どんな時代にも陳腐化しない、あらゆるコンサルタントに必須のスキルとは
2023/09/29

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ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)、あるいはビジネスアーキテクチャ。聞きなじみのない言葉かもしれないが、株式会社エル・ティー・エス(LTS)の執行役員である山本政樹氏によると、「あらゆるコンサルタントに必須の考え方」だという。数々の国際的な資格を有し、複数の著書も出版している同氏に、いつの時代も決して変わらないこの普遍的な概念について語ってもらった。

〈Profile〉
山本政樹(やまもと・まさき)
執⾏役員
アクセンチュアを経てLTSに入社。ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)、システム開発案件におけるビジネスアナリシス、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛ける。 米国PMI認定PMP(Project Management Professional)、TOGAF9(R) Certified、COPC(R) VMO規格 認定コーディネータ、IIBA認定CBAP(Certified Business Analysis Professional)。著書に『サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス』(共著)、『ビジネスプロセスの教科書』、『Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー』(共著)、『Business Agility これからの企業に求められる「変化に適応する力」』。

※内容や肩書は2023年9月の記事公開当時のものです。

どれほど優れた戦略も、その時点では机上のアイデアに過ぎない

――ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)に強みを持つLTSの中でも、山本さんは第一人者だとお聞きしました。今日はBPMの方法論や重要性について、解説をお願いできればと思います。

山本:確かにわれわれも、日本ではBPMという言葉でビジネスを展開しているのですが、実は世界的にはビジネスアーキテクチャと言った方が伝わりやすくなっています。まずはこの2つの言葉が持つ意味や概念についてご紹介しましょう。

ビジネスアーキテクチャを直訳すると、「事業構造」ということになります。どれほど優れた経営戦略もビジネスモデルも、考案した時点では机上のアイデアに過ぎません。それらは全て、ビジネスアーキテクチャに落とし込まなければ事業として成立しないわけです。

まずは経営戦略やビジネスモデルで示されたコンセプトに従って、1つ1つの業務内容やその手順を定めなければなりません。さらに、必要な機能をそろえて組織の役割を定義し、それらを支えるITや設備、仕組みを用意する。人が動くためのルールも整備する必要があります。このように、実際にお客さまに製品やサービスを提供できる環境を作り、事業を具現化するのがビジネスアーキテクチャの領域です。

BPMはビジネスアーキテクチャという概念が一般化する前からある考え方で、最終的にお客様に製品やサービスを届ける業務の連鎖の構造(=ビジネスプロセス)を理解し、個別の業務に閉じた視点ではなく、ビジネスプロセスを全体として捉えて最適化する考え方です。

究極的には、BPMもビジネスアーキテクチャも同じ目的の方法論であり、使われるテクニックも共通しているものが数多くあります。ただ、近年のデジタルトランスフォーメーションの文脈の中では、ビジネスアーキテクチャという表現の方が勢いがあるようには感じます。

LTSは事業構造をゼロから作り上げる、あるいは大きく変革するご支援をしていますから、この領域に関わるコンサルタントは、実態としてはビジネスアーキテクチャの専門家集団です。日本ではビジネスアーキテクチャという言葉になじみがなく、旧来からあるBPMという言葉を使用してきましたが、個人的にはそろそろ変更してもいい時期かなと考えています。

――つまり、ビジネスアーキテクチャを作り上げることが目的で、そのための1つの手段としてBPMがあるということでしょうか?

山本:その認識も成り立ちますが、その表現はどちらかと言えば、ビジネスアーキテクチャ側のコミュニティから見たBPMの姿ですね。ビジネスアーキテクチャは、事業を「業務を遂行する能力(=機能)」に分解して、機能ごとに仕組みを作り込むことを重視します。この考え方は機能の個別最適を生みやすいのも事実で、BPM側のコミュニティには、むしろ機能を統合して全体最適で物事を考えるビジネスプロセスという概念の方が上位と考える人もいます。

このような方法論間の細かい議論に加わるつもりはありませんが、それをビジネスアーキテクチャと呼ぼうと、BPMと呼ぼうと、戦略やアイデアを実行可能な構造に落とし込むという考え方が企業に必須であることは間違いのない事実です。

時にはお客さま自身も自社の事業構造やそれぞれの関係性を正しく理解していないケースもありますから、「この業務を変革すれば目的を達成できる」ということをまず明確にしなければなりません。このフェーズをおろそかにすると、スコープ漏れや関係者の巻き込み漏れなどが起こり、意図した目的を達成できないという事態に陥ってしまいます。あらゆるコンサルティングファームにおいて、必須の方法論だと言えるでしょう。 description

『要求工学』で、経営を科学する

――BPMやビジネスアーキテクチャはあらゆるコンサルティングファームに必須とのことですが、LTS以外のファームも実施しているのでしょうか?

