務取締役に転身した青柳さんですが、最近では元バンカーがCFOを務める企業は珍しくなくなってきました。また資本市場部経験者であれば、上場準備企業のCFOや上場準備室室長などといった話もよくあります。

(2)としては、M&Aを通じて外部成長を戦略的に行うソフトバンクのような事業会社の戦略財務・投資チームです。持ち込まれる案件数も非常に多いことから、デューデリジェンス段階から内製化しており、元バンカーを高待遇で採用しています。

(3)としては、大手製薬会社のIR担当役員にカバレッジバンカーが移籍した事例が有名ですが、他にもカバレッジしていたクライアント企業のIRなどに行くケースはよくあります。

3. 起業

「外に出ること前提」でIBDに入ってくる人に多いのが、自分でビジネスを起こすケースです。そもそも就活の際に、リクルートに行くかIBDに行くか本気で迷った、学生時代にもビジネスコンテストなどに参加した経験があり、とにかく商売に興味があり、起業家精神旺盛というタイプの方に多いです。

個別企業名を上げるとあまりに多いので割愛しますが、IBDに関連したビジネスという意味では、ユーザベースなどが有名です。外資就活ドットコム創業者も外銀⇒PEファンドからの起業であり、他にも多数あります。

4. 学問

若手バンカーよりも、いわゆる「上がりのポジション」にいるシニア・バンカーを中心に人気なのが、大学教員などになるケースです。日本ですと、元ゴールドマン・サックスの服部暢達さん、元UBSの伊藤友則さん、若手バンカーからの転身では『投資銀行青春白書』などを著された元リーマン/UBSの保田隆明さんなどが有名です。

5. その他

これ以外にも、渉外弁護士になったり、元々国家Ⅰ種合格者でやはり外務省に行ったり、国際公務員になったり、家業を継いだり、NEETになったりと、新卒でIBDに入ったからといってその進路は様々です。

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IBDでの経験が自身のキャパシティを広げる

IBD出身者が共通していうのは、IBDでの激務は辛かった、だが後から見ると社会人としての一番勉強した時間だった、ということです。

財務モデリングやExcelのスキルなどは所詮ツールにしかすぎず、IBDに在籍していなくとも身につけることは不可能ではないでしょう。 やはりIBD経験者にしか理解できないであろうものは、バンカーとしての働き方だと思います。

IBDにおいてタイトルは絶対で、上下関係も厳しいのが特徴です。新卒アナリストとして入社すると社会人としての基礎を、時には半ば理不尽に叩きこまれます。

雑務を先回りしてこなすのはもちろん、24時間いつクライアントや上司からメールが来ても、3分以内には対応できるように常に社用iPhoneは持参する、というスタイルもバンカー特有です。

こうした仕事のためにプライベートをすべて犠牲にして死力を尽くして働く、というスタイルの良し悪しには、賛否両論あるとは思いますが、一度激務を経験すると、その後の仕事はどれも楽に見えてしまうという意味では、自身のキャパシティを広げることになると思います。

おわりに

いかがでしたか。前編、後編合わせて、外資系金融機関での働き方やキャリアについて理解が深まりましたら幸いです。

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。