「日本は沈みゆく船…生き残るには経営人材×グローバルしかない」 シリコンバレーインサイダーと「前田塾」トップが、“純ジャパ”20-30代のキャリアを斬る
2020/01/06
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日本企業の弱体化が叫ばれて久しい。時価総額の世界ランキングでは、トップ10を米国と中国の巨大企業が独占(2019年10月時点、各社開示情報より)。日系ではトヨタ自動車1社のみが、かろうじてトップ50内に残る。否が応でもグローバルを意識せざるを得ない厳しい時代にあって、“純ジャパ”の若手社会人は今、何をすべきか―。米国シリコンバレーの大学やベンチャーキャピタル(VC)で活躍する桑島浩彰氏と、キャリア教育私塾「前田塾」を運営する前田恵一氏に、20-30代の若手が生き残る道を聞いた。

〈Profile〉
写真左/桑島浩彰(くわじま・ひろあき)
カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)客員研究員、Conductive Ventures勤務
東京大学経済学部卒業、ハーバード大学経営大学院および同ケネディ行政大学院修士(MBA/MPA)
三菱商事株式会社、ハーバード大学留学を経て、株式会社ドリームインキュベータ(DI)に入社。DIでは国内大企業のグローバル戦略立案及び実行支援に携わる。ベンチャー企業2社の経営に関わった後、2018年から現職。
写真右/前田恵一(まえだ・けいいち)
株式会社レゾナンス代表取締役社長
東京大学大学院情報理工学系研究科で数理統計学を専攻し、確率モデルを用いた遺伝子解析を研究。
2005年、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現日本アイ・ビー・エム)に入社。2008年、野村證券株式会社へ移りトレーダーに転向、入社後2年でヴァイスプレジデントとなる。2011年にレゾナンスを創業。学生・社会人にビジネス知識を教える「前田塾」を通じ、若手人材のキャリア支援に取り組む。

東京のビル群が“過去の栄華”の象徴に…日系企業の凋落が予感させる暗い未来

――今回はお2人が日本に対して抱いている問題意識に基づき、その中でどうキャリアを築き生き残っていくべきかをお話しいただきたいと思います。

桑島:危機感はすごくあります。日本企業がグローバルで存在感を出せているのは、もはや自動車産業くらいになってしまいました。この約20年であらゆる産業が1つまた1つと没落していき、残る自動車も先行きが危ういと言わざるを得ません。もちろん素材や部材などでまだ強い日本企業はありますが、そうした領域は最終製品と比べると大きな付加価値を生んでいるとは言いにくいのが実情です。パイ全体の中の小さなところで頑張らざるを得ないというか。

このままいくと高齢化が加速し国はさらに貧しくなり、今のような豊かな暮らしが成り立たなくなります。例えば海外旅行は簡単にはできなくなるでしょうし、もっと分かりやすい例だと留学が非常に困難になります。MBA留学なんて私が行った約10年前と比べ、生活費も含めると費用が2倍近くに高騰しています。留学先の学費も家賃もすごく上がっていますから。日本人の収入が海外のエリート層の賃金上昇に全く追いつけていない状態です。

こういう現状にあって「それでも日本は大丈夫」という論調が支持されがちなのは分かっていますが、やはり「大丈夫ではない」と言わざるを得ません。都市部にそびえたつビル群が、まるでギリシャの神殿のように、過ぎ去った栄華の象徴となる未来を否が応でも想像してしまいます。そして何より問題なのは、日本人の多くがこうした現実に気づいていないことです。

前田:私が「前田塾」で接している高学歴で20-30代の人たちは能動的に学ぼうとしてはいるので、「何とかしなければいけない」「今いる場所にいてはいけない」という危機感は持っているようです。沈みゆく船に乗っていることは認識しているというか。ただ問題は、「ではどこに行けばいいか」の解がないことです。みんな必死に沈まない船を探しています。

東大ですら世界基準だと大したことはない。英語はもはや“できて当然”

――桑島さんはシリコンバレーで活動していますが、日本の外にいるからこそ見えるものがあるのでしょうか。

桑島:はい。「日本が大丈夫ではない」理由として特に課題に感じるのが、日本の高等教育のレベルの低さです。東京大学ですら、グローバルでみれば大して評価されていません。日本とシリコンバレーの差は人材の質が最も大きいと痛感していますが、今の日本の教育が続けば、その差はもっと開くことになります。世界で戦う人材を育てる仕組みに、全くなっていないからです。

大前提として、言葉の壁はもはや言い訳にできません。私も純ジャパから3年間ハーバードに留学し苦労して英語を身に付けましたが、やはり語学力は必須です。若い人は、できれば2つくらい外国語を覚えた方が良いでしょう。

英語はできても、私の場合はシリコンバレーにいて毎日自分の力不足を痛感しています。あまりに通用しなくて、心を病むくらいです。MBA時代の同級生によるIPO(新規上場)などのニュースは毎日のように伝わってきますし、現地スタートアップやUCバークレー、スタンフォード大学といった世界トップレベルの研究機関とのやり取りを通じ、シリコンバレーのもの凄さを日々目の当たりにしています。

