外資系戦略コンサルはどうやってケース問題を解いているのか?<実践解説つき>
2016/06/02
#戦略コンサルのケース面接対策

はじめに

戦略コンサルタントは日々クライアントの難問に、立ち向かっています。特に頭脳が要求される戦略コンサルにおいて基本となるケース問題をプロはどうやって解いているのでしょうか?現役コンサルの方に今回解説をしていただきました。

下記が問題です。皆さんも、以下の問題がケース面接で出されたと想定して、ぜひ1度解いてから解説をお読みください。

問題 海水浴客やサーフィン客のいる海岸沿いで、海水浴用品ショップを開いている友人から相談を受けました。相談内容は、 「大学を卒業と同時に店を開き、2年間このショップを営業しているが、思ったほど業績がよくない。このままショップを続けるか、第2新卒として就職するか迷っている。」 といったものです。友人の相談にのるために、まず前提として、どのようなことを考慮・検証すべきでしょうか。

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「コンサルタントの視点」で考えよ

まず、この問題を解く前に、前提として心得ていただきたいのは、「コンサルティング会社の採用選考」として出題される以上、基本的に「コンサルタントの視点」から回答を作成するのが望ましいということです。

コンサルタントの視点を、より実際の仕事に近い形でイメージしていただくために、今回のお題の主体を「友人」から「企業」に置き換えた場合、どのようなテーマが当てはまるのか、提示したいと思います。

今回のお題には、以下の特徴があります。

・この決定が、将来の方向性を大きく左右する(サラリーマンになるか、自営業を続けるかは、とても大きな違い)

・方針を決めて動き出したら、簡単には後戻りできない。(第2新卒として就職し、海水浴用品ショップを閉めてしまえば、自営業に戻りにくくなります)

このような特徴を考えると、例えば以下のテーマが考えられます。

・日本企業X社は、「日本」「アメリカ」「ブラジル」にて事業を行っています。社長から、「10年前にブラジルに進出した。しかし、このブラジル市場では思ったほど売上を伸ばせておらず、収益性も悪い。このブラジル市場については、『撤退する』か、それとも『引き続き改善を繰り返して、売上を伸ばす』べきか、迷っている」と相談を受けました。社長の相談にのるために、まず前提として、どのようなことを考慮・検証すべきでしょうか。

ここから先は、「海水浴用品ショップ」だけではなく、この「日本企業X」の話の場合も想像しながら、下記の議論を読んでみてください。

回答方針 –押さえておくべき「コンサルタント視点」

さて、本題に入ります。今回のお題の中で、どのような回答が、「コンサルタント視点」となるのでしょうか。コンサルタント視点において、まずある程度の「客観性」が必要です。(なぜ、「客観性」が求められるかについては、他の書籍やWebサイトにて多くの記載がありますので、今回は割愛させていただきます。)   客観性を構成する要素の1つとして、まず「網羅性」があげられます。例えば、下記の回答は、他の選択肢を考慮しておらず、客観性に乏しい回答となります。

・海水浴用品ショップの改善策ばかりに言及する(海水浴用品ショップ)

・新しい海外市場の市場調査や売上予測ばかりを行う(日本企業X)

論理的な決断というのは、「様々な選択肢を検証」し、その中から「最良なものを選択する」必要があります。一部の選択肢の良さをいくら言及しても、「もしかしたら他にもっと良い選択肢、例えば選択肢Bがありえるかもしれない」と言われた場合、説得できません。

客観性を構成する要素の2つ目として、「定量性」があげられます。この「定量性」には、2つの意味があります。

・定量的に示せる場合は、可能な限り定量的な解を示すべき

・そもそも、定量的に示せるようなテーマを選択したほうが、コンサルティングとして価値を出しやすい

コンサルティングは、「論理的」「客観的」に解を示すことが求められます。定量的な数値で示す方が、聞き手から見て「論理性」「客観性」が増すことが多く、また比較がしやすいため、実感がわきやすく、相手への納得性も高まります。

また、そもそも定量的な効果(売上XX円upやコストXX円削減など)が出せるテーマを選んだ方が、お客さんに価値を認めてもらいやすいという側面もあります。

この2点を、ケース面接に置き換えると、「定量的な議論が可能な方向で、議論を行った方が、面接官とコンサルティング的な、有意義な話ができる」ことになり、結果として「コンサルタントにふさわしい思考力がある」と証明する機会を多く得られるということにもなります。

