「管理された歯車のひとつになるのは嫌だ」「副業も自由にやりたい」 そんな思いから日系企業から外資系企業への転職を検討されている方も少なくないかと思います。
今回は、日系大手自動車メーカーでキャリアをスタートし、2年後に外資系メーカーに転職された箕島さん(仮名・27歳)に取材しました。伸び伸びと仕事に取り組みながらも前職の1.5倍、副業を含めると2倍もの年収を得ているという箕島さんに、「日系と外資系の違い」「将来のビジョン」についてお話しいただきます。
・日系メーカーの仕組みは素晴らしい、でも「“歯車感”が嫌だった」
・まさにターミネーター、超人的に「やり遂げる」外資の人たち
・年収は転職時で1.5倍、現在は副業込みで1,300万円になった
日系メーカーの仕組みは素晴らしい、でも「“歯車感”が嫌だった」
ーー今までのご経歴について教えてください。
箕島:新卒で大手自動車メーカーに入社し、調達本部という部署に配属されました。外部から自動車の部品を購入する部署で、自動運転などにも関連していました。でも私がやっていたことは、センサーや電子回路といった電子部品を買うなどの、いうなれば“下っ端”の仕事。直接技術に関わる仕事ではありませんでした。入社後2年経ったタイミングで外資系メーカーに転職し、現在はその会社で丸2年になります。
ーーなぜ新卒で大手自動車メーカーを選んだのですか。
箕島:実家が和菓子屋を経営していて、いつかは継ごうと思っていました。しかし、当時は祖父が健在で、叔父が社長をしていたので、自分が経営するタイミングではありませんでした。それなら有名な会社に入り、世界レベルのものづくりを学ぼうと考えて、入社を決めました。
ーーなぜ調達本部を選んだのですか。
箕島:配属に私の意思はほとんど介在していません。「君は生産系っぽいから生産管理か調達かな」と言われ、可能であれば自動運転に関われる部署がいいと伝えたところ、調達本部に配属されました。
ーー大手自動車メーカーでは辞める人はどれくらいいますか。
箕島:辞める人は入社1~2年の若手が大半です。私の同期は入社後1カ月くらいで10人程度が辞めました。なぜ辞めるかというと、その会社の研修は少し時代錯誤なところもあり、若手のうちは、創業者の家を見にいくなど、まるで忍耐力を試されているのかのようなプログラムもあるのです。入社1~2年で、1割くらいは辞めています。しかし入社3年目の山を越えると、海外赴任なども出てきて仕事が面白くなってくるのか、辞める人は少なくなります。
ーー辞めた人はどのようなところに転職していましたか。
箕島:自動車メーカーの経験を生かせるコンサルティング会社に行く人が多いですね。ほかには外資系の自動車部品メーカーや、Amazonなどもよく耳にします。コンサルティング会社に行く人以外は、どの部署で働いていたかによってまちまちで、そのキャリアに沿って選ぶような感じです。
ーーなぜ転職しようと思ったのですか。
箕島:転職した理由の一つは、「歯車になるのが嫌だった」ことですね。もともと父方も母方も自営業でした。だからサラリーマンとして働くというイメージがなかったのでしょう。日本の大企業は仕組みができ上がっていて、だれがやってもうまくまわっていきます。この仕組みを学ぶのは価値のあることだと思います。ただ、私はそこにやりがいを見出すことができず、転職を決めました。
ーー今の外資系メーカーを受けた経緯を教えてください。
箕島:現社の外資系メーカーは、先輩が働いていることもあって、誘われて選考を受けました。ちょうどそのとき、次世代型のサプライチェーン(原材料調達・生産管理・物流・販売などが連動した一つのシステム)を作るというプロジェクトが始動していて、その担当者に適任だということで、採用されました。
ーーほかの会社は受けましたか。
箕島:その1社だけです。何人かの転職エージェントの方と面談して、履歴書を何件か出したのですが、現社の選考があまりにも早くて、2週間くらいで入社が決まりましたね。
選考は、筆記試験と2回の面接。筆記試験後はSkypeで面接して、次の週には役員の方との面談がありました。そして、その場で内定が決定するという意思決定の速さでした。この会社らしいスピード感だと思います。声の大きな人が「採用するぞ!」って言えばそうなるのでしょう。他社の選考を受ける暇もありませんでした。
まさにターミネーター、超人的に「やり遂げる」外資の人たち
ーー前職と現職を比較して、最も違うと感じる点は何でしょうか。
箕島:日系メーカーでは、仕事が滞りなくスムーズに流れるのが、当たり前だと思っていました。当時は、右からきたものを左に受け流すだけでうまくいっていました。
外資系メーカーでは、さびついた船を人力で漕いでいるような印象です(笑)。その日なにが起こるのか、その瞬間になってみないとわかりません。
日系メーカーは仕組みが整っていて、計画されたことは必ずその通りに進みますが、外資系メーカーではそうはいきません。誰かがやっていて当たり前なことは、放っておくと誰もやりません。さらに、全員がオリジナリティーを出そうとして好き勝手に動くので、混乱しがちです。そんな中で、「こっちに行くぞ!」と強いリーダーシップで先導していく人がいる。同じメーカーでもこんなに違うのかと驚きました。
