エンジニアリングと理論の配分は自分で決める。GAFAMエンジニアが語るキャリアの育て方――エンジニアキャリア相談室(1)
2021/09/01

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「外資就活ドットコム」及び「Liiga」の会員から、エンジニアのキャリアに対する悩みや疑問を経験豊富な社会人にぶつけてもらう「エンジニアキャリア相談室」。今回は、メーカーでデータサイエンティストとして働くLiiga会員からの相談だ。このままデータサイエンティストとしてキャリアを積んでいきたいが、異動などで望んだキャリアを歩めなくなったときのために、転職の準備をしておきたいという。

回答者は「外資就活ドットコム」のQ&Aサービス「外資就活相談室」で活動している、J.Kさん。外資系企業を経て、現在はアメリカで機械学習エンジニアとして働くJ.Kさんはどのようにキャリアを積んできたのか。勉強方法や転職の考え方についてアドバイスしてもらった。【南部香織】
※インタビューはオンラインで実施

〈回答者Profile〉
J.K
GAFAM勤務の機械学習エンジニア、ソフトウエアエンジニア。社会人9年目で現在の会社は3社目。NLP(自然言語処理)関連のプロジェクトのモデル・バックエンド開発が主な業務。「外資就活ドットコム」のQ&Aサービス「外資就活相談室」の回答者の1人。
外資就活相談室 https://gaishishukatsu.com/box/users/J_K_AMA
〈相談者Profile〉
三浦翔(仮名)
20代半ば。大学を卒業後、日系メーカーに入社。データサイエンティストとして商品データの分析に携わる。現在は社会人2年目。
※本文の顔写真は三浦さんではありません。



エンジニアリングか理論か。自分が進む道を決めれば、勉強内容の比率が決められる

J.Kと申します。ソフトウエアエンジニアと、日本でいうと機械学習エンジニアにあたる職種を経験しています。開発やコードのこと、統計や機械学習のこともある程度分かると思っていただいて結構です。外資系企業へ入社、転職、本社への転籍を経て、現在はアメリカでGAFAMの一つに勤めています。

今日は私の経験やキャリアを踏まえた考え方が、三浦さんのご相談の参考になれば幸いです。まずはこれまでのご経歴を教えてください。

大学で数学の勉強をし、卒業後はそれを生かしたいと思い、そういった職種があるメーカーに入社しました。研修を経て、データサイエンティストとして働いて2年目です。

商品に関する統計データを分析・活用、あるいは機械学習を用いて、新規ビジネスの提案をしたり、市場での使われ方を把握して耐久年数をあげるべきかどうかなどを設計にフィードバックしたりしています。

ありがとうございます。では相談内容はどんなことですか。

コーディングを勉強し始めたのは入社してからなので、まだ1年ほどしか経っていません。一方で、ビジネス上の課題を技術的課題に落とし込むといった業務も行っており、そのために論文などで機械学習の最新技術をキャッチアップすることも必要です。どこから勉強していいかわからず、アドバイスをいただきたいです。

また、しばらくはデータサイエンティストとしてキャリアを積んでいきたいのですが、日本企業の場合、突然の異動によって望んだキャリアを歩めない場合もあると思うんです。そういったときに転職も視野に入れたいと考えています。

そこで、J.Kさんはどういった観点で転職を考えられたのか、教えていただきたいです。外資系企業へ転職する難易度や、米国本社へ転籍する方法なども含めてお聞かせください。

なるほど、ありがとうございます。ではまず最初の勉強の仕方について。これはすごくいい質問だと思います。何をどういう配分で勉強すべきかは難しいですよね。

データサイエンティストや機械学習に携わるエンジニアは、ソフトウエアエンジニアリングに強い人と、数学や統計など理論に強い人がいます。三浦さんは数学を学ばれていたので後者でしょうか。もちろん両方に強いスーパーマンみたいな人もいますが。まずは自分でどういったところを目指すかを決めることが重要だと思います。

例えば、理論のほうが強いので100%そちらに振っていくキャリアもあるだろうし、ディープラーニングモデルをトレーニングするレベルのコードは書けるけど、実運用したり本番のシステムを作ったりすることには詳しくないというキャリアもあるでしょう。もっと開発側に寄って、理論についてはそこまで強くないものの自分一人いればモデリングからデプロイまでできる状態を目指すというのもありです。

私の場合は、コーディングをはじめシステム開発の経験を土台に、機械学習や統計の知識もあるという状態を目指しています。

それが決まると、コーディングと機械学習の勉強をどのくらいの比率でやればいいのか決められるのではないかと思います。その上で、足りない部分、やりたい部分をチーム内でアピールしてそういった仕事をもらうか、それが難しそうであれば、最悪チームを移る、あるいはそこで転職を考えるのもありだと思います。

とても勉強になりました。私は最終的にはビジネス領域と技術領域の橋渡しをするような役目をしたいと思っているのですが、当面はどういった部分に強いデータサイエンティストになりたいか考えてみたいと思います。
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アメリカに行くことを前提にキャリアを考えた。エンジニアとして選択肢が広がるから

J.Kさんが転職を考えたきっかけは何だったんですか。

そもそも私は、社会人1年目のころから漠然とアメリカで働きたいと思っていました。

なぜですか。

アメリカのほうがIT企業の本社も多いですし、事業規模も大きい。エンジニアの数も日本よりもすごく多いので、いろんな職種があり、選択肢が広がるからです。

外資系企業は日本企業に比べると社員の平均勤続年数が短いです。4~5年もいると長いと扱われることもあるくらいです。同じ会社にずっと居続けることはあまり考えていませんでした。

