「生き残りたければ、サイコロを振ってでもリスクをとれ」。外資系資産運用会社のファンドマネージャーが語る、ファンドマネージャーの転職事情・活躍するためのポイント
2020/08/29
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資産運用会社や、信託銀行、保険会社などの金融機関で働く人の中には、資産運用のプロフェッショナルであるファンドマネージャーに憧れている人も多いのではないでしょうか。

西家雅紀さん(仮名)は新卒で日系銀行の債券ディーラーとしてキャリアをスタートさせたあと、外資系の資産運用会社を渡り歩き、現在は外資系資産運用会社のファンドマネージャーとして活躍しています。

今回は「資産運用業界の裏側・転職事情」「資産運用会社のファンドマネージャーの給与事情」「ファンドマネージャーとして活躍するためのポイント」について伺いました。

〈Profile〉
西家 雅紀(仮名)
外資系資産運用会社 ファンドマネージャー
大学時代から計量経済学を専攻していたため、ファーストキャリアとして日系銀行の債券ディーラーをチョイス。その後自分が理想とする運用哲学を実践するため、外資系の資産運用会社を渡り歩く。数年前から現職。



【目次】
・「常に理想の運用環境を求め、転職し続けた」日系銀行の債券ディーラーから、外資を渡り歩くファンドマネージャーへ
・運用方針を左右するのは「景気」リーマン・ショックでリスクがとれなくなり、また別の運用会社へ
・現在の年収は3,500万円。外資系資産運用会社のファンドマネージャーの給与事情とは
・ファンドマネージャーとして生き残るコツは「サイコロを振ってでも意思決定すること」

「常に理想の運用環境を求め、転職し続けた」日系銀行の債券ディーラーから、外資を渡り歩くファンドマネージャーへ

ーーまず経歴についてお聞かせください。

西家:私の職歴は以下になります。

日系銀行で債券ディーラー ↓ 日系資産運用会社でファンドマネージャー ↓ 同業転職を複数回経て ↓ 現在は外資系資産運用会社に在籍

ーー新卒で入った会社を選んだ理由を教えてください。

西家:大学時代に計量経済学を専攻しており、データを使って将来のマクロ経済の動向を予測するという研究をしていました。

そのため新卒のときも研究の経験を生かした仕事がしたいと考え、特に計量経済学と相性の良い債券のディーラーの仕事を選びました。

ーー「債券のディーラー」の仕事について詳しく教えてもらえますか。

西家:日系銀行の債券ディーラーの仕事は、与えられたバジェットを自己裁量で売買して1日単位で利益を出すような、いわゆる「プロップディーラー」と呼ばれるポジションでした。新卒入社して1年強で希望した債券ディーラーを任せてもらえたのは幸運でしたね。

ーーなぜ、資産運用業界への転職を考えたのですか。

西家:金融危機が理由です。債券ディーラーのポジションについてからしばらくしてから金融危機が起こり、そのあおりを受けて、会社も「できるだけ低リスクの運用を」という方針に変わってしまったのです。

これは私が大学時代に学び、理想としていた運用哲学と反するものでした。私の運用哲学は「大量のデータをコツコツ分析して長期的にリスクをとって利益を出す」というものだったのです。だからやりたい仕事をするために、転職しました。

以降、現職に至るまでに数回転職をしていますが、どれも結局は「自分の理想の運用ができる環境」を求めて職場を変えてきました。

運用方針を左右するのは「景気」リーマン・ショックでリスクがとれなくなり、また別の運用会社へ

ーー資産運用会社によって運用指針は違いますか。

西家:会社によっても違いますが、景気によっても大きく変わりますね。景気でどれだけ運用方針が変わるか、3社目に在籍した会社の事例をお話ししますね。

この会社は私の理想に沿った運用哲学がありました。長期目線で、バリュー分析を前提とした運用をしていました。

マーケットがフェアバリューから乖離(かいり)したらそこに戻るまでポジションを取り続けて、リスクを取る運用方針でした。戻るまで時間はかかるけど、その分もうけられる形ですね。 私自身もマクロ経済をベースに運用したいという思いがあったので、長く続けていました。

