はじめに
今回も、現役コンサルタントの方に、ケース問題の解答方法について解説していただきました。ぜひご覧ください。
導入: 本コラムの趣旨
本来のケース面接では、現状整理から打ち手の提案などへの一連の流れの中で、様々な考えるべきプロセスや論点があり、複数の重要なポイントがあります。しかし、これらの重要なポイントを、いきなりフルセットで学習・対策するのは、難易度が高いと思われます。
そのため、本コラムでは、それらのプロセスや論点から、1部分を切り出した例題を出題し、それらの解答のコツへの解説に絞ることで、学習内容を明確にした説明を行います。 Liigaコロッセオにて出題された問題を利用しますので、ぜひコロッセオを解いたうえで、本コラムを読んでみてください。今回解説するのは、以下の例題です。
問題を解きたい方はこちら
よくある解答の傾向
さて、今回の問題を、単純に「都内の某ビジネス街に位置するカラオケBOXの売上向上施策を考えてください」とした場合、どのような回答が頻出するのでしょうか。 よくある解答のプロセスは、以下のようなものです。
- まず「カラオケBOXの客層」や「ビジネス街の客層の特徴」を加味する
- 「ターゲットとすべき客層やオケージョン」を特定する(例:サラリーマンの2次会需要 など)
- それらの客層の方々が求めている需要を整理してみる(例:食事、価格、グッズ、備品…)
- 整理した需要を満たす、新しいサービスの提供を打ち手とする
さて、上記の解答プロセスは、非常に“一般論”的になってしまっていることに気づいたでしょうか。例えば、「カラオケBOX」の部分を、「ファミレス」「美容院」「弁当屋」などと置き換えても、まったく変わらない形になっています。
これまでの解説では、上記のような3C(市場、競合、自社)でいうところの「市場」について考えるばかりでなく、「自社」や「競合」についてもっと考えるべきという話をしてきました。
今回も、よくある解答として、やはり「市場」ばかりを分析するという部分は変わりません。しかし、対策として、3Cとは別の視点で、「商品の特徴や業界の特徴は何なのか」という視点で物事を見てみたいと思います。
その中で、「業界比較による業界の特徴の抽出」や「現実のビジネスで実施されている打ち手の背景を推測する」ことが、ケース問題を解くうえで有効であることを、小問①~③への解説を通して提示していきます。
課題の特定例: 業界・ビジネスの特徴から導く
今回、抑えておくべき業界やビジネスの特徴について、解説の都合上、最初に提示してしまい、それらの特徴に合わせた、具体的な課題を1つ例示しておきます。
現実のケース面接においても、少なくとも以下のポイントに気が付くべきかと思います。
特徴①: カラオケBOXは物理的制約の大きい場所貸しのビジネス
さて、わかりやすいように、小売店(コンビニなど)と比較しながら、考えてみましょう。 まず、大前提として、カラオケBOXのビジネスが「1時間などの単位で場所を貸す」ビジネスであることを認識する必要があります。これはコンビニで商品を買うのと異なり、「まとまった空き時間」がないと消費することが物理的に不可能であることになります。
また、アマゾンのようにネット&宅配もできないため、場所の制約も大きいです。よって、店舗があるエリアで行動している人しか、顧客になりえない、商圏の狭いビジネスになります。
以上の様に、「時間的」「物理的」に制約の大きいビジネスです。
特徴②: カラオケBOXは固定費の負担、特に場所・家賃の負担が大きい
まず、カラオケBOXがビジネスとしてサービスを提供するうえで、「カラオケルーム」という部屋・スペースが必須です(それに加えて、特有のものとして、機材や曲のライセンスなども必要になります)。
一方、飲食物はサービスとして必須とは言い難いものです(最悪、持ち込み可とすればよい)。 さて、どのコストの負担が高いのでしょうか。カラオケBOXは、たいていの場合、駅前など家賃の高い場所に位置していることが多いです。今回は、問題文の中で「ビジネス街」と指定されているため、特に家賃が高いと想定されます。 一方、他のコストはどうでしょうか。そもそも、お客さんはカラオケルームの中にいる時間が長いため、顧客の数と比して多くの従業員の数が必要だとも思えません。また、それ以外だと、光熱費などがありますが、そもそもそれほど大きな値になるとも思えません。 今回、厳密な計算・思考はしていませんが、なんとなく考えても、おそらく固定費、特に家賃の負担が他のビジネスと比較して大きいと推測できるのではないでしょうか。
