地方創生がキャリアで活きる!?戦略コンサル出身「郡上カンパニー」ディレクターのキャリア論
2018/02/14
#ポスト戦略コンサルの研究
#コンサルを出てやりたいことを見つける
#キャリア戦略概論

はじめに

今回は、都市と地方をつなぐ新しい共同体の形に挑戦する、いま注目のプロジェクト「郡上カンパニー」ディレクター・平野彰秀氏にインタビューにご協力頂きました。

平野氏はデザイン会社や戦略コンサルティングファームでキャリアを築き上げた末、32歳で退職して以来、地方創生に携わり続けています。

そうした稀有なご経歴をお持ちの平野氏に、退職時の決断や、地方創生とキャリアの新しい関係など、独自のキャリア観についてお話を伺いました。

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※郡上カンパニーは、一緒に新しい事業をつくる人を募集しています。description

ゼロベースの視点を求めて戦略ファームへ

―まず簡単に自己紹介をお願いします。

岐阜市出身で、東京の大学院を卒業後、まず不動産関連のデザイン会社に4年間勤めました。その後転職した戦略コンサルティングファームに3年勤務しました。現在は岐阜県郡上市最奥の小さな集落に暮らしながら、NPO法人の役員として、地域再生の事業開発・コンサルティングをしています。

―最初はデザイン会社に勤められていたのですね。

学生時代から、いずれ地方の地域づくりに取り組むことを最終的な目標として考えていました。

そのため、キャリアを速く積み上げることのでき、また地方の地域づくりに関連した経験の積める企業に焦点を当てて、就職活動をしていました。

就職したデザイン会社は、若いうちから責任のある仕事ができ、ビジネスとクリエイティブの両面から不動産開発のコンサルティングを行っていた点で、これらの条件を満たしていたのです。

しかし、四年勤めた後に、次のステップに進みたいと思い、転職を決断しました。

―「次のステップに」というのは、デザイン会社での業務と「地方の地域づくり」という最終目標の間にギャップがあったということでしょうか。

正確には、デザイン会社と「異なる視点」で地域創生に携わりたい、ということです。学生時代は都市計画の視点、デザイン会社では商業の視点で地域再生について考えていました。

デザイン会社では、「どのようなコンセプトで商業施設を設計すべきか」「どのような店舗構成にすべきか」など、不動産開発という手法が大前提となっていました。

企業や地域の戦略や課題解決を考える上で、手法を限定するのではなく、ゼロベースで経営戦略を作り出す視点で仕事を行ないたいと感じました。

―経営戦略の視点に興味を持たれたために、戦略コンサルティングファームを選ばれたと。

はい。特に様々な人の相異なる意見を取りまとめ、最適な形で一つの戦略を作るという、ファシリテーションやリーダーシップの能力を身につけようとしていました。その点、戦略コンサルティングファームは顧客など多様な関係者を巻き込む必要があり、うってつけでした。

入社後は商社、通信、不動産、医療、製造業など、特に業界を問わず幅広く手がけていました。

―なるほど。地域創生に直接関連していそうな不動産業界以外にも経営戦略の視点から関わられていたのですね。特にどのようなプロジェクトが印象に残っていますか。

そうですね、例えば商社の全社戦略に関わるプロジェクトが印象的でした。

商社にはコーポレート部門という全社戦略を担う部門があります。社内の各事業部門にどのような経営コンサルティングサービスを提供すべきか、コーポレート部門の制度設計に携わるプロジェクトでした。

―スケールの大きいプロジェクトですね。

後は自動車メーカーの海外進出のプロジェクトがあります。ロシアの現地オフィスや、サプライチェーンの工場など海外の現場に赴き、日本ではなかなかできないような体験をしました。

※郡上カンパニーは、一緒に新しい事業をつくる人を募集しています。description

「出会い」が決断の背中を押した

―その後、戦略ファームを退職して、NPO活動に専念されるという大きな決断をされています。この直接のきっかけはなんだったのでしょうか。

まず、先に述べたような地方の地域づくりへの思いもあり、大学卒業後に出身地である岐阜県でNPOに携わっていました。活動を通して岐阜県の知人が増えていったのですが、その中に郡上市出身の方もいたのです。

そういった人脈を通して、郡上が人口減少や産業の衰退で傾いている現状を知るようになります。一方、郡上は水や森林など自然が豊かで、水力発電やバイオマス燃料など再生エネルギーによる地域づくりの仮説を考えていた私にとって、非常に興味深いまちでした。

もともと、地域再生に専念する際は、一つのまちに絞って、そこに根を下ろして携わろうと考えていたこともあり、郡上に出会ったことが地域づくりに専念する決め手となりました。

―人との出会いを通して、力を注ぎたいと思えるまちに行き着いたことが、戦略ファームを退職するきっかけになったのですね。

はい。

―しかし学生時代から掲げていた目標とはいえ、それを実行に移す際はかなり勇気が必要だったと思います。

そうですね。実際、20代の時は地方の地域づくりに専念するか、迷いもありました。自分には人と違う道へ踏み出すだけの勇気がないかもしれない、という不安を抱えていたのです。

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しかし30歳で郡上へ通い始めて活動を進め、31歳で今住んでいる集落に出会う中でこのような不安は消えていきました。32歳で決断したときは今から振り返っても不思議なくらい、全く迷うことなく退職を決断できました。