しかし、この会社もリーマン・ショックで運用方針が大きく変わってしまったのです。

ーーリーマン・ショックでどんな変化が起きたのですか。

西家:アセットはあまり問題なかったのですが、グループの別部門が打撃を受けたのです。その結果「アセットもリスクをとるな!」という方針に変わりました。

幸いリストラは、私はされなかったんですけどね。グローバルでチームの2割ほどがシャットダウンされました。東京拠点全体でもレイオフが行われました。しかも若い人から切られていたのは驚きでした。

ーーどうして若い人が優先してレイオフされたのでしょうか。

西家:レイオフのやり方が金額ベースではなく、ヘッドカウントで「何人切りなさい」という指示だったようです。もし金額ベースだったらむしろシニアなメンバーから切られていたでしょうね。

それで偉い人が「メンバーを解雇するなら、将来転職がしやすい若者からにしよう」と判断したんだと思います。運用会社にいる若手は優秀な人も多く、手足を動かすのは若者なんですけどね(苦笑)。

ただ私も、会社の運用方針と自分の求めるものに乖離が生じたため、結局この会社も転職することにしました。市場環境や経営者が変われば会社の方針転換は仕方がないことなんですけどね。

この時の転職先は、理想とするものと同じであるゆっくりとした運用ができるということで、生命保険を選びました。

現在の年収は3,500万円。外資系資産運用会社のファンドマネージャーの給与事情とは

ーーファンドマネージャーの給与はどのように決まるのでしょうか。

西家:ファンドの業態によって違いますね。

ヘッジファンドだと1年で稼いだ金額の20%をもらえる契約だと聞いたことがあります。

一方でアセットマネジメントのファンドマネージャーの場合は、基本給に加えて、ボーナスとして、収益の過去2~3年平均で評価され、その平均収益の5~20%がもらえるという仕組みが多いです。

なぜなら、アセットマネジメントは、お客様が銀行や年金基金なので年単位(1~5年単位)で収益を出すことが求められるから、このような給与設計になるのでしょう。

私の場合、基本給とボーナスの割合は大体2:1ぐらいでしたね。基本的には年収数千万円もらっていてもおかしくない職業だと考えていただいてよいと思います。

ーー西家さんの給与推移はどのような感じですか。

西家:私の年収推移をお伝えすると、下記のような形ですね。

20代前半:500万円 / 日系銀行 / 新卒就職 20代中盤:800万円 / 日系資産運用会社 / 転職 30代前半:1,200万円 / 外資系資産運用会社 / 転職 30代中盤:2,200万円 / 外資系資産運用会社 / 昇格 30代後半:3,200万円 / 外資系資産運用会社 / 昇格 現在 :3,500万円 / 外資系資産運用会社 / 転職

現在の年収は大体3,500万円位です。ただ仕事の経費が毎月数十万円ほどどうしてもかかってしまうので、体感値としてはもう少し少ないかもしれませんね。

ーー仕事の経費は主にどんなものがかかりますか。

西家:月1回程度のゴルフが大きいですね。あとは勉強費用でしょうか。ほぼ毎月必ず運用者として営業担当と一緒に、銀行などのお客様と一緒にプレーしています。

ゴルフは営業マンや運用者、お得意先様の社長やCEOといった肩書を取っ払って、3〜4時間ゆったりと話ができるスポーツなので、とてもいいと思います。

ーーゴルフ中はどういうお話をされるのでしょうか。

西家:お客様が安心して自社のお金を任せていただけるよう、自分がどんな哲学を持って運用をしているのか、現在のマーケットはどうなっているのかなどについて話しています。

昔気質のファンドマネージャーには「自分の仕事は稼ぐこと。それ以外の仕事をする必要はないし、運用についてもブラックボックスにする」という人が少なくありません。

しかし私は今のご時世、運用の透明性を確保したり、自分のスタイルを伝えたりすることもファンドマネージャーとしての仕事だと考えているので、機会があればきちんと話すようにしています。

ーー勉強についても具体的に教えていただけますか。

西家:「勉強」は基本的には書籍です。また私は海外勤務や留学の経験がないため、英語に関してはずっとスクールに通ってブラッシュアップするよう心がけています。

社会人10年目の頃には金融工学系の大学院にも通っていましたね。当時所属していた外資系の会社は、仕事さえやっていれば日中や夜、週末に自由に通っていいよというカルチャーだったので、たいへん感謝しています。

現在も出身校の講義にはできるだけ出席して、最新の知見を取り入れています。

ーープライベートで投資はされていますか。

西家:3,000万円程度を金融資産として所有しています。とはいえ、個別銘柄に投資するとなると、仕事柄面倒なことが多いので、基本的には投資信託を運用しています。

ーーどういった商品に投資をしていますか?