特徴③: カラオケBOXの部屋の稼働状況は、平日休日や時間帯によって大きく異なる
まず、カラオケBOXの最大需要はいつでしょうか。今回の場合、特にビジネス街ですので、社会人による飲み会や2次会の需要が大きいと想定されるため、「平日の夜」に大きな需要があると想像できます(また、ビジネス街は立地がいいことも多いので、一定の学生客もいるでしょう)。
「平日の夜」は最も需要が大きく、部屋の稼働率が高いと推測されます。 一方、それ以外の時間帯だとどうでしょうか。例えば、「休日」であれば、カラオケ好きな人たちが、友達と一緒に来店しているでしょう。一概に言えませんが、一定の需要があると想定されます。 では、上記以外の時間帯である「平日の昼間」はどうでしょうか。まず、社会人は仕事がありますし、学生も学校の授業があるので、カラオケのような「1時間単位」で場所をかりるサービスを利用することは、物理的に不可能な場合が多いです。
そのため、ターゲット層が、主婦や年配者などかなり限定されることになり、これらの客層は、他の客層と比較して利用頻度や単価が“非常に”高いとも思えないため、「平日の昼」は需要が少ないと想定されます。
特徴④: 客層ごとに価格感度も大きく異なる
特徴③の解説の中で、稼働率だけでなく、時間帯ごとに客層が異なることにも言及しました。さて、当然ではありますが、客層ごとに価格感度が異なります。 まず、「平日の夜」の社会人による需要ですが、そもそも所得を得ている方々ですので、お財布に余裕があります。また、飲み会的な利用ということは、居酒屋のように比較的高価格であっても、受け入れられやすいオケージョンであると思われます。
学生、主婦、年配者のカラオケ需要と比較して、価格感度は低めであり、高価格でも受け入れられやすいと思われます。(逆に、「学生」「主婦」「年配者」といった客層には、低価格であることがより重要になるでしょう)
各種特徴を踏まえた、カラオケBOXの業界・ビジネスの課題とは
以上の各種特徴を踏まえると、カラオケBOX業界の構造的な課題が見えてきます。 まず、特徴③にある通り、全コストの中で家賃が大きな割合を占めていると推測されます。そして、家賃は「固定費」にあたることからもわかる通り、お客さんの有無にかかわらず、同じだけのコストがかかります。
つまり、「部屋が空いている」ことは、大きな損失になります。
そして、特徴②にある通り、時間帯による稼働率の差が大きいこと、具体的には「平日の昼間」の稼働率が低いため、ここに大きな機会ロスがあることになります。
カラオケBOXへの来店は、「エンタメとしての需要(ビジネスや自己鍛錬などの需要ではない)」「みんなで楽しむ(複数人の予定を合わせる必要がある)」の条件を満たすことが大半であるため、構造上、平日の昼間の需要が小さくなってしまうのは避けがたいと言えます。
以上の様に、「平日の昼間の稼働率が低いことが問題であり、これは特にカラオケBOXが家賃という固定費に当たるコストの割合が高く、客が入っていないことが大きなロスを生んでいる」というポイントは、カラオケBOXの業界・ビジネス共通の大きな問題と言えます。このことから、「平日昼間の稼働率の向上」は、カラオケBOX業界の課題といえるでしょう。
(補足)今回提示した1つの課題に対する打ち手の例
さて、別の視点を含めて、いろいろと深く考えていけば、複数の様々な課題が出てくると想定されます(例えば、客単価について特に何も考えていません)。
しかし、いったん、この「平日の昼間の稼働率の低さ」という課題や、この課題に至るまでの現状分析のみに限定して話を進め、打ち手を考えてみましょう。例として、2つの打ち手を示します。
まず、打ち手の方針①としては、課題と対応させて、平日の昼間の客数を上げることに集中することになります。このとき、それまでの現状分析において、時間的制約をクリアできる顧客の大半が「主婦」や「年配者」となっているので、この顧客層を攻略する方法を考えることになるはずです。
次に、打ち手の方針②として、あえてこれまでの現状分析に対して別の解釈を行い、ボリュームゾーンである「平日の夜」を攻略するのもありです。今回カラオケBOXは、このような場所貸しビジネスにおいても若干特殊な例だと思うのですが、最繁時間である「平日の夜」においても、まだ空いている部屋がある場合も多いです。