ーー今の会社のすごいところは何でしょうか。
箕島:この会社で生き抜いてきた人達は、まるでターミネーターです。もはや人間ではないくらいの、タフネスとアジリティ(機敏性)があります。
ーーターミネーターですか。
箕島:そうです。例えば、昨年のゴールデンウイーク直前、大型台風の影響で商品の輸入が遅れました。ゴールデンウイーク前に商品が届かないと、小売店は売るものがなくて困ってしまいます。日系メーカーであれば、台風が発生することを事前に見越して、もっと前に準備をしていたと思います。それに万が一間に合わなければ、お店に謝って納品を待ってもらうでしょう。
しかし外資系メーカーは違います。ゴールデンウイーク初日、全メンバーを集めた緊急会議が開かれました。協力会社はゴールデンウイーク中でお休み。そこであらゆるツテを使って臨時でオペレーターを雇い、強引に荷物を受け取り、運搬は部長クラスの人が自らトラックを運転してお店に商品を届けました。
ある意味ブラックといわれればそれまでです。しかし、偉い人たちがプレーヤーとして自ら動くことをいとわない精神は素晴らしいと思いました。そんなものを見せられたら、若手はやらざるを得ないという感じです。
ーーでは、日系メーカーの社員の印象はいかがですか。
箕島:日系メーカーの上位職の人たちは、見識が広くて思考が深く、スマートなイメージです。一方で外資系メーカーの上位職の人たちはスマートというより「強い」「たくましい」といった印象を受けます。
ーー日系メーカーと外資系メーカーで、働いている人のバックグラウンドに違いはありますか。
箕島:日系メーカーはほとんど新卒入社です。正社員として働いている人の95%くらいは新卒でしょうね。残りの5%が関連会社からの出向です。外資メーカーは新卒と中途が半々くらい。それぞれ多様なバックグラウンドを持つ人たちでした。基準は「英語が喋れる人」「圧倒的にタフな人」の2つの軸で採用するようです。
ーー外資系メーカーにはどういう会社から転職してきた人が多いのでしょう。
箕島:職種によって違いますが、私が今働いている部署でいうと、自動車メーカーから来る人が多いです。営業だと同業他社の小売り系からですね。人事は業種関係なくいろいろなところから。マーケティングだけはちょっと特殊で、海外のMBAホルダーや、商社、広告会社出身などが多いです。
ーー外資系メーカーに向いているのはどんな人でしょうか。
箕島:猛獣の檻の中に入れられても、生き抜いていけるようなタフな人。自己主張が強くて、それを周りに納得させられるくらい、努力ができる人でしょうね。あとは体力がある人も向いているでしょう。とにかく激務なので。
ーー 外資系メーカーを辞めた人はどこに転職するパターンが多いですか。
箕島:辞めたあとの自由度は非常に高いです。そもそも転職という枠に当てはまらないこともあります。みんな自由奔放で、例えば辞めて実家に帰ってしばらく休んでから考えるとか、クラフトビール屋を始めるとか。本当に皆さん自由でいいなと思います。背景にあるのは、戻ってきやすい会社だということです。辞めて2~3年して、やっぱり違ったと帰ってくる人も多くいます。
年収は転職時で1.5倍、現在は副業込みで1,300万円になった
ーー転職して年収は変わりましたか。
箕島:転職時に1.5倍くらい増えて、その後さらに50万〜60万円程度上がりました。副業が解禁されたのが非常に大きい。週末に4~5時間、スポットコンサルのようなことをしています。副業している人の、サポートをするような仕事です。年間300万円近くの副業収入を得ているので、よい稼ぎ口になっています。現在の年収はそれらを入れて1,200万〜1,300万円くらいです。税金でがっちり持っていかれますけどね(笑)。
ーー今後のキャリアをどのように考えていますか。
箕島:終着点は、実家の和菓子屋を継ぐことです。和菓子は儲けるのが難しい業界です。今時はコンビニに廉価な和菓子がありますから。売り上げも右肩下がりです。
その中で生き残っている和菓子屋さんは、ブランディングが上手。今手がけているプロジェクトが落ち着いたら、ブランディングに力を入れる仕事にシフトしていけたらなと思っています。そういった仕事をしてから実家に戻り、経験を生かして実家の和菓子屋を継げたらいいですね。
ーー外資系メーカーへの転職を目指す人にアドバイスをお願いします。
箕島:外資で働くためには英語を話すというハードルがあります。それは事実ですが、今の職場には、そのハードルを乗り越えるだけの価値があると感じています。非常に働きやすく、人間関係はフラットで上下関係もほとんどありません。上司と部下もほとんど友達のような付き合いです。
日系の会社にいて、外資に転職したいけど、なんとなく怖そうという印象をお持ちの方もいるでしょう。そういう人には、楽しさもあることを伝えておきたいです。ぜひ飛び込んでみてください。