山本:日本においては、皆さん経験からくる感覚値を基に実施されているとは思いますが、理論的な体系まで理解した上で、コンサルティングを実施している会社は非常に少ない印象です。一方で世界にはこの領域でさまざまなコミュニティがあり、最新理論を研究している人がたくさんいます。そこまで踏み込んで、裏付けを持って進められるコンサルタントはあまり多くないのが現状ではないでしょうか。

――どのような理論なのですか?

山本:要求工学、という理論体系です。BPMもビジネスアーキテクチャも、総じてみるとこの領域の理論の仲間です。分かりやすくシステム開発を例に取り、まずは「営業事務の工数を2割下げたい」という要求があったとしましょう。これを、一番初めの『ビジネス要求』と言います。

次に、「2割削減するには業務をどう変更するべきか」「どこをどうデジタル化すれば減らせるのか」と分解していくわけですね。例えば手書きの見積書をシステムで作成するとか、エクセルでコピペしていた注文書を自動生成するとか。工程ごとにどこを自動化できるのかを明確化するフェーズを、『ステークホルダー要求』と呼んでいます。

最後に、では自動作成する見積書の項目は何と何で、このデータはどこから取得して端数処理をどうするのかまで決めて、ソリューションを作り込める状態にします。これが『ソリューション要求』です。

その後は、エンジニアが要求通りにシステムを開発できているかどうかを検証する必要がありますよね。ここも要求管理の1つの分野ですし、さらにそのシステムを現場に展開するための教育やマニュアル作りなど、新たな仕組みを導入するベースを作るのもわれわれの仕事です。

今は分かりやすくシステムの話をしましたが、どんなプロジェクトも最終的に『ビジネス要求』を達成することが目的ですから、この手順は変わりません。

――たしかに、当初の目的を達成するためにどうすればいいかが見えている企業は少ない気がします。

山本:おっしゃる通りですし、もっというと『ビジネス要求』自体があいまいだったり間違っていたりすることも多々あります。なぜなら、自分たちの“ありたい姿”が明確になっていないからです。“ありたい姿”がどういうものかによって、問題の見え方は大きく変わります。例えば、品質をアップしてお客さまの満足度を高めたいのか、標準化を進めて安く提供したいのか。どちらを目指すのかによって、達成すべき『ビジネス要求』も変わるのです。

われわれはそこまで踏み込んでご提案しますから、プロジェクトの途中で方向性や目標が変わることもざらにあります。

――いわゆるシステム開発前の要件定義を、上流のビジネス戦略からソリューションに落とし込むところまで、非常に細かい粒度で網羅的に実施されているような印象です。

山本:それはかなり本質で、要は正しい目標に基づいてきちんと現場が動ける状態にするために要求の正確性と網羅性を担保するということです。いうなればそれだけなのですが、実際にはそれが難しいという話ですね。

ただ、先ほども申し上げた通りシステム開発に限ったことではありません。全社組織の変革でも、新規事業の創出でも、正しい『ビジネス要求』を設定して各要求に落とし込み、検証を繰り返しながら現場に浸透させていくというプロセスは同じです。 description

どんな世界になったとしても確実に必要とされる能力

――いわゆる戦略コンサル、総合コンサル、ITコンサルの全てを網羅している印象です。

山本:実行に落ちない戦略は絵に描いた餅ですからね。先日海外のカンファレンスで話していたのですが、ビジネスの全体設計を描いた後は現場に任せて休暇を取るのは、ダメな戦略家だと。非常にレベルの高い戦略家の方々も、「きちんと現場が動けるところまでフォローしなければ意味がない」と言っていました。