また、別の現状分析(特徴④)から、最も客単価が大きいと思われる時間帯でもあるので、稼働率を上げることによる売上への寄与が大きい時間帯と言えます。(余談ですが、「平日の夜」の客層は、価格感度が低いので、そもそものプライシングの変更や、付加サービスによって、客単価を上げやすい可能性もあります)
重要なのは上記の特徴や課題ではなく、どのように課題を想起するかにある
ここまでの解説では、業界・ビジネスの特徴をしっかりと把握することで、課題が見つかることを示すため、具体的に、課題の1つと、そこにたどり着くまでの現状分析を天下り的に提示しました。
しかし、上記を「暗記」したとしても、それは類題(場所貸しビジネス)に対してしか利用できず、他の問題への汎用性がありません。そして、そもそも今回のカラオケBOXの問題において、有用な課題が上記の1つのみであるとも考えにくいです。 学習すべき考え方は、もっと一般的に、「どのような思考をすれば、上記の課題にたどり着くことができるのか」にあるはずです。そうすれば、他のケース問題や他の課題を考えだす上で有効である汎用的な考え方が身につくはずです。
有用な視点や軸は、暗記しておいてもうまく利用できない
さて、上記の特徴①~④には、様々な視点や考え方の軸が出てきます。例えば、「時間帯別」の軸、「コスト、特に固定費」の視点などです。また、「場所貸しビジネス」「稼働率」といった単語も出てきました。しかし、これらの軸や視点は、いったいどこから出てきたのでしょうか。
もちろん、「直観」「頭の良さ」などといった言葉で理由付けしてしまえば、説明としては簡単でしょう。しかし、仮に「頭の良い人」の場合を想像してほしいのですが、今回のカラオケBOXの解答では「時間帯別」「固定費」などといった軸や視点に言及するかもしれませんが、一方で、別のケース問題であれば、それに合わせて違った軸や視点をすぐに提示するはずです。
では、なぜ違った軸や視点を提示できるのでしょうか。あらかじめ、頭の中にあらゆる視点や軸が暗記されていたとしても、それらが今回の問題に合うか否かを一つずつ確認してしまうと、非常に時間がかかります。つまり、頭の中に視点や軸の“辞書”があったとしても、それだけでは不十分です。
有用な視点や軸を素早く想起するために有効な考え方とは?
さて、ここから、「汎用的な考え方」の解説に入ります。 このようなとき、必要な視点や軸を素早く考えつくには、「カラオケBOX」というビジネスについて具体的に考えてみることが有効です。
さて、この具体的に考えるときの方法は、大きく2つあります(※以下、抽出される特徴はダブりがあります)。
方法①: 業界の特徴を、他業界と比較しながら考える
この方法①は、非常に基本的なものです。例えば、上記の天下り的な解説で簡単に実施したように、他の一般的な業界であるコンビニを持ち出し、カラオケBOXとの違いがどこにあるのかを比較すれば、いろいろな違い(業界の特徴)が判ります。
- 消費する商品(飲食物など)だけでなく、場所に対して時間単位でお金を取る(⇒場所のコスト負担が高い可能性が高い)
- エンタメ需要であり、個人よりもグループで消費することが多い(⇒グループで時間を合わせる必要から、消費時間帯に偏りが生じる)
- 夜遅い時間、朝まで営業している。(⇒ 夜の需要がメインである)
方法②: 現実のビジネスにおける打ち手を洗い出し、その背景を推測する
この方法は、一見すると、トリッキーな方法にみえますが、具体的な事例を見れば、そこまで不自然ではないことが、ご理解いただけると思います。
現実のビジネスで実施されている「打ち手」には、その背景となる課題や問題意識があるはずです。実際の打ち手を見ながら、その背景を推測することは非常に有効です。
現実の打ち手①: 利用時間に応じて料金を請求
カラオケBOXは時間単位で料金を取るシステムになっていることに注目します。その理由を考えてみると、おそらく、場所を占有されることが大きなコストになる、コストにおいて大きな割合を占めることが想定されます。
現実の打ち手②:時間帯や曜日によって利用料金に変化
カラオケBOXの料金表は、時間帯によって異なります。まず、時間帯で見れば、平日昼や休日は割引料金が適用されていることが多いです。
わざわざ、これらの時間帯の価格を安くしている理由として、例えば「この時間帯は客が少ないから、安くしてでも客に来てほしい」「この時間帯は、価格感度が高い客が多い」などが想定されます。また、「来客・消費によって変動するコスト(変動費)の割合が低いため、割引による利益率の低下が小さい」からこそ、そもそも割引をしているとも考えられます。
