「BATH」とは中国を代表する、Baidu(百度、バイドゥ)・Alibaba(アリババグループ)・Tencent(テンセント)・Huawei(ファーウェイ)の4社の総称です。
年々経済規模を拡大する中国企業の人気は日本の人材からも右肩上がりですが、一方であまり内情を知る方法はありません。
そこで今回は、現在BATHでセールス職として働く山尾春樹さん(仮名)に、「BATHで働く人たちの特徴」や「BATHの独特の働き方・カルチャー」についてお聞きしました。
・「若手は深夜3時まで働いて、互いの首を絞め合っている」!? 負けず嫌いなBATH社員の実態
・日系よりもはるかにホワイトなBATHの働き方「基本的には残業なし」「上司に詰められることはない」
・「アップルウオッチ争奪じゃんけん」「中国の祝日に家に大量のちまきが届く」。アットホームで実力主義なBATHの社風とは
・BATHで働くメリットは、「BATH出身というブランド」と「ダイレクトに国の経済に関われること」
「若手は深夜3時まで働いて、互いの首を絞め合っている」!? 負けず嫌いなBATH社員の実態
――BATH社員の日本人と中国人の比率はどれぐらいですか?
山尾:日本支社の場合、6割強が日本人、4割弱が中国人です。日本支社のミッションはあくまで日本の中小企業への営業なので、日本人の方が多いです。
――山尾さんは日系企業を経て、1つ年下の新卒社員と一緒に第2新卒として入社したそうですが、新卒社員の日本人と中国人の比率は?
山尾:新卒社員はほとんどが日本人ですね。ただその中の7割くらいは中国在住・留学経験がある人たちです。
――中途入社のBATH社員は、前職はどこにいた人が多いですか?
山尾:どこかの大企業のトップセールスや輸出入に関わる仕事をしていた人が多いですね。中には大手保険会社のトップセールスから転職してきて、1年経たないうちに日本支社3位の成績を出した人もいますよ。
――性格やスキル面では、どういったタイプの人が多いですか?
山尾:私の周りにいる人を見る限りは変化に対する柔軟性が高い人が多いです。というのも、我が社は本社の動きに合わせて毎年のように異動があるからです。
去年配属されたばかりの部署から今年異動になることもありますし、部署が短いスパンで増えたり消えたりするのでそういう変化にストレスを感じずに、切り替えられる人が多いです。
あとは、みんな1位を狙っています。
――中国人的なハングリー精神があるということでしょうか?
山尾:そうです。新卒社員でも休みの日もアンテナを張り続けていて、友人と遊んでいるときに見つけた会社を後で調べて「週明けに営業しに行ってみよう」とよく言っていますよ
――四六時中仕事のことを考えているんですね。
山尾:はい。といってもギスギスしているわけではなく、お互いを尊敬しながら「でも誰にも負けないぞ」と思っている、という感じです。
ただ若手の頃はある程度パフォーマンスと時間が比例するので、ついつい若手は深夜2時、3時まで働いて「首を絞め合う」結果になりがちですね。
――首を絞め合う、とは?
山尾:みんなが自主的に深夜2時、3時まで働くから、どんどん体力的につらくなっていくのです。私と同期のメンバーはみんな頑張りすぎていて、一時期は毎週誰かが体調を壊して病院送りになっていましたね(苦笑)。
日系よりもはるかにホワイトなBATHの働き方「基本的には残業なし」「上司に詰められることはない」
――やはり中国トップ企業ともなると、働き方がハードになるのですね。
山尾:いえ、こんなむちゃな働き方をしているのは若手だけです。基本的には残業もありませんし、上司からのプレッシャーみたいなものもありません。日系企業と比べると、圧倒的にホワイトだと思いますよ。
――標準的な社員はどういった1日のスケジュールで働いていますか?
山尾:午前9時に朝礼があって、昼休みが正午〜午後1時にあります。終業は午後6時。大半の社員が午後7時には帰っています。基本的には残業するよりも時間内で仕事を終わらせることが推奨されているので、若手以外は本当に残業している人は少ないんです。
――上司からのプレッシャーがなくて、怠ける人はいないのですか?
