「回遊」するキャリア②「大企業のほうが自由な雰囲気」スタートアップから大企業へ。4社経験者が語る会社選びの“ツボ”とは
2022/04/27

description

スタートアップで磨いてきた自分のスキルは、大企業でも通用するのか?

ハードな環境でスキルアップに努めてきた人ほど、より大きな舞台で実力を試したくなるものです。しかし同時に「通用しないかもしれない」という不安を感じている人もいるかもしれません。

大手企業とスタートアップを「回遊」する方々の姿を通じ、先行き不透明な時代でしなやかにキャリアを重ねていくヒントを、エージェントによる解説と共にお伝えするシリーズ。第2回は、ITエンジニアの男性を取り上げます。

男性は大学院卒業後、大手電機メーカーに就職し、機械設計の分野で経験を積みました。その後、一念発起して大学発スタートアップに転職。AI分野の知見を積んだのち再び大企業に戻り、現在は大手製薬メーカーにてエンジニアとして活躍しています。

大企業に戻ってきた感想やスタートアップ時代の経験を語っていただいた後、この実例を踏まえて、エージェントに転職の際の会社選びのポイントを尋ねましょう。


「スタートアップでやりたかったことができている」大企業転職で手に入れた意外な“自由”

ーー今の仕事内容について教えてください。

A:大まかに言えば、マーケティング分析や実験時のデータ収集など、社内でこれまで手を使ってやってきた作業を、AIを使って自動化する仕事です。

ーー一度大企業からスタートアップに転職されていますが、再び大企業に戻ってきた率直な感想を聞かせてください。

A:満足しています。妙な話ですが、大企業に来てからの方がスタートアップでやりたかったことができているんです。

ーースタートアップでやりたかったこととは?

A:自由な雰囲気の中でのデータ分析やAI開発です。というのも今の環境では、一応「○月までには結果を出してほしい」とは言われていますが、頼まれている仕事はどれも納期が長めで、わからないことがあってもじっくり勉強しながら実装していくことができるんです。これは意外でしたね。

ーースタートアップ時代は違ったのですか?

A:はい。2社とも社長が良くも悪くも真面目で、スタートアップなのに9時〜17時半の定時があったり、リモートは禁止で出社必須だったりと自由度はあまりなかったですね。仕事量に対して人手は全く足りていないので、納期もタイトでじっくり勉強する暇もありませんでした。

ーー残業時間など、働き方は変わりましたか?

A:1日のスケジュールで言えば、打ち合わせなどの雑務に割く時間は全体の3〜4割に収まっていて、残りの6〜7割は開発に集中できています。

労働時間は9時から17時半が定時。残業は遅くても20時くらいまでですし、定時で帰る日もあります。月の残業時間は10時間以上20時間未満ですね。おかげで終業後に勉強する時間を確保できています。

ーー具体的にどのような勉強をするのですか?

A:色々ですが、例えば「画像分析ではこのアルゴリズムが最適なのはわかるけど、なぜ最適なのか?」みたいな理屈の部分の理解を深める勉強です。

これを理解するためには技術の歴史を辿る必要があるんですが、スタートアップ時代は目の前のプロジェクトを回すのに精一杯で。

ーー今の会社にはスタートアップ出身の人はご自身以外にもおられますか?

A:いることはいますが、スタートアップ出身者は珍しいですね。大企業出身者の方が多く、数百人規模の小さい会社から来た人も一定数いるという感じです。

「社長の権力がとにかく大きい」スタートアップで感じたメリット・デメリット

ーーそもそもどうして大企業から大学発スタートアップに転職したのですか?

A:大手電機メーカー時代はずっと機械設計をしていたのですが、世の中の流れを見ていると明らかにAIの方が伸びるだろうなと思ったからです。

でも機械設計とAIでは、全くの別職種です。だからある程度リスクを承知のうえで、未経験でも雇ってくれるスタートアップに飛び込んだんです。

ーー転職活動の際は、あらかじめAIの勉強をしてから臨んだのですか?

A:一応オンラインでPythonの講座を受けましたが、今振り返ると付け焼き刃以外の何ものでもありませんでしたね(笑)。

転職してすぐの仕事が、めちゃくちゃハイレベルなプロジェクトだったので、Python入門を聞きかじった程度のレベルでは全く太刀打ちできませんでした。だから入社当時は四苦八苦していました。

なぜ、再び大企業を選んだのか?