現実の打ち手③:客層に応じて、割引を適用
カラオケBOXの料金表は、客層によっても異なります。具体的には学割のようなものが定義されています。 その背景は、もちろん「客層によって価格感度が大きく異なる」と想定していることもありますが、「もっと来店してほしい客層が、価格感度の高い客層である」ことを意味している可能性が高いです。
(価格感度が高い客がすでに十分に来店していれば、割引する必要がありません。例えば、仮に学生は休日の昼から夕方にしか来店しないとして、この時間帯の稼働率がすでに高ければ、割引しても、稼働率の改善余地が小さいことから、客単価が減る分、売上や利益が減少してしまう可能性が高いです。)
参考: 同じ打ち手でも、付加的な分析を加えると、提案の説得力が上がる
いったん、上記の「時間帯」の議論がなかったとしましょう。仮に、純粋に市場や消費者の分析を行い、「年配者の来客数を増やす施策」を提言した場合どうなるか考えてみます。
もちろん、この年配者向けの施策が有効なものであれば、それ単体だけでも、施策としての価値は高いでしょう。
しかし、ここに「年配者は平日の朝や昼間にも多く来店する」ことと、「カラオケBOX運営側として、ちょうど平日昼間の稼働率が低いという、業界共通の問題を持っている」という情報を付け加えることができれば、この年配者向けの施策がより効果的であるという論理補強になります。
これによって、本質的な施策の価値の向上があったわけではありませんが、コミュニケーション上の問題に限って言えば、施策の価値を向上させたといえるでしょう。
以上の様に、同じ施策を提案する場合であっても、より多くの現状分析をすることで、施策の有効性に関する説得力が上がります。 思考方法としては若干論理の後付け感もありますが、コミュニケーション用に提案の流れを再構築すれば、より論理的な根拠をもとに考えられた施策として提案することができます。
「様々な情報を繋げる思考力」、「コミュニケーション能力」のどちらに属するかわかりませんが、「様々な現状分析や課題を繋げて、1つの打ち手を補強・体系化する」ことは、重要な考え方なので、ぜひ覚えておいてください。
参考: もし、今回の課題特定・現状分析のプロセスなしで考えた場合に発生するデメリット
もし、今回の解説にあった課題特定、およびそれに付随する現状分析なしで打ち手を考えた場合、どうなるでしょうか。 以下、時間帯に関する明確な意識がないまま、打ち手を考えていると想定してください。まず、“なんとなく”お客さんの利用形態を考えると、友達同士や会社の同僚による、「平日の夜」の集団利用を想定すると思われます。そして、これらの客層の客数UPの施策を考えた場合、おそらく結果として「平日の夜」の時間帯に来店する客数が増える打ち手に収束すると思われます。 しかし、ここで一つ問題があります。スペースを売る商売に置いて、繁忙時間帯の客数を増やした場合に、本当に売上が伸びるのでしょうか。実は、今回のカラオケBOXにおいては、それでも売上が伸びる(繁忙時間でも空室があることも少なくない)珍しい業態です。
しかし、大半のスペースを売る商売においては、繁忙時間の稼働率が高い(空室・空席がほぼない)ため、客を増やしても、それと近い値の客が、空室・空席がないことを理由に離れて行ってしまいます(競合店舗や、類似の別業態のサービスに移動するでしょう)。その場合、打ち手の効果はほぼないことになってしまうことになります。(宿泊業のGW、ビジネス街の飲食店のランチタイム などを想像してみましょう)
以上の様に、仮に今回の課題(平日の昼間の稼働率の低さ)から打ち手を考えなくても、そこに至るまでの現状分析で出てきた視点や軸(時間帯)があることで、意味のない打ち手を述べてしまうリスクを減らせます。広い視点で現状分析を行うことは、多くの課題を出すだけでなく、各課題や打ち手をより洗練化することができます。
備考: なぜ、売上向上策を考えさせる前に、フェルミ推定を行うのか
よくあるケース面接の問題として、フェルミ推定とケース問題(売上や市場規模の向上)を一緒に出題するパターンがあります。今回の例題でいえば、下記のような問題になります。
・都内の某ビジネス街に位置するカラオケBOXの売上とコストの構造を分析し、次に売上を向上させる施策を考えてください
