はじめに
転職を機に他業界へ飛び込もうと考える方にとっては、「畑違いの世界が今後どのように成長するのかが気になる」という方もおられるでしょう。新型コロナ禍やDX化が加速する中、小売業はグローバルにおける戦略策定が求められる業界の代表格と言えます。そこで今回は、世界の小売業ランキングに基づいて「成長企業」の共通点を探っていきます。
・デロイトトーマツグループのGlobal Powers of Retailing内のランキングとは
・世界のランキング上位10社の概要
・世界のランキング上位10社の分析
・上位250位に入った日系企業。その業態は
・考察〜新型コロナ禍の影響で消費の形が変わる
・まとめ〜変化の荒波に乗るには
デロイトトーマツグループのGlobal Powers of Retailing内のランキングとは
今回の記事で参考とするのは、デロイト トーマツ グループのGlobal Powers of Retailingの最新版レポート「世界の小売業ランキング2022」です。
こちらは調査開始から25回目を迎え、例年、国内外から注目を集めています。今年のレポートは2020年度の世界における小売チェーンなどの売上高をランキング形式で紹介しています。
上位250社を地域別・商品セクター別に解説している他、毎年恒例の調査であることから、急成長小売企業50社と上位250社へ新たに加わった企業を比較して分析しています。世界経済の展望を小売業の動向から捉えることができる、貴重なデータと言えるでしょう。
世界のランキング上位10社の概要
それではここからは世界のランキング上位10社を取り上げます。
10位 ターゲットコーポレーション
10位は、米国を本拠地とする有名小売チェーンの一つであるターゲットコーポレーションです。 ターゲットコーポレーションは1902年の創業時は百貨店であったことから、ファッション関連の品揃えは低価格ながら高品質であると知られています。2014年から15年にかけて経営不振に陥りましたが、デジタル分野への投資と、大々的な店舗改装と主力商品である生鮮食品の高品質化を図ることでV字回復を果たし、現在では売上が7兆円を越え、時価総額は11兆円を突破しています。
9位 JD.com
9位は、JD.com(京東商城・ジンドン)です。 JD.comは中国を拠点とするECサイト運営会社です。自社の物流ネットワークを構築し、広大な国内でスピードを生かしたECサイトを展開しています。家電販売からスタートし、2016年以降は化粧品等にも力を入れる事で大幅に売上を伸ばしています。また、中国大手企業の五星電器の買収に加え、2023年までには直営の家電販売店を中国に約320店出店すると発表し、更なる業容拡大が予想されます。
8位 アルディ
8位は、ディスカウントストアチェーン企業のアルディです。 アルディはドイツを拠点とするボックスストアの世界最大手企業です。広く明るい店作りと中級層顧客に対応した低カロリー商品の品揃えを増やすなど、顧客のニーズに合ったサービス展開を行っています。限定かつ安価な商品を取り扱い、その95%以上がPB商品である事、通常の食品店の買物における75%程度を取り揃えている事、雇用形態への評価が高い事等が特徴となっています。
7位 ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス
7位は、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス ( Walgreens Boots Alliance) です。 米国に本社を置き、ドラッグストアの運営を中心に、健康サービス事業を展開しています。薬と雑貨、食品を販売する一般的ドラッグストアから、よりヘルスケアにフォーカスし、現在は調剤比率を大幅に引き上げています。これによりメガディスカウント店舗と差別化し成長を遂げました。
また、PBM事業を1995年に設立していましたが、利益相反があるとして2011年に5億2500万ドルで売却しました。代わりに、スイス本拠の欧州ドラッグチェーンのアライアンス・ブーツと組み、医薬品卸を変更・統一しグローバルソーシングを加速させることで更なる成長を図っています。
6位 クローガー
6位は、米国のスーパーマーケットチェーン、クローガーです。 グループ企業でスーパーマーケットに加え、ガソリンスタンドも営業していて、マイクロソフトや自動運転関連新興企業と協力し、テクノロジーによる事業更新・拡大を行っています。店頭受け取りサービスや料理キット販売サービス、セルフスキャニング端末、宅配サービスなどスーパーマーケットとしての新しいシステムやサービスを取り入れることで他社との差別化をはかり、次世代に繋がる事業展開を行っています。
5位 ホーム・デポ
5位は、住宅リフォーム・建設資材・サービスの小売チェーンであるホーム・デポです。 ホーム・デポは、米国50州、カナダ10州、メキシコ、そして中国に2000を超えるビッグボックス形態の店舗を展開しています。どの商品がどの店舗にあるか地図上で確認することができるシステムやAR機能をアプリに搭載するなど、デジタルオペレーションにフォーカスしています。時代の流れに即したサービスを提供することで、実店舗を持つ強みを生かしながら小売業としては極めて高い利益率を出しています。
4位 シュバルツグループ
4位は、家族経営の多国籍小売グループであり、LidlおよびKauflandブランドで食料品店を運営しているヨーロッパ最大の小売業者、シュバルツグループです。 シュバルツグループの店舗は主に自社ブランドの商品(プライベートブランド製品)を販売している点が特徴です。焼き菓子・清涼飲料・アイスクリームなどの独自の生産施設を運営しています。2021年現在、33か国で12,900を超える店舗を運営しています。また、リサイクル可能な材料の収集、選別、リサイクルに長年携わる他、創業者の名を冠したディーター・シュワルツ財団による教育支援も行っています。