それと比べると、日本で外資企業に勤めることや日系企業の駐在員として海外で働くことは、誤解を恐れずに言うと地球の周囲をぐるぐる回る衛星のようなものだと感じています。同じ世界で活動していることにすらならないというか、完全に次元が違います。

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教育に関連して問題に感じるのが、日本人の一般的なキャリアが国内に閉じていることです。この点、中国人、韓国人、インド人などとの差は明白です。こうした国の人たちは、学生の頃からグローバルで働くことを前提に将来を考えています。

例えば今中国のIT企業がすごく強くなっているのは、かつて優秀な学生がこぞって米国に留学し、ITや欧米流のビジネスについて学び、それらを自国に持ち帰って企業の中核になっているからです。“海亀”といわれる現象ですね。

もちろん、中国人も韓国人も自国の内情が先行き不透明で海外に出ざるを得ない事情があったもの事実です。ただ、そうした人たちが「自分の国はやばい」と海外に活路を見出したのと同じような状況が、今日本で起きています。足下で日本の政情は安定し、食べ物は美味しく生活費も安いため、一見問題ないように見えてしまうのですが、本質的には間違いなく“危機”です。今後10年近くで1人あたりのGDPは40位くらいまで下がると思います(2018年、IMF統計では26位)。

「スタートアップCxOでは不十分」生き残るため目指すべき経営人材とは

――厳しい現実の中で、20-30代の若手人材はどういった力を身に付けるべきなのでしょうか。

前田:桑島さんが言うように今の日本で活路を見出すのは非常に難しいのですが、私は1つの解が経営人材になることだと思っています。経営人材といっても2種類あって1つ目が自分でゼロから1を生み出せるイノベーター型の人材、もう1つは既にあるものをスケールアップできる人です。イノベーションを起こせる人はどうしても限られるので、例えば「前田塾」に来ていただいているような高学歴の人にとっては、後者を目指すのが近道だと思っています。

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――具体的にとるべき行動とは。

前田:1度イグジットを経験した起業家の下で会社を作るのが、1つの勝ち筋になり得るのではないでしょうか。例えば、上場したベンチャーで子会社を作るとかですね。イグジット経験者は増えていますし、そういう人たちは世に出ていない“事業ネタ”も持っていると思います。彼らの下につき、ある意味メンターになってもらい、新会社のCEOとして事業づくりを経験させてもらうわけです。

ゼロから自分で作るより、はるかにリスクが低くなります。メンター役になってもらうなら、エンジェル投資をしている連続起業家みたいな人でも良いでしょうね。最終的にどの大企業に事業を売るかなども、一緒に計画を立てつつ事業を作るわけです。

ファーストアクションとしては、そういうイグジット経験者との接点を増やすことでしょうね。それでチャンスを探るわけです。上場している若い起業家なら、新事業をもっと立ち上げたいけど経営人材が足りなくて困っているはずです。

――スタートアップのCxOという選択肢はどうなのでしょうか。

桑島:経営スキルが身に付くかというと、そこは未知数な部分があります。“使われるだけ”になる恐れもありますから。

前田:CxOで入るとなると、また違いますよね。事業を作る役割ではないケースも多いでしょうから。だから、CEOとして会社を作るのが良いと思います。トップとして経営するには、あらゆる力が必要になります。営業、マーケティング、財務、そして法務、労務、IRなど、きりがありません。

論理思考だけではダメ。海外MBAはスキルではなくコミュニケーションを学ぶ場

前田:ただ、先ほど桑島さんが指摘したように、グローバルで活躍する上では課題が残りますね。

桑島:そういう意味では、一度は海外に出るのが一番でしょう。繰り返しになりますが、日本企業で海外に駐在しても意味がありません。現地で採用されるか、そうでなければ外資企業の本社勤務を勝ち取るかです。ただ外資企業の日本支社に入った時点で本社勤務はかなり狭き門になってしまいますが。あとは、理系の大学院留学でしょうか。中国、韓国、インドの人たちが今まで成功してきたパターンです。そうやって現地で就職するわけです。

前田:桑島さんが経験したMBA留学はどうですか。

桑島:「MBAは意味がない」という論調が最近は多いのですが、賛成できる面とできない面があります。スキルを学ぶためだけに海外MBAに行くのなら、確かに意味はないのかもしれません。既に述べた通り費用が高くなっており、コストパフォーマンスが悪いためです。

ただ、MBA留学にはもう1つの側面があります。すなわち、グローバルビジネスのコミュニケーション方法を学ぶ場という側面です。ハイコンテキストな日本のビジネスコミュニケーションは、海外では全く通用しません。なので、英語での論理的な議論などを通じたコミュニケーションを学ぶ場として、MBAは意味があると思います。