とはいえ、ソフトウエアエンジニアの転職先として、国内の外資系企業はそう多くない。ポジションを移りたい場合も、希望職種や入りたい開発チームは、本社にしかないということはよくあります。ですから、いずれはアメリカで働いてみたいと思っていました。

それに実際に同じチームで働いていたシニアの人の経歴を見ると、1度は米国で働いている場合が多いということもありました。米国で得るものがあるから生き残れるのではないかと。

アメリカに行くことを前提にキャリアを考えていたのですね。具体的にはどういう経緯をたどったんですか。

最初は1社目の会社で本社への転籍をもくろんでいたのですが、なかなかうまくいかず、本社転籍が比較的簡単だといわれている2社目に移りました。そこでまずはソフトウエアエンジニアから機械学習エンジニアにロールチェンジしました。これでやっていけそうだと確信を得たところで、アメリカ本社でのポジションを探し、応募、面接、オファーをもらって、アメリカで働くことができ、現在に至るというわけです。

日本企業に転職するという選択肢はなかったのでしょうか。

あまり考えなかったですね。私は自分の職種が好きだったので、三浦さんが現在懸念されているように、自分の意思に反して職種を変更しなければいけないということは避けたかったからです。

もし日本企業にお勤めだったら、どうお考えだったと思いますか。

おそらくかなり違う考え方をしていたと思います。その会社で長く勤めている方のキャリアパスをたどろうとした気がします。転職はあまり視野に入れなかったかもしれないですね。
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転職するなら汎用性のある技術と、年次に合わせたスキルセットを持つこと

J.Kさんは日本企業だったら、転職は考えなかったかもしれないとおっしゃいましたが、日本企業から外資系企業に転職するというのは難しいのでしょうか。

いえ、決してすごく難しいわけではないと思います。日本企業から外資系企業に入ってくる人はたくさんいます。私も現場の人間として面接官をすることもありましたが、自分のコアとなるスキルが在籍企業に依存している人だと、なかなか難しいでしょうね。

それから、その年次に求められているスキルセットを持っていることも重要です。例えば、8~9年目で転職しようと思ったら、技術的な能力だけではなく、プロジェクトをある程度1人でリードできるかどうかというところも見られます。

なるほど。汎用性があるスキルがあることと、ある程度の年次ならば、リーダーの役割ができることも必要なんですね。

そうです。年数を重ねるほど、プロジェクトをリードするとか、関連部署との折衝といった技術以外の仕事のほうがメインになっていくからです。よくあるのは、技術的には可能だが、法律的に問題ないかを法務の部署と話したり、自分のチームのプロダクトのために別のチームとデータをやりとりするといったことが必要となってきます。

それからコーディングインタビューの準備もしておいた方がいいでしょう。それができなければエンジニアとして能力がないというわけではないのですが、どこのIT企業も採用にそういった手法を取っているので、対策せざるを得ないんです。実際の業務とはちょっと違うスキルセットですしね。

具体的にはどうやって対策をすればいいでしょうか。

今はLeetCodeやAtCoderなどコーディングインタビューの準備用サイトがいろいろあるので、そういったものを活用すればいいと思います。

常に自分が何をしてきたか、何ができるかを把握し、転職に備える

ありがとうございます。よくわかりました。外資系といえば、英語力も重要だと思います。どのレベルが必要でしょうか。英語が得意ではなく、しかも普段使わないのでなかなか勉強できていません。

これは面接に通るためにはどのくらい必要かということと、実際働く上でどのくらい必要かに分けてお答えします。

TOEICが600あれば面接を受ける価値があると、よく私はお伝えしています。1社目の私の開発の同期は実際にそのくらいで入社しているからです。

TOEIC600でいいんですね。意外です。

要は面接に通るだけの力があればいいんです。つまり雑談をできる必要はなくて、自分の過去のプロジェクトだったり、関係する知識、三浦さんだったら統計や機械学習のことを英語で話せたりできればいいということです。それは練習するしかないですね。

実際働く上で、どのくらい必要かは会社によります。チームメンバーによるといってもいいかもしれません。日本人が多ければ、英語で話す部分は少なくなりますし、ほとんど外国人なら必然的にすべて英語になります。

普段使わないのになかなか難しいと思いますが、面接に通るだけの部分はなんとか勉強しましょう。実務では必要にかられれば話せるようになるものです。私も定期的に時間を取って勉強したわけではなく、仕事をしていくうちに話せるようになったので。

なんとなくイメージが湧きました。普段から転職のために準備しておくことはありますか。

定期的にキャリアの棚卸しはしておいた方がいいと思います。私はプロジェクトが終わるごとに、職務経歴書を更新しています。時間が経つと忘れてしまいますし、どんな部分でどんな役割を担い、何ができるのかを常に把握できるからです。

そうしておけば、面接を受けることになってもパッと答えられます。上司と面談の時にも、足りない部分を補う仕事をしたいといった相談もできます。

とはいえ、日本企業にお勤めで、外資系に移りたいんだったらなるべく早いほうがいいです。当然のことながら、若いほうがポテンシャルを見てもらえるからです。年を重ねるほど、日本企業と外資系企業ではキャリアパスに隔たりがでてくるでしょうし、それなりのスキルセットが要求されるからです。

米国本社への転籍はどうすればできるのですか。

基本的には転職と同じです。社内向けにオープンポジションのサイトがあって、それを見て応募し、オファーをもらえれば転籍できます。ただ企業やチームによっては社内面接が社外の面接と同じプロセスかどうかなど、多少違いがあります。

今日はありがとうございました。いろんな選択肢が見えましたし、勉強方法についてもヒントをいただけました。自分の中でどうキャリアを歩むべきか、先行きに霧がかかっているような気持ちだったのですが、それが少し晴れたような気がします。
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コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。