本来ビジネスに境界はありませんから、どこを自分の専門性のコアに置くとしても、両方見えていなければなりません。私は現場を動かす側から上流に駆け上がってきた人間なので、一部のビジネスモデルを語っている人たちの議論を聞いていると、ものすごくフワッと聞こえるんですね。その抽象度で語れば正解かもしれませんが、実際にやろうとしたらこんなこともあんなことも起こるけどどうするんですか、と聞きたくなってしまいます。

ビジネスに境界がないということは、つまり経営者はあらゆる事象に関心を持っているということでもあります。戦略も人も組織も、デジタルもルールもプロダクトの価値もです。「自分はこの領域の専門家なのでそっちは専門外です」と言ってしまうと、経営者の信頼はなかなか得られませんし、やっている方としても面白くないですよね。

もちろん、戦略の専門家、ITの専門家は私たち要求工学に集う専門家とは異なる知見を持っていますから、こういったさまざまな分野の専門家と協業することは大切です。ただ、自分の専門外のことに関心を持たないのではなく、他の専門領域の知識を貪欲に取り込んでいくことが大切だと感じます。

スキルセットを逆三角形で表すと、領域(長辺)を拡大(探索)するからこそ得意分野(頂点)を深掘りできるとも言えます。探索と深掘りの両輪で世界を広げていけるよう、私としても日々意識しています。

――そうした意識を持ちながら成長することで、どんな人材になれるでしょうか?

山本:要求工学の専門家は、世界中でニーズが高いので常に人材が不足している状態です。アメリカやカナダでは国の労働統計局が「これぐらい人が足りない」というレポートを出していますし、ヨーロッパの一部の国では、学生インターンを採用して育成する企業に対して補助金を支給しています。この領域の人がまともに仕事をしないとどんなプロジェクトも破綻しますから、あらゆる国で求められているわけです。

また、デジタルソリューションの技術は変化が激しく、常に学び続ける必要がありますが、要求管理やプロセスの可視化といった技術は、かなり普遍的な分野です。BPMという言葉はこの20~30年ほどで登場してきたものですが、そもそも業務の構造を可視化して計測しようという概念自体は、コンサルティングという仕事が誕生した時から存在しています。もっと言うと仕事の効率化と役割分担は、エジプトのピラミッド建築までさかのぼります。デジタルやツールは流行り廃りがありますが、この分野はどんな世界になったとしても確実に必要とされる能力の1つであることは間違いありません。

しかも、これまであまり注目されていなかったので市場に人が足りていない。時代が変わっても普遍的なスキルであり、世界中から求められているという両側面から、かなりお勧めできる領域だと思います。

――この仕事はどんな人に向いているとお考えですか?

山本:エンジニアは人の要求をモノに落とす人ですが、われわれは人の要求を翻訳して別の人に伝えるという、コミュニケーションの媒介者です。そのために必要なスキルは2つあって、1つはハードスキル、1つはソフトスキルです。ハードスキルの方は分かりやすくて、情報システムやさまざまな方法論の知識、コミュニケーションツール使いこなす能力や、業務フローを書く技法といった、知識や技術を持っていることです。

ソフトスキルとはコミュニケーションや思考力といったより普遍的な能力を指すのですが、ソフトスキルの中でも「相手の立場を理解して傾聴する姿勢を持っていること」が大切だと思います。相手を支えながらリードしなければならないので、論理性に加えてそういった柔らかさや共感性を持っている人に向いているのではないでしょうか。

――ありがとうございます。最後に、これからのキャリアを検討中の若者たちにメッセージをお願いします。

山本:どのようなキャリアを目指すにしても、自分のやりたいことや自由を保障してくれるものは、周囲からの信頼です。つまり、「周囲に与えているもの」が「自分が周囲からもらっているもの」よりも大きいという構造を作れば、周囲は皆さんに、皆さんが自由に振舞うことを許してくれるでしょう。その先では、自分の意志でキャリアを構築していくことができるはずです。

若いうちは特に、自分がやりたいことで、なおかつ人に貢献できる領域をできる限り広げていってください。そうすれば結果的に、キャリアに自由を与えてくれて、人生を豊かにしてくれることでしょう。 description

コラム作成者
Liiga編集部
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