解答例

さて、ここで解答の方向性の一例を示したいと思います。

解答の一例 まず、今回友人が海水浴用品ショップを続けるか第2新卒として就職するかを決断するにあたって、 ・「純粋な経済的視点」 ・「価値観の視点」 の2つがあると考えます。 このうち、純粋な経済的視点については、 ・「第2新卒として新卒した場合に想定される所得」 ・「海水浴用品ショップの事業改善をしつつ続けた場合の所得」 のそれぞれの選択肢から得られる、所得や利益を計算します。 進め方としては、まずこの両方の想定所得を計算し、その結果友人に提示しつつ、最後に、「価値観の視点」を整理しながら、決断の手助けをしたいと考えます。 (以下省略…)

解答例の重要ポイント解説

上記の回答は、2つの軸で整理しています。1つ目の軸は「経済的視点」「価値観の視点」で分けており、2つ目の軸は「第2新卒」「海水浴用品ショップを続ける」で分けています。

まず、なぜ1つ目の軸である「経済的視点」「価値観の視点」で整理するのでしょうか。理由は、経済的視点と価値観の視点で、検証方法が大きく異なるからです。経済的視点は定量的な視点で解を出すことが可能です。

一方の価値観は、内容もさることながら、各価値観の重みづけを定量的に整理するのが困難かつ複雑であり、どうしても「インタビューなどの結果を定性的に整理」するレベルにとどまるでしょう。(別の理由として、「現実的に詳細な整理は、経済的視点がメインとなる」というものがあります。詳細は、後述します)

次に、なぜ2つ目の軸である「第2新卒」「海水浴用品ショップを続ける」で整理するのでしょうか。これは、友人からこの2つの選択肢を与えられている以上、少なくともこの2つの選択肢の効果について検証しないと、客観性に乏しく、友人を説得することが困難となるからです。(もちろん、第3の方法も考えられます。しかし、面接時間が限られているため、「具体的に指摘のあったこの2つに絞ります」とするのが現実的でしょう。)

想定される回答の検証:コンサルティングのテーマにあたるかを考える

さて、ここで皆さん中の多くの方々が考えたであろう回答の検証をしたいと思います。

まず、「海水浴用品ショップの事業の改善や、それを始めた/続けたい理由(価値観)」のみに触れている方がいるでしょう。この回答は、第2新卒の視点がなく、客観性を著しく欠いているため、かなり厳しい評価を下されるでしょう。(「第2新卒」の検証結果がなければ、友人は意思決定できないでしょう。)

次に、今回のお題に対して、「価値観」に関する部分にばかり言及している方も多いのではないでしょうか。そこについて、3つの視点から言及したいと思います。

1つ目の視点は、「純粋な経済的視点」です。実際の面接で、「純粋な経済的視点」と「価値観の視点」に分けた場合、「純粋な経済的視点」を深く考えるよう、面接官から指示される可能性が高いです。

なぜならば、前述の通り「純粋な経済的視点」の方が、よりコンサルティングの仕事に近いテーマとなるからです。(その観点からすると、このテーマが面接であれば、まず「最初に与えられた3分の考える時間」において、「純粋な経済的視点」を中心としてより深く考え、その内容を面接で表現したほうが良いでしょう。)

2つ目の視点は、「クライアントが何を望むか」です。例えば、先ほどの「日本企業X」の話を思い出してください。社長さんは、コンサルティング会社に対して、以下の2点のうち、どちらを望むのでしょうか。

・「ブラジル市場の撤退 or 事業改善を続ける」という観点を経済的観点から定量的に整理する

・「そもそも、ブラジル市場になぜ進出したのか。それを続ける選択肢を捨てない、撤退するという意思 決定を躊躇する理由は何なのか」という価値観を整理する

おそらく、コンサルティング会社に望むのは、前者であると私は考えます。なぜならば、価値観の整理と比較して、定量的な検証の方が「様々なノウハウ(他所での経験や情報収集力など)」が必要だと想定されるからです。

3つ目の視点は、「どの部分がコンサルティングらしいテーマにあたるのか」です。もしかしたら、以下の考えのもと、回答を書いた方々も、複数いるかもしれません。

・問題の解決策を考える前に、まず現状分析(注: 「ヒアリング」とも言います)が必要だ。 ・その点からいうと、「第2新卒で就職」「海水浴用品ショップを続ける」といった、今後の選択肢については、問題文の中である程度言及がある。 ・しかし、「この友人がどうしたいのか」という、「価値観」の部分に関する言及が、問題文の中に少なすぎる。 ・よって、まず現状分析の一環として。この「価値観」の部分(前提の部分)を確認しよう。

