自動車の所有から利用へ―若者の車離れの要因と現状から―

Ⅰ若者の車離れの現状 Ⅰ-ⅰ 若者の車離れとは 2000年代初頭から30歳以下の年齢層が自動車を所有しなくなる―できなくなる―現象を指すことが多い。これに付け加えて運転免許証そのものを保有していない事象も見られ、運転しなくなることも含意されている場合もある。 Ⅰ-ⅱ 若者の定義  日本政府は若者の定義44歳にまで適用すること発表している。ここでは先行研究が多く適用している29歳までを若者と定義する。 Ⅰ-ⅲ 運転免許証保有者の推移  警察庁が運転免許統計という統計資料を毎年公表している。この統計資料を検討すると確かに若者の運転免許証の保有者は減少している。一方で運転免許証保有者数全体は横ばいもしくは微増である。また、少子高齢化という紛れもない事実から鑑みると、運転免許証保有者の減少はそのまま若者の車離れに直結するとは考えにくい。無論、影響を及ぼしていることは事実であるだろうが。 Ⅰ-ⅳ 乗用車普及率  乗用車普及率は運転免許証保有者数以上にさまざまな観点から検討が必要である。  まず、全般的な世帯普及率を見てみると、単身世帯は47.5%、二人以上世帯は79.1%となる。家族構成によって、乗用車普及率に差異があることが分かる。  では単身世帯を性別に検討する。単身男性世帯では55.6%、単身女性世帯では41.1%と大きな差があることが分かる。必要度合いや初期購入費用、運用コストの負担を考慮すれば、単身世帯が二人以上世帯に比べて普及率が低いのは当然の結果ではある。  続いて世帯主の年齢階層別のデータを検討する。図1を参考にすると男性と女性で保有率に大きな差がある。とりわけ、29歳以下の単身世帯ではその差が顕著に現れている。このデータに関して補足しておくと、一時的なものではなく毎年このような傾向が出ている。さらには、2005年から2008年の期間で保有率が大きく減少した。このことから若者の自動車を保有率は景気に非常に左右されやすい可能性がある。 Ⅰ-ⅴ 世帯年収別普及率  図2のように世帯年収別で見ても単身世帯は二人以上世帯に比べて普及率が低い。また、300万円未満であれば、単身世帯と二人以上世帯で大きな差が生じていることに注目したい。年齢階層別のデータを見検討したさいに29歳以下の単身世帯は総じて普及率が低い状態にあり、女性普及率が極端に低い状態であった。これは一般的にワーキングプアと呼ばれる層が女性に多いことが起因していると考えられる。 Ⅰ-Ⅵ 都市部と地方での普及率に関して  図3中項目にある「別掲大都市」とは県庁所在地以外の大規模な都市を意味する。具体的には「札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、東京23区、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市」。  この図3のデータから一般的に乗用車が敬遠され、若年層は乗用車に乗らないという一般論に対して反論することができる。地方では乗用車が生活必需品の場所も多い。また人口5万人以上の市に限ると、上記にリストアップした「別掲大都市」の低さが目に留まり、とりわけ「単身世帯」が低い。 無論これは「大都市圏ほど公共交通網が整備されている」「乗用車を必要としない距離内に多種多様な施設がある」などの理由により、乗用車を保有する必然性が低くなるのが原因である。そして、それと同時にそのような大都市圏では、自動車を保有する初期費用負担に加え、ランニングコストが相当以上の負担となり保有を敬遠する一要因となっている可能性がある。 Ⅱ若者の車離れの時代背景 Ⅱ-ⅰ日本社会の二つターニングポイント  日本社会のターニングポイントは一般的に1991 年 のバブル経済崩壊と考えられている。これを境に新卒者の就職環境が一気に悪化して就職氷河期が到来した。この煽りをモロに食らったのが団塊ジュニア世代(一 般的に1 9 7 1 〜1 9 7 4 年生まれを指す)だった。  しかし、私がこのターニングポイントはもう一つ存在している。それが1997 ~1998 年である。一般的にあまり知られていないが、日本人の平均給与は1997 年の467 万円をピークに2010 年は412 万円。1997 年を100とすれば2010年は88.2 まで減少している。  この1997 年という年は4月に消費税が3%から5%にアップしたため、駆け込み需要とその反動で景気が荒れた1年だった。さらには11月に拓銀 や山一証券の経営破綻が起きた年でもある。それまで日本経済を下支えしてきた「護送船団方式」が瓦解し、グローバル経済の荒波に呑まれ始めた歴史的転換点でもあったということを付記しておきたい。    さて、性別・年代別に給与変化を見ると、とりわけ若い男性が過酷な状況にあるかが分かる。1997 年 を100としたときの2010年の給与水準は、男性4 5〜4 9 歳が9 1 . 1 、5 0 〜5 4 歳が8 8 . 1 であるのに対して、男性3 0 〜3 4 歳では8 4 . 1 と減少幅が際立って大きい。ちなみに、女性30〜3 4 歳は9 7 . 6で、この間はほとんど減少していない。 こうして考えると、1997年以降の日本経済不振のしわ寄せを給与面で一手に引き受けたのが3 0〜3 4 歳男性であり、これが若者の車離れという事象で表出したのではないだろうか。 Ⅱ-ⅱ ライフスタイルの変化  レジャー白書による時系列で測定している90種類からなる平均参加率の推移を検討すると、10代、20代とも余暇活動への参加率は低下傾向にある。若い世代のアウトドアレジャー離れが統計として現れている。とりわけ、1997年以降はスポーツ、観光・行楽などのアウトドアレジャーへの参加が低下傾向にある。レジャー白書測定のアウトドアレジャーで1997年から2006年で低下したのは全38種中男性10代29種、男性20代27種、女性10代25種、女性20代27種だった。一方で、パソコンを使ったゲーム、通信などへの参加率は上昇傾向にある。アウトドアレジャーへの参加の低下は、車の使用機会の減少につながっており、若者が日常生活以外で自動車に接触している回数が減少していることも自動車離れの要因となっているかもしれない。 Ⅱ-ⅲ 自動車保有の目的変化と自己実現  自動車時代の魅力が低下している。かつては車を保有していることはある種のステータスであったが、現在の20代の車に関する意識調査によると車は移動手段であると回答した割合が80%を超えている。これに対して、車は自分らしさを表現するものと回答した割合は17%に過ぎない。 さらには、ソニー損保が2013年に実施した調査によると、「自動車メーカーにはもっと若者向けの自動車を作ってほしい、と考えているか」を聞いたところ、約5割の人が同意を示していた。また、はじめての自動車選びのポイントでは、価格、デザイン、燃費という順に票を集めた。若者の懐事情が厳しいなかで、少しでも初期費用を抑えて、ランニングコストも抑制したいという思いが反映されている。しかしながら、デザインが2位にランクインしていることから、若者にとって自動車の保有は自己実現あるいは自己表現に適さないものという認識であることが分かる。このことから若者にとっては、自動車はたんなる移動手段でしかないのだ。たんなる移動手段であれば、保有することに大きな意味を見出すことは出来ないだろう。それゆえに社会的な若者の苦境も相まって若者の車離れが現象として表出している。

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