9割は途中断念、残る1割もほぼ不合格…それでも僕が米国大学院を目指した理由―米国大学院進学への道(1)
2020/08/26

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はじめまして、勝山湧斗と申します。

2020年3月に東北大学工学部を卒業し、同年秋よりUniversity of California, Los Angeles(カリフォルニア大学ロサンゼルス校、以下UCLA)の大学院(5年間の博士課程プログラム)に進学します。

今回、Liigaで米国大学院受験に関する連載を始めることになりました。この連載では、

・米国大学院に進学するメリット ・進学のハードルの高さ ・米国大学院受験で審査される項目 ・それらの項目への具体的な対策

などを、私の個人的な経験と、私の周囲の方々の経験に基づいて書いていく予定です。

初めに断っておくと、残念ながら、唯一の絶対的な受験ノウハウは存在しません。米国の大学院受験は日本のようにペーパーテストだけでは決まらず、研究能力や文章力、プレゼンテーション能力、熱意などを総合的に判断されるからです。

100人いれば100通りの大学院受験の戦略があります。つまり、自分に合った戦略を立てることが重要です。そのためにすべきことは情報収集です。できるだけ多くの情報、多くのパターンを知ることです。

その一例として、帰国子女でなく、英語が得意でもない日本人の私が立てた戦略について書いていきたいと思います。

〈Profile〉
勝山湧斗(かつやま・ゆうと)
東北大学工学部化学・バイオ工学科卒業。在学中の留学をきっかけに、以前より興味を持っていた再生可能エネルギーについて研究するため、米国大学院進学を目指す。カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学サンディエゴ校、マサチューセッツ工科大学を受験し、そのうち2校に合格。2020年秋より、カリフォルニア大学ロサンゼルス校に進学予定。
▶Twitter:@yullyullyu
▶Blog:https://yuto-k.com/

※記事の内容は全て個人の見解であり、所属する組織・部門等を代表するものではありません。


【目次】
・留学で気づいたアメリカに集まる学生のレベルの高さ
・アメリカでなら恵まれた環境でレベルの高い研究ができる
・米国大学院は授業料がかからない!?
・進学への大きな壁―9割は諦め、残りの1割は出願してもほぼ落ちる

留学で気づいたアメリカに集まる学生のレベルの高さ

初回は「米国大学院に進学するメリット」と「進学のハードルの高さ」について書かせていただきます。

まず、私は米国大学院への進学のメリットは大きく3つあると思っています。

1つ目は世界から集まってきた優秀な学生たちと切磋琢磨しながら学べること。
2つ目は最先端の研究ができること。
3つ目は授業料がかからないどころか給料がもらえること。

それらのメリットに気づいたのは、大学2年生のときに行ったUC Berkeley(University of California, Berkeley、カリフォルニア大学バークレー校)への交換留学がきっかけでした。私は当時、東北大学の化学・バイオ工学科に所属しており、また国際交流団体で異文化交流の楽しさを知ったこともあって、思い切って世界81カ国に所在する研究大学1,500校の学術研究および評判を総合評価したU.S. News & World Report Rankingの化学部門で1位だったUC Berkeleyに1年間交換留学することに決めました。

留学期間中に感じたのは、世界から集まってきた優秀な学生たちとともに学べる環境があるということです。

UC Berkeleyにいた学生たちは英語も堪能で、授業の理解もとても早く、非常に驚かされました。学部3年生なのに「Nature」や「Science」などの有名な学術雑誌に論文を投稿したことがある学生や、国際学会で受賞したことがある学生に出会いました(分野にもよりますが、日本では修士課程でも国際学術雑誌に論文を投稿する人はまれだと感じます)。 description

さらに驚いたことは、UC Berkeleyで研究をしている日本人の大学院生や研究者は、日本を代表するような優秀な方々ばかりであること。世界中からそういう人たちが集まっている大学院は学部と比べて更にレベルが高いことがわかりました。

私は東北大学では、成績はほとんどAAであり、いわゆる優等生の部類に入っていた自負があったのですが、UC Berkeleyでは劣等生でした。授業も完全には理解できず、ディスカッションでも自分の意見を言えず、ほとんどの余暇時間を宿題に費やしました。それでも授業についていくのが大変でした。こんなにも無力さを感じたのは初めての経験でした。

また、最もリベラルな大学とうたわれるUC Berkeleyを存分に味わうために、専門外である“intercultural communication(異文化間コミュニケーション)”の授業も履修しました。

講義の性質上、学生の多様性が高く、白人、黒人、アジア人、ヨーロッパ人など合わせて25人程度で構成されており、日本人は私1人でした。毎回異なるトピックについて全体で輪になってディスカッションするのですが、なかなか声を上げて自分の意見を全体に伝えることができず、何度も悔しい思いをしました。

ある日は「エロ」が議題の授業でした。クラスメートは恥じらうことなく自分の意見をぶつけ合い、熱心に議論をしていました。日本でしか過ごしてこなかった私にとって今まで考えなかったような意見がたくさんあり、多様性の中で生きる実感を得ることができました。

