「米国IT企業に移り年収3,000万円超に。でも出来なければ解雇」米国本社の壮絶なプレッシャー・働く社員の特徴とは?
2020/08/28
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「一度は外資系企業の本社で働いてみたい」。そう考えるLiiga読者の方も、少なくないのではないでしょうか。

今回取材した甲斐健二さん(仮名)は、2010年に日系大手メーカーから米国IT企業の日本支社に量子コンピューターのエンジニアとして転職。2年後に同社の米国本社へ転籍し8年間働いていました。現在はアメリカのスタートアップに転職しています。

今回はそんな経験を持つ甲斐さんに「米国本社転職の経緯」「米国本社の仕事の実態」「世界トップ企業の本社で働く人たちの特徴」そして「米国本社で働くメリットとデメリット」についてお話を伺いました。

〈Profile〉
甲斐 健二(仮名)
元米国企業本社エンジニア
日本の大学院卒業後、日系大手メーカーに量子コンピューターのエンジニアとして入社。10年間勤めたのち、米国企業の日本支社に転職し、2年後に米国企業本社へ転籍。「できなければ解雇」という過酷な環境を生き抜いたのち、現職のアメリカのスタートアップに移る。


【目次】
・日本→米国企業本社で年収は3倍! しかし米国本社は壮絶なプレッシャー!?「いつクビにされてもおかしくない」
・「米国本社にいた人は、みんな”オタク”だった」プロとしてレベルアップする過程をただ楽しむ、米国企業本社社員の優秀さ
・「自分がやりたいことをとことん突き詰める」希望の転職を叶えるために必要なこと


日本→米国本社で年収は3倍!しかし米国本社は壮絶なプレッシャー!?「いつ解雇されてもおかしくない」

――まずは甲斐さんの経歴について教えてください。

甲斐:はい。日本の大学院で修士号を取ったあと、日系大手メーカーに量子コンピューターのエンジニアとして就職しました。そこで当時の新技術の開発に携わったり、海外企業との共同開発をリードしたりと、様々な経験を積みました。

そうしているうちに、ある時米国IT企業から転職のお誘いがあり、通常の採用プロセスを経て転職しました。最初は日本支社に2年間勤務し、その後米国本社に異動して8年間勤務しました。今はアメリカのあるスタートアップで同じ量子コンピューターのエンジニアリングマネジャーとして働いています。

――転職に伴い、年収はどれくらい変化しましたか。

甲斐:米国企業の日本支社にいたころの年収は1,000万円ほどでしたが、米国本社では最終的には30万ドル(約3,000万円超)でした。やはり米国本社の年収はかなり高いです。

ただアメリカ人なら誰もが知っている話ですが、その会社が社員に求める要求水準は圧倒的に高く、在籍している間はプレッシャーを感じて辛いこともありましたね。

――どういうことでしょうか。

甲斐:「目標が達成できなければ解雇もある」というのは米国企業では割と普通なのですが、特にその会社はより高い目標達成を社員に求めるので、その分実現へのプレッシャーが極端に高いのです。実際、最近あの人見かけないなあ。と思っていたら、実は解雇されていたと言うのはよくありました。目標達成のために多くの社員が朝から晩まで働いていました。

実際、その会社は精神・肉体ともにとてもハードな場所でした。もしも外資系企業への憧れだけで入社しちゃった人がいたら、こんなはずじゃなかったと泣きたくなると思います(笑)。

――どうして、そこまでのプレッシャーが生まれるのですか。

甲斐:会社の意思決定がトップダウンで決まるのが大きな要因ですね。

一度命令に対して合意すると、基本的には「実現する」以外の選択肢は許されません。もし実現できなければ解雇です。

結果、現場レベルの私のような社員にも、指示された仕事を確実にこなすことが求められ「できなければ解雇」というプレッシャーがかかってくるというわけです。

――米国企業は自由な働き方ができるイメージでしたが、違うのですね。

甲斐:全く違います。

米国企業は採用時に、Job Descriptionと言ってそのPositionの業務内容や責任範囲、求められる能力を定義し、その基準を満たす人物を数度の面接で絞り込んでいきます。採用後、その定義にないことを業務で求められることは、通常ありません。

ですので、例えば日本企業のようにエンジニアとして採用後に営業や総務に配置転換する、などと言ったことはあり得ないです。

そういう意味では、最初の日系メーカーにいたころの方がよほど自由でした。

――日系メーカーはどんな雰囲気でしたか。

甲斐:私のいた日系メーカーは、大企業のように見えて、自由に動く中小企業が集まっているような会社でした。現場の裁量権が大きかったので、いち担当者としては楽しく働けていましたね。

ただ一方で、現場が必要と考え労力を割いて新技術を開発しても、会社トップはその必要性を感じず、最終的には商品として不採用になるような事例もたくさんありました。そんな時は、なぜそもそも労力と時間を割いて開発をやったのかと組織トップの判断に不満を感じたものです。