3位 コストコ・ホールセール
3位は、米国に本社を置く会員制倉庫型卸売・小売チェーンで日本でもおなじみのコストコ・ホールセールです。 入荷したままのパレットに乗っている商品を、大型倉庫に並べて販売することにより、商品管理や陳列コストを徹底的に抑えた倉庫店スタイルが特徴です。各カテゴリーごとに売れ筋商品のみ発注を絞ることで、メーカーに対するバイイングパワーを獲得し、圧倒的低価格を実現させ「会員」という限定した顧客に価値提供を行っています。
2位 アマゾン
2位は、アマゾンです。 これまで挙げてきた店舗運営とは異なる印象を受けるかと思いますが、アマゾンは2000年11月に開設されたショッピングサイトで、米国を拠点とするFortune 500企業、Amazon.com, Inc.の関連会社が運営するインターナショナルショッピングサイトです。強いブランド力、多角化したビジネスモデル、自社時価総額1兆ドルという安定したポジションを強みとしています。
1位 ウォルマート
1位は、米国を拠点とする世界最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマートです。1962年に「ウォルマート・ディスカウント・シティ」という小売店から出発し、野菜や日用品をはじめ、電化製品などの販売も行っています。商品を大量に仕入れることで低価格を実現し、コストを抑えるために店員の数や人件費を抑えて、薄利多売を実現しています。
このビジネスモデルは、自社の企業成長だけでなく、小売業界にも大きな影響を及ぼしました。アメリカだけではなく南米やヨーロッパ、アジアなどにも事業を拡大し、世界最大の売上を誇るスーパーマーケット企業であり、日本では西友がウォルマートの子会社となっています。
世界のランキング上位10社の分析
今回の調査結果として、上位250社の総小売売上高は5兆1,000億米ドル(前年度は4兆8,500億米ドル)、平均小売売上高は204億米ドル(前年度は194億米ドル)、2015年度から2020年度における小売売上高の年平均成長率は4.7%となりました。数値だけを見ると業界としては成長傾向にあるとみられます。 また、ショッピングサイト(ECサイト)をメーンとする会社も食い込んでいるものの、店舗型経営をメーンとする数十年の歴史ある企業がまだ上位を占めているのも特徴です。
上位250位に入った日系企業。その業態は
それではここからは日系企業の傾向を探りましょう。上位250位にランクインした社数は29社で、業態別に見ると以下の通りです。
家電専門店 6社 ドラッグストア/薬局 5社 スーパーマーケット 4社 コンビニエンス/フォアコートストア 3社 百貨店 3社 ディスカウントストア 2社 ハイパーマーケット/スーパーセンター 2社 衣料品専門店 2社 ホームセンター 1社 家電専門店が最多の6社で、ドラッグストア、スーパーマーケットが続きます。
イオン株式会社は昨年と同じく日本企業内のトップの座をキープしています。上位5社は昨年度との順位の差はいずれも4以内で大幅な変化はないようです。
株式会社ケーズホールディングス、株式会社ヨドバシカメラ、株式会社コスモス薬品、株式会社ニトリホールディングス、株式会社バローホールディングス、株式会社サンドラッグ、スギホールディングス株式会社、株式会社大創産業、株式会社ヤオコーの9社が昨年度よりも10位以上順位を上げ、大幅にランクアップしています。
考察〜新型コロナ禍の影響で消費の形が変わる
今回のランキングは世界・日本いずれにおけるランキングにおいても、新型コロナウイルスの影響を受けた形となっています。
その中でも世界の上位10社のうち、トップ4社は前年から順位に変化はないという点も特徴です。1位のWalmartに続き、Amazon.comが2位となりました。一方、昨年より順位を一気に4つ上げ、中国企業として初めてトップ10入りを果たしたJD.comが、大手ECサイト運営という業態を取っている点も注目すべき点でしょう。 日本におけるランキングを業態別に見ていくと、家電専門店が圧倒的上位にランクインしています。また、総売上高を見ていくとホームセンター、ドラッグストア/薬局、ディスカウントストア、家電専門店、スーパーマーケット、衣料品専門店、その他(株式会社ニトリホールディングス)の7業態が売上を伸ばしています。
コロナ禍により消費が「外需」から、在宅にまつわる「内需」に切り替わったことにより、食料品・飲料小売企業の売上が拡大した他、家電製品やホームセンターなどのセクターの小売企業も、消費者が在宅中心の生活を送ることで恩恵を受けたと言えるでしょう。
反面、上位にはランクインしているものの、ランキングに入っている百貨店は3社いずれも順位を落としており、今後何らかの新しい施策やM&Aを視野に入れた企業戦略が必要になってくるかもしれません。
また、今回は2020年度と2019年度の比較であり、来年以降、新型コロナ禍における比較となった場合、どのような傾向が現れるかが注目されます。
まとめ〜変化の荒波に乗るには
近年、コロナ禍により世界全体が大きく変わり、人々の購買行動も大幅に変化しました。今回のランキングは、コロナ禍で好調な業態と伸び悩む業態の差を鮮明に表す結果となりました。今後コロナ禍が収束すれば再び社会全体に大きな変化が生じ、順位変動も起こる可能性があります。
日本ではますます少子高齢化やEC市場の拡大が進み、小売業は変化の波に晒され続けるでしょう。その市場の中で生き残っていくためには、時代の流れに即した経営方針をとる必要があります。顧客のニーズを的確に汲み取りながら特色のある施策を打ち出し、競合他社との差別化、場合によっては計画的な海外進出や新規事業への挑戦をすることが、この変化の激しい社会の荒波に乗る方法なのかもしれません。
本コラムを各業態の現状や今後の業界展望を読み解く際の参考とし、ご自身のキャリアアップ・キャリアチェンジに活用してください。