山尾:みんな自分に厳しい人たちばかりなので、私の知る限りはいません。全ては数字に反映されますし、そうなれば自分が「このままじゃダメだ」と焦って努力するので、わざわざ上司が詰める必要がないのです。
――そういったカルチャーはどのようにして生まれているのでしょうか?
山尾:もともとそういう気質の人を狙って採用しているからです。実際みんなつらくてもメンタルを病まずに持ちこたえる粘り強さ、ど根性があります。
それに、先輩や上司は若手がつらい思いをしているのをわかっているので、どんなに忙しくても質問をするとなんでも丁寧に教えてくれます。
「個々人のKPIに躍起になるよりも、日本支社全体のレベルが上がっていけば、自ずと業績も上がるはずだ」という認識が全体で共有できているのだと思います。
――普段の業務で中国語は使いますか?
山尾:若手が使う場面はほとんどありません。使っているのは本部とのやりとりが多い上位層だけですね。日本支社が営業をかけるのは日本の法人様ですから、日本語ができれば仕事はできます。
「アップルウオッチ争奪じゃんけん」「中国の祝日に家に大量のちまきが届く」。アットホームで実力主義なBATHの社風とは
――中国の会社ならではの文化や社風があれば教えてください。
山尾:中国の祝日になると、自宅にちまきやフルーツバスケットが大量に送られてきますね。新型コロナウイルスの感染予防で自粛になる前は、全社員100人でワンタンを作って食べる、というパーティーもありました。
――中国の企業らしいですね。
山尾:ですよね(笑)。あとは、我が社らしいというところでいえば、新年会で副社長が突然立ち上がって「今からじゃんけんに勝った5人にアップルウオッチを贈呈する!」と言って、突然アップルウオッチ争奪じゃんけんが開催されたりします。
上下関係がないわけではないのですが、日系企業ほど厳しくなく、人種・性別・年齢・役職の分け隔てなく接してくれる人が多い会社です。
ただ、コンプライアンスにはめちゃくちゃうるさいですが。
――例えばどういうところが厳しいのでしょうか?
山尾:役職や立場に関係なく、副業は絶対に禁止されています。実際、私が入社してからでも副業が発覚して解雇になった役員がいました。
あとはGoogleやMicrosoftのツールを自社のデータ管理などに使用することも禁止されています。
――それらのツールが使えなくて、日本のクライアントと連携が取りづらいようなことはありませんか?
山尾:今のところはありません。というのも、自社で開発したシステムを使っているからです。中国企業は技術力が高いので米系IT企業のツールは基本的に使いません。
BATHで働くメリットは、「BATH出身というブランド」と「ダイレクトに国の経済に関われること」
――BATHで働くメリットとデメリットはどんなところにあると感じていますか?
山尾:メリットは3つあります。
1つ目は「BATH出身」というブランドが手に入ることです。ここで実績を残していれば、いつか転職するときに必ず役に立つでしょう。
2つ目は質の高い情報にアクセスできることです。中国本社の情報もグループで共有されるので、日本だけでビジネスを展開している企業よりも世界規模でホットな情報に触れられます。
3つ目は大きな社会貢献感です。
――どういうことでしょうか?
山尾:我が社はとても規模の大きなビジネスをやっていて、他国の支社では国や自治体ともタッグを組んで事業展開をしています。いずれは日本でもそういった形で事業展開が進むはずです。
ビジネスを通じてダイレクトに国の経済に関われるというのは、とてもやりがいがある仕事だと思っています。
デメリットは……副業ができないくらいでしょうか。
――とはいえ、転職していく人もいますよね?
山尾:もちろんです。
――どういった会社に転職していく人が多いですか?
山尾:起業して、我が社と同じような会社を作る人もいれば、中国の取引先に引き抜かれていった人もいます。あとは日本支社をいったん辞めて、中国本社に転職した人もいますね。
――日本から中国へ転籍ということはできないのですか?
山尾:はい、できません。無関係な会社から選考に応募するよりは有利に働くとは思いますが、明言はされていないのでどうしてもリスクはありますね。
――山尾さんご自身の今後のキャリアビジョンは?
山尾:3社目のキャリアでは、ユニコーン企業の日本支社立ち上げに関わりたいと考えています。そのためにも今はこの会社でしっかり経験とスキルを磨きたいですね。