他の日本企業とお付き合いしていても、同様な非効率はよく見られますね。

――ちなみに甲斐さんは米国企業の日本支社でも一時的に働いてましたね。そちらの雰囲気はどうでしたか。

甲斐:米国本社に比べたら、プレッシャーは圧倒的に小さかったです。解雇になる人も少しはいましたが、本社の上司の目が届かないので少しはリラックス出来ると思います。

逆に上司にアピールする機会が少ないので、それが原因で評価が低かったり、解雇される人もいましたけどね……。

――米国本社は、かなり過酷な環境なのですね。

甲斐:そうですね。

今となってみれば「与えられた目標を達成する」というのはプロとして当たり前と思うのですが、日本では達成が難しそうなら目標値を下げるなどと言ったことも当たり前だったので、いったん合意したら必ず達成しなければならない、というのは特に最初の頃は大変なプレッシャーでした。

「米国本社にいた人は、みんな”オタク”だった」プロとしてレベルアップする過程をただ楽しむ、米国本社社員の優秀さ

――米国本社で働いて良かったと思う点はありますか。

甲斐:2つあります。世界中の人たちに届けられる製品やサービスに直接携われること。そして何より世界トップクラスの優秀なエンジニアと仕事ができることです。

同じ職種の人ならわかってもらえると思いますが、優秀なエンジニアは優秀な人と働きたいと思っていることが多いです。

新しいアイデアを説明した時、優秀な人だけのチームなら全員が内容を一発で理解して自分は何をすべきか理解してくれるので、開発がどんどん進捗するんですが、そうでない人が一人でもチームにいると、その人の理解力が全体を律速してしまい、一向に話が進展しないんですよね。

そう言う経験を幾度と重ねるうちに、自分で自分にブレーキをかけてしまって尖った提案が出来なくなるエンジニアは日本にはたくさんいるのではと思います。

私のいた米国IT企業はトップマネジメントが非常に優秀ですし、現場レベルで働く人も老若男女関係なく優秀です。そのため、米国本社で働いた8年は考えたことをそのまま発言・実行できて、とても多くのことを学べたと感じています。

――米国企業にはどのような社員が多かったですか。

甲斐:分かりやすく言うと「オタク」的な人が多かったですね。

――「オタク」ですか。

甲斐:そうです。米国企業で会った人の大半は私自身も含め、「高い年収を得たい」というよりは「自分の専門分野においては誰にも負けないプロフェッショナルでありたい」というモチベーションで働いていました。

こういうふうに働いている人間にとって努力は努力と感じないのです。むしろ努力は、自分がプロとしてレベルアップしていくのを実感できる「楽しいプロセス」です。

つまるところ米国企業にいる人たちというのは、好きなことを徹底的に突き詰められる「オタク」なのです。

日本ではオタクと言うと少しネガティブなイメージがありますが、アメリカ人の間では人目を気にせず個々がやりたいことを突き詰めていくのは割と普通ですね。

よく出来る人にとっては、好きなことをしてしかも高額の給料も貰えてしまうので、こんな楽しいことはないと思います。

「自分がやりたいことをとことん突き詰める」希望の転職を叶えるために必要なこと

――米国企業への転職を目指す人に向けて、アドバイスはありますか。

甲斐:一番大切なのは、「自分が何者で、残りの人生をかけて何を実現したいのか」をきちんと言語化し、それを自分自身で認識しておくこと。そして「目標達成のためには妥協しない」ということだと思います。

活躍したい場所が米国企業であるにしろ、アメリカのスタートアップ企業であるにしろ、自分の得意分野を誰にも負けないレベルまで突き詰めれば、必ず道は開けると思います。

――本質を押さえておけば、テクニック的な対策は不要ですか。

甲斐:ある程度のテクニックはあります。

外資系企業の選考は、通常書類選考、電話面接、最終面接の順に行われます。それぞれにある程度コツがありますが、これについてはノウハウ本やネット上に情報が多く出回っているので、参考になると思います。

私は、「グーグル、アップル、マイクロソフトに就職する方法」という本を読みましたが、外資系企業の選考方法を知るのにとても参考になりました。

その他、これもいろんなところで言われていることですが、キャリアを掛け算して自分の希少性を高める、などのテクニックはとても有効です。

私自身米国企業に採用してもらえたのは、「エンジニアとしての知識や技術」に加え「非ネイティブにしては英語ができたこと」「海外企業との共同開発の経験があること」。この3つの要素の掛け算で他の人と差別化ができたからだと考えています。

――米国企業本社への転職に向けて、真っ先にやるべきことは。

甲斐:まずは米国企業の日本支社に入社するのがいいと思います。

その際の面接も、先ほど話した書類選考、電話面接、最終選考の順に行われます。ある程度慣れが必要なので、よく事前準備するのがいいと思います。

また、スキル面ではもちろん英語が必須です。日本人は英語ができない人が大半です。

何を隠そう私も、日本国内では英語に自信があったものの、米国本社に行ったら中国やインド、韓国などの英語が第二外国語の人たちを含めても社内で一番英語ができない人になり、ひどく落ち込みました。

どんなに頑張って話しても「甲斐は何を言っているかわからない」と言われ、心が折れそうになったものです。

日本と他の国ではそれくらい、英語レベルの差があります。ですから逆に言うと「英語がまともに話せる」というだけで、他の日本人とは簡単に差をつけることができるのです。

日本には技術レベルなら世界に負けない人はまだまだたくさんいます。そう言った人たちが英語を身につけ、大きなビジョンを持って自分のやりたいことが実現できる環境を真剣に探せば、きっと外資系企業も正当に評価してくれるはずです。ぜひとも頑張ってください。

コラム作成者
Liiga編集部
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