この指摘や考え方そのものは、「正しい」と私は思います。しかしながら、思い出していただきたいのは、これが「コンサルティング」会社の面接であるということです。

このような現状分析という名の「ヒアリング」は、「コンサルティングでなくとも、どんな業界でも当然行う」ことです。

また「基本的にプロジェクトの提案段階にてすでに終わっている(もしくは、プロジェクト序盤のミーティングで行う)」内容であり、かかる時間や分量は少なく、そもそもコンサルティングのプロジェクトを始める前(もしくは、開始直後きわめて短い期間)で終わるものであり、「コンサルティングのプロジェクトのメインパートではない」ことが多いです。

つまり、このような現状分析は、もちろん行っていただいて構わないのですが、現状分析“だけ”というのは、「コンサルティング」会社の面接であることを考慮すると不十分です。また、上記の内容を別の視点から見れば、

・間違った方針のもとで定量分析を進めると、膨大な時間が無駄になりかねない。そのため、「定量検証をどのような方針で進めるのか」という部分の考え方の良し悪しは、プロジェクト成功/失敗に対して、とてもインパクトがある。そのため、きわめて重要な部分であり、しっかりとした議論が必要

ということになります。つまり、コンサルティングの仕事の上で肝となる部分の1つとなるわけです。(価値観の確認という現状分析の指針を多少間違えても、ミーティングが1回無駄になるレベル感の話であり、相対的に見ればダメージが小さいでしょう。)

この回答が「面接中の最初の3分で考えたこと」であれば、その後の質疑応答を通して、挽回できるでしょう。しかし、「記述式ケース問題」の回答であった場合は、厳しい評価が下されると思われます。

記述式であれば、「初め(現状分析)から順に記述」するのではなく、「重要な部分を中心に、詳細に記述」したいものです。

それを今回のお題にあてはめると、この「価値観の現状分析」部分については、それを「行う必要がある」程度の抽象的な言及/答えで十分であると、私は考えます。

※捕捉 あくまで一般論であり、プロジェクト内容によっては、稀にこの「価値観」の整理が重要になる場合も、想定されます。(例えば「様々なステークホルダーが、異なった価値観を持っており、それをまとめながら…」など)

想定される回答の検証:物事を抽象化する力

では、それ以外の想定される回答について、若干細かい内容も含みますが、言及したいと思います。

「価値観」の話を分けず、「海水浴用品ショップ」「第2新卒」の2分類で話を進めている回答をしている方もいるでしょう。これ自体は、「間違っている」とは言えないのですが、懸念点があります。

「価値観」と「経済的観点」は検証方針が大きく異なるため、なるべく初めの方で分かれているべきであると、上で述べました。また、別の観点からすると、「価値観」というような、“あいまい”な話は、あらかじめ分けておかないと、(面接における)議論が紛糾する原因になることが多いです。

面接が短い時間で行われるため、あいまいな話が入り込んだことによる、お互いの「認識」や「想像していること」の不一致をすり合わせることに、時間を使っている余裕はないと思われます。 

具体的な内容のみ言及している回答をしている場合もあります。これは、回答全文を読んだ後には、「経済的観点(ショップ継続)」「経済的観点(第二新卒)」「価値観」の3つの視点の具体例が書かれているとわかるのですが、このような「抽象的な単語」で言及/整理されていない回答です。

コンサルタントの重要な能力の1つに、「物事を抽象化する能力」があります。この「抽象化」がなされていない場合、面接官は、回答を聞き終わるまで「論理的/網羅感/構造化」といった内容が満たされているかわからず、また今話している個別の詳細な話がどこに位置するのか理解しづらくなります。そうなると、お互いの意思疎通のすれ違いから、議論が紛糾するリスクが高くなります。

上記の2点は、いずれも「コミュニケーション上の問題」と考えることもできます。表現力(コミュニケーション能力)に、相当な自信がある方でない限りは、避けたほうが無難かと思います。

「論点」を外さないようにする

今回のお題、かなり難しかったのではないかと思います。

問題を解くにあたっては、その開始位置・論点の選択を間違えると、その後の議論の意味がなくなることや、面接官とのコミュニケーションを成り立たせるのが困難になることがあります。くれぐれも、「何にこたえるべきなのか」という「論点」を外さないよう意識してください。

「論点」の把握については、「方法を学ぶ」というよりは、「多くの具体例に触れる」方が、身につくと思われます。例えば、元BCG日本代表の内田和成氏の論点思考などが非常に参考になりますので、目を通してみてください。

おわりに

いかがでしたでしょうか。コンサルの面接である以上、「コンサル視点」で答えるべきという、言われてみれば当たり前のことも、実際考える段階になるとできてない方も多いのではないでしょうか。具体的な事例が伴っており、ケース面接の解き方についてイメージがわいたのではないでしょうか。今後ケース問題を解く際に役立てていただけると幸いです。

コラム作成者
Liiga編集部
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