ーースタートアップから大企業に戻ってきたのは、そういった組織風土が合わなかったからですか。

A:そうですね。はっきり言って、スタートアップでも大企業でも正社員として働くのであれば個人は歯車でしかないんです。

結局は社長や上司の言うことを聞いて動くしかなくて、基本的に報酬は給料だけです。それなら大企業の方が待遇は良いよなと思って大企業に戻ることにしました。

――スタートアップから大企業の転職ということで、難しさを感じる場面はありましたか。

高山:スタートアップ出身者だから、という理由でマイナス評価をされた印象はありませんでした。エージェントを利用して転職したのですが、私の経験やスキルを素直に評価してくれて面接に呼んでくれた企業ばかりでした。

ーーどういった経験やスキルが評価されたのでしょうか。

A:個人プレーではなく、仕組みを作ってチームでプロジェクトを完遂したという点だと思っています。

具体的にはスタートアップ時代に総勢20名のチームを使って、東証一部上場企業の全社システムにAIエンジンを導入するプロジェクトでプロジェクトマネージャーをこなした経験や、ITシステムのウォーターフォール設計を1から10までマネジメントした経験などです。

ーー今回で3回目の転職だったわけですが、転職回数がハンディキャップになることはありましたか?

A:特には感じませんでした。確かに前職を1年足らずで退職しているので、面接官から「直近の会社を短期離職していますが……?」と突っ込まれたことはあります。

でも私の場合最初の会社を6年勤めているので、最終的には「水が合えば長く勤めてくれるだろう」と判断してくれたようです。

「規模で企業を判断しない方がいい」4社経験者が語る転職のリアル

ーースタートアップ2社を経験したご自身から見て、スタートアップで働くメリットはどこにありますか。

A:メリットは設計から納品までを全て自分で担当できることですね。できた部分もできなかった部分も全て自分に返ってくるので、そのぶんやりがいは大きい。
土日も関係なく働き詰めの時もありましたが、「これを頑張れば受注につながるし、自分の名刺に書ける実績になるぞ」と思って頑張れました。

ーーデメリットはどうでしょうか。

A:先ほど話した自由度の低さもそうですが、社長の権力がとにかく大きいのもデメリットだと思います。

そのくせ社長があまりオフィスに来ないので、相談しづらかったり。あとはハッタリで契約を取ってくるケースも多いので、現場にしわ寄せが来ていたのもデメリットかな……。

ーー最後に、今スタートアップから大企業への転職を考えている人へのアドバイスをお願いします。

A:スタートアップ、大企業といった規模で企業を判断しない方がいいと思います。というのも、私自身がスタートアップで保守的な組織に入り、なかなか好きなことができないという状況を経験しましたし、大企業に入って逆に好きなことが自由にできるようになったという経験をしているからです。

だから転職先を選ぶときは、もう一歩踏み込んで業界や社風、現役社員の声など色々な情報をしっかりと集めて、フラットな目線で自分にとってのより良い環境を探すことをおすすめします。

ーー大企業だからこういう社風、スタートアップだからこういう社風というわけではないということでしょうか?

A:そうです。「スタートアップ」「大企業」といった一見便利なフィルターでスクリーニングをかけると、自分にとって本当に価値のある選択肢を見逃す可能性があります。

スタートアップのイメージを作り上げている自由闊達な会社もあれば、私が勤めたような大企業よりもお堅い会社もあるわけですから。なので、先入観を持たずに広い視野で会社選びをして欲しいですね。

エージェントの眼:企業の規模が全てではない。ポジションとキャリア形成を踏まえて考える

転職を考える際、「大企業かスタートアップか」という二択は誰もが一度は考えたことがあるかと思います。ただ男性のように一般的な「大企業=安定」「スタートアップ=自由」とは異なるパターンも存在します。転職先を探す時、どのようにマッチングする企業を探せば良いのでしょうか。株式会社プロフェッショナルバンクの人材エージェントで、製造業やITサービス領域などの支援を得意とする、直井久瑠実さんに尋ねてみました。
直井:転職をご希望される方々と面接していても、「次は落ち着いた大企業へ」「スタートアップで裁量を持ちたい」といった声を聞くことはあります。面談でそのようなお話を伺った時は、「なぜ大企業か」「なぜスタートアップか」という所を深掘りするようにしています。

というのも、例えば裁量を持ったその先にご自身が目指しているキャリアイメージは経営者になりたいのか、それとも裁量権を与えられたことがなく一度は経験したいからなのかによって、フィットするポジションに違いがあります。また規模感としてスタートアップよりも大きい数百人規模の企業であっても、ご自身のスキルや経験によって大きな裁量権が持てる場合もありますので、企業の規模が全てとも言い切れません。

企業側の話をすると、一般的に大企業がスタートアップの経験を持つ人材に期待しているのはスピード感を持って事業を回していくこと、制度が整っていない中でも事業やプロジェクトをドライブする突破力、難しい課題を解決する主体性などが挙げられます。スタートアップが大企業出身の人材を欲しがる時は、大企業で学んできたノウハウや仕組み、教育体系などを還元してほしいという思いもあります。

ただ現在は大企業にも新規事業開発の部署があったり、スタートアップでも組織づくりを大切にしたりする事例もあります。「大企業だから」「規模が小さいから」という固定概念を持たずに組織風土について情報収集をしていくことも大切です。その上で、それぞれの企業の募集されているポジションで、自分の持つスキルで貢献できること、どんなキャリアを形成できるかをしっかり考えることが重要と言えます。

description

コラム作成者
Liiga編集部
Liigaは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。