プロ経営者が求める株主は、覚悟を持ってビジョンを共有できる人
2021/12/13

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PEファンドのJ-STAR株式会社は、業界の中でも特に投資先企業に入り込んでのバリューアップに注力することで知られている。しかし、具体的にどのような形で経営に携わるのかイメージができないという方も多いのではないだろうか。そこで今回は、同社のファンドマネージャである山下直飛人氏に加え、2015年6月から2021年1月までJ-STARが投資していた株式会社NHSの樋口公裕代表にもインタビューを実施。投資の背景や投資実行後の企業成長、M&Aの実情について率直に語ってもらった。

〈Profile〉
写真右/山下 直飛人(やました・なおひと)
2013年4月にJ-STARに入社。Mattrz株式会社(ウェブメディア/DX支援)、イッティ/有限会社 楽風(D2C)、株式会社アシロ(ウェブメディア)、NHSインシュアランスグループ株式会社(保険代理店)、株式会社プリマジェスト(イメージソリューション事業)、株式会社スリーアローズ(ペット用品)の6件の投資に関与し、4件のトレードセールと1件のIPOにより、EXITを実現。投資期間中は、投資先に社外役員として経営支援を実施。投資前の創業者に依存した経営体制から組織的な経営体制に向けて、経営の可視化、ミドルマネジメント育成、経営人材の外部招聘を通じて組織化を支援。また、投資先の追加買収戦略実行支援を積極的に行い、これまでに15件の追加買収実行を経験。買収後に苦労する経営・業務・意識を統合していくフェーズに能動的に関与し、事業相乗効果の早期実現を促進。J-STAR参画前は、みずほ証券株式会社投資銀行部門アドバイザリーグループにて、TMTセクターにおけるM&Aのオリジネーションおよびエグゼキューションを担当。 東京大学大学院新領域創成科学研究科修了
写真左/樋口 公裕(ひぐち・きみひろ)
NHSインシュアランスグループ株式会社 代表取締役社長
千代田生命保険相互会社(現ジブラルタ生命保険株式会社)、アリコジャパン(現メットライフ生命保険株式会社)を経て、2015年6月に株式会社NHSの代表取締役社長に就任。株式会社創企社(2015年12月)、株式会社FEA(2016年10月)、ライフナビパートナーズ株式会社(2020年2月)をM&Aにより100%子会社とし、グループ4社の代表を兼務。2019年4月、NHSグループをホールディングス化し、新たに持ち株会社NHSインシュアランスグループ株式会社を設立。持ち株会社の代表から子会社の代表まですべてを兼任している。



「ファンドに対するイメージがガラリと変わった、J-STARとの出合い」

――株式会社NHSは、2015年にJ-STARが投資を実行し、そのタイミングで樋口さんが代表に就任されたと聞いています。当時のことを少し振り返っていただけますか?

山下:NHSは保険代理事業を展開している企業で、創業者からの事業承継案件でした。2015年6月に投資したのですが、その翌年に保険業法が改正されることが決まっていたんですね。改正の内容をざっくり言うと、保険代理店に対する規制が保険会社と同様のレベルまで引き上げられるということです。

当時のオーナーは個人で経営されていて、そこまでのコンプライアンス対応はとても無理だと。そこで知り合いのM&Aアドバイザーの方に相談し、J-STARに話が来たという経緯です。オーナー兼社長だったのですが、社長職を退くことも希望されていたので、代表をお任せできる方を探している中で樋口さんにお会いすることができました。

樋口さんは前職のアリコジャパン(現メットライフ生命)でコンプライアンス構築やガイドラインの作成などを担当しておられたので、本当にぴったりの方で。ただ、ちょうど前職で役員に昇格するかどうかというタイミングだったようで、最初は断ろうと思っていたそうです。懸命に口説いたことを覚えていますね。

樋口:最初は、以前お世話になっていた先輩から急に「飯でも行かないか」と連絡をいただいたんです。行ってみると、J-STARというPEファンドが投資先企業の経営者を探しているので話を聞いてもらいたいと。しかし、今山下さんがおっしゃった通り幸運にも最年少で役員候補に入れてもらっていましたし、自ら辞める理由はありませんでした。