さて、なぜ両方セットで出題するのでしょうか。もちろん、両方の問題を通して、面接官が多くのポイントを確認したい可能性もあります。しかし、別の考え方として、「フェルミ推定を解くことが、ケース問題を解くうえでヒントになっている」ということを抑えておいた方が良いでしょう。
コスト推定より、「家賃」「固定費」の重要性に気が付ける
まず、フェルミ推定でコストの推定をすると、どうなるでしょうか。まず、コスト項目を洗い出すとき、「家賃」に関するコスト項目はわかりやすいので、見逃す人はほとんどいないでしょう。
コスト項目を洗い出したのちに、各コストの計算をすることになりますが、ある程度適切に計算すれば、「家賃」の部分が非常に大きい値となるはずです。つまり、「固定費、特に家賃の割合が大きいビジネスである」ことに気が付けます。
売上推定より、「平日の昼間」の稼働率の低さに気が付ける
次に、売上をフェルミ推定すると、どうなるでしょうか。まず、主要な売上項目が「1時間当たりの利用料金」であるため、まずこれをメインに売上の推定を行うでしょう。
「1時間当たり」とあることから、このとき「時間帯(+平日・休日別)」に分割して、売上を推定(稼働率や客単価を推定)する方法を選択する可能性は高いです。そうすれば、詳細なフェルミ推定の数値を考える中で、「時間帯別に稼働率が大きく異なる」ことに気が付く可能性が高いです。
さらに言えば、上記のコストと売上のフェルミ推定で判明したことを合わせて、「固定費が高いのに、平日の昼間の稼働率が低くてもったいない」といった考えが浮かぶ可能性が高まります。
フェルミ推定もケース問題も、本質的には大きく変わらない
以上の様に、フェルミ推定を行う中で、様々な視点や軸が出てきます。そもそもフェルミ推定のときに利用する視点や軸は、「数値そのものや、数値の計算方法に大きな違いを及ぼす」ものが選択されなければなりません。
そのため、ケース面接を解く場合の、「数値改善の対象として有望な箇所の特定(例:平日の昼間)」や「重要な視点(例:固定費・家賃の割合が高い)の特定」ができることが多いです。
以上の観点から、フェルミ推定のアプローチを考える時、「何かオリジナリティのある(奇抜な)方法」よりは、「ビジネス・問題解決の観点から有意義な方法」を考えるという心構えで考えた方が良い場合が多いです。
これは特にフェルミ推定とケース問題がセットで出題されるときに重要ですので、覚えておいていただけると良いかと思います(フェルミ推定で考えた内容が、ケース問題の解答に利用できない場合、フェルミ推定かケース問題のどちらかのアプローチが良くない可能性が高いです)。
結局のところ、とあるテーマ(業界、ビジネス、公共政策 など)に対して、「フェルミ推定」「ケース問題」のどちらとして出題されようと、「対象のテーマにとって重要な視点や軸を考え、それらを踏まえた解答を導出する」という意味では変わりがないため、見られているポイントはあまり違いがない場合も多いと思われます。
本コラムのまとめ
今回のコラムでは、業界やビジネスの特徴を掴むことが、どのような意味を持つのか、具体例を通して解説しました。今回のカラオケBOX業界のように、「売上を上げる仕組み」「コストの構造」「提供する商品・サービス」などは、それらの特徴に応じて、強みであったり構造的な問題点を生じさせたりします。一連のビジネス上の仕組みを整理することで、より深い現状分析が可能になります。
また、業界やビジネスの特徴をつかむ方法も提示しました。業界やビジネスの特徴は、ある程度パターンもあるため、暗記することも不可能ではないかもしれませんが、応用が限定的ですし、そのような対策は思考力を鍛えたことになりません。 1つ目の方法としては、以前のコラムでも解説した通り、「比較」を利用するのが有効です。今回であれば、対象のカラオケBOX業界と、近すぎず遠すぎない別の業界(例:コンビニ)を比較してみると、様々な特徴を洗い出せます。 2つ目の方法としては、現実に実施されている打ち手から、その背景にある課題や問題点を逆算・推測するというものです。現実に行われている施策は、何かしらの課題や問題意識から発生しているはずですので、その課題や問題意識を一覧化すると、現状を整理できます。
そのうえで、別の現状分析や課題を組み合わせたり、同じ課題に対して別のアプローチを加えることで、既存とは異なる打ち手を提案できるはずです。 また、今回は2つの「参考」の解説と、1つの「備考」の解説を行いました。カラオケBOXのケース問題を踏まえて確認すると、より深く理解できると思いますので、合わせてご確認ください。