―人や土地との縁ができていくことで、進むべき道を迷わず選べるようになったと。

はい。出会いとはつくづく貴重なものだと思います。

「郡上カンパニー」の新しいキャリア観

―平野氏は地域づくり活動の一環として、2017年から「郡上カンパニー」に取り組んでします。このプロジェクトについて教えて頂けますか。

「郡上カンパニー」は、郡上での事業づくりを目的としたプロジェクトです。単に都市部から地方への移住によって地方の地域づくりを図るのではなく、地元の人や都市部の人が、それぞれの関わり方で協力する共同体づくりを目指しています。

―なるほど。あまりお聞きしない、新しい取り組みだと思います。具体的には何を行うのでしょうか。

2017年は事業企画に注力しました。まず「ローカルアイデア会議」で郡上在住の方々に出して頂いた事業案をたたき台に、「共創ワークショップ」を複数回開催して、地元の起業家と都市部の若者が共同で具体的な計画を作りました。

そして3年間事業に取り組む共同創業者を募集し、2018年4月から事業計画を実行に移す予定です。

―事業企画の段階で、都市部からも参加者を募ったのですね。

はい。地元の方々に刺激を受けてもらおうという狙いからです。また都市部から来た方々は、移住せずとも地方の地域づくりに関わることができるため、得難い体験や発見を得て、ご自身の今後のキャリアのステップアップに活かすことができます。

―地方再生が、都市部の人のキャリアのステップアップにつながると。

キャリアと一口に言っても、特に20代から30代にかけての若手層には、様々な選択肢があります。大企業での出世、中小企業やベンチャーでの事業拡大、起業の成功、等々です。

これらの選択肢と並んで、「社会課題の解決」も同様にキャリアの目標になりえます。そのため、自分のキャリアの軸づくりに共創ワークショップでの体験が貢献できるのではないかと考えました。

―地方再生の体験が、キャリア形成で新しい価値をもたらせるのではないか、ということですね。実際に、平野氏ご自身がキャリア観で影響を受けたと感じられたことはありますか。

社会の考え方が変わりました。特に組織の「マインドフルネス」の観点ですね。地域づくりの活動で今の20代、30代の都市部の方々とお会いするのですが、東京にいた頃の自分と彼らを比較できたりして、非常に刺激を受けています。

私が東京を離れている10年間に、マラソンなど身体を動かすことが流行ったり、シェアハウスが広がったりという社会の変化を感じます。企業でも「マインドフルネス」や「モチベーション」といった社員の心理状態を重視するようになりました。

機能や論理が優先した組織経営の論理が、人の心理的安全性や身体性、人間関係のあり方の重視へとシフトしてくると、私たちが地域づくりの現場で大切にしていることとつながってきます。地域の共同体づくりも、「人と人の信頼関係のある場を作る」という点で、企業の組織づくりと同じだからです。

また地方創生では農業従事者など地域に暮らしている人に触れます。ビジネスに従事する方はどうしても単一な環境に身を置きがちですが、そうした異質なもの同士の出会いを果たすことで、自分を客観視し、異なる選択肢を広げるきっかけを作ることができます。

このように、地方創生における共同体づくりの視点は、企業の組織づくりというビジネス分野でも活かせるのではないでしょうか。

―都市部と地域がそれぞれ価値を提供し合い、それが自身にも還元されるような地域づくりを目指されていると。「郡上カンパニー」が「循環する共同体」を掲げていることにも納得がいきます。

最後に、Liigaユーザーの皆様に向けて、現在募集している「共同創業者(ベンチャーパートナー)」についてご紹介頂けますか。

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先ほども少し触れましたが、2018年4月から郡上で新規事業を始めたいと考えており、事業の立ち上げという重要な局面をお願いする方を、10名程募集中です。事業内容は、IT、新電力、農業、工芸、狩猟などバラエティに富んでいます。

長年移住者が多いこともあり、郡上は移住者を受け入れて育てる土壌が整っているまちです。地方創生の経験が全くない方でも、是非一度「郡上カンパニー」に加わって、キャリアの「軸」を共に模索していきたいと思います。

おわりに

いかがでしたか。

平野氏には転職や退職の経緯、現在の活動内容を通して、地方創生への強い思いを軸としたキャリア観をご説明頂きました。

「社会課題の解決」を一つのキャリアの目標として捉える考え方や、地方創生が地域に住む人々のみでなく、都市部の人のキャリア観にも貢献できるという洞察は、なかなか触れがたい貴重なものだったのではないでしょうか。

皆様のキャリアのご参考になれば幸いです。

※郡上カンパニーは、一緒に新しい事業をつくる人を募集しています。description

平野彰秀(ひらの・あきひで)
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2001年、東京の大学院を卒業。デザイン会社へ入社。
2005年、戦略コンサルティングファームへ転職。
2008年、戦略コンサルティングファームを退社、再生エネルギーによる地域創生活動に注力し始める。
2009年、地域再生機構理事に就任。
2014年、石徹白農業用水農業協同組合を設立、小水力発電所建設に携わる。
現在、地域再生機構副理事長、石徹白農業用水農業協同組合参事、石徹白地区地域づくり協議会事務局、NPO法人HUB GUJO 理事、岐阜県小水力利用推進協議会事務局、全国小水力利用推進協議会理事ほか。

コラム作成者
Liiga編集部
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