それに当時の私はPEファンドに対する知識もなく、あまり良いイメージではなかったことも事実です。きっと事業自体に興味はなく、一時的に資本を入れて売却時との差額による利益だけを狙っているのだろうと思っていました。ところが実際に山下さんにお会いして話を聞いてみると、私のイメージとはまったく違う。やりたいことの方針や方向性を熱く語ってくださって、わずかな時間ではありましたがこの人なら信用できると思ったわけです。

山下:でも一度は断られていますよね?(笑)

樋口:そうなんですよ。最初はなかなか踏ん切りがつかなかったのですが、ある日山下さんに電車でばったりお会いして。一瞬つけられていたのかなとも思ったんですが(笑)、普段乗らない電車だったのでこれは本当に偶然だろうと。

運命で仕事を決めるわけではありませんが、ご縁を感じたのと、やはり最終的に一番の決め手になったのは山下さんの熱意です。NHSには若い従業員もたくさんいましたし、この会社や保険業界、その後ろにいるお客さまも含めてなんとかしたいという思いや責任感に共感して、参画させていただくことを決意しました。 description

適切な戦略実行だけではない、人と人とのコミュニケーションもフォローする

――出資後はどういった取り組みを進めていったのでしょうか?

山下:出資の前段階で詳細な現状分析を完了していたので、打ち手は明確になっていました。SWOT(強み・弱み・機会・脅威)分析の結果を簡単にお伝えすると、まず強みはテレマーケティングと対面を組み合わせたハイブリッド型の営業スタイル。業界内でも最高水準の獲得効率を誇っていましたが、一方で事業規模の急拡大に組織構築が追いついておらず、マネジメント人材の不足が弱みだと捉えていました。

機会としては、特に医療やがん保険領域の需要増が見込まれること。高齢化社会という背景により、亡くなった時のための保険ではなく生きていくための保険が、今後しばらくは継続的に伸びていくということです。そして医療・がん領域のマーケットを見渡してみると、大きい企業でも100億から300億円規模しかありません。投資時のNHSは、医療・がん保険分野の市場において、上から6~7番目の規模でしたが、市場が非常に細分化されている状況でした。

脅威は先ほど申し上げた2016年の保険業法改正です。速やかなコンプライアンス体制の強化が必要でしたが、この点は我々にとっては逆にチャンスでもありました。競合は中小規模がほとんどなので、NHSの前オーナーと同じく対応しきれない企業も多いだろうと。そこで、樋口さんの力で約6カ月かけてコンプライアンスを強化し、その後は事業規模拡大のために投資シナリオを構築。元々の強みである営業力と新たなコンプラ体制をベースに13件の追加投資を実施して、ほぼ予定通りのタイミングで2021年1月に朝日生命保険に譲渡することができました。

――弱みであるマネジメント人材の不足はどうやって解消したのですか?

山下:ここも最初は、樋口さんの人脈によるところが大きかったですね。フェーズごとに必要な人材は変わるのですでに卒業された方もいますが、全部で7人、樋口さんからの紹介で参画してもらいました。M&AだけでなくNHS単体でも非常に成長していまして、我々の買収前と比較すると2.5倍程度の規模にまで引き上げています。

樋口:グループ全体では5倍ぐらいになっています。独立系の企業では最大規模といっていいのではないでしょうか。ただしもちろん、すべてがスムーズに進んだわけではありません。特に、M&Aの1社目にあたる創企社を買収した後のPMI(買収後の統合プロセス)は大変でした。

山下:買収まではとんとん拍子で進んだものの、その後はお互い苦労しましたね。普通は何十ページも資料を作って提案するのですが、この時は初めて口頭だけで成約までまとまりました。タイミングが合致して刺さる一言があれば、分厚い資料がなくてもM&Aを成立させられるんだというのは学んだ点でもあります。