もしこういった環境で学び続け、現地の学生と対等に議論できるようになれば、世界で活躍する人材になれるのではないかと感じました。

余談ですが、現地のストリートダンスのチームに所属したことで、国籍や言語の壁を越えてチームが1つになった感覚が味わえたことも、留学ならではの経験でした。

アメリカでなら恵まれた環境でレベルの高い研究ができる

2つ目のメリットは、先に述べた通り、米国の大学院なら最先端の研究ができるということを実感したからです。 description

前提として私は、「エネルギー」や「発電」にもともと関心があったことに加え、中学2年生の時に東日本大震災で被災した経験から、地域ごと家庭ごとの発電システムの必要性を強く感じていました。それには「再生可能エネルギー」が適しており、東北大学でもエネルギーや環境について深く学んだことによって、ますますその思いを強くしていました。

再生可能エネルギーの普及を妨げているのは蓄電設備の技術不足です。その蓄電技術に関しては世界中で素晴らしい研究がされていますが、特にアメリカの大学の研究者が超一流の学術誌に多数の論文を掲載しており、学会でも多くの興味深い発表をしていました。

description 論文検索サイトweb of scienceで「出版物名: (nature energy)」で検索した結果。アメリカの研究者が学術雑誌「Nature Energy」に最も多くの論文を掲載していることがわかる

実際、留学中に研究室を訪問すると、 日本だと限られた場所かつ全国に分散しているような高価な設備がそろっていて、さらに、世界に数台しかない装置があるなど、身をもってアメリカで最先端の研究が行われていることを感じることができました。

米国大学院は授業料がかからない!?

3つ目のメリットについていうと、アメリカの大学院(博士課程)は基本的に授業料がかかりません。むしろ給料がもらえ、その額は大学によりますが月30万円程度にもなります(つまり、自己負担ゼロ!)。これは留学中に知り合った、UC Berkeleyの博士課程に進学中の日本人大学院生の方々から直接教えていただきました。

XPLANEの調査によると、アメリカに進学した日本人大学院生の97%が生活に十分な給料を得られているそうです。このこともアメリカの大学院が世界中から優秀な人を集められるひとつの理由であり、結果として各種研究ランキングで世界トップを走り続けている(例えば、先述したU.S. News & World Report Rankingの化学部門ではトップ10のうち5校がアメリカの大学である)ことを知りました。

進学への大きな壁―9割は諦め、残りの1割は出願してもほぼ落ちる

以上、3つのメリットから、私は米国大学院進学を考えるようになりました。 とはいえ、私が所属していた学科では、学部卒業生のほとんどが同大学院へ進学するため、情報が不足していました。

まずは、進学に必要な条件を調べ始めましたが、米国大学院進学にはTOEFL iBTやGRE(文系だとGMAT)、研究成果など様々な壁が立ちはだかっていることがわかってきました。

たとえばStanfordやMITの材料学科は、出願時にTOEFL iBTを100点以上取ることを要求しています。しかし、Stanford同学科の募集要項には「however, these are just minimums – you should do your best to score above 100.」と書かれており、実際には「100点は最低ライン」というメッセージが伝わってきます。

一方で公立大学はそれに比べて低く、例えばUCLAの化学科の要求は87点以上です。私の点数は、留学前には85点ほどあったものの、それでも不安な点数には違いありません。 description

また、私の学科では、4年次からしか研究室に所属できず、出願時期に間に合うように十分な研究成果を出すというのはかなり難しいように感じました。

そんな中、情報収集のツールとして使っていたTwitterに、ある日以下のツイートが流れてきました。

アメリカ一流大学のPhDプログラム、日本から受けても奨学金無しではまず受からず、自分の観測範囲では約9割がもっともらしい理由と共に受験を諦め、残りの1割が出願して全落ちする印象

「あ、米国大学院に進学したいと思っても9割の人が諦めてしまうのか。そして、残り1割は出願したとしても全落ちするのか。これって10割無理ってことじゃない? 米国大学院受験ってそんなに難しいのか!!!」と衝撃を受け、英語も苦手で研究成果もなかった私は正直心が折れかけました。

確かにインターネットで調べてみると、アメリカの一流大学院は合格率が10%程度でした。受験する世界トップの学生層の中で合格率10%ということを考えると、実際にはツイートの「出願までたどり着く残り1割」のうち9割は不合格になる、という計算になります。改めてその難しさを実感しました。

米国大学院への道はかなり厳しいとわかったものの、メリットや魅力を諦められなかった上に、やらずに後悔したくない、挑戦したいという考えがありました。

また、もし不合格だったとしても1年浪人して日本の大学院に行けばいいという考えもありました。やれるだけやってみようと思い受験を決心しました(結果的には日本の大学院を併願して、合格したので、落ちてもそっちに行けばいいや、と気楽に受験できました)。

次回は、具体的に米国大学院受験で要求されることについて書きたいと思います。

コラム作成者
Liiga編集部
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