逆に言えば、グローバルなビジネスコミュニティと多様な背景・文脈を共有しながら“入り込む”スキルを得る方法は、個人的には海外MBA以外に思いつきません。日本経済が強かった時代は英語が出来なくても海外が合わせてくれましたが、今は残念ながら日本人であることにアドバンテージはありません。これはもうすぐ途上国でも同じ状況になるでしょう。日本人が置かれている現実は甘くないのです。

前田:確かに今後30-40年で日本だけで“食っていく”のが難しくなることを考えると、最低でもグローバルでコミュニケーションできるインターフェースは持っておくべきでしょうね。

桑島:はい。現状では大多数の日本人はそれが全然できていません。結果、日本企業がシリコンバレーでほとんど通用していないという有様です。

たとえ英語が話せても論理的思考力、リーダーシップ、議論のスキルなどあらゆる要素において劣っているところからスタートしなければなりません。大きなハンディキャップを負っているわけです。物事を考えるフレームワークが与えられていないので、初めはビジネスの会話すら成り立ちません。

前田:その“会話”ができるかどうかは大きいですね。コンサルの人などだと論理的思考さえできればいいと考えがちですが。

桑島:論理思考だけではないですね。間違いなく。論理思考はできて当然で、それに加え、特にシリコンバレーのような地域のプロフェッショナルの間ではギブアンドテイクの姿勢がすごく大事になります。お金が発生しないものでも、知見やネットワーク、投資家の紹介など何かしらを交換し合いみんなでベネフィットを得ていこうという意識が、本当に徹底されています。常に“お土産”を持っていないといけないので、本当に大変です。

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いずれにせよ、日本独自のコミュニケーション方法はグローバルでは通用しないので、特に若い人は「このままだと自分は“使えない”人材だ」と早く気付くべきです。私の場合は26歳の時にきっかけがありました。MBA初日のことです。あまりの議論のレベルの高さに圧倒され、留学前に三菱商事で築いたキャリアと自信が、ガラガラと崩れ落ちていくのを感じました。あの日を思い出すと、今でも涙が浮かんできます(泣)

前田:確かにそういった挫折の体験があるかは、重要ですね。

まずはコンサル、金融の“島”から出ること。マウントはやめ、世界の広さに目を向けよう

桑島:先ほど述べたように、今シリコンバレーで仕事をしていても、毎日挫折しています。ラグビーで言えば日本人選手が運動能力のはるかに高い南アフリカの選手を相手にしなければならない感じです。多くの日本人がそういう圧倒的な力の差を体感していないので、危機感が足りないのだと思います。

日本の生きる道という意味では、ワールドカップでベスト8まで進んだラグビー日本代表の戦い方は参考になると思っています。彼らはおそらく相当な危機感の下、ヘッドコーチを代え、選手の多くを海外出身者にして世界に挑みました。ビジネスでも教育でも、この成功モデルは有効なのではないでしょうか。

前田:具体的なやり方とは。

桑島:例えばですが、海外から優秀な若い人にもっと来てもらうことが1つです。大学院生として受け入れ、定住してもらい、その後国内の企業や研究機関で活躍してもらうわけです。かつて米国がやったことです。中国、韓国、インドをはじめあらゆる国・地域から来る人たちに対し、優秀ならばグリーンカード(永住権)を発行し、事実上ラグビー日本代表のような強力なチームを作り上げました。今、米国企業が強い理由の1つです。

ただ、ラグビー日本代表のように多国籍化するにしても、日本側の人が最低限のレベルに達していないと、スクラムを組んで共に戦うことすらできません。いずれにせよ、日本人一人一人のレベルアップは不可欠です。

――20-30代の若手社会人は何から始めるべきでしょうか。

桑島:まずは足元の危機をしっかり認識するべきです。自分が受けてきた教育のレベルはグローバル基準では相当低いという事実を、直視しなければいけません。

前田:個人的には、日本国内のあらゆるところに“孤島”ができていることを危惧しています。コンサルの人は“コンサル島”、金融の人は“金融島”、さらに言えば大学生は“大学島”、高校生は“高校島”の中に閉じていて、島同士を結ぶ定期便は稀にしか運航しないイメージです。交流に乏しく情報が足りないため、高校生は盲目的に東大を目指し、大学生は盲目的に戦略コンサルや投資銀行を目指すような感じになっています。

まず島から出て、多様性の中で“会話”する力を取り戻すことから始めるべきではないでしょうか。残念ながら前田塾でもたまに起こることなのですが、異なる“島”の人同士が同じディベートに参加すると互いにマウントを取り合い、無意味な場面で思考力を競い合い、結局論理性で劣る人を“ダメな人”扱いをして終わったりします。最近の20代後半の特に高学歴、ハイキャリアと言われる人たちに顕著な傾向です。相手を尊重する感覚がほぼ無いというか。これでは新しいものは生まれませんし、こういう人たちはグローバルで活躍できるはずがありません。

桑島:日本という小さな池の中で、カエルがどれだけ高く跳べるか競い合っているようなものですよね。池の外には広い運動場があり、世界があり、そして宇宙があることに目を向けるべきだと思います。

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コラム作成者
Liiga編集部
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