しかしその分、買収後の意思統合は難しかった。お互いの事業にシナジーがあることは間違いないのですが、経費に対する考え方ひとつとってもズレがありますし、制度もカルチャーもすべて違いましたから。

樋口:私も初めてのM&Aで、なんとかビジネスとして結果を出さなければという気持ちが先走ってしまったんだと思います。買収される側の“人の気持ち”を酌み取れなかったことは、多いに反省する必要がありますね。

本来我々がコミュニケーションするべきところなのですが、山下さんをはじめとしたJ-STARの皆さんが創企社とNHSの間に入るような形でフォローアップしてくださり、なんとか軌道に乗せることができました。

山下:最初にその失敗があったので、2社目以降は非常に丁寧に進めていきました。樋口さんと一緒にほとんどの支社を回って、なぜM&Aを実施するのか、この後両社でどういう方向に進んでいくのかを率直に話すようにして。やはり株主や体制が変わることに対して10人中10人が賛成ということはあり得ないので、事前に調整しておくことは大切ですね。 description

求められるのは、コミュニケーション能力と、ビジョンに向かって突き進む姿勢

――樋口さんから見て、その他にJ-STARのサポートで重要だったと感じるのはどんなところですか?

樋口:月に1度の取締役会もありますが、出資当時は毎日のように会社に来ていただいていました。最初の1年間は特に環境変化も大きくて、問題や課題もたくさんありましたから。それに、保険代理業は人材集約型のビジネスなので、どれだけ多くのメンバーとコミュニケーションを取れるかが非常に重要です。

先ほど創企社の例を挙げましたが、NHSにしてもそれは例外ではありません。私もメンバーとのミーティングはたくさん実施しましたが、人数が多いのでカバーしきれない部分もありました。J-STARの方々には経営幹部だけでなく現場の主要メンバーともかなり頻繁にコミュニケーションを取っていただいて。そこで聞こえてきたさまざまな意見をフィードバックしてもらったからこそ、早め早めの手を打つことができたのだと思っています。

山下:求職者の方から「PEファンドで働くためにはどんな能力が必要か」と聞かれることも多いのですが、一番は間違いなくコミュニケーション能力です。PEファンドの仕事は、自分よりはるかに人生経験豊富な方々と相対し、利害関係を調整していくことが求められます。言いたいことだけを言うのではなく、どうすれば相手に受け入れてもらえるのかを考えて、伝えていく能力は不可欠だと私は思います。

相手のことを大切に思い、お互いに良くなっていこうという姿勢を見せられるかどうかと言ってもいいでしょう。投資する側の立場にいる人は、こうした人間関係を面倒だと思う人も多いのですが、しっかり向き合わなければどんな投資もうまくいくことはありません。

樋口:それに加えて、投資先企業の事業に対する思いを持っていることも重要だと思います。通常の株主とファンドでは少し性格が異なりますが、投資してもらうということは、株主になってもらうということです。経営サイドからすると、大株主には特に「最終的にこの会社をどうしたいのか」というビジョンを共有できる人であってほしい。業績が良い時も悪い時もありますし、何かしらトラブルは起きるものですが、ビジョンやゴールが共通であればきっと乗り越えていけるはずです。

山下さんはまさにそういう方で、ご自身の思いをしっかり持って企業経営に入り込んできてくれました。単にお金だけ出すというスタンスではなく、一緒に責任を取るぐらいの覚悟でやってくださって、本当にありがたかったですね。

山下:逆に、自分だけのために頑張るのって難しいと思うんですよ。もちろん誰でもいいわけではありませんが、「この人と一緒にやっていきたい」と思える人がいるからこそ頑張ることができる。PEファンドの仕事は、結果が出るまでに長い時間がかかります。長時間取り組んだ結果、うまくいかなかったということだってあり得るわけです。そういう時間軸に耐えながらその期間ずっと頑張り続けられるのは、相手のため、その企業のため、ひいては投資家のためという気持ちがベースにある人だと思います。 description

コラム作成者
Liiga編集部
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