西家:国内外の株や債券、為替に関するETF(上場投資信託)を組み合わせて運用しているマルチアセット商品がメインです。

ETFは本来値動きの影響をダイレクトに受けるパッシブ運用の商品です。しかしこれをマルチアセットにすることで、堅実ではあるものの、比較的利益の出やすい運用ができるようになります。

あとはアメリカの割引債でしょうか。今はもうアメリカの金利が下がってしまっているのでうまみは少ないですが、2019年の秋ごろはまだ2%ほどありました。こうした金利の高いサイクルのときに割引債を買っておくと、だいたい20年で30%の利益を出すことができます。

20年間お金を入れ続けなければならない点はデメリットですが、老後資金を作るためにちょうどいいと思って買っていますね。

ファンドマネージャーとして生き残るコツは「サイコロを振ってでも意思決定すること」

ーー資産運用業界でファンドマネージャーとして長年生き残る上で、大事にしていることありますか。

西家:3つあります。「幹を変えないこと」「アップデートを行うこと」「サイコロを振ってでも意思決定すること」です。

ーー「幹を変えないこと」について詳しく教えていただけますか。

西家:私の場合、大学時代から「債券をやりたい」「計量経済学を基礎にした運用がしたい」という点はずっと変わっていません。転職するときも、この幹を変えずに働ける環境を求めて会社を選んできました。

そうして自分のスタイルを確立して、コツコツと経験を積み重ねていけば、自ずと実績もついてきます。結果、転職の時にちゃんとしたトラックレコードを提示できるので、給与の交渉もしやすくなります。

また自分の幹を変えないという意味では、「○○の分野は何がなんでも自分がやる」と主張できる専門を作るのも大切です。私の場合は債券の運用でしたが、そのおかげでどこの会社に行っても「債券のことは西家に聞く」という空気ができていました。

こうやって専門分野を作っておけば、社内でのプレゼンスを高められるのでより給与交渉がスムーズに進みます。

ーー2つ目の「アップデートを行うこと」について教えていただけますか。

西家:必要な分野のアップデートは絶えず行うべきです。どんなに素晴らしい哲学を持っていても、世の中は常に変化し続けています。

キャッチアップするための方法は大きく2つあります。一つは本を読んだり、スクールに通ったり、必要ならば大学院に通ったりと自分にしっかり投資をし続けること。

もう一つは、年上だとか年下だとかいったことは関係なく、学べるところからは学ぶという姿勢を持つことです。実際今の会社にはプログラミングに詳しい若手が多いので、私も日々勉強させてもらっています。

ーー最後に、「サイコロを振ってでも意思決定すること」の意味を教えていただけますか。

西家:とにかく意思決定をして、失敗しても逃げずに結果と向き合うことが大切だということです。

自分の判断に迷いがある場合には「休むも相場」との考えがあります。そういう考えがあるのはよくわかりますし、それはそれで正しいとも思います。しかし、私はお客様から収益を求められている以上、たとえ迷いがあっても常にリスクを取るべきだと考えています。もちろんその際は、小さ目のリスクであるべきですし、間違ったと判断したら迷いなく逃げられる準備を必ずしますが。少し過激かもしれませんが、どうしても自信がなくて意思決定ができないのなら、極論、サイコロを振ってでも決断するべきです。なぜなら意思決定をして実行に移さなければ、決してリターンは得られないからです。

これはファンドマネージャーだけでなく、一般のビジネスパーソンでも同じだと思います。確かにこれ以上できないというレベルの分析は大前提ですが、意思決定をする=リスクをとるということをしなければ、結果につなげることはできません。

ーー結果として失敗してしまったらどうすれば良いでしょうか。

西家:もちろん失敗することもあるでしょう。そこで大切なのは決して言い訳をせず「こんな結果になったのは自分のせいだ。でも失敗から学んで次はこうする」と受け止め、未来のための一歩を踏み出すことです。

そうすればたとえ失敗したとしても、周りからの信頼を必要以上に失うことなく、その先につなげることができるはずです。

コラム作